同日に保険と自費を組み合わせると、診察料が丸ごと請求できなくなることがあります。
混合診療とは、一つの疾患に対する治療の中で、保険診療と自由診療を組み合わせることを指します。日本では健康保険法の枠組みにより、これは原則として禁止されています。禁止の理由は大きく2点で、まず「経済力によって受けられる医療に差が生まれる」という公平性の問題、次に「安全性・有効性が確認されていない医療が広まるリスク」です。
ここで注意すべきは、混合診療禁止の「対象範囲」です。
「一連の治療過程」というのは、診療が行われた当日だけでなく、その疾患の治療期間全体を指します。たとえば、4月1日に保険診療で湿疹を治療し、4月2日に同じ湿疹に対して自費治療を行えば、それも混合診療と見なされます。同じ医療機関かどうかも関係ありません。A病院で保険診療、B病院で同一疾患の自費診療を行っても、混合診療として判断されます。つまり「別の日・別の病院でも同一疾患なら禁止」が原則です。
歯科従事者の立場でも、この「一連の治療過程」という考え方は非常に重要です。保険の歯冠修復と自費のセラミック修復を同一歯に行うケースなどは、まさにこのルールが直結します。皮膚科での事例を通じてこの考え方を整理しておくと、自院の運用確認にも役立ちます。
厚生労働省「保険診療と保険外診療の併用について」(混合診療禁止の根拠・制度の全体像)
「同日の保険と自費は全てアウト」と考えている方が多いですが、実はそれは思い込みです。
日本の医療制度では、以下の2つの状況では同日に保険診療と自費診療を行うことが認められています。
① 異なる疾患を同日に扱う場合
皮膚科で湿疹の治療(保険)と美容目的の点滴(自費)を同日に行うケースは、混合診療にはあたりません。これは「別々の疾患・目的に対する、独立した診療行為」だからです。歯科でも、保険の歯周病治療と自費のホワイトニングを同日に行うケースは、この考え方に沿っています。
② 「療養の給付と直接関係ないサービス」の場合
インフルエンザ予防接種、健康診断、ドクターズコスメの販売、診断書作成料などは「病気の治療とは直接関係のないサービス」に分類されます。これらは保険診療と組み合わせても、混合診療にはあたりません。
ただし、どちらのケースでも「診察料の二重請求」という別のリスクが生じます。これについては次のセクションで詳しく解説します。また、サービス等を徴収する場合には、①院内掲示での料金明示、②患者への説明と同意取得、③保険診療とは別の領収書の発行、という3つの手続きが必須です。これを怠ると、個別指導の対象になり得ます。
東京都医師会「保険外の患者負担について」(異なる疾患での同日診療と基本診療料の扱いを詳解)
「別疾患だから同日でも問題ない」と思った次の瞬間に罠が待っています。
それが「診察料の二重請求」です。保険診療と自費診療を同日に行う場合、たとえ疾患が別であっても、保険診療の初診料・再診料(基本診療料)は原則として算定できません。理由は明確で、その日の「診察行為」はすでに自費診療の診察料の中に含まれていると解釈されるからです。
具体例を整理してみましょう。
| ケース | 保険側の診察料 | 備考 |
|---|---|---|
| 湿疹(保険)+美容点滴(自費)を同日 | ❌ 算定不可 | 自費の診察料に含まれると見なす |
| 定期予防接種(公費)と同日に別疾患を保険診療 | ❌ 算定不可 | 公費の中に診察料が含まれるため |
| 任意予防接種(自費)と、別で保険診療で通院中の患者 | ✅ 算定可 | ワクチン代にのみ設定していれば可 |
| 翌日以降に保険診療のみで来院 | ✅ 算定可 | 自費診療なし→通常通り算定 |
この「診察料だけ算定できない」という点は非常に見落とされがちです。処置料・検査料・処方料・診療情報提供料などは別途算定できます。基本診療料(初診料・再診料)だけが取れない、というのが正確なルールです。これは区別して覚えておくべきポイントです。
レセプトには「初診料(再診料)は健康診断(自費診療)で算定済み」などのコメントを記入して、算定しない理由を明示することが求められます。このコメントがないと返戻・査定の対象になる可能性があります。
「混合診療と診察料の二重請求のルール」(医療事務向けの実務解説)
2025年6月に公表された事例報告が示す内容は、歯科従事者にとっても他人事ではありません。
都市型の美容皮膚科(月間患者数約1,000名・自費7割・保険3割)が厚生局の個別指導対象となり、次の3点を主な理由として指摘を受けました。
指摘① 保険と自費の区分不明確な請求
1人の患者に対して、同日に保険診療と自費診療の施術を同時に行い、区別なく記載・請求されていた事例が複数確認されました。特に、ピーリングやレーザー治療などが保険請求に含まれていた例があり、「混合診療の疑い」と判断されました。
指摘② 管理料の算定要件の不備
特定疾患療養管理料などを算定していたものの、カルテに病状評価・療養計画・生活指導の記録がなく、形式的な記録にとどまっていました。
指摘③ 保険診療の実態が不十分
自費診療に偏重するあまり、保険診療患者に対する診察時間が極端に短く、初診時の疾患評価・他院紹介の検討などが行われていない点も指摘されました。
この指摘を受けた後の改善策として、電子カルテ上で保険と自費のカルテを別シートで記録する体制を構築し、レセプト返戻件数は月平均15件から2件以下に減少したとのことです。これは約87%もの改善率に相当します。
「自費中心でやっているから保険部分は適当でも大丈夫」という意識が、個別指導につながる最大の危険因子です。歯科でも同様に、自費診療に力を入れている医院ほど、保険請求部分のルールを再点検する必要があります。
医療タクト「Vol.932 美容皮膚科クリニックにおける保険診療と自由診療の混在」(個別指導の実例と改善プロセス)
皮膚科の事例を踏まえると、実務的な対応手順は段階的に整理できます。
Step 1:メニューを「目的」で分類する
まず院内のすべての診療・サービスを「疾病治療(保険)」「審美・美容目的(自費)」「療養と直接関係ないサービス等(別途徴収可)」の3つに分けます。歯科では、歯周病治療は保険、ホワイトニングは自費、コンタクトレンズや予防接種と同様に「診断書作成料」は別途徴収可能なサービスに相当します。
Step 2:カルテ・予約・会計を分離する
保険診療と自費診療のカルテは明確に分けて管理することが必須条件です。同一日に両方行う場合は、保険側のカルテに「自費診療と同日のため基本診療料は算定しない」と理由を記載します。予約枠も可能な限り分離し、「保険診療の日」「美容・自費の日」を分けることが個別指導リスクを大きく下げます。
Step 3:患者同意と領収書の発行を徹底する
自費診療または「療養と直接関係ないサービス」を行う場合、次の3点が必須です。
- 院内掲示にて料金・内容を明示する(ウェブサイトへの掲載も原則必要)
- 患者に対して口頭+書面で説明し、署名による同意を得る
- 保険診療の領収書とは別の領収書を発行する
Step 4:レセプト記載で「算定しない理由」を明示する
同日に自費診療を行ったことで保険の基本診療料を算定しない場合、レセプトの摘要欄(コメント欄)に「初診料は自費診療にて算定済み」などと記入します。この一行があるかどうかで、審査委員の判断が大きく変わります。記載がないと理由不明で返戻になるリスクがあります。
これらの対応が整ってから初めて、同日の保険・自費の組み合わせを安全に行える体制になります。電子カルテで保険・自費を別管理できる機能があるかどうか、一度確認してみてください。整っていない場合は、受付・医療事務スタッフへの教育研修を優先的に実施することが最初の一歩です。
クレドメディカル「意外と知らない混合診療の概要とよくある事例」(現場で起きやすい誤解と実務上の注意点)
まとめると、以下の原則だけ覚えておけばOKです。
| 状況 | 混合診療の該当 | 保険診察料の算定 |
|---|---|---|
| 同一疾患・同日に保険+自費 | ❌ 禁止(全額自費に) | 算定不可 |
| 異なる疾患・同日に保険+自費 | ✅ 可能 | ❌ 算定不可(二重請求)|
| 翌日以降に保険のみ来院 | ✅ 問題なし | ✅ 算定可 |
| 保険外併用療養費制度内の診療 | ✅ 例外的に可 | ✅ 基礎的部分は算定可 |
皮膚科で問題になっているルールの多くは、歯科にもそのまま適用される考え方です。「異なる疾患なら同日OKだが診察料は取れない」という一点を軸に、院内の運用フローを今一度確認してみましょう。
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