神経が完全に死んでいる歯でも、根管治療時には強い痛みが出ることがあります。
歯髄壊死の治療について「神経が死んでいるから痛みはないはず」という勘違いが非常に多いです。
しかし、実際には複雑な状況があります。
神経が完全に壊死していても、歯根の先端付近には知覚神経が生き残っており、治療時に器具がこの神経に触れるとチクチク、ズキンとした痛みが生じることがあります。過去の研究では、神経が死んだ歯であっても根管治療中に適切な麻酔なしで治療されると、痛みの感覚が過敏になる可能性が報告されています。
治療中の痛みを防ぐ最も重要なポイントは麻酔です。局所麻酔をしっかり効かせることで、治療中の痛みはほぼ感じなくなります。これは神経が生きているか死んでいるかに関わらず、必須となります。
麻酔が効きにくい場合もあります。
例えば、治療開始時にすでに激痛がある歯、元々麻酔が効きにくい体質の患者、骨が分厚い下の奥歯などでは麻酔の効果が得られにくいことがあります。その場合は麻酔を追加するか、痛み止めを事前に服用した上で次回来院時に改めて治療するなどの工夫が必要です。
治療後の痛みも多くの患者の関心事です。実際に精密な根管治療を受けた患者の約60%は、治療後1週間以上痛みがなく、約40%は治療当日から翌日に多少の不快感を感じる程度です。3~4日後に痛みが残っている患者は約10%という報告があります。つまり、ほとんどの患者は痛み止めで対応できるレベルです。
歯髄壊死の治療中に痛みが出る根本的な理由は「麻酔をせずに治療が行われている」ケースが少なくないからです。一部の歯科医師の間には「神経が死んでいるから麻酔は不要」という考えが根付いていますが、これは誤解です。歯の周囲には歯根膜という組織があり、ここには感覚神経が多く走行しています。
根管治療で使用するファイルやリーマーなどの細い器具が、この歯根膜の神経に触れると痛みが生じます。特に、過去に神経を抜いた歯の再治療(感染根管治療)でも、歯根膜の神経は健全に生き残っているため、麻酔は必須です。ラバーダム防湿という方法で歯を隔離し、マイクロスコープを使用した精密な治療を行うクリニックでは、治療中の痛みがほぼ発生しません。
精密な治療とそうでない治療では、治療後の痛み期間が大きく異なります。根管内に虫歯が残っていたり、刺激が強い薬剤が使用されたり、ラバーダムを使わない不十分な治療が行われると、術後の痛みが強く長期間継続することがあります。反対に、適切な治療が行われれば、術後の痛みは数日で治まります。
治療後に「何もしないのにズキズキ痛い」という症状が長引く場合、いくつかの原因が考えられます。炎症が強い状態の歯髄が完全に取り除けていない、刺激が強い薬(ペリオドン)を使用している、虫歯が残った状態で治療が進められている、などです。こうした場合、同じ治療を何度も繰り返すよりも、根管治療を専門とするクリニックに相談することが重要です。
歯髄壊死は症状がないまま進行することが多く、だからこそ厄介です。虫歯が深く進行して歯髄に到達すると、最初は冷たいものがしみる程度の可逆性歯髄炎の状態です。
この段階で治療すれば神経を残せます。
しかし、細菌感染が進むと、何もしないのにズキズキと脈打つように痛む不可逆性歯髄炎の状態になります。ここまでくると神経を残すことはできず、根管治療が必要です。
さらに進行すると、ズキズキした痛みが急になくなります。これは歯髄が完全に死んだサインであり、安心せず逆に注意が必要なステージです。この段階を歯髄壊死といい、歯の内部は細菌の温床になっています。放置すると、歯根の先に膿が溜まり、根尖性歯周炎という状態に進行します。根尖性歯周炎では、膿が溜まることで圧がかかり、治療開始直後は非常に強い痛みが出ることもあります。
歯の神経が死ぬまでの期間は、原因によって大きく異なります。むし歯が原因の場合、深い虫歯で急性歯髄炎を起こすと数日~2週間で神経が回復不可能な状態に移行します。その後、完全に壊死するまでさらに進行します。外傷が原因の場合は進行が早く、強い衝撃で数時間~数日で歯髄壊死に至ることもあります。一方、軽度のむし歯や咬み合わせの力による負担が原因の場合、数か月~1年以上かけてゆっくり進行することもあります。
根管治療の期間は患者の状態によって異なりますが、通常は1~2週間に1回程度の通院で、3~5回で完了します。比較的単純なケースであれば2~3週間で終了することもあります。複雑なケースや再治療の場合は、1~2ヶ月、またはそれ以上かかることもあります。
歯髄壊死で怖いのは、初期段階では症状がまったく出ないということです。むし歯がゆっくり進行したり、過去の虫歯治療の影響で数年経ってから神経が死んだりすると、患者は気づきません。このため、定期検診とレントゲン撮影が非常に重要です。
歯科医院での検査には複数の方法があります。
視診では歯の色をチェックします。
神経が死んでいる歯は、他の歯に比べて灰色やくすんだ黒色に変色していることが多いです。温度診では、冷却スプレーで冷やした綿を歯に当てて反応を見ます。正常な歯は「しみる」ような痛みを感じますが、歯髄が死んでいればほとんど反応がありません。
歯髄電気診では、歯に微弱な電流を流します。正常な歯はある程度の刺激で反応しますが、全く反応がなければ歯髄壊死の可能性が高いと判断されます。打診では歯を器具で軽く叩いて、叩いたときに痛みがあるかどうかを確認します。レントゲン検査では、歯根の先に黒い影(根尖病巣)が映ることで、膿が溜まっていることが確認できます。
これらの検査を組み合わせることで、歯科医師は歯髄の状態を正確に判断できます。例えば、冷診や電気診で反応がなく、レントゲンで根尖病巣が映っていれば、ほぼ確実に歯髄壊死と診断されます。
歯髄壊死を放置することは、想像以上に危険です。壊死した歯の内部は細菌の温床となり、感染が歯根の先や周囲の骨にまで広がります。この状態が長く続くと、いくつかの深刻な問題が起こります。
歯の変色が顕著になります。壊死した神経や血液の成分が象牙質に染み込み、歯が灰色から黒色へと変化します。特に前歯の場合、見た目の問題だけでなく、内部感染のサインでもあります。膿が歯根の先に溜まると、圧がかかって痛みが出たり、歯ぐきに小さなニキビ状の出口(フィステル・サイナストラクト)ができたりします。慢性化すると痛みが少なく、進行を見逃しやすくなります。
感染が顎の骨にまで広がると、骨髄炎や膿瘍を起こす可能性があります。さらに、まれに全身へ細菌が回り、発熱や倦怠感などの全身症状が出ることもあります。放置期間が長いほど感染は複雑化し、根管治療での改善が困難になります。最終的に歯を保存できず、抜歯が必要になるケースもあります。
抜歯になるケースは、歯自体が大きく破壊されていたり、歯根にひび割れ(亀裂)が入っている場合です。このような状態では、歯を残すことが困難と判断されます。抜歯後は、ブリッジ、入れ歯、またはインプラントで欠損を補う必要があります。
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