歯の処置をきちんと行っても「また痛い」と言われた経験が、一度もない歯科医師はほぼいないはずです。その訴えの一部は、実は口腔内に器質的な原因がない「歯科心身症」である可能性があります。
処置しても訴えが消えない患者の約1割は歯科心身症の可能性があります。 sikasinsin.or(https://www.sikasinsin.or.jp/public)
歯科心身症の専門医が扱う疾患は、口腔内の多彩な症状を示すにもかかわらず、器質的な異常が見つからないものです。 代表的なものとして舌痛症(口腔灼熱症候群)、非定型歯痛、咬合違和感症候群、口腔セネストパチー、口臭症、歯科恐怖症があります。 tmd.ac(https://www.tmd.ac.jp/dent_hospital/medical/shikashinshiniryo.html)
これらの疾患に共通するのは、「異常なし」という検査結果と、慢性的で消えない患者の訴えとのギャップです。つまり通常の歯科診査では根拠が見えてこない状態です。
それぞれの疾患を整理すると次のようになります。
| 疾患名 | 主な症状 | 好発する患者層 |
|---|---|---|
| 口腔灼熱症候群(舌痛症) | 舌・口腔粘膜のヒリヒリ・灼熱感(3ヶ月以上) | 40〜70代の中高年女性 |
| 非定型歯痛 | 歯原性の原因がない慢性的な歯痛。抜歯後にも痛みが残ることあり | 30〜50代女性 |
| 咬合違和感症候群 | 何度調整しても消えない咬合の異常感。複数医院を転々とするケースも | 補綴・矯正・インプラント後 |
| 口腔セネストパチー | 口の中のネバネバ・ベタベタ感や説明しにくい異物感 | 60代以降 |
| 口臭症 | 実際の口臭はないが「臭う」という確信。過剰な口腔ケアに至ることも | 思春期〜青年期、中高年も |
非定型歯痛で怖いのは、原因が分からないまま抜髄や抜歯が繰り返され、歯のない部位にも痛みが移行するケースがあることです。 早期に歯科心身症を疑うことが、不必要な処置を防ぐ大前提です。 sikasinsin.or(https://www.sikasinsin.or.jp/public)
歯科心身症の診断には「除外診断」が基本のアプローチです。 まず虫歯・歯周病・粘膜疾患・顎関節症など、器質的に説明できる疾患をすべて除外したうえで、口腔症状の「心身症らしさ」を確認していく手順を踏みます。除外診断が原則です。 jda.or(https://www.jda.or.jp/park/trouble/dentalanxiety.html)
重要なのは、患者の問診で「いつから」「何をきっかけに」「どんな処置の後から」といった病歴の聴取を丁寧に行う点です。 歯科心身症患者の多くは、補綴治療やインプラント・矯正治療後に症状が始まるという共通パターンがあります。 dent.tmd.ac(https://www.dent.tmd.ac.jp/organization/ompm.html)
また、大学病院では新患の1割程度が歯科心身症と考えられています。 一般開業医では「異常なし」で済ませてしまいがちですが、それが患者の信頼を損ない、医院をたらい回しにする起点になることもあります。 sikasinsin.or(https://www.sikasinsin.or.jp/public)
患者の80%は精神科でも「歯科で診てほしい」と言われることが多く、歯科側が主体的に関与しなければ解決の糸口が見えません。 sikasinsin.or(https://www.sikasinsin.or.jp/public)
歯科心身症の治療において、最も有効性が確認されているのは抗うつ薬(向精神薬)を中心とした薬物療法です。 適切に使用した場合、約6〜7割の患者で症状の改善が見られると報告されています。これは使えそうです。 hsl-kyousei(https://www.hsl-kyousei.com/blog/detail.html?id=305)
従来型の三環系抗うつ薬は、新規薬(SSRIなど)と比べて副作用は大きめですが、効果が実感しやすいため継続服用につながりやすいという特徴があります。 一方で、薬物療法だけでは不十分な症例も20〜30%程度存在します。 tmd.ac(https://www.tmd.ac.jp/grad/ompm/2007_3.pdf)
薬物療法の次のステップとして、認知行動療法や一般心理療法(受容・支持・保証の3原則)、自律訓練法などの精神療法が組み合わされます。 重要なのは、最初から認知行動療法を導入することは患者の抵抗感を高める場合があり、まず薬物で症状を改善してから導入する方が効果的だという点です。 hsl-kyousei(https://www.hsl-kyousei.com/blog/detail.html?id=305)
「歯の治療で勝負してはいけない」という東京科学大学歯科心身医学分野の指針は、臨床において特に重要です。 歯科処置で一時的に「良い」と言われても、すぐに元に戻ることが多いためです。薬物療法が条件です。 tmd.ac(https://www.tmd.ac.jp/grad/ompm/2007_3.pdf)
全国に約68,000件の歯科医院が存在する中で、90人という数字がどれほど少ないかを想像してみてください。単純計算で約750医院に1人という割合です。地方在住の患者が専門医を受診するには、数時間の移動を要するケースも珍しくありません。
歯科心身症の専門外来を持つ代表的な施設は次の通りです。
一般開業医の立場でできる対応は、専門外来への適切な紹介と、日頃の連携先の確保です。 「どこに紹介すればよいか分からない」という状況を事前に解消しておくことが、患者への最大の貢献につながります。 osakanakanoshima-dc(https://osakanakanoshima-dc.com/column/what-is-psychosomatic-dentistry)
参考:日本歯科心身医学会の認定制度・申請書類については以下を参照してください。
参考:東京科学大学歯科心身医学分野の臨床・研究活動の詳細は以下で確認できます。
「専門医でない自分には関係ない」と考えてしまいがちですが、実は歯科心身症の最初の窓口は、ほぼ確実に地域の一般開業医です。 患者は最初から大学病院を受診するのではなく、近くのかかりつけ医を頼って来院します。その段階での対応が、その後の経過を大きく左右します。 tomoedentalclinic(https://www.tomoedentalclinic.com/private-treatment/psychosomatic-dentistry)
専門医に渡すまでの「つなぎの対応」が適切かどうかで、患者が受け取る医療の質は変わります。適切な対応ができれば患者の信頼を維持しながら紹介できますが、「異常なし」の一言で終えると、患者は不満を持ちながら別の医院へと流れていきます。結論はつなぎ対応の質です。
日本歯科心身医学会認定医・指導医を目指すには、所定の申請書類の提出と研修実績が必要で、まず会員登録から始めることになります。 認定医を取得することで、難治症例に対する自信と対応幅が広がります。 sikasinsin.or(https://www.sikasinsin.or.jp/%E8%A4%87%E8%A3%BD-%E8%AA%8D%E5%AE%9A%E5%88%B6%E5%BA%A6)
参考:東京都中央区の歯科心身症専門クリニックによる連携・治療方針の解説はこちら。
TOMOE DENTAL CLINIC|歯科心身症治療ページ
参考:東京新聞による歯科心身症の現状取材記事(専門医数・認知度の実態に言及)。