PRFを用いて治療しても、届出なしなら20万円の罰金を受けます。
歯科情報
PRF(Platelet Rich Fibrin:多血小板フィブリン)とは、患者自身から採血した血液を遠心分離機にかけることで得られる、血小板・白血球・フィブリンを高濃度に含んだゲル状の生体材料です。フランスの外科医Choukroun氏が2001年に初めて報告した手法で、現在では世界中の歯科臨床に広く普及しています。
最大の特徴は「薬剤無添加」という点です。PRP(多血小板血漿)の製造には塩化カルシウムやトロンビンといった凝固促進剤を使用するのに対し、PRFは採血から遠心分離まで一連の操作が完全クローズドで完結します。つまり、外来の化学物質をいっさい加えません。これは感染リスクや異物反応のリスクを最小化する点で、歯科臨床において極めて重要です。
PRFの中には、VEGF(血管内皮増殖因子)・PDGF(血小板由来成長因子)・TGF-β1(トランスフォーミング成長因子)など、組織修復に働く20種類以上の成長因子が豊富に含まれています。これらが骨芽細胞の活性化・血管新生・軟組織の治癒を加速させます。
遠心分離の条件はPRFの性状に直結します。標準的な手順では700RCF(相対遠心力)×8分が基準とされており、この条件で血液は「上層:血清(PPP)」「中層:PRFゲル」「下層:赤血球」の3層に分離されます。中層のPRFゲルを採取して使用するのが基本です。
最近はL-PRF(白血球含有PRF)やi-PRF(300RCF×5分の低回転条件で得られる液状のPRF)など、さまざまな派生型も登場しています。i-PRFは液状のため骨補填材と混合しやすく、GBR(骨誘導再生法)の補助材として使いやすいとされています。これは使えそうです。
参考:ITIインプラント学会が公開する再生歯科とインプラント歯科における多血小板フィブリンの詳細解説(英文・日本語版あり)
PRFと混同されやすいのがPRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)とCGF(Concentrated Growth Factors:濃縮成長因子)です。この3種類はいずれも「患者自身の血液から作る再生医療材料」という共通点を持ちますが、製法・性状・臨床応用の場面がそれぞれ異なります。
まずPRPとPRFの最大の違いは形状と製造工程にあります。PRPは液状の血漿であり、使用時に塩化カルシウムやトロンビンを加えてゲル化させる必要があります。一方、PRFは遠心分離だけで自然にフィブリンネットワークを形成し、追加の試薬なしでゲル状になります。この「添加物ゼロ」という特性がPRFの大きな強みです。
CGFはPRFの派生型にあたります。遠心分離器の回転速度を段階的に変化させることで成長因子をより高濃度に濃縮するとされており、PRFより簡単に作れるという特長があります。ただしその効果の差は現時点で明確なエビデンスが十分あるとは言えず、施術者の習熟度や機器の精度にも左右されます。
| 種類 | 添加物 | 形状 | 主な特長 |
|------|--------|------|---------|
| PRF | なし | ゲル・膜状 | 白血球含有・フィブリンスキャフォールド形成 |
| PRP | 塩化カルシウム等 | 液状→ゲル化 | 液状で操作性高い・成長因子濃度が高い |
| CGF | なし | ゲル状 | PRFより簡易・成長因子がやや高濃縮とされる |
歯科の日常臨床においては、PRFは主に①抜歯窩のソケットプリザベーション、②GBR時の骨補填材との混合材料、③歯周外科後の創傷被覆材として使われます。PRPは成長因子濃度を液状のまま高めたい場合、たとえばサイナスリフトの際に骨補填材と混合するケースで使いやすいとされています。つまり目的と手術の規模で使い分けが必要です。
参考:PRP・PRF・CGFの自家再生医療材料について、それぞれの特性と臨床使用法を解説したコラム
テルミナ歯科クリニック:PRP、PRF、CGFなどの自家再生医療材料
PRFが歯科で実際にどう使われているかを具体的に整理しましょう。臨床適応の範囲は幅広く、インプラント関連処置から歯周外科まで多岐にわたります。
最も代表的な適応はインプラント埋入時の骨造成補助です。骨幅や骨量が不足しているケースでは、GBR法でメンブレンと骨補填材を使いますが、そこにPRFゲルまたはi-PRFを混合することで骨補填材の操作性が格段に向上します。骨補填材がパサついてまとまらない、という経験をお持ちの先生には特に実感しやすい効果です。
次に多い適応がソケットプリザベーション(抜歯窩保存処置)です。抜歯後の歯槽骨は、何も処置しなければ半年間で最大25%程度吸収されるとされています。抜歯窩にPRFと骨補填材を充填しておくことで、この骨吸収を抑え、後のインプラント埋入に必要な骨量を確保できます。骨吸収の抑制が条件です。
歯周外科後の創傷治癒促進も重要な適応です。通常、歯周手術後の組織治癒には4週以上かかるとされていますが、PRFを創傷被覆材として使用することで軟組織の治癒スピードが向上すると報告されています。患者にとっては術後の痛みや腫れが軽減される、という体感的なメリットにもつながります。
さらに見落とされがちな適応として「上顎洞底挙上術(サイナスリフト)」があります。上顎洞底部の骨が薄く、インプラント埋入が困難な症例でPRFを骨補填材と混合して使用すると、骨再生期間の短縮が期待できます。通常サイナスリフト後の待機期間は6〜9ヶ月とされますが、PRF併用により新生骨の形成が加速するという複数の臨床報告があります。
これらの適応をまとめると以下のようになります。
- 🦷 ソケットプリザベーション:抜歯窩への充填材として、骨吸収の防止
- 🦴 GBR(骨誘導再生法)補助:骨補填材との混合でゲル化・操作性向上
- 🏥 歯周外科後の被覆材:軟組織治癒の促進・術後腫脹の軽減
- 📐 サイナスリフト補助材:骨補填材との混合で新生骨形成を加速
- 🐕 動物歯科(獣医歯科)への応用:犬の切歯など歯周再生にも適用例あり
PRFは外来の人工物をいっさい含まないため、アレルギーリスクや感染リスクが極めて低く、全身状態に不安のある患者にも比較的安全に使用できます。これは大きなメリットです。
多くの歯科従事者が見落としがちなのが、PRFは「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」の適用対象だという点です。「自分の血液を使うだけだから届出は不要では?」と思っている先生も一定数いますが、これは誤解です。
再生医療等安全性確保法は2014年11月25日に施行されました。この法律では、PRF・CGF・PRP・PRGFなど「フィブリンゲルや多血小板血漿を用いた治療」はすべて第三種再生医療等技術に分類されます。なぜかというと、通常の遠心分離によって作製されるフィブリンゲルには、製造過程で血小板が混入することが大学等の基礎実験で確認されているためです。血小板は「細胞」に分類されるため、法の対象となります。
法律上、必要な手続きは大きく2種類あります。一つ目は「特定細胞加工物の製造に関する届出」(地方厚生局への提出)、二つ目は「再生医療の提供計画の提出」(認定再生医療等委員会+地方厚生局への提出)です。どちらも規定の書式に加え、医院の平面図・略歴・治療詳細・患者への説明同意文書などを添付する必要があります。
罰則もあります。届出をせずに特定細胞加工物の製造を行った場合、20万円以下の罰金が課されると法律に明記されています。さらに悪質なケースでは3年以下の懲役または300万円以下の罰金というより重い罰則規定も存在します。
| 義務事項 | 内容 | 提出先 |
|---|---|---|
| 特定細胞加工物の製造届出 | 遠心分離(血液加工)の届出 | 地方厚生局 |
| 再生医療提供計画の提出 | 治療の詳細・同意文書等の提出 | 認定再生医療等委員会+地方厚生局 |
| 治療記録の保存 | 実施記録を10年間保存 | 自院管理 |
| 定期報告 | 年1回の報告 | 地方厚生局 |
| 疾病等発生時の報告 | 重大事態発生時に速やかに報告 | 地方厚生局 |
届出が完了するまでPRFを提供できない、というわけではありません。2014年11月25日の時点で既に提供を行っていた医療機関には経過措置がありましたが、いまから新規に始める場合は事前の届出完了が条件です。
届出に関する詳細は認定再生医療等委員会を通じた手続きや様式の入手が必要であり、厚生労働省のe-再生医療システムも活用できます。まず地方厚生局への問い合わせを推奨します。
参考:PRF・CGFを含む再生医療安全確保法の届出義務についてのQ&A
一般社団法人 日本総合医療協会:再生医療届出に関するよくある質問
参考:再生医療等提供計画の提出等について(厚生労働省公式ページ)
厚生労働省:再生医療等提供計画の提出等について(概要)
PRFの効果を最大化するうえで、意外に語られることが少ないのが「遠心分離の条件管理」です。同じPRFでも、RCF(相対遠心力)の設定が変わるだけで成長因子の含有量や細胞分布が大きく変化することが、複数の研究で示されています。
具体的な数値を挙げると、L-PRF(標準的なPRF)は700RCF×8分が推奨条件です。一方、i-PRF(注射可能な液状PRF)は300RCF×5分という低速短時間で作製します。さらにC-PRF(濃縮PRF)では2000RCF×8分という高速遠心を使用し、得られる量は0.3〜0.5mLと非常に少量になります。回転数1つで性状がまったく変わります。
問題になるのは、遠心分離機のRCF設定が機種ごとに異なる点です。RPM(毎分回転数)をRCFに換算するには「RCF = 1.118 × r × RPM²(×10⁻⁵)」という式を使いますが、ローターの半径(r)が機種によって異なります。つまり、同じ「RPM 3000」でもローターが違えばRCFが異なり、想定と異なる性状のPRFができあがることになります。
臨床現場での対策としては、使用している遠心分離機のメーカーが提示するRCF換算表を必ず確認することが第一歩です。院内でPRF作製のプロトコルを文書化し、担当者が変わっても同じ条件で作製できる体制を整えることが、治療成績の安定につながります。プロトコルの文書化が基本です。
また、採血から遠心分離までのタイムラグも重要です。採血管を採取してから1〜2分以上放置すると、血液の自然凝固が始まり均一なPRFゲルが得られなくなる可能性があります。採血したらすぐに遠心機にかける、という流れを院内ルールとして徹底することが求められます。
このように、PRFは「血液を遠心するだけ」という手軽さの裏に、厳密な条件管理が求められる繊細な材料でもあります。設備投資の観点からは、歯科専用の遠心分離機(例:Intra-Spin®や専用PRF用遠心機など)を導入することで、RCF設定のばらつきを防ぐことができます。機器の選択が品質管理の鍵です。
参考:PRFの種類と遠心分離条件、各種パラメータを詳細に解説した論文(ITI Forum 日本語版)