グローブを着けたままカルテに触っていませんか。
歯科医療における院内感染の最大90%は医療従事者の手指からの感染が原因です。ドイツRKIガイドラインで指摘されているこの事実は、グローブテクニックの重要性を如実に示しています。患者さんの口腔内が感染拡大のスタート地点であり、唾液が感染拡大のメッセンジャー役を果たすため、グローブは感染経路を遮断する最前線の防護具となります。
感染連鎖は感染源、感染経路、感受性宿主の3つの要因が満たされることで成立します。歯科医院内のすべてを無菌化することは不可能ですし、感受性宿主を変えることもできません。つまり、もっとも現実的かつ有効な対策は感染経路の遮断です。
グローブテクニックとは、この感染経路遮断を実現するための技術体系を指します。単にグローブを装着するだけでなく、適切なタイミングでの交換、正しい着脱方法、手指衛生との組み合わせなど、総合的な管理技術が求められます。WHOも「Clean Care for all – it's in your hand」(すべての人に清潔な治療を―あなたの手指が患者さんを守る)というキャンペーンを展開し、手指衛生の重要性を世界中に啓発しています。
接触感染には、汚染された手指で直接接触する「直接接触」と、汚染された器材や環境表面を手指で触って伝播する「間接接触」の2経路が存在します。どちらの経路も手指が関与しているということですね。だからこそ、グローブテクニックが感染対策の中核となるのです。
歯科医院における汚染経路は、①術者の手指、②汚染器材、③サクションシステム/スピットン、④エアロゾル、⑤画像検査機器、⑥印象体/補綴装置の6ルートに区分されます。意外なことに、すべての汚染経路に手指による「間接接触」が含まれています。つまり、他のルートでの対策をいくら徹底しても、手指衛生とグローブテクニックが不十分であれば感染対策は機能しないということです。
クインテッセンス出版の歯科医療従事者の正しい手指衛生に関する資料では、感染経路別予防策の詳細が解説されています。
グローブは基本的に1処置ごとに交換します。厚生労働省の指針でも「患者ごとに新しい手袋を使用して交叉感染を防ぐことが強く勧められます」と明記されています。しかし、2017年の厚生労働省研究班の調査では、全国の歯科医療機関の約半数が患者ごとにグローブを交換していない可能性が示されました。
グローブは20分程度の使用時間でかなり劣化します。ゴム製品の特性上、時間経過とともに微細なピンホールが発生するリスクが高まり、バリア機能が低下していくのです。手術時の医療用手袋に関する研究では、90分間以下の手術で15.4%のピンホールがあり、90~150分間の手術では18.1%のピンホールが確認されています。20分という時間は、一般的な歯科治療の1処置に相当しますね。
グローブの交換が必要なタイミングは以下の通りです。
まず患者ごとに必ず交換します。
次に、同じ患者でも治療内容が異なる場合や汚染された場合、そして破れたときには即座に交換が必要です。さらに、カルテやX線機器、モニターなどに触れる場合は一度グローブを外し、再度処置する場合は新しいグローブを着用します。
コスト面を気にして交換をためらう医院もありますが、グローブ1組あたりの単価は数十円から100円程度です。一方、院内感染が発生した場合の損失は計り知れません。患者さんの健康被害はもちろん、医院の信頼失墜、訴訟リスク、営業停止などの可能性があります。グローブ代をケチって何十万円、何百万円の損失を招くリスクを取るのは合理的ではありませんね。
実際の臨床では、1人の患者に対して複数枚のグローブを使用することもあります。たとえば、口腔内診査、X線撮影の準備、切削処置、印象採得など、処置内容が変わるたびに交換することで、確実な感染経路遮断が実現できます。患者さんの目の前でグローブを交換する様子を見せることは、感染対策を「見える化」する効果的な方法でもあります。
「グローブを着けたまま擦式アルコール製剤で手指消毒をしているから大丈夫」と考えている歯科医療従事者は少なくありません。
しかし、これは大きな間違いです。
厚生労働省の指針でも「診療に使用した手袋の上から速乾性手指消毒薬を使用し手指衛生を行う事は手袋上の微生物を完全に除去できません」と明記されています。
グローブの上から手指消毒をしても効果が得られない理由は複数あります。まず、アルコールは皮膚の脂質や汚れと反応して初めて効果を発揮しますが、ゴムやニトリル素材の表面では十分な殺菌効果が得られません。微生物がグローブ表面の凹凸に入り込んでいる場合、アルコールが届かない部分が残ります。
さらに深刻なのは、アルコールがゴム製品を劣化させる点です。ラテックスやニトリル素材はアルコールに繰り返し曝露されると、分子構造が変化して弾力性が失われ、ピンホールが発生しやすくなります。通常20分程度で劣化が始まるグローブが、アルコール消毒を繰り返すことでさらに早期に破損するリスクが高まるのです。
手袋の上から手指衛生を行った場合と通常の対応を比較した研究では、手袋の上から手指消毒する群では82.8%で細菌が確認されたのに対し、通常対応群では67.4%でした。つまり、手袋の上から消毒する方がむしろ細菌が残りやすいという結果です。これは、アルコール消毒によって表面の一部が変質し、かえって細菌が付着しやすくなる可能性を示唆しています。
正しい手順は、グローブを外してから手指衛生を行い、必要に応じて新しいグローブを装着することです。手指衛生にはアルコール擦式製剤による消毒が基本となります。手指衛生の5つのタイミング(患者に触れる前、清潔/無菌操作の前、体液曝露後、患者に触れた後、患者周辺環境に触れた後)を意識して実践しましょう。
株式会社ジーシーの歯科医療器材の洗浄・消毒・滅菌Q&Aでは、グローブの適切な使用方法に関する詳細情報が提供されています。
グローブの装着は手指衛生の後に行います。手指が濡れたままの状態では、ラテックスやニトリル素材のグローブは摩擦抵抗が大きくなり、装着が困難になります。歯科医療現場では「濡れた手でグローブが入らない」という声がよく聞かれますが、これは手指衛生後の乾燥が不十分な場合に起こる現象です。
アルコール擦式製剤を使用した場合、完全に乾燥するまで約15~20秒待つことが推奨されます。この待ち時間は決して無駄ではなく、アルコールの殺菌効果を最大限に発揮するための重要な時間です。急いでグローブを装着しようとすると、半分しか手に入っていない状態になり、かえって時間のロスになりますね。
グローブ装着時のコツは、まず箱から取り出す際に表面を汚染させないよう注意することです。グローブの折り返し部分(カフ)を持って取り出し、手首から指先に向けて滑らせるように装着します。装着後は、グローブ表面に必要以上に触らないよう心がけます。理想的には、グローブの表面は何にも汚染されていない状態のまま口腔内に触れることです。
着脱テクニックで最も重要なのは、外すときに汚染面を素手で触らないことです。
正しい方法は以下の通りです。
まず、片方の手でもう片方のグローブの手首部分(外側)をつまみます。
次に、グローブを裏返しながら引き抜きます。
外したグローブを丸めて、装着したままの手で握ります。残っているグローブの内側に指を入れ、裏返しながら外します。これにより、汚染された外側の面が内側に包まれた状態で廃棄できます。
グローブを外した後は必ず手指衛生を行います。グローブ装着中に認識されていなかったピンホールから感染性物質が侵入している可能性があるためです。手指衛生を省略すると、せっかくのグローブテクニックが台無しになってしまいます。
グローブの種類選択も重要です。歯科治療では主にラテックスとニトリルの2種類が使用されます。ラテックスは天然ゴム由来で伸縮性に優れ、手にフィットするため細かい作業がしやすい特徴があります。一方、ラテックスアレルギーのリスクがあるため、アレルギー体質の患者さんや術者にはニトリル手袋が推奨されます。ニトリルは合成ゴムで、耐薬品性や耐突刺性に優れ、アレルギーリスクが低いのが特徴です。
「患者ごとにグローブを交換するとコストがかかりすぎる」という懸念は、多くの歯科医院が抱える現実的な課題です。しかし、適切なグローブ選択と使用方法の見直しによって、感染対策と経費削減を両立させることは可能です。
まず、グローブの選択を処置内容に応じて使い分けることで、無駄なコストを削減できます。たとえば、口腔内診査や簡単な処置にはコストパフォーマンスに優れたビニール手袋やプラスチック手袋を使用し、切削処置や外科処置、PMTCなど使用感が重要視される場面ではニトリルやラテックスを使用するという方法です。
手指衛生を適切に実施することで、グローブの消費量をコントロールすることもできます。「とりあえず着けておく」という無駄なグローブ着用を避け、本当に必要な場面で着用するという意識改革が重要です。たとえば、患者さんを診療室にご案内する際や、カルテを持つときは素手で対応し、基本セットに触れる前に手指衛生を行ってからグローブを装着するという手順です。
グローブのサイズ選択も重要なポイントです。スタッフ一人ひとりの手のサイズに合ったグローブを使用することで、作業効率が向上し、破損のリスクも低減します。サイズが小さすぎると装着時に破れやすく、大きすぎると操作性が悪くなり、結果的に使用枚数が増えてしまいます。S、M、L、XLなど複数のサイズを用意し、各スタッフに最適なサイズを選ばせることが経費削減につながります。
一括購入によるコスト削減も効果的です。グローブは消耗品であり、保管期限も比較的長いため、ある程度まとまった量を購入することで単価を下げることができます。ただし、保管スペースや在庫管理の手間を考慮する必要がありますね。
感染対策を「見える化」することで、患者さんの理解と協力を得ることも重要です。診療室内に「当院では患者様ごとにグローブを交換しています」というポスターを掲示したり、患者さんの目の前でグローブを交換する様子を見せたりすることで、感染対策への投資が医院の価値向上につながることを実感できます。患者さんからの信頼が高まれば、長期的には医院経営にプラスの効果をもたらします。
保険診療の基本料金である再診料には、グローブやマスクの交換、器材の滅菌処理などの費用が含まれていないという指摘もあります。しかし、感染対策は医療機関の基本的責務であり、経済的理由で手を抜くことは許されません。むしろ、自費診療の比率を高めたり、予防歯科に力を入れたりすることで、感染対策に必要な投資を回収する経営戦略を検討すべきです。
グローブテクニックを正しく実践することで、診療現場にはさまざまなポジティブな変化が生まれます。最も重要なのは、患者さんと医療従事者双方の安全性が大幅に向上することです。院内感染のリスクが低減され、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどの血液媒介感染症や、結核、インフルエンザ、新型コロナウイルスなどの飛沫・空気感染症の伝播を防ぐことができます。
スタッフの意識改革も重要な効果です。グローブテクニックを徹底することで、感染対策全般に対する意識が高まり、器材の滅菌管理、環境清掃、廃棄物処理などの他の感染対策も自然と向上していきます。院内で感染対策の勉強会を定期的に開催し、最新のガイドラインや研究結果を共有することで、チーム全体のレベルアップが図れます。
患者満足度の向上も見逃せないメリットです。2016年に報道された「歯科医院の半数がタービンを使い回している可能性」というニュースは、多くの患者さんに衝撃を与えました。目の前でグローブを交換する様子を見せることで、「この医院は感染対策をしっかりやっている」という安心感を提供できます。安心感は患者さんのリピート率向上や口コミによる新規患者獲得につながります。
法的リスクの低減も重要な観点です。万が一院内感染が発生した場合、適切な感染対策を実施していたかどうかが法的責任の判断材料となります。グローブの患者ごと交換、手指衛生の実施、適切な記録の保管などを徹底していれば、法的リスクを最小限に抑えることができます。逆に、基本的な感染対策を怠っていた場合、民事訴訟や刑事責任を問われる可能性もあります。
スタッフの健康管理面でも効果があります。歯科医療従事者は職業性感染のリスクが高い職種です。適切なグローブテクニックを実践することで、針刺し事故や切創による血液媒介感染のリスクを低減できます。グローブ着用により針刺し時の血液媒介ウイルス感染症のリスクは約50~80%低減するという研究結果もあります。
地域医療における信頼構築にもつながります。地域の中核的な歯科医院として、感染対策の模範となることで、他の医療機関からの紹介が増えたり、行政機関との連携がスムーズになったりする効果が期待できます。保健所主催の講習会で講師を務めたり、地域の歯科医師会で感染対策の事例発表をしたりすることで、医院のブランド価値が向上します。
次世代の歯科医療従事者育成にも貢献できます。歯科衛生士や歯科助手の実習生を受け入れる際、正しいグローブテクニックを指導することで、将来の歯科医療の質向上に貢献できます。実習生が卒業後に「あの医院で学んだ感染対策の基本が役立っている」と感じてもらえれば、それは医院の財産となります。
グローブテクニックは単なる感染対策の一技術ではなく、医療の質、患者満足度、スタッフの安全、経営の持続可能性、地域貢献など、多面的な価値を生み出す基盤技術なのです。

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