最小侵襲手術・股関節の病院で回復が変わる全知識

股関節の最小侵襲手術(MIS)を受ける病院はどこでもいいと思っていませんか?手術アプローチの種類や病院選びのポイント、入院期間・費用まで、知らないと損する情報を詳しく解説します。

最小侵襲手術・股関節・病院の選び方と回復を左右する全知識

後方アプローチで手術を受けると、筋肉は永久に完全回復しないことがあります。


この記事でわかること
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MIS(最小侵襲手術)とは何か

皮膚切開を最小限に抑え、筋肉・腱・靭帯を温存する人工股関節置換術。入院期間は従来の3〜6週間から約10日〜2週間に大幅短縮できます。

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アプローチ方法で回復が全然違う

後方・側方・前方の3系統があり、筋肉を切るかどうかで脱臼リスクや回復速度が大きく変わります。病院によって採用するアプローチが異なります。

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費用と病院選びのポイント

手術総額は約200〜250万円ですが、高額療養費制度を使えば自己負担は10万円前後に。年間手術件数・専門医の有無・リハビリ体制の3点が重要な選定基準です。


最小侵襲手術(MIS)とは股関節の何を変えたのか

MISとは「Minimally Invasive Surgery」の略で、日本語では最小侵襲手術と呼びます。人工股関節置換術において、皮膚の切開を小さくするだけでなく、関節周囲の筋肉・腱・靭帯をできる限り切らずに温存する手術方法です。


従来の手術では、皮膚を15〜20cmほど切開し、さらに関節周囲の組織も切り離して十分な視野を確保してから手術していました。これはA4用紙の短辺(約21cm)に近い長さです。MISではその切開が最少で5〜6cm、通常でも8〜10cm程度に抑えられます。名刺の横幅が約9cmですから、いかに小さな傷口かイメージしやすいでしょう。


ただし重要なのは、傷の大きさそのものではありません。皮膚の下にある筋肉・腱を切るかどうか、これが回復の本質的な差を生む部分です。


従来法では切り離した組織を縫い合わせていましたが、縫合不全(縫い目がほつれること)が起きるケースも少なくありませんでした。その結果、術後も「股関節を深く曲げてはいけない」「正座は禁止」といった生活制限が長期にわたって課されていました。MISで筋肉・腱を温存すれば、そうした縫合不全のリスクはなく、術後当日からリハビリを開始できる施設もあります。


これが最小侵襲手術の核心です。


入院期間の変化も顕著で、従来法では3〜6週間が一般的でしたが、MISでは約10日〜2週間での退院が多くの施設で実現されています。早期退院と早期社会復帰が可能になる、これが患者にとっての最大のメリットです。


最小侵襲手術のメリットと注意点を詳しく解説|康心会汐見台病院


最小侵襲手術の股関節アプローチは3種類ある:後方は「MIS」と呼べない場合も

MISと一口に言っても、股関節へのアプローチ(どこの皮膚を切って入るか)によって内容が大きく異なります。これを知っておくことは病院選びで非常に重要です。


アプローチは大きく「後方」「側方」「前方(前外側)」の3系統に分かれます。


まず後方アプローチは、お尻の後ろ側から切開して手術する方法で、現在も日本で最も多く行われています。視野が広く手術しやすい反面、後方の筋肉と関節包を切り離さなければならず、脱臼が起きやすいという問題があります。術後は「深く曲げない」「足を組まない」などの肢位制限が設けられることが多いです。専門家の中には、後方アプローチについて「皮膚の傷が小さくても、筋肉を切っているなら実質的にMISとは言えない」と指摘する声もあります。


次に側方アプローチは、股関節の横から進入する方法です。中臀筋(お尻の外側の大きな筋肉)と骨を一度切り離して手術し、最後に縫い合わせます。後方ほど脱臼しやすくはないものの、切った筋肉がしっかり回復しないと術後も歩行が不安定になるリスクがあります。リハビリにも比較的時間がかかります。


そして真のMISとされるのが前方・前外側アプローチ(DAA/ALS)です。筋肉の「隙間」から股関節に到達するため、筋肉も腱も切開しません。脱臼リスクが低く、術後の肢位制限がほとんど不要で、術後当日から全体重をかけての歩行練習を行える施設もあります。デメリットは手術の難易度が高く、視野が後方アプローチより狭いため、実施できる医師が限られている点です。


| アプローチ | 筋肉の切離 | 脱臼リスク | 回復速度 | 術後制限 |
|---|---|---|---|---|
| 後方(PL) | あり | 高め | 普通 | あり |
| 側方(OCM) | あり | 中程度 | 遅め | あり |
| 前方(DAA) | なし | 低い | 速い | ほぼなし |
| 前外側(ALS) | なし | 低い | 速い | ほぼなし |


表のとおり、アプローチの違いは術後の生活に直結します。病院に問い合わせる際は「どのアプローチを採用しているか」を確認することが大切です。


アプローチ別の特徴・脱臼リスクの違いを名医が詳解|人工関節の名医が解説


最小侵襲手術ができる股関節の病院を選ぶ5つのポイント

MISが受けられる病院はどこでもよいわけではありません。手術の質・成果は施設によって差があります。そのことを踏まえて、病院選びで確認すべき5つのポイントを挙げます。


① 年間手術件数


経験の積み重ねが手術の精度に直結します。2022年の全国ランキングでは1位の船橋整形外科病院(千葉)が年間1,162件、2位の玉川病院(東京)が1,002件と、件数の多い施設ではチームとしての練度が高い傾向にあります。一般的に年間100件以上の施設は一定の実績があるとされています。「先生1人が年間何件行っているか」まで確認できれば理想的です。


② 採用しているアプローチの種類


前述のとおり、後方アプローチのみを実施している施設ではMIS本来のメリットを得られない可能性があります。「DAA」「ALS」「AMIS」などの前方系アプローチを実施しているかを確認しましょう。


③ 専門医・股関節専門外来の有無


日本整形外科学会認定の整形外科専門医に加え、股関節を専門とする医師が在籍しているかを確認します。大学病院や基幹病院だからといって股関節専門の医師がいるとは限りません。


④ 術後リハビリ体制


手術の質と同じくらい重要なのが、退院後を含めたリハビリ体制です。大学病院や総合病院でも、マンパワーの都合から外来リハビリを提供していない施設があります。術後の回復を最大化するためには、退院後も継続してリハビリを受けられる施設を選ぶことが重要です。


セカンドオピニオンを積極的に利用する


「かかりつけ医に手術を勧められた病院で受けるべき」という思い込みは不要です。手術を受ける前に別の専門医の意見を聞くセカンドオピニオンは、現在の医療では推奨されている行動です。適切な術式か、自分の状態でMISが適応されるかを複数の視点で確認しましょう。


病院選びのステップとしては、①インターネットや医療情報誌で情報収集、②外来を受診して直接医師に質問、③気になる点はメモして持参、この流れが基本です。


人工股関節置換術を受ける病院の選び方を整形外科専門医が解説|世田谷人工関節・脊椎クリニック


最小侵襲手術にかかる股関節の手術費用と高額療養費制度の使い方

費用面での心配は、手術を踏み出すハードルになりがちです。しかし実際には、公的制度を活用することで自己負担を大幅に抑えられます。


人工股関節置換術(MISを含む)の医療費総額は、検査・手術・麻酔・入院・リハビリを含めて200〜250万円前後が目安です。ただしこの手術は健康保険の適用対象であり、自己負担割合は年齢・収入によって1〜3割です。3割負担でも60〜80万円になりますが、ここで活用すべきなのが高額療養費制度です。


高額療養費制度とは、同一月内の医療費の自己負担が一定額(所得によって異なる)を超えた場合に、超過分が後から戻ってくる制度です。年収370〜770万円(健保の「区分ウ」)の場合、自己負担の上限は約8万円程度になります。つまり、実質的な自己負担は10万円前後に収まるケースが多いのです。


さらに「限度額適用認定証」を事前に取得しておけば、窓口での支払い自体を上限額内に抑えられます。後から申請して還付を受けるより手間がありません。加入している健康保険組合や市区町村の窓口で申請できます。これは手術前に必ず確認しておきたい制度です。


| 所得区分 | 月の自己負担上限(目安) |
|---|---|
| 年収〜370万円 | 約5.7万円 |
| 年収370〜770万円 | 約8.0万円 |
| 年収770〜1160万円 | 約16.7万円 |
| 年収1160万円〜 | 約25.3万円 |


また、両側の股関節を同時に手術する「両側同時人工股関節全置換術」を選べば、2回の入院に比べて入院費用を大幅に削減できます。費用面でも体の負担面でも合理的な選択肢になり得るため、両側に問題がある場合は医師に相談してみましょう。


高額療養費制度の詳細は、加入している健康保険組合または全国健康保険協会(協会けんぽ)のウェブサイトで最新情報を確認してください。


人工関節置換術の費用と高額療養費制度の活用方法|康心会汐見台病院


最小侵襲手術後の股関節リハビリと術後生活:知っておくべき現実

MISで手術を受けた後の生活や回復についても、事前にしっかりイメージしておくことが大切です。


退院後の動作制限については、アプローチ方法によって大きく異なります。前方・前外側アプローチ(DAA・ALS)を採用している施設では、術後から正座・しゃがみ込み・あぐらも基本的に許可されるケースが増えています。これは筋肉を切っていないため脱臼リスクが低いからです。一方、後方アプローチでは「股関節を90度以上深く曲げない」「足を内側に向けない」などの制限が術後永久的に課される場合があります。病院や術式によって条件が違う、これは重要なポイントです。


リハビリは手術後当日、または翌日から始まるのが標準的になってきています。早い施設では術後当日から全体重をかけて歩行練習を行います。杖を使って自立歩行ができるようになる目安は早い人で3〜4日、平均して1週間程度です。


退院後も股関節周囲の筋力・可動域を回復させるためのリハビリを継続することが重要です。術後2〜3か月でほとんどの日常動作が痛みなく行えるようになるケースが多いですが、完全な筋力回復には半年程度かかる場合もあります。


日常生活上の注意点として特に気をつけたいのは、脱臼を起こしやすい動作です。後方アプローチの場合は特に、以下のような動作に注意が必要です。


- 和式トイレのようにしゃがみ込む動作
- 床に落としたものを前に深くかがんで拾う動作
- 足を組んだり内側に向けたりする動作
- 脱臼リスクは術後2〜3%とされています


脱臼が起きた場合は麻酔をかけて整復する処置が必要になり、再手術になるケースもあります。リハビリ担当の理学療法士から「安全動作」を丁寧に教わることが、退院後の安心な生活につながります。


なお、人工股関節の耐久性は最新インプラントで20〜30年以上が期待されるようになっています。50代での手術も珍しくない時代になっており、90代でも体力があれば手術を受けられます。「年齢だから諦める」必要はありません。


術式別の肢位制限と術後リハビリの詳細情報|世田谷人工関節・脊椎クリニック