副神経を保存しても、術後に約40〜70%の患者で肩機能障害が残るというデータがあります。
根治的頸部郭清術(Radical Neck Dissection:RND)は、下顎下縁・僧帽筋前縁・鎖骨上縁に囲まれた領域の脂肪組織を、胸鎖乳突筋・内頸静脈・副神経を含めて一塊に切除する術式です。 Level ⅠからレベルⅤに至るすべての頸部リンパ節群を徹底して郭清するため、頸部リンパ節転移に対する最も根治性の高い外科的治療と位置づけられています。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411203491)
頸部には重要な血管・神経が密集しており、術中には内頸動脈・外頸動脈・迷走神経・横隔神経・腕神経叢などが術野に現れます。これらを損傷しないよう、深頸筋膜の層を正確に意識した剥離が必須です。 dentaljuku(https://www.dentaljuku.net/oral-cancer/neck-dissection_basic)
| 術式 | 切除構造 | 郭清レベル | 主な適応 |
|---|---|---|---|
| RND(根治的) | SCM・IJV・SAN すべて切除 | Level Ⅰ〜Ⅴ | 多発転移・節外浸潤・長径3〜4cm以上 |
| MRND Type Ⅰ | SANのみ保存 | Level Ⅰ〜Ⅴ | Level Ⅱ・Ⅴに固定リンパ節なし |
| MRND Type Ⅱ | SAN・IJV を保存 | Level Ⅰ〜Ⅴ | Level Ⅱ〜Ⅳに癒着リンパ節なし |
| MRND Type Ⅲ | SAN・IJV・SCM すべて保存 | Level Ⅰ〜Ⅴ | 転移が少なく固定・癒着なし |
※SCM=胸鎖乳突筋、IJV=内頸静脈、SAN=副神経
かつてはN0(頸部リンパ節転移なし)症例に対する予防的郭清としても、RNDが標準的に施行されていた時代がありました。 しかし、臨床病理学的データの蓄積により、症例を適切に選択すれば切除範囲を縮小しても頸部リンパ節転移の制御率にほとんど変化がないことが示されました。 これが保存的術式への移行を後押しした最大の根拠です。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411101523)
つまり、RNDが唯一の標準術式だった時代は終わっているということです。
現在の主流となった保存的頸部郭清術(MRND:Modified Radical Neck Dissection)は、RNDと同じくLevel Ⅰ〜Ⅴのリンパ節・組織を郭清しつつ、胸鎖乳突筋(M)・内頸静脈(V)・副神経(N)のうち少なくとも1つを保存する術式です。 保存した構造の組み合わせによりType Ⅰ〜Ⅲに細分類されます。 healthcare.kameda(https://healthcare.kameda.com/cancer/disease/detail/detail_15.html)
この変化は単なるトレンドではありません。QOLのエビデンスが積み重なり、術式選択の根拠が科学的に確立された結果です。歯科口腔外科に関わる者として、RNDとMRNDそれぞれの適応基準を正確に把握しておくことが、患者への説明や術前カンファレンスでの連携において不可欠です。
RNDにおいて保存される構造として、歯科医師国家試験でも頻出なのが「内頸動脈」です。 内頸動脈は脳への血流を担う重要血管であり、RNDであっても原則として切除されません。これが基本です。 dentalyouth(https://dentalyouth.blog/archives/33432)
MRND Type Ⅰ(副神経のみ保存)の適応はLevel Ⅱ・Ⅴに固定リンパ節がない症例、Type Ⅱ(副神経+内頸静脈を保存)はLevel Ⅱ〜Ⅳに癒着リンパ節がない症例が目安です。 適応の逸脱は再発リスクを高めます。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001204729281792)
ただし、副神経を温存した術式でも神経の軸索変性(axonotmesis)や脱髄(neurapraxia)が生じることがあるため、術後のリハビリテーションが必要なケースは少なくありません。 「保存すれば必ず機能が維持される」わけではないことも覚えておくべきです。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2011/113041/201118053A/201118053A0021.pdf)
参考:頸部郭清術後の副神経障害とリハビリテーションに関する詳細
MRNDでは副神経を温存することで、これらの術後後遺症を軽減できます。しかし、MRND実施には患者選択の慎重さ・追加の手術時間・より高い技術的スキルが必要とされます。 適応と技術の両面が揃って初めて、MRNDのメリットが生きます。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001204729281792)
また、両側のRNDを同時施行すると、両側の内頸静脈が切除されることで頭蓋内圧亢進や顔面浮腫などの重篤な合併症リスクが高まります。このため、両側同時施行は原則避けます。片側施行後、一定期間をおいて対側を施行するのが原則です。顔面の血流管理という観点からも、口腔外科医・歯科医師が知っておくべき重要なポイントです。
参考:頸部郭清術における副損傷の予防と対応(J-Stage)
「頸部郭清術=根治的(RND)が原則」と思いがちですが、実は疾患によって全く逆の考え方が適用されます。意外ですね。
この違いは何を意味するのでしょうか?
つまり、「RNDかMRNDか」の選択は、がんの組織型・進展様式・リンパ節の状態によって根本的に変わるということです。口腔がん(扁平上皮癌が大半)に関わる歯科口腔外科の立場では、節外浸潤・固定リンパ節の有無・転移のレベルと個数を総合的に評価してから術式を選択する姿勢が求められます。
口腔外科医が頸部郭清術の術式を理解する際には、「腫瘍学的根治性だけでなく、再建計画・術後リハビリ・患者QOLを含めた総合的な判断」が求められると認識しておくことが、実臨床でのチームアプローチにつながります。
参考:頸部郭清術の基本的コンセプト(J-Stage・耳鼻咽喉科学会)
参考:口腔がんの頸部郭清術に関する臨床情報(口腔がん.com)
頸部郭清術・頸部リンパ節(口腔がん.com)