骨格性上顎前突を矯正のみで治す適応基準と治療期間

骨格性上顎前突に対して矯正のみで治療可能なケースと外科矯正が必要なケースの判断基準、治療期間、費用、アンカースクリューの活用法など、歯科医療従事者が知っておくべき実践的な情報をまとめています。患者説明の際にどのような選択肢を提示すべきでしょうか?

骨格性上顎前突を矯正のみで治す

軽度の骨格性上顎前突でも外科手術が必要と説明している。


この記事の3つのポイント
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軽度~中等度は矯正単独でも改善可能

骨格性でも症状の程度によっては抜歯とアンカースクリュー併用で対応できる症例があります

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適応判断には複数の診断基準を活用

セファロ分析・顔貌評価・患者希望を総合して矯正単独か外科併用かを判断します

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治療期間は2年半~3年が目安

骨格性の矯正単独治療は60万~100万円程度、外科併用なら保険適用で25万円前後になります


骨格性上顎前突における矯正のみの適応範囲


骨格性上顎前突と診断された場合でも、すべての症例で外科手術が必要になるわけではありません。実際には、軽度から中等度の骨格性上顎前突であれば、矯正治療単独でも十分に改善可能なケースが存在します。


歯科医療従事者にとって重要なのは、どこまでが矯正単独で対応できる範囲なのかを正確に見極めることです。セファロ分析におけるANBアングルやSNAの数値、上下顎骨の前後的な位置関係、そして患者の顔貌所見を総合的に評価する必要があります。一般的に、ANBアングルが4~7度程度の範囲であれば、矯正単独での治療も選択肢に入ります。


つまり骨格要因が主原因でも矯正対応は可能です。


ある矯正専門医院の症例報告では、41歳女性の「上顎骨過成長を伴う骨格性上顎前突」を、患者の手術回避希望により抜歯とアンカースクリュー併用で3年かけて治療し、口元の突出感を大幅に改善できた事例が報告されています。この症例は「シビアな骨格性上顎前突を通常の矯正治療だけでここまで治せたことは大成功」と評価されており、骨格性でも矯正単独での対応可能性を示す重要な事例といえるでしょう。


ふかつ歯科矯正歯科の骨格性上顎前突矯正治療症例


患者説明の際には、矯正単独では骨格的な根本改善には限界があることを正直に伝えつつ、口元の審美的改善や咬合機能の向上は十分に期待できることを説明することが重要です。治療期間は通常の矯正治療よりも長くなる傾向があり、2年半から3年程度を見込む必要があります。


骨格性と歯性の鑑別診断ポイント

骨格性上顎前突と歯性上顎前突の鑑別は、治療方針を決定する上で最も重要なステップとなります。この診断を誤ると、治療結果が不十分になったり、患者満足度が低下したりするリスクがあります。


鑑別診断の基本は側面頭部X線規格写真、いわゆるセファログラムの分析です。SNA(上顎骨の前後的位置)、SNB(下顎骨の前後的位置)、ANB(上下顎骨の前後的位置関係)などの角度計測値を評価します。日本人成人の標準値はSNAが約82度、SNBが約79度、ANBが約3度とされており、これらの値から大きく逸脱している場合は骨格性の要素が強いと判断できます。


歯性の場合は骨格的な数値が標準範囲内にあり、上顎前歯の唇側傾斜角度のみが増加しています。


さらに臨床所見として、横顔のプロファイル評価も重要です。Eライン(鼻尖と顎先を結んだ線)に対する口唇の位置関係を確認し、上唇がEラインよりも著しく前方に位置している場合は骨格性要素が強い可能性があります。正面顔貌では、上顎骨の過成長により中顔面が長く見えたり、ガミースマイル(笑ったときに歯肉が多く見える状態)を伴うケースもあります。


患者自身で簡易的に確認する方法として、口を軽く閉じた状態で横顔の写真を撮影し、鼻先と顎先を指で結んだラインに対して唇がどの程度前に出ているかを見る方法があります。上唇がそのラインよりも4~5mm以上前方に位置している場合は、骨格性要素が関与している可能性が高くなります。


骨格性上顎前突における抜歯・非抜歯の選択基準

骨格性上顎前突の矯正治療において、抜歯か非抜歯かの判断は治療結果を大きく左右する重要な決定事項です。この選択には複数の要因を慎重に検討する必要があります。


抜歯治療が推奨されるケースは、以下のような特徴を持つ症例です。上顎前歯部の突出度が著しく、オーバージェット(上下前歯の水平的な距離)が6mm以上ある場合、口唇閉鎖不全があり患者が口元の改善を強く希望している場合、そして叢生(歯の重なり)が中等度以上存在する場合です。特に骨格性上顎前突では、前歯を十分に後退させるためのスペースが必要となるため、上顎第一小臼歯または第二小臼歯の抜歯が選択されることが多くなります。


一方で非抜歯治療が可能なケースもあります。オーバージェットが比較的軽度で、叢生量が少なく、患者が口元の大幅な変化を望まない場合です。


非抜歯矯正では歯列の側方拡大やIPR(歯間削合)、大臼歯の遠心移動などの手法を組み合わせてスペースを確保します。ただし骨格性上顎前突の場合、非抜歯で対応すると口元の突出感が残存するリスクがあることを患者に十分説明する必要があります。実際に、非抜歯矯正後に「思ったより口元が引っ込まなかった」という不満が生じるケースも報告されています。


治療方針決定の際には、セファロ分析の数値だけでなく、患者の審美的要望、年齢、骨格パターン、歯周組織の状態などを総合的に評価することが求められます。特に成人患者の場合は、抜歯によるスペースを利用して前歯を最大限後退させることで、横顔の審美性が大きく改善する可能性が高まります。


骨格性上顎前突治療でのアンカースクリュー活用法

骨格性上顎前突の矯正治療において、アンカースクリュー(矯正用インプラント)の使用は治療効率と結果の質を大きく向上させる技術として確立されています。従来の矯正治療では不可能だった歯の移動が可能になったことで、外科手術を回避できる症例の範囲が広がっています。


アンカースクリューの最大のメリットは、絶対的な固定源を得られることです。通常の矯正治療では、奥歯を固定源として前歯を後方に移動させますが、その際に奥歯自体も前方に移動してしまう「固定源の喪失」という問題が発生します。しかし骨に直接埋入されたアンカースクリューは動かないため、前歯だけを効率的に後退させることができます。


骨格性上顎前突では奥歯の咬合関係が良好に保たれます。


骨格性上顎前突の治療では、上顎の第一大臼歯と第二大臼歯の間の歯槽骨、または口蓋部にアンカースクリューを埋入するケースが多く見られます。ここからゴム牽引やスプリングを用いて前歯部全体を後方に牽引することで、口元の突出感を効果的に改善できます。臨床報告では、アンカースクリュー使用により治療期間が従来の約1.5倍短縮されたという事例もあります。


費用面では、アンカースクリューは1本あたり5,000円から20,000円程度の追加費用が発生します。通常は2本から4本を使用するため、総額で1万円から8万円程度の負担増となります。ただし治療期間の短縮により調整料の総額が減少する可能性もあるため、トータルコストでの評価が必要です。


患者への説明では、アンカースクリューの埋入は局所麻酔下で10分程度の簡単な処置であること、除去も数分で終わること、そして埋入部位の痛みは通常2~3日で消失することを伝えると不安を軽減できます。


保険適用となる骨格性上顎前突の診断基準

骨格性上顎前突の治療において、保険適用の可否は患者の経済的負担に大きな影響を与えるため、正確な診断基準の理解が不可欠です。現在の日本の保険制度では、特定の条件を満たした場合にのみ矯正治療が保険診療として認められています。


保険適用の最も重要な条件は、「顎変形症」と診断され、かつ外科手術を伴う矯正治療が必要と判断されることです。単に骨格性上顎前突というだけでは保険適用にはならず、著しい顎骨の位置異常があり、外科的矯正手術の実施が前提となります。また、治療は「顎口腔機能診断施設」として指定された医療機関でのみ保険診療が可能となります。


外科手術が必要な症例の判断基準としては正面顔貌で明確な非対称があります。


側貌において上顎骨の前方突出が著しく、口唇閉鎖が困難な状態も該当します。さらにオーバージェットが10mm以上あり、咬合機能に著しい障害がある場合、または開咬を伴う骨格性上顎前突なども外科矯正の対象となります。セファロ分析においてANBアングルが8度以上など、骨格的不調和が顕著な数値を示すことも重要な判断材料です。


保険適用の外科矯正治療では、術前矯正(6か月~2年)、外科手術(入院期間1~2週間)、術後矯正(6か月~1年半)、保定期間(2~3年)というプロセスを経ます。総費用は3割負担で矯正治療部分が約25万円前後、外科手術・入院費用を含めても50万円程度となり、自費診療の100万円以上と比較すると大幅に負担が軽減されます。


患者への説明では、保険適用には外科手術が必須であること、手術には全身麻酔とそれに伴うリスクがあること、そして治療期間が矯正単独よりも長くなる可能性があることを明確に伝える必要があります。一方で、骨格的な根本改善が可能であり、顔貌の大幅な改善が期待できるというメリットも併せて説明することが重要です。


日本矯正歯科医会による顎変形症と外科的矯正治療の解説




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