コンビニより多い歯科医院が、年間440件以上も廃業で消えています。
歯科診療所の施設数は、長い増加期を経て2016年前後を境に減少局面へと転換しました。厚生労働省の医療施設調査によると、2024年(令和6年)10月1日時点の歯科診療所数は66,378施設で、前年比440施設の減少となっています。さらに最新の動態調査(令和7年2月末概数)では65,957件まで落ち込んでいます。
ピーク時の2016年は約68,318件でしたから、約9年間で2,000件以上が市場から退出したことになります。ひとつの診療所が消えるということは、そこで働いていた歯科医師・歯科衛生士・受付スタッフが職場を失い、通院していた患者が行き先を失うことを意味します。数字の変化は、現場の痛みと直結しています。
さらに時系列を遡ると、1997年時点の全国歯科診療所数は60,563件でした。2000年代から2010年代初頭にかけては毎年着実に増え続け、2011年には68,156件、2014年には68,592件と増加を続けましたが、増加幅は明らかに縮小していました。2017年の68,609件からほぼ横ばいになり、2020年以降は明確な減少トレンドに移行しました。つまり、増加→停滞→減少というサイクルが確実に進行しています。
一方で、「コンビニより多い」という事実は依然として変わりません。2025年時点でのコンビニ店舗数は約56,500店舗であるのに対し、歯科診療所は約65,000〜66,000件と、依然として約1万件近く上回っています。競争環境の激しさは数字が物語っています。
参考:厚生労働省「令和6年医療施設調査 結果の概要」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/24/dl/02sisetu06.pdf
歯科診療所数の減少を理解するうえで、開設数と廃止数の動向が重要な視点を与えてくれます。2007年時点では開設2,109件・廃止1,604件と、新規開設が廃止を大きく上回っていました。それが年を追うごとに開設数は減少し、廃止数との差は縮まり続けます。
2017年に廃止数(1,739件)が開設数(1,720件)を初めて上回る逆転現象が発生しました。その後も2019年・2020年と逆転が続き、2021年には開設1,352件・廃止1,252件と一時的に開設が持ち直すものの、3年間の平均では廃止が年間約83件上回っています。最新の2025年データでは開業数は1,454件ですが、廃業は横ばいから上昇傾向に移っており、差し引きでの純減は続いています。
廃止の増加の背景には、いくつかの構造的要因があります。
開設数も年々減少している点は見逃せません。かつて年間2,000件以上あった新規開業は、2020年代に入って1,300〜1,400件台に落ち込んでいます。開業資金が2010年代の5,000〜7,000万円から、現在は1億円超に膨らんでいるケースも増えており、参入ハードルが上昇しているためです。これは原材料費・人件費・設備費のすべてが高騰した結果で、「開業したくてもできない」状況が生まれつつあります。
参考:船井総合研究所「2025年最新版 歯科経営と歯科開業の実態」
https://dental.funaisoken.co.jp/blogs/column/colum04
歯科診療所の絶対数だけを見ていると見落としがちなのが、地域格差の問題です。北海道・東北地方では2021年時点ですでに6,671施設と、2017年の6,906施設から235件減少しています。中国・四国地方や九州・沖縄地方でも同様の傾向が見られます。一方で関東地方は25,720施設(2021年)と比較的安定しており、都市部への集中が進んでいます。
人口10万人あたりの歯科診療所数では、その格差がより鮮明です。令和5年のデータによると、最も多い東京都は75.3施設であるのに対し、最も少ない福井県・島根県は38.6施設と、約2倍の開きがあります。これはつまり、地方では「近くに歯医者がいない」という問題が現実に起きつつあることを意味します。
地域別の開設・廃止動向を見ると、関東・近畿・九州・沖縄地方では開設数が廃止数を上回る状況が続いています。特に東京都を含む関東地方(栃木を除く)では開設が多い状態が維持されており、地方の診療所が廃業するなか、都市部ではまだ新規参入の余地があるという構造が見えてきます。
地方在住の歯科従事者にとっては、これが「競合が少なくなる」という機会に映るかもしれません。ただし、患者数そのものも人口減少とともに絶対数が減り続けている点は忘れてはなりません。地方での集患力維持は、今後ますます重要な経営課題になります。競合の有無よりも、「患者を惹きつけられる医院かどうか」が問われる時代に突入しています。
地域格差の視点から開業立地を考えるには、出店前の診療圏分析が欠かせません。人口推計・競合医院数・患者年齢層などを総合的に評価するサービスが各種提供されており、感覚ではなくデータに基づいた意思決定をすることが、開業リスクを下げる第一歩です。
参考:国立保健医療科学院「歯科診療所の動態推移・医療施設調査」
https://www.niph.go.jp/soshiki/koku/oralhealth/data9.html
歯科業界の構造変化を読み解くうえで、単純な「施設数の増減」だけでなく、「誰が経営しているか」という軸で見ることが欠かせません。厚生労働省の令和6年医療施設調査によると、歯科診療所全体のうち個人立が48,667施設(73.3%)、医療法人立が17,053施設(25.7%)となっています。前年と比較すると、個人は855施設の減少、医療法人は376施設の増加という逆の動きを見せています。
この流れはさらに長期データで確認するとより明確です。個人立の歯科診療所は2024年時点で約48,361件まで減少。一方、医療法人数は2024年に17,124件と増加傾向が続いています。これが「二極化」と呼ばれる現象の実体です。
個人立医院が減少している背景には、収益の構造的な問題があります。2025年11月公表の厚生労働省第25回医療経済実態調査によれば、個人立歯科診療所の損益差額は約1,549万円です。一見すると高い数字に見えますが、ここから医療法人における院長給与水準(約1,458万円)を差し引けば、実質的に手元に残る利益は100万円以下となります。物価高騰が続く現在、「開業したのに生活が苦しい」という院長が増えているのはこのためです。
医療法人化することで、役員報酬の分散や退職金積立による節税、複数院展開による収益多角化など、財務的な柔軟性が生まれます。大型医療法人が複数ユニットを持ち効率的に診療を回す一方で、1〜2ユニットの小規模個人院は採用難・患者減・コスト増の三重苦に直面しています。つまり、規模の経済が働く業界への変貌が進んでいます。
中小規模の個人院が生き残るための方向性として注目されているのが、予防歯科・口腔機能管理・高齢者訪問診療などへの特化です。虫歯治療中心の「治療型」モデルでは患者数の絶対的減少をカバーできないため、1人の患者と長期的に付き合う「メンテナンス型」収益モデルへの転換が求められています。定期的に通院するリピーター患者を増やすことが、競争激化の中でも安定経営につながるとして、多くの経営アドバイザーが推奨しています。
参考:厚生労働省「令和6年医療施設調査」開設者別データ
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/24/dl/02sisetu06.pdf
「これから歯科診療所の数はどう変わるのか?」という問いに対して、データはすでに答えを示しています。日本歯科医師会が公表した資料によれば、2014年時点の歯科診療所受療率が維持されると仮定した場合でも、2045年には患者数が10.8%減少、2065年には25.2%減少すると推計されています。少子高齢化による人口減は、医院の競争だけでなく、業界全体のパイ縮小を意味します。
2025年の歯科医院の倒産・休廃業・解散件数は合計126件と過去最多を更新(帝国データバンク調査)。特に歯科医院は2020年から2023年まで倒産が80件台で推移していたものが、2024年以降は100件超に急増しています。経営者の高齢化という「時間軸の問題」と、物価高・人材難という「現在進行形の問題」が重なり合っています。
では、この現状を踏まえて歯科従事者はどう動けばよいのでしょうか。具体的なアクションとして次の3点が挙げられます。
歯科業界の構造変化は「一部の問題」ではなく、すべての歯科従事者に関係する現実です。現状を正確に把握することが、生き残り戦略の出発点になります。参考となるデータは、日本歯科医師会のビジョン資料や厚生労働省の医療経済実態調査で継続的に公表されています。ぜひ定期的にアクセスして、業界の変化を自院経営に反映させてください。
参考:日本歯科医師会「データで見る2040年の社会と今後の歯科医療 第2弾」
https://www.jda.or.jp/dentist/vision/pdf/vision-02.pdf
参考:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260123-iryoukikan2025/
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歯科診療所経営のマーケティングリサーチ戦略 患者満足度向上・患者数増大の実践プログラム 最新版 渡邉滋巳/著 全日本医療経営研究会/監修