矯正治療さえすれば、インターデンタル構音は自然に治ると思っていませんか?実は開咬を矯正しても、約3割の患者では発音障害が残り続けます。
インターデンタル構音とは、正式には「歯間化構音(しかんかこうおん)」と呼ばれる異常構音の一形態です。通常のサ行・タ行発音では舌尖(舌の先端)を上顎前歯の歯茎(歯槽部)に近接させて摩擦音を作りますが、インターデンタル構音では発音のたびに舌先が上下前歯の間に突出してしまいます。
この結果、「さかな」が英語の「th」(θ音)のような音に歪んで聴こえます。つまり日本語のカタカナでは表記できない「歪み型」の発音障害です。
正常構音との違いは明確です。
| 構音の種類 | 舌の位置 | 聴こえ方の特徴 |
|---|---|---|
| 正常なサ行 | 舌尖が歯茎に近接(接触なし) | クリアな摩擦音 |
| インターデンタル構音 | 舌先が前歯間に突出 | 英語「th」のように歪む |
| 口蓋化構音 | 舌中央が盛り上がる | タ行がカ行に近く聴こえる |
全体的にペタペタとした舌足らずな印象の話し方になります。患者本人は気づいていないことも多く、保護者からの訴えや定期検診での気づきが発見のきっかけになりがちです。
インターデンタル構音は「発達途上にみられない誤り」に分類されます。赤ちゃん言葉のように自然に改善する構音誤りとは異なり、放置すると成人まで残り続けるリスクがある点が重要です。これが基本です。
日本歯科医学会の「小児の口腔機能発達評価マニュアル」では、歯間化構音・側音化構音・口蓋化構音などが認められる場合は、精査可能な医療機関への紹介を推奨しています。つまり早期発見が条件です。
歯科従事者向けに、発見時のスクリーニングポイントを整理すると次のようになります。
- 「さかな」「すし」「そと」などサ行単語を発音させ、舌先が前歯間に出ていないか目視確認する
- 「タ行」音でも同様の舌突出が起きるケースがあるため、「たこ」「て」「とまと」でも確認する
- 全体的に舌足らずな印象があれば積極的に疑う
参考:日本歯科医学会 小児の口腔機能発達評価マニュアル(歯間化構音・構音機能の評価項目に関する記載あり)
小児の口腔機能発達評価マニュアル|日本歯科医学会
インターデンタル構音が生じやすい口腔環境として、まず注目すべきなのが「開咬」と「舌突出癖」の組み合わせです。開咬とは上下前歯が咬合時に接触せず空隙が生じる不正咬合で、前歯部に隙間があることで舌が前方へ逃げやすい構造が作られます。
日本矯正歯科学会の診療ガイドライン(開咬編)では、開咬が「[s]が[θ]と誤って発音されるリスピング(lisping)、歯茎音の歯音化」などを引き起こすと明記されています。これはまさにインターデンタル構音の典型的な発現メカニズムです。
実際のデータも注目に値します。小学校低学年児を対象とした東京都の言語聴覚調査では、開咬を持つ児童の**37%にサ行の構音障害**が認められました。約3人に1人という数字です。ちょうど学校の1クラスに2〜3人いる計算になります。
意外ですね。これほどの頻度で構音問題が潜在しています。
重要なのは因果関係の方向性です。「開咬があるからインターデンタル構音が起きる」というケースと、「舌突出癖が継続することで開咬が形成・維持される」という双方向の関係があります。この相互作用を理解していないと、矯正治療だけを行っても発音が改善しないまま終わるケースが生じます。
矯正後の構音改善については、東京都の同調査で「矯正治療後に7割が改善した」というデータがある一方、**残りの3割では構音障害が残存**したことも示されています。舌突出癖という機能的問題が解消されていないと、歯並びを整えても構音は変わりません。これだけ覚えておけばOKです。
舌突出癖のメカニズムについて補足すると、安静時の舌位が下方に下がった「低位舌」の状態(舌が上顎に付かない状態)では、嚥下時や発音時に舌が前方に逸脱しやすくなります。構音器官としての舌の細かいコントロールには、日常的な舌位の安定が前提として必要です。
参考:日本矯正歯科学会 診療ガイドライン(前歯部)開咬編(発音障害の記載を含む)
矯正歯科治療の診療ガイドライン(前歯部)開咬編|日本矯正歯科学会
歯科従事者が定期検診やMFT相談の場でインターデンタル構音を発見するためには、構音観察だけでなく、それを引き起こす口腔内環境のチェックが欠かせません。確認すべき主なポイントは次のとおりです。
**①低位舌(ていいぜつ)の有無**
安静時に舌が上顎に付いておらず、下方に落ちている状態を低位舌と言います。舌先が「さ」を作るべき歯茎ではなく前歯先端に向かいやすく、歯間化構音に直結しやすい状態です。口を少し開かせて「舌を上顎に付けてみてください」と指示したとき、スムーズに付けられるかどうかを目視確認するだけでも有用です。
**②舌小帯の状態**
舌小帯が短縮・強直していると舌尖の挙上が制限されます。舌先を使う精密な発音動作(サ行・ラ行など)が困難になるため、インターデンタル構音を含む複数の構音誤りに関わることがあります。
**③開咬・前歯部空隙の確認**
前歯部の垂直的空隙量を確認します。咬頭嵌合位でオーバーバイトが0mm以下の場合、発音時に舌が逸脱しやすいリスクが高まります。
**④口唇閉鎖不全**
口唇が安静時に閉じていない、あるいは閉じるときに周囲筋に過緊張が生じているケースでは、口腔機能発達不全症のチェックリスト上でも「話す機能」と「呼吸する機能」の両面で問題が生じている可能性があります。
舌圧測定や口唇閉鎖力測定などの定量的評価も、口腔機能発達不全症の算定(2018年保険収載)と組み合わせることで、臨床的な根拠を持ったアプローチができます。これは使えそうです。
サ行の構音をスクリーニングする際に便利な方法として、「サシスセソ」を各単語の頭に置いた短文(例:「さるがさんぽした」「すずめがすべった」)を発音させ、その際の舌の動きを正面から観察することが挙げられます。前歯の間から舌先が見えれば、インターデンタル構音を強く疑う根拠になります。
参考:口腔機能発達不全症への対応と構音機能評価(構音観察法の実際)
口腔機能発達不全症に対する取り組みと定期的な来院に繋げる創意工夫|dental-plaza
インターデンタル構音に対して歯科が担える最も重要な役割は、「音を直す」ことではなく「音を正しく出せる口腔環境を作る」ことです。この視点の整理が重要です。
音の訓練(発音練習・聴覚弁別訓練など)は言語聴覚士(ST)の専門領域です。一方で歯科は、構音を支える「動く口」を育てる環境整備ができます。具体的には、口腔筋機能療法(MFT:Myofunctional Therapy)がその中心となります。
インターデンタル構音に対してMFTで特に重要となる訓練は次の3点です。
- **舌の挙上トレーニング**:舌先を上顎前方の歯茎(スポット)に正確に付ける動作の反復練習(例:「タン」と音を立てて弾く動作)
- **舌の脱力・平坦化**:舌に力が入りすぎて前方に向かう傾向がある場合、舌を平らにリラックスさせる練習から開始する
- **嚥下時の舌位確認**:嚥下時に舌が前歯に押しつけられていないかを確認し、正常嚥下(成熟型嚥下)を習得させる
MFTは歯科衛生士が指導の中心を担うことが多いため、院内でMFT担当者を育成・配置することが実践上の鍵となります。ある矯正歯科医院の調査では、早期にMFTを取り入れたお子さんの約7割で装置の装着期間が短縮できたという報告もあり、構音改善だけでなく矯正治療の安定化にも貢献します。
**口腔機能発達不全症としての保険算定**も重要なポイントです。2018年に保険収載されたこの区分では、サ行などの構音の歪みが認められる場合が診断基準のひとつに含まれています。舌圧測定や口唇閉鎖力測定と組み合わせることで、算定根拠を持ったMFT指導が可能です。構音の問題を「言語の問題」として切り離さず、歯科として診断・管理できる体制を整えることが、保護者・患者からの信頼につながります。
MFTを院内で実践するにあたって参考になる資料として、歯科衛生士向けのeラーニングやセミナーも充実してきています。今日から1つ確認するだけでも、臨床に差が出ます。
参考:MFTを最近学び始めた歯科衛生士向けの実践的な指導ポイント解説
MFTを最近学び始めた歯科衛生士必見!患者指導の際に押さえておきたいポイント|DentWave
歯科が構音に関わる際に必ず押さえておきたいのが、言語聴覚士(ST)との役割分担と連携の仕組みです。双方の役割を理解していないと、患者に「どこへ行けばいいかわからない」という状態を作ってしまいます。厳しいところですね。
**歯科(DH・Dr)の役割**:口腔環境の整備(歯並び・咬合の改善、舌小帯の評価・処置、MFTによる機能訓練)、構音問題の気づきと初期スクリーニング、STへの適切な紹介
**言語聴覚士(ST)の役割**:正確な構音評価(音の歪みのパターン分析、聴覚弁別能力の評価)、構音訓練の実施(正しい音の出し方の指導)、家庭での練習指導
インターデンタル構音の場合、STによる発音訓練が有効である一方、舌突出癖・低位舌・開咬という口腔環境が是正されていないと訓練の効果が出にくいです。逆に言えば、歯科がMFTで環境を整えることが、STの訓練効率を大きく上げる下地になります。
日本歯科医学会の口腔機能発達評価マニュアルでも、「歯間化構音・側音化構音・口蓋化構音などが認められ、歯列・咬合以外の原因が疑われる場合は、精査が可能な医療機関に紹介する」と明記されています。歯科単独で完結させようとするより、STとの連携経路を持っておくことが原則です。
地域のSTと連携するための入口としては、次の方法が挙げられます。
- 地域の言語聴覚士会・リハビリ病院の外来STへの紹介パスを作成する
- 市区町村の言語発達相談窓口(保健センター、発達支援センター)との関係構築
- 口腔機能管理の取り組みとして、STとの勉強会・事例共有の場を設ける
連携が難しい地域では、まず歯科でMFTを先行して実施しながら、STへのアクセスを並行して検討するアプローチが現実的です。いずれにせよ、「気になるけど様子を見ましょう」だけで終わらせないことが、患者の発音改善と医院への信頼につながります。
参考:子どもの舌突出癖の原因・影響・予防改善法と言語聴覚士との連携について
子どもの舌突出癖ガイド:原因・影響・予防改善法|小児矯正サイト
十分な情報が集まりました。記事を作成します。