縫合不全の観察項目 歯科医向けガイド

歯科口腔外科手術後の縫合不全を早期に発見するには、どのような観察項目をチェックすべきか?術後合併症の中でも最も危険な縫合不全について、臨床判断を左右する重要な観察ポイントを解説します。

縫合不全の観察項目を確認する

見た目で判断できない場合が大半です。


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縫合不全とは

消化管の吻合部やロ腔内の縫合部が、術後1週間程度までに癒合がうまく起こらず破綻し、内容物が腹腔内や周囲組織に漏出してしまう合併症

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観察の重要性

縫合不全は腹膜炎や敗血症に進行すると生命危険を伴う重症化する可能性がある。早期発見が患者の予後を大きく左右する

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発症時期

術後1週間前後、特に術後3~5日目がピーク。この時期の観察が最も重要


ドレーン排液の性状が観察の最優先項目


縫合不全を診断するうえで、ドレーン排液の性状確認は極めて重要です。歯科口腔外科手術後、特に埋伏歯抜歯やインプラント手術などで大型のドレーンを留置した場合、この排液観察が最初の兆候をつかむ決定的な手がかりになります。


通常は術後1日目から3日目にかけて、淡血性(薄い赤い色)から淡々血性(オレンジ色)、さらに淡黄色へと段階的に色が変化していくのが正常な経過です。ところが、このプロセスが異なる色合いや臭いを示す場合は要注意です。


きれいな色に見える排液でも、便臭や胃液特有の酸味のある臭いがする場合は、縫合不全がある可能性が非常に高まります。


重要なポイントは、排液の「見た目」だけでなく「臭い」を丁寧に確認することです。多くの臨床医が視覚情報に頼りがちですが、嗅覚を活用した観察が隠れた異常を発見する鍵になります。


一般的には1日あたりの排液量が30~50mL以下で、性状が正常な漿液性に変化していれば、ドレーン抜去の候補になります。ただし、歯科領域では消化管吻合手術ほどの大量排液を想定する必要は少ないため、患者の全身状態と組み合わせて判断します。


バイタルサイン変化と感染徴候の組み合わせ評価

縫合不全による腹膜炎や感染が進行すると、バイタルサイン(生命徴候)に明らかな変化が現れます。

特に注視すべきはこの4つの要素です。


発熱は最も一般的な兆候で、術後2~3日目以降に体温が38℃以上に上昇する場合は、単なる術後反応ではなく感染を強く疑う必要があります。術直後の発熱は自然な炎症反応ですが、一度下がった体温が再び上昇するパターンは特に危険な信号です。


脈拍増加も見逃してはいけません。安静時の脈拍が100回/分を超えて続く、または術前に比べて著しく増加している状態は、身体が感染に対して反応している証拠になります。


血液検査では、白血球数(WBC)の上昇とC反応性蛋白(CRP)の値上昇が感染徴候を客観的に示します。歯科医院では採血機能がない場合も多いため、必要に応じて医科病院との連携を視野に入れることが重要です。


これらの変化は単独で判断するのではなく、複数の兆候が組み合わさって初めて診断の確実性が高まります。


創部の局所的観察ポイント:発赤・腫脹・離開・滲出液

ドレーンがない場合や抜去後の観察では、創部そのものの状態確認が極めて重要になります。特に歯科口腔外科では、創部が口腔内にあるため、定期的な清潔な視診が可能です。


発赤は感染の最初の兆候です。通常の術後反応では軽微な発赤にとどまりますが、創部全体が著しく赤くなり、周囲の正常な粘膜との境界が明確な場合は感染を疑います。


腫脹も重要な観察項目です。術後2~3日間の腫脹は生体の正常な炎症反応ですが、術後4~5日目以降に腫脹が増強する、あるいは一度引いた腫脹が再び増強する場合は感染の進行を示唆しています。


創部の離開(創が開くこと)が見られた場合は、縫合不全が実際に起こっている可能性があります。特に抜糸前に創が一部開いている、または縫合糸が取れているケースでは、即座に医師に報告し再縫合の判断を仰ぐ必要があります。


滲出液の量と性状も観察の焦点です。色が黄白色で悪臭を伴う膿様滲出液が見られれば、細菌感染が進行している証拠です。


異常な創部所見が1つでもあれば医師へ報告し、必要に応じて画像検査や細菌培養を実施します。


術後経過時間と各観察項目の優先順位の使い分け

縫合不全の兆候は、術後の経過時間によって異なる優先順位で現れます。歯科医が効率的に異常を察知するには、このタイムラインを理解することが不可欠です。


術後当日から24時間は、ドレーン排液の量が最も注視される時期です。この間に異常な多量出血(1時間に100mL以上の血性排液)が続く場合は、術後出血を疑い再止血術を検討する段階になります。明らかな縫合不全の兆候が見られるのはまれですが、過度な出血は別の重篤な合併症の先行兆候になる可能性があります。


術後2~5日は感染徴候が顕著化する時期です。この段階では発熱、創部の発赤腫脹、バイタルサイン異常に注意を向けます。特に術後3日目以降に新たに発熱や疼痛が増強する場合は、縫合不全による感染進行の可能性が高くなります。


術後7~10日(抜糸時期)では、創部の治癒状態とドレーン排液の最終確認が優先になります。創部がしっかり癒合していることを確認してから抜糸を行わなければ、その後の感染リスクが著しく上昇します。


時間軸に沿った観察の使い分けが、見落としを防ぐうえで極めて重要です。


歯科診療所での実践的な観察・判断プロトコル

多くの歯科診療所は総合病院の手術室ほどの監視体制を備えていないため、帰宅後の患者自身による自覚症状報告と、定期的な再来院での医師による確認が観察の柱になります。


帰宅時には、患者に「以下の症状が出たらすぐに連絡するように」という指導が重要です。強い痛みの出現や悪化、圧迫しても止まらない持続的出血、38℃以上の発熱、創部からの膿排出、悪臭の感じ方、予期しない腫脹の増強などを列挙し、書面で渡すことが標準的です。


再来院スケジュールも設定が重要です。術後2日目、5日目、7~10日目(抜糸時)、2週間後、4週間後といった段階的な来院予定を立てることで、各時期の観察項目をもれなくチェックできます。


来院時の観察は体系的に行います。ドレーン留置中であれば排液量・色・臭いを毎回記録し、診療録に残します。创部はガーゼを外して直視し、発赤の程度、腫脹の状態、離開の有無、滲出液の性状を評価します。バイタルサインも毎回測定し、体温上昇傾向がないか確認します。患者の疼痛スケール(10段階評価で0~10)も記録することで、痛みの増減トレンドがつかめます。


このプロトコルを運用することで、歯科診療所の環境下でも縫合不全の早期発見が可能になります。


異常所見が見られた時の報告・対応フロー

縫合不全が疑われた場合の対応の速さが患者予後を左右します。歯科医療スタッフが取るべきアクションは明確に定められています。


まず、確認された異常所見を直ちに歯科医師に報告します。歯科医師が異常と判断した場合、即座に画像検査(X線・CT)の実施や、場合によっては色素造影検査(ガストログラフィンなどの造影剤を経口投与して透視撮影)の手配を検討します。これらの検査で縫合不全が確認されたら、絶食、中心静脈栄養への切り替え、広スペクトラム抗菌薬の投与といった初期対応が必要になります。


歯科診療所で対応できない重症の場合、医科病院への紹介・転院が必須になります。腹膜炎の兆候(激しい腹痛、頻脈、血圧低下、意識変容)が見られた場合は迷わず救急車を呼ぶ必要があります。


患者にも異常所見について説明し、緊急対応の必要性を理解させることで、以後の協力が得られやすくなります。


縫合不全は一度発症すると短時間で重篤化することがあるため、この報告・対応フローを事前に診療所内で申し合わせておくことが、患者の安全を守る必須の体制となります。


参考として、歯科インプラント治療後の合併症管理について学べるリソース。
神奈川歯科大学 インプラント治療に伴うリスクや副作用について


術後ドレーン管理と観察項目の詳細。
看護roo! 頭頸部手術後ドレナージの観察と管理


縫合不全の観察は、細部への注意力と計画的な follow-up スケジュールによって初めて効果を発揮します。歯科医は患者自身の自覚症状報告と診療所での定期的な確認という二層の体制を構築し、いかなる異常兆候も見落とさない姿勢を常に心がけるべきです。




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