エピネフリン作用機序と歯科領域における受容体刺激のメカニズム

エピネフリンは歯科麻酔に不可欠な血管収縮薬ですが、その作用機序を正しく理解していますか?α1・β1・β2受容体への結合パターンと臨床効果の関係、さらに抗精神病薬との併用注意改訂など、最新情報を含めて解説します。患者の安全を守るために知っておくべき作用機序とは?

エピネフリン作用機序と受容体

抗精神病薬服用患者への歯科麻酔は併用注意レベルに改訂された。


📌 この記事の3つのポイント
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エピネフリンの作用機序はアドレナリン受容体への結合

α1・β1・β2受容体に作用し、血管収縮や強心作用を発揮します。歯科領域では局所麻酔薬への添加により麻酔効果を持続・増強させる役割を担っています。

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エピネフリンの半減期は3~5分と極めて短い

血中濃度が急速に低下するため、歯科麻酔では局所投与により作用時間を延長します。1:80,000~1:100,000濃度で添加され、麻酔持続時間を60分以上に延ばします。

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2024年10月から抗精神病薬との併用は「併用注意」に

従来の「併用禁忌」から「併用注意」へ改訂されました。非定型抗精神病薬はα1受容体遮断作用が弱く、臨床用量でのエピネフリン反転リスクは限定的と判断されています。


エピネフリンの基本的な作用機序とアドレナリン受容体の種類


エピネフリンの作用機序は、体内に存在するアドレナリン受容体への結合によって説明されます。この薬剤は化学的に合成された副腎髄質ホルモンであり、交感神経系のα受容体とβ受容体の両方に作用する特徴があります。


アドレナリン受容体はα1、α2、β1、β2、β3という5つのサブタイプに分類されており、エピネフリンは特にα1、β1、β2受容体に強く結合します。


結合するということですね。


各受容体は体内の異なる部位に分布しており、それぞれ独自の生理作用を引き起こします。


α1受容体は主に血管平滑筋に存在し、エピネフリンが結合すると血管収縮を促進します。この収縮作用により末梢血管抵抗が上昇し、血圧が上昇するメカニズムです。歯科麻酔においては、この血管収縮作用が麻酔薬を注射部位に留めて効果を持続させる重要な役割を果たします。


一方、β1受容体は心臓に多く分布しており、洞房結節の刺激発生ペースを速めて心拍数を増加させます。さらに心筋の収縮力を強化して心拍出量を増大させる強心作用を示します。β2受容体は気管支平滑筋や骨格筋の血管に存在し、気管支拡張や血管拡張作用をもたらすのです。


エピネフリンの受容体への親和性はα1=β1=β2とほぼ同等であり、各受容体に均等に作用する特性があります。つまり同時に複数の生理作用が発現するということですね。この特性がエピネフリンを緊急時の救命薬として優れたものにしている一方で、歯科臨床では血管収縮作用を主目的として低濃度で使用する工夫が必要になります。


エピネフリンの半減期と歯科麻酔における濃度設定

エピネフリンの半減期は血中投与において3~5分と極めて短いことが知られています。半減期とは血中濃度が半分になるまでの時間を指し、この短さはエピネフリンが体内で速やかに代謝されることを意味します。


心肺蘇生時にアドレナリン1mgを3~5分間隔で反復投与する理由は、まさにこの短い半減期にあります。効果が半減する前に追加投与することで、自己心拍再開を目指すわけです。しかし歯科麻酔では全身投与ではなく局所投与であるため、作用時間の考え方が異なります。


歯科用局所麻酔薬に添加されるエピネフリンの濃度は、通常1:80,000(12.5μg/mL)または1:100,000(10μg/mL)です。注意が必要なのは、この数字が大きいほど濃度が薄いということですね。1:80,000の方が1:100,000よりも濃い濃度になります。


エピネフリンを添加しない単味のリドカインでは浸潤麻酔の効果持続時間は約20~30分ですが、エピネフリン添加により60分以上に延長します。これは局所の血管収縮により麻酔薬の吸収が遅れ、神経への作用時間が長くなるためです。伝達麻酔ではさらに長く、3~4時間程度の麻酔効果が得られます。


ただし、エピネフリン含有リドカインの極量(最大使用量)は500mgとされており、健康成人で約14カートリッジ(1カートリッジ1.8mL)が上限です。一方、エピネフリンそのものの投与量にも注意が必要で、1回の歯科治療では45μg(1:80,000エピネフリン添加麻酔薬3.6mL相当)以下にすべきとの報告があります。過剰投与による循環器系への影響を避けるためです。


歯科臨床では多くの場合、1:100,000濃度のエピネフリン添加リドカインが第一選択となります。出血コントロールが特に重要な口腔外科処置では、より濃い1:80,000濃度を選択することもありますが、心疾患のある患者では慎重な判断が求められます。


エピネフリンのα1受容体刺激による血管収縮メカニズム

エピネフリンが歯科麻酔で最も重要な役割を果たすのは、α1受容体刺激による血管収縮作用です。この作用機序を分子レベルで理解することは、臨床効果を最大化する上で不可欠になります。


α1受容体はGタンパク質共役型受容体であり、血管平滑筋の細胞膜に存在します。エピネフリンがα1受容体に結合すると、受容体に連結したGタンパク質(Gq)が活性化されます。活性化したGqはホスホリパーゼCという酵素を刺激し、これが細胞膜のリン脂質を分解してイノシトール三リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DAG)を生成するのです。


IP3は細胞内のカルシウムストアからカルシウムイオンを放出させ、細胞内カルシウム濃度が急上昇します。カルシウムイオンは血管平滑筋の収縮装置を直接活性化し、血管が収縮するということですね。さらに、Rho(ras homologous)という低分子Gタンパク質を介したカルシウム非依存性の収縮機構も同時に働きます。


この血管収縮により、局所麻酔薬を注射した部位での血流が減少します。血流が減少すれば麻酔薬が全身循環に吸収される速度が遅くなり、結果として局所での薬剤濃度が高く維持されるわけです。これが麻酔効果の増強と持続時間延長につながります。


また、血管収縮は止血効果ももたらします。抜歯や歯周外科などの観血処置では、術野の出血が減少することで視野が確保しやすくなり、治療の精度が向上します。エピネフリンの局所投与による血管収縮は、注射後数分以内に始まり、30~60分程度持続することが一般的です。


ただし、α1受容体刺激作用には注意点もあります。過剰な血管収縮は組織の虚血を引き起こす可能性があるため、指趾などの末梢血流に乏しい部位への使用は避けるべきです。歯科領域では通常問題になりませんが、高濃度エピネフリンの過剰投与には警戒が必要になります。


エピネフリンのβ受容体刺激と循環器系への影響

エピネフリンのβ1受容体およびβ2受容体への作用は、主に循環器系と呼吸器系に影響を及ぼします。歯科麻酔では局所投与が基本ですが、一部が血中に吸収されるため、全身的な作用も理解しておく必要があります。


β1受容体は主に心臓の洞房結節、房室結節、心筋に分布しており、エピネフリンが結合すると陽性変時作用(心拍数増加)と陽性変力作用(心収縮力増強)が生じます。これは結果として心拍出量を増大させ、血圧を上昇させることになります。歯科治療中に患者が「動悸がする」と訴えるのは、このβ1刺激作用が原因です。


β2受容体は気管支平滑筋や骨格筋の血管、子宮平滑筋などに存在します。β2受容体刺激により気管支が拡張し、骨格筋への血流が増加するのです。


これが基本です。


興味深いことに、β2受容体刺激は血管拡張作用を持つため、理論上は血圧を低下させる方向に働きます。


通常、エピネフリン投与ではα1受容体を介した血圧上昇作用が優位になります。しかし、α1受容体遮断薬を投与されている患者では、この関係が逆転する可能性があるのです。α1作用が遮断されるとβ2受容体を介した血管拡張作用が顕在化し、「エピネフリン反転」と呼ばれる血圧下降現象が起こり得ます。


この現象が、従来、抗精神病薬とエピネフリンが併用禁忌とされてきた理由でした。多くの抗精神病薬はドパミンD2受容体遮断作用とともに、程度の差はあれα1受容体遮断作用を持つためです。ただし、2024年10月の添付文書改訂により、抗精神病薬とアドレナリン含有歯科麻酔薬の併用は「併用禁忌」から「併用注意」へと変更されました。


この改訂の背景には、非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬ほどα1遮断作用が強くないこと、臨床用量でのエピネフリン反転の報告が極めて少ないこと、アナフィラキシーなど緊急時にエピネフリンが使えないデメリットの方が大きいことなどが考慮されています。


それでも注意は必要ですね。


実際の歯科臨床では、抗精神病薬服用患者に対しては、可能であればエピネフリン非含有の局所麻酔薬(3%メピバカインなど)を選択するのが安全です。エピネフリン含有麻酔薬を使用する場合は、通常よりも少量から開始し、バイタルサインを慎重にモニタリングしながら投与量を調整する配慮が求められます。


エピネフリン使用時の禁忌・注意事項と歯科臨床での対応

エピネフリン添加局所麻酔薬の使用には、いくつかの禁忌および慎重投与が必要な病態があります。歯科医師として患者の全身状態を把握し、適切な麻酔薬を選択する判断力が求められるということですね。


まず、エピネフリンの使用が禁忌または原則禁忌とされる主な病態は以下の通りです。重度の高血圧症では、エピネフリンのα1刺激作用により血圧がさらに上昇し、脳出血や心筋梗塞のリスクが高まります。甲状腺機能亢進症の患者では、基礎代謝が亢進している状態にエピネフリンによる交感神経刺激が加わり、甲状腺クリーゼを誘発する危険性があるのです。


糖尿病患者では、エピネフリンが肝臓でのグリコーゲン分解を促進し血糖値を上昇させるため、血糖コントロールが不良な場合は注意が必要になります。ただし、良好にコントロールされている糖尿病患者であれば、通常量のエピネフリン添加麻酔薬の使用は問題ありません。


つまり病態の程度が重要です。


虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞の既往)がある患者では、エピネフリンのβ1刺激により心筋酸素消費量が増加し、狭心症発作や不整脈を誘発する可能性があります。このような患者には、エピネフリン非含有の3%メピバカイン(スキャンドネスト)や、エピネフリンの代わりにフェリプレシン(バソプレシン誘導体)を含有する3%プロピトカイン(シタネスト)が選択肢となります。


β遮断薬を服用している患者では、特別な注意が必要です。非選択的β遮断薬(プロプラノロールなど)はβ2受容体も遮断するため、エピネフリンのβ2を介した血管拡張作用が阻害されます。すると相対的にα1刺激作用が強く現れ、過度の血管収縮と血圧上昇、反射性の徐脈が生じる可能性があるのです。β1選択的β遮断薬(メトプロロールなど)ではこのリスクは低いものの、やはり慎重な投与が推奨されます。


三環系抗うつ薬を服用している患者も要注意です。これらの薬剤はノルアドレナリンの再取り込みを阻害するため、エピネフリンの作用が増強され、血圧上昇や不整脈のリスクが高まります。


実際の臨床対応としては、まず問診で患者の全身疾患と服用薬を確認することが基本になります。リスクのある患者に対しては、以下のような対策が有効です。エピネフリン非含有麻酔薬への変更、エピネフリン濃度の低い製剤(1:100,000以下)の選択、投与量を通常の半分程度に減量、注射時に吸引テストを必ず実施して血管内誤注入を防ぐ、ゆっくりと注入してエピネフリンの急速な血中移行を避ける、といった工夫が挙げられます。


また、パルスオキシメーターや自動血圧計で術中のバイタルサインをモニタリングすることも重要です。特に心血管系のリスクが高い患者では、治療中の心拍数や血圧の変動を確認し、異常があれば速やかに対応できる体制を整えておく必要がありますね。


患者の安全を最優先に考え、エピネフリンの作用機序を理解した上で適切な麻酔薬選択と投与方法を実践することが、現代の歯科医療における標準的なアプローチと言えるでしょう。


日本医事新報社「抗精神病薬とエピネフリンの併用禁忌に関する対応」
抗精神病薬とエピネフリンの併用に関する最新の添付文書改訂内容と、エピネフリン反転の機序について詳しく解説されています。


日本歯科麻酔学会「安全な歯科局所麻酔に関するステートメント」
歯科麻酔におけるエピネフリンの基準最高用量や、全身疾患を有する患者への対応について、学会の公式見解がまとめられています。




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