「清潔に見える処置室ならグレードCを満たしている」と思っていると、行政指導で施設停止になる可能性があります。
グレードCとは、再生医療等の製造環境に適用される空気清浄度の階級のひとつで、国際規格ではISOクラス8(旧称:クラス100,000)に相当します。1m³の空気中に0.5μm以上の浮遊微粒子が、非作業時(At Rest)で最大352,000個、作業時(In Operation)で最大3,520,000個まで許容される環境基準です。
ピンとこない方もいるかもしれません。このグレードCの許容粒子数を空間のスケールで置き換えると、東京ドームの約5個分の空間全体に微細な粒子がびっしり漂っているイメージに近い、「許容値としては低くはない」クラスと言えます。
とはいえ、大切なのはその位置づけです。再生医療等安全性確保法に対応した日本再生医療学会の考え方文書(第2版・2020年)では、細胞培養加工施設における作業区域は大きく3つに分類されています。
- **グレードA(ISOクラス5)**:細胞加工物への汚染リスクが最も低減された「無菌操作等区域」。空中浮遊菌はCFU/m³で1未満が要求されます。
- **グレードB(ISOクラス5〜7)**:無菌操作等区域に隣接する「清浄度管理区域(1)」。グレードAの直接バックグラウンドとして機能します。
- **グレードC/D(ISOクラス7〜8)**:無菌操作等区域に隣接しない「清浄度管理区域(2)」。製造作業の品質を考慮する環境です。
つまり、グレードCが基本です。歯科診療所でPRP(多血小板血漿)などを製造・使用する場合、清浄度管理区域(2)としてグレードCを設定することが多く、現場の管理基準として最低限押さえておくべき水準となります。
また、グレードCの微生物管理基準(In Operation時)としては、空中浮遊菌が100 CFU/m³以下、落下菌が50 CFU/プレート以下、器物表面付着菌が25 CFU/プレート以下という数値が定められています。単なる"清潔な部屋"とは異なり、数値による証明が必要な点が重要です。
参考:日本再生医療学会「再生医療等安全性確保法における細胞培養加工施設での無菌操作に関する考え方(第2版)」
日本再生医療学会:細胞培養加工施設での無菌操作に関する考え方(グレードC等の管理基準・区域分類の詳細)
歯科領域でグレードC清浄度が特に重要になるのは、PRP(多血小板血漿)をはじめとした特定細胞加工物を製造・使用する場面です。再生医療等安全性確保法(2014年施行)により、特定細胞加工物を製造する歯科診療所は「細胞培養加工施設」として地方厚生局への届出が義務付けられています。
これは見落とされがちな点です。多くの歯科医師は「クラスBのオートクレーブを導入していれば感染対策は十分」と考えています。しかし、PRP製造においては、滅菌器のクラス(EN13060規格のクラスB/S/N)と、製造環境のグレード(清浄度)はまったく別の規制体系です。
| 管理対象 | 規格・法令 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 滅菌器の性能 | EN13060(欧州規格) | クラスN/S/Bの区分で器材の種類に対応 |
| 製造環境の清浄度 | 再生医療等安全性確保法 | グレードA〜Dの区分で空気・微生物を管理 |
PRP製造に関しては、日本再生医療学会の指針(B6項)に「閉鎖式操作でPRPを製造する歯科診療所」の考え方が明記されています。閉鎖式システムを使用する場合には、血液が外気に触れないため「無菌操作等区域」は不要とされることもありますが、その場合でも製造作業を行う空間はグレードCの清浄度管理区域として設定・維持することが求められます。
届出なしで特定細胞加工物の製造を行った場合、再生医療等安全性確保法第26条違反に該当し、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。法的リスクが大きいですね。
処置室の清潔感だけで判断するのは危険です。グレードCを満たすためには、空調設備(HEPAフィルター等を含む換気システム)の設計と、環境モニタリングによる数値的な証明の両方が必要になります。
参考:地方厚生局(関東信越厚生局)「特定細胞加工物の製造の許可申請・届出について」
地方厚生局:届出の手続き・清浄度管理区域の図示要件など実務手続きの詳細が確認できます
グレードCの管理を「施設を作れば終わり」と考えると大きな誤りです。日常的な環境モニタリングを継続し、記録を残すことが法令上求められています。
環境モニタリングとは、浮遊微粒子数と微生物数を定期的に測定し、設定した管理基準値を超えていないことを確認・記録するプロセスです。グレードCの管理区域では、以下の測定が必要です。
- **浮遊微粒子測定**:粒子カウンターを使用し、0.5μm以上の粒子数を測定。非作業時と作業時の両方で実施することが推奨されます。
- **空中浮遊菌測定**:エアサンプラーを用いてCFU/m³を計測。管理基準は100 CFU/m³以下。
- **落下菌測定(沈降菌法)**:直径90mmの血液寒天平板を設置して一定時間後のコロニー数を計測。基準値は50 CFU/プレート以下。
- **器物表面付着菌測定**:定期的にスワブ法またはコンタクトプレート法で実施。基準値は25 CFU/プレート以下。
記録が命綱です。測定日時、測定場所、測定値、判定結果を文書に残し、逸脱した場合は原因調査と是正措置の記録も必要です。
測定頻度については、製造頻度や施設の状況に応じて施設ごとに設定しますが、少なくとも製造ごと、または定期的(月1回以上を推奨)に実施することが現実的です。測定機器の校正(キャリブレーション)記録も保管する必要がある点も忘れがちなポイントです。
また、グレードCの環境モニタリングで管理値超過(アウトオブスペック)が発生した場合には、製造を中断し、清掃・除染を実施した上で再測定による確認が必要です。アウトオブスペック時の対応手順をあらかじめSOPとして文書化しておくことが、行政調査(立入検査)への備えとして有効です。
参考:環境衛生薬品株式会社「再生医療分野向けサービス」(グレードA相当域からD相当域まで対応した環境モニタリングサービスの詳細)
環境衛生薬品株式会社:グレード別の環境モニタリング測定項目・GMP水準の報告書サービスの概要
グレードC(ISOクラス8)の清浄度を物理的に実現するには、適切な空調・換気システムの設計と日常的なメンテナンスが不可欠です。いくつかの重要な要素を整理します。
まず換気回数です。グレードCの清浄度管理区域では、一般的に1時間あたり20〜40回以上の換気回数(ACH: Air Change per Hour)が必要とされています。一般的なオフィスの換気回数は6〜10回程度であるため、グレードCの清浄度管理区域は、普通の部屋の約3〜6倍もの換気を行っていることになります。
HEPAフィルターの管理も重要です。HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)は0.3μmの粒子を99.97%以上除去する性能を持ちます。しかし、経年劣化や目詰まりにより清浄度が低下するため、定期的な性能確認と交換スケジュールの管理が必要です。交換頻度の目安は2〜5年ですが、使用環境によって異なります。
差圧管理も基本です。グレードCの清浄度管理区域は、隣接する廊下や一般エリアに対して陽圧(プラスの気圧差)を維持することで、外部からの汚染空気の流入を防ぎます。圧力差の推奨値は10〜15Paです。この差圧は常時モニタリングして記録することが推奨されます。
実は多くの歯科診療所で見落とされている観点が、「人が最大の汚染源」という事実です。グレードCの区域内で作業する人員は、専用の更衣とガウン、キャップ、マスク等の適切なPPEを着用し、入室前後の手指衛生を徹底することが求められます。機器がどれだけ清潔でも、作業者の管理が不十分では清浄度を維持できません。
床・壁・天井の素材選定も設計段階で重要な検討項目です。清掃・消毒剤に耐える材質であること、継ぎ目(シーム)を少なくして微生物の増殖巣をなくすことが構造設備の基本要件です。
参考:PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)「再生医療等製品の無菌製造法に関する指針」
PMDA:グレードA〜Dの清浄度レベル・換気回数・HEPAフィルター要件など施設設計の詳細
歯科医療現場では「グレードC」と「クラスB」という2つの"アルファベット付き品質基準"が登場します。これらはまったく異なる規格体系です。混同したまま運営すると、患者への安全提供と法令遵守の両方に問題が生じます。
以下に両者の主要な違いを整理します。
| 比較項目 | グレードC(清浄度) | クラスB(滅菌器) |
|---|---|---|
| 根拠規格 | EU GMP / 再生医療等安全性確保法 | EN13060(欧州規格) |
| 対象 | 製造・処置空間の空気品質 | 高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)の性能 |
| 主な用途 | PRP等の再生医療製造環境の管理 | 歯科器具の滅菌プロセス管理 |
| 確認方法 | 環境モニタリング(粒子・微生物測定) | バキュームテスト・Bowie-Dickテスト等 |
クラスBのオートクレーブは滅菌処理前に真空引きを複数回行い、中空器材や多孔質の物品(ハンドピースや布類等)にも確実に蒸気を浸透させる最高グレードの滅菌器です。一方、グレードCは「器材を滅菌する装置の性能」ではなく「その器材を使用したり製造したりする空間の清潔さ」を示す基準です。両者は目的も管理方法もまったく異なります。
これは実務上の注意点です。クラスBのオートクレーブを導入している歯科診療所であっても、PRP製造用の部屋がグレードCを満たしていなければ、再生医療等安全性確保法上の義務を果たしていないことになります。どちらかだけ対応しても不十分なのが現実です。
逆に言えば、グレードCの清浄度管理区域を正しく設計・運用し、かつクラスBのオートクレーブで器材を適切に滅菌することで、患者への安全性を二重に担保できる体制が整います。この2つは車の両輪だと考えると整理しやすいです。
再生医療を実施する歯科診療所として患者に信頼を得るためには、両方の基準を並行して管理することが不可欠です。それぞれの記録を分けて文書化し、定期的に見直しを行うことが推奨されます。
参考:GCデンタル「器材使用後の洗浄・消毒・滅菌|歯科医療における院内感染対策」(クラスN/S/Bの比較・歯科用具別の滅菌方法)
GCデンタル:クラスB・クラスS・クラスNの詳細比較と歯科器具別の対応滅菌クラスの解説
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