歯肉炎指数GIの正しい測定と臨床応用の基本

歯肉炎指数(GI)はLöe&Silnessが1963年に提唱した歯周評価の基本指標です。スコアの付け方から喫煙患者への注意点、BOPとの違い、臨床での活用法まで、歯科従事者が知っておくべきポイントをまとめました。あなたの現場での使い方は本当に正しいですか?

歯肉炎指数GIの基本と臨床での正しい活用法

喫煙患者のGIスコアが低くても、歯周組織の破壊は非喫煙者の2〜3倍速く進んでいることがあります。


この記事でわかること
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GIの基本概念とスコアの読み方

Löe&Silnessが1963年に提唱した歯肉炎指数の定義・評価基準・計算方法を整理します。

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GIとBOPの使い分けポイント

似て非なる2つの指標がどう違うのか、臨床場面ではどちらをどう使うべきかを解説します。

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GI測定で見落としやすいワナ

喫煙患者・インプラント周囲などGIスコアが実態を反映しにくいケースと対策を紹介します。


歯肉炎指数GIの定義・提唱の背景と歴史的意義

歯肉炎指数(Gingival Index、略称:GI)は、1963年にデンマークの歯周病学者であるHarald LöeとJan Silnessによって提唱された、歯肉炎症の程度を数値化するための指標です。それ以前は歯肉の状態を「健康」「炎症あり」のような二分法でしか評価できず、炎症の重症度を段階的に把握することは難しい状況でした。GIの登場により、炎症の強さと広がりを同時に定量的に評価できるようになり、歯周病の疫学調査から個々の患者のモニタリングまで幅広く応用されるようになりました。


提唱から60年以上が経過した現在も、日本歯周病学会の「歯周治療のガイドライン2022」において、GIは歯周組織検査の標準的な評価指標として明記されています。これは基本的な指標ながら、今なお現場での有用性が認められていることを示しています。つまり長年の臨床実績に裏付けられた指標です。


なお、提唱者であるLöeらは1967年に一部改訂を行い、スコア2の判定基準を「プロービング後の出血」に変更しています。オリジナル版ではスコア2を「歯肉辺縁内縁部の擦過により出血する」と定義していましたが、改訂版ではより明確に「プロービングで触診すると出血する」とされました。現在の臨床・国試ともに改訂版が標準とされているため、この変遷は押さえておくべきです。









スコア 評価基準 臨床所見のポイント
0 正常歯肉 発赤・腫脹・出血なし
1 軽度の炎症 わずかな発赤・浮腫あり、プロービングで出血しない
2 中等度の炎症 発赤・浮腫・光沢あり、プロービングで出血する
3 高度の炎症 著しい発赤・浮腫、自然出血・潰瘍形成あり


この4段階のスコアは、単純ながら「視診+触診(プロービング)」の両方から炎症を評価できる点が優れています。スコア1とスコア2の境界が「プロービング出血の有無」であることは特に重要で、この1点の違いが治療方針の分岐点になる場面もあります。


参考情報として、GIを含む歯周疾患の各種指標の詳細な解説が以下のサイトで確認できます。国試対策にも活用されているページです。


FUMI's Dental Office ─ 歯周疾患の疫学(歯肉の炎症を評価する指数):GI・PMA・PIの評価基準と診査部位を詳しく解説


歯肉炎指数GIのスコア計算方法と診査部位の正確な把握

GIのスコアリングは、1歯を頬(唇)側・舌(口蓋)側・近心面・遠心面の計4面に分けて評価し、各歯面にスコア0〜3を付けていくことが基本です。1歯あたり4面を評価するため、1歯のGIは「4面のスコア合計÷4」で算出します。個人のGIはすべての被検歯のスコア合計を総被検歯面数で割った平均値です。


$$GI(個人)= \frac{\sum 各歯面のスコア}{総被検歯面数}$$


個人のGIの解釈目安は以下のとおりです。








個人GI値の範囲 炎症の評価
0.1〜1.0 軽度の歯肉炎
1.1〜2.0 中等度の歯肉炎
2.1〜3.0 高度の歯肉炎


診査部位については、全歯を対象とする方法と代表歯(インデックス歯)を用いる方法があります。疫学調査などでは代表歯法が採用されることが多く、時間と精度のバランスを取った運用が可能です。いずれの方法でも、4面の診査を確実に行うことが基本です。


臨床では全歯診査が一般的です。実際に測定する際は、プローブを歯肉溝に沿って走査させ、出血の有無を確認します。この操作は「プロービング圧を0.25N(約25g)程度に統一する」ことが求められており、検者間の再現性を保つうえで非常に重要なポイントです。プローブの押し込み方がバラバラだと、同じ患者を別のスタッフが診査したときに結果が変わってしまいます。プロービング圧が条件です。


測定前の注意点として、「直前に歯磨きをしてもらわない」ことが挙げられます。口腔清掃直後は歯肉の出血傾向が変化する場合があるためです。また、診査は乾燥した視野のもとで行うと視認性が高まり、スコア1(発赤はあるが出血なし)と正常との区別がしやすくなります。これは臨床での細かいコツです。


OralStudio歯科辞書 ─ 歯肉炎指数:評価基準と略語GIの概要をコンパクトにまとめたリファレンス


歯肉炎指数GIとBOPの違いと使い分けの考え方

GIとBOP(Bleeding on Probing:プロービング時の出血)はどちらも歯肉炎症を評価する指標ですが、その性格は明確に異なります。この違いを理解していないと、評価の目的に合わない指標を使い続けてしまうリスクがあります。


GIは「視診による色調・浮腫の変化」と「プロービング出血の有無」を組み合わせた0〜3の段階スコアで、炎症の程度と広がりを一つの数値で表現します。一方、BOPはプロービング後に出血があれば陽性(1点)、なければ陰性(0点)とし、出血した歯面の割合をBOP率(%)として算出する二値評価です。


| 比較項目 | GI | BOP |
|---|---|---|
| 評価のタイプ | 段階的(0〜3) | 二値(有/無) |
| 視診情報の反映 | あり | なし |
| BOP率の算出 | 不可 | 可(全歯面中の出血割合) |
| 臨床での主な用途 | 炎症の程度・重症度評価 | 治療効果の経過モニタリング |


BOPは「治療前後の炎症改善」を%で示せるため、患者への説明ツールとしても非常に使いやすい指標です。たとえば「初診時のBOP率が45%だったのが、SRP後には12%に下がりました」という形で伝えると、患者も変化を実感しやすくなります。これは使えそうです。


日本歯周病学会の「歯周治療のガイドライン2022」では、GIとBOPはどちらか一方ではなく、「歯肉炎症の評価指標として両方を参照する」ことが推奨されています。GIで炎症の重症度を把握しながら、BOPで治療効果を追うという組み合わせが、現在の臨床スタンダードといえます。


なお、日本ヘルスケア歯科研究会の報告では、「口腔清掃のみでのGI改善効果は小さいが、SRPを併用するとGIスコア2から1への減少が期待できる」とされています。GIが改善されたかどうかを定量的に追える点は、この指標の大きな強みです。


日本歯周病学会 ─ 歯周治療のガイドライン2022:GIとBOPを含む歯周組織検査の公式推奨事項が掲載されています


歯肉炎指数GIが実態を反映しにくいケースと測定上の注意点

GIは強力な評価ツールである一方、スコアが炎症の実態を過小評価してしまうケースがあります。現場でよく遭遇するのが「喫煙患者」です。


ニコチンには強力な血管収縮作用があり、喫煙者の歯肉では毛細血管網の血流量が著しく低下しています。日本歯科医師会のデータによると、喫煙者は非喫煙者と比べてプロービング時の出血量が減少し、炎症の典型的なサインである「発赤・腫脹・出血」が現れにくい状態になっています。つまり、GIスコアが0や1であっても、歯槽骨吸収が密かに進行しているケースが存在するのです。


日本歯周病学会の「喫煙の歯周組織に対する影響」に関する声明では、「喫煙患者においては歯肉の炎症反応が乏しく、GIやBOPが偽陰性になる可能性がある」と明記されています。GI低スコアで安心してはいけないということですね。喫煙歴を問診で必ず確認し、GIのスコアの解釈に補正的な視点を加えることが求められます。


喫煙以外にも、以下のようなケースでGIが実態を反映しにくくなることがあります。


- 免疫抑制剤・抗凝固薬の服用者:炎症反応が抑制または過剰になるため、スコアの読み方に注意が必要です。


- 線維性増殖を伴う薬物性歯肉増殖症(Ca拮抗薬・フェニトインなど):歯肉が線維化しているため発赤や出血が出にくく、炎症の実態よりGIスコアが低くなりがちです。


- インプラント周囲粘膜の評価:天然歯とは組織構造が異なり、特に付着様式の違いからBOPや視診の解釈が天然歯と同等にはなりません。インプラント周囲の評価では、GI単独よりも改変インデックスやmBOPなどの補助指標と組み合わせることが推奨されています。


これらの条件を念頭に置かずにGIのみで評価を完結させると、治療計画の判断を誤るリスクがあります。GIはあくまでも「スクリーニングツールの一つ」として位置づけ、PPD・CAL・X線所見と合わせた総合評価が原則です。


日本歯周病学会 ─ 喫煙の歯周組織に対する影響(声明):喫煙者のBOP・GI偽陰性と治療効果の低下に関する公式の見解が掲載


歯肉炎指数GIを用いた治療効果のモニタリングと患者説明への応用(独自視点)

GIは診断だけでなく、「治療前後の変化を可視化して患者に伝えるツール」としても活用できます。しかしながら、実際の臨床現場では測定結果を数値のままカルテに記録するだけで終わってしまっているケースが少なくありません。これは非常にもったいない使い方です。


たとえば、初診時のGI平均スコアが1.8だった患者に対し、3か月後のSRP後に0.6まで改善したとします。この変化を「GIが1.8から0.6になりました」と伝えるだけでは、患者にはピンとこないことがほとんどです。一方で、「歯ぐきの炎症スコアが3段階のうち初診時は約2点(中等度の炎症)でしたが、今は0〜1点の正常範囲に近づいています」と伝えれば、患者は治療の価値を実感しやすくなります。


また、GIの測定値をBOP率と組み合わせてグラフ化し、「来院ごとの推移を折れ線で見せる」手法は患者のモチベーション維持に効果的です。歯周病治療は数か月〜数年単位のプロセスになるため、「数値で改善が見える化されている」ことは通院継続のインセンティブになります。


さらに、GIと口腔清掃指数(OHI-SやO'LearyのPCRなど)を並べて提示すると、「清掃状態の改善→GIの改善」というプロセスを患者自身が理解しやすくなります。プラーク除去の頑張りが炎症スコアの数値改善に直結しているとわかれば、患者のセルフケアへの意識は大きく変わります。


GIの数値を「患者教育の武器」として使うには、測定結果の記録方式と説明テンプレートをチーム内で統一しておくことが条件です。測定者によってスコアにばらつきが出ると、経時比較の信頼性が損なわれます。プロービング圧の統一・診査順の固定・記録フォーマットの標準化という3点を院内ルールとして整備することで、GIは「患者を動かすデータ」になります。


定期検診でのプロービング圧を0.25N前後に統一するためのトレーニングツールとして、プレッシャーセンサー付きのトレーニングモデルが市販されています。検者内・検者間の再現性を高める目的で導入している医院も増えており、スタッフ教育に活用する選択肢の一つです。