フェリプレシンとアドレナリン使い分け効果比較禁忌

歯科麻酔でフェリプレシンとアドレナリンの使い分けに迷っていませんか?実は心疾患患者への安全性、血圧への影響、麻酔効果の持続時間に大きな違いがあり、誤った選択が患者リスクを高めます。正しい使い分けをご存知ですか?

フェリプレシンとアドレナリンの使い分け

フェリプレシン製剤は心疾患患者でも血圧を長時間上昇させます。


📊 フェリプレシンとアドレナリンの3つの重要な違い
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循環器への作用機序

アドレナリンは細動脈を収縮させて血圧を上昇させますが、フェリプレシンは細静脈を収縮させます。フェリプレシンは心臓に直接作用しないものの、虚血性心疾患患者では非虚血領域の機能を低下させ心機能を抑制する危険性があります。

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麻酔効果の持続時間

アドレナリン添加リドカインは1~2時間の麻酔効果が得られますが、フェリプレシン添加プロピトカインは45~60分とやや短めです。血管収縮作用もアドレナリンより弱いため、使用量が増える傾向があります。

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禁忌と適応の違い

アドレナリンは極端な高血圧、甲状腺機能亢進症、糖尿病患者に原則禁忌ですが、フェリプレシンは虚血性心疾患患者と妊婦後期への使用を避けるべきです。近年の研究では、フェリプレシンの血圧上昇とその持続時間がアドレナリンより長いことが明らかになっています。


フェリプレシンとアドレナリンの薬理作用の違い


歯科用局所麻酔薬に添加される血管収縮薬には、主にアドレナリン(エピネフリン)とフェリプレシンの2種類があります。これらは血管収縮という共通の目的を持ちながらも、作用機序が根本的に異なります。


アドレナリンはカテコールアミンの一種で、α1受容体とβ1受容体に作用します。細動脈を収縮させることで局所の血流を減少させ、麻酔薬の血管内への吸収を抑制します。


つまり動脈側に作用するということですね。


その結果、強い麻酔効果と1~2時間程度の長い作用持続時間が得られます。同時に止血効果も高く、術野を明瞭に保つことができます。


一方、フェリプレシンはバソプレシンのチロシンをフェニルアラニンで置換した合成ポリペプチドです。主として毛細血管系の細静脈を収縮させるため、組織酸素圧の低下を来しにくく、アドレナリンよりも局所障害性が少ないとされています。


静脈側に作用するという特徴があります。


血管収縮作用の強さを比較すると、アドレナリンの方が明らかに強力です。このため、フェリプレシン添加製剤では麻酔が効きにくいと感じる場面があり、使用量が多くなる傾向があります。実際の臨床では、麻酔を2回に分けて投与するなどの工夫が必要になることも少なくありません。


心臓への直接作用という点では大きな違いがあります。アドレナリンはβ1受容体を刺激して心拍数を増加させ、心筋収縮力を増強します。これは健常者であれば問題ありませんが、循環器疾患を持つ患者では注意が必要な作用です。フェリプレシンは心臓に直接作用しないため、この点では安全性が高いと考えられてきました。


しかし近年の研究で、フェリプレシンにも注意すべき循環動態への影響があることが明らかになっています。特に虚血性心疾患患者では、非虚血領域の機能を低下させ、心機能をより抑制する可能性が指摘されています。カートリッジ3~4本分以上の投与で心拍数が減少し、拡張期血圧が上昇するという報告もあります。


血圧への影響についても、従来の認識とは異なる知見が得られています。本態性高血圧患者にフェリプレシンを投与すると、カートリッジ1~2本分では心拍数、血圧ともにほとんど変化しませんが、3~4本分以上では心拍数減少と血圧上昇が認められます。さらに重要なのは、フェリプレシンによる血圧上昇の持続時間がアドレナリンより長いという研究結果です。


アドレナリン含有製剤では、局所麻酔投与終了直後に一過性の血圧上昇が見られますが、比較的短時間で基準値に戻ります。ところがフェリプレシン製剤では、全ての計測点で収縮期血圧が基準値より上昇し、その上昇が5分後、10分後でもアドレナリン群より有意に高かったという報告があります。これは日常臨床で見過ごされがちな重要な事実です。


フェリプレシンとアドレナリンの禁忌と適応患者

従来、アドレナリン含有局所麻酔薬には「原則禁忌」という表現が使われていました。高血圧、動脈硬化、心不全、甲状腺機能亢進症、糖尿病のある患者、血管攣縮の既往のある患者などが該当します。原則禁忌とは「投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重に投与する」という意味です。


極端な高血圧の方では、収縮期血圧180mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上が当日の歯科治療を中止する目安となります。アドレナリンはその名のイメージ通り血圧を上昇させる効果がありますので、血圧がコントロール下にない患者では使用を控えるべきです。


甲状腺機能亢進症の患者では、アドレナリンの投与により甲状腺クリーゼを誘発する危険性があります。糖尿病患者では高血糖を招く危険性があるため、やはり注意が必要です。また、三環系抗うつ薬を内服している患者にアドレナリンを投与すると血圧低下を起こすことがあり、β遮断薬を内服中の患者ではアドレナリン逆転現象(血圧下降)が起こる可能性があります。


一方、フェリプレシンの禁忌は異なります。添付文書上の絶対禁忌はメトヘモグロビン血症のある患者です。代謝産物のオルト-トルイジンがメトヘモグロビンを産生し症状が悪化するためです。


しかし臨床上最も重要な注意点は、虚血性心疾患患者への使用です。心筋虚血に対して非虚血領域の機能を低下させ、心機能をより抑制するため、虚血性心疾患の患者には投与を避けるべきとされています。


つまり安易な多量使用は避けるということですね。


これは循環器系への影響が少ないという従来の見解を覆す重要な知見です。


妊娠後期の患者にも注意が必要です。フェリプレシンには軽度の子宮収縮作用と分娩促進作用があるため、妊娠8ヶ月以降は使用を避けたほうがよいとされています。


妊婦への使用も禁忌となる場合があります。


実際の臨床では、患者の全身状態を総合的に評価して麻酔薬を選択する必要があります。コントロール不良の循環器疾患(高血圧、心不全、中リスク以上の不整脈、虚血性心疾患、動脈硬化症、心筋症)を持つ患者では、どちらの血管収縮薬も慎重に使用すべきです。


高血圧患者に対するアドレナリン含有麻酔薬の使用については、日本歯周病学会から提言が出されています。血圧がコントロール下にある場合には基本的に通常の歯科治療は可能ですが、アドレナリン含有歯科局所麻酔薬の初回投与量はカートリッジ2本までを目安とし、必要最小限にとどめることが推奨されています。


血管収縮薬無添加のメピバカイン製剤という選択肢もあります。これはアドレナリンが原則禁忌となっている高血圧や心不全、糖尿病などを合併している患者に使用できます。術後の不快な痺れが早期に消失するというメリットもありますが、麻酔効果持続時間が30~60分と短い点に注意が必要です。


フェリプレシンとアドレナリンの循環動態への影響

循環動態への影響を詳しく見ていくと、両者の違いがより鮮明になります。アドレナリンは心臓のβ1受容体に結合して心拍数を増加させ、心筋収縮力を増強します。これにより心拍出量が増加し、血圧が上昇します。同時に、α1受容体への作用により末梢血管抵抗も増加します。


カートリッジ1本あたりのアドレナリン量は22.5μgです(1/8万濃度、1.8ml)。健常人であれば200μgまでのアドレナリン投与が可能とされており、計算上は局所麻酔カートリッジ9本弱まで使用可能ということになります。しかし高血圧症患者では1~2本までにとどめた方がよいという学会からの提言があります。


アドレナリン投与後の血圧上昇は一過性で、比較的短時間で基準値に戻ることが多いです。不整脈患者118例におけるアドレナリン添加リドカイン局所麻酔5分後の心拍数の変動を調べた研究では、心拍数が上昇する症例が認められました。症例によっては、アドレナリンで不整脈が出やすくなるケースがあります。


フェリプレシンの循環動態への影響については、従来「心臓には直接作用しない」と説明されてきました。しかし動物実験や臨床研究により、より複雑な作用機序が明らかになっています。イヌを用いた実験では、フェリプレシン添加プロピトカイン製剤は循環器系への影響が少ないとは言えず、虚血性心疾患患者への安易な使用は避けるべきという結論が得られています。


高血圧症患者13例におけるフェリプレシン局所麻酔5分後の血圧を調べた研究では、全例で血圧が低下していました。カートリッジ1~2本分の使用では心拍数、血圧ともにほとんど変化しないということですね。ところが3~4本分以上の投与では、心拍数が減少し、拡張期血圧が上昇します。


さらに重要な知見として、フェリプレシンによる収縮期血圧上昇はアドレナリンよりも5分後、および10分後で有意に高かったという報告があります。拡張期血圧についても、フェリプレシン群では収縮期血圧と同様に局所麻酔投与終了後から上昇が持続しました。血圧上昇の持続時間が長いという点が特徴的です。


この持続的な血圧上昇は、重症の循環器疾患を有する患者では無視できないリスクとなります。循環動態の変動を避ける目的でフェリプレシンを選択したにもかかわらず、予期せぬ血圧上昇が長時間続く可能性があるということです。


これは知っておくべき重要な事実ですね。


肥大型心筋症のような、心拍数を上昇させると病態を悪化させる可能性がある疾患では、フェリプレシンの方が適している場合があります。心拍数に関して、アドレナリンでは上昇、フェリプレシンでは減少させる傾向があるためです。


痛みによる血圧上昇や頻脈は心筋の酸素需要を増大させるため、虚血性心疾患患者では十分な局所麻酔が必要です。しかしフェリプレシンは冠血管を収縮させる作用があり、安易な多量使用は避けるべきとされています。矛盾するような状況ですが、適切な麻酔薬選択と使用量の判断が求められます。


フェリプレシン使用時の投与量と注意点

フェリプレシン添加製剤を使用する際の投与量管理は、アドレナリン製剤とは異なる配慮が必要です。血管収縮作用がアドレナリンより弱いため、十分な麻酔効果を得るために使用量が増える傾向があります。これが循環動態への予期せぬ影響につながる可能性があります。


フェリプレシンの濃度は0.03単位/mLで配合されています。3%プロピトカイン塩酸塩にこの濃度のフェリプレシンを配合したとき、従来のアドレナリン配合の局所麻酔剤と同等の麻酔作用を示すとされています。しかし実際の臨床では、効きが不十分と感じる場面も少なくありません。


カートリッジ1~2本分の使用であれば、本態性高血圧患者でも心拍数、血圧ともにほとんど変化しないという報告があります。


この範囲内での使用が基本ということですね。


問題は3~4本分以上使用する場合です。心拍数の減少と拡張期血圧の上昇が認められ、血圧上昇の持続時間もアドレナリンより長くなります。


虚血性心疾患患者に対しては、フェリプレシン添加プロピトカイン製剤の安易な多量使用を避けるべきです。非虚血領域の機能を低下させ、心機能をより抑制する可能性があるため、2本以内にとどめることが推奨されます。どうしても追加が必要な場合は、慎重な全身管理のもとで判断します。


妊娠後期の患者には使用を控えるべきです。軽度の子宮収縮作用と分娩促進作用があるため、妊娠8ヶ月以降は避けるのが原則となります。妊娠中の歯科治療では、リドカインを使用し、フェリプレシンを含有しているシタネストは使わないようにします。


メトヘモグロビン血症のある患者には絶対禁忌です。代謝産物のオルト-トルイジンがメトヘモグロビンを産生し、症状が悪化するためです。このような患者では、血管収縮薬無添加のメピバカイン製剤や、アドレナリン添加リドカイン製剤を選択することになります。


全身状態が不良な患者、高齢者、小児、呼吸器疾患を有する患者では特に注意が必要です。これらの患者では、血圧低下、徐脈、心筋収縮力低下、心拍出量低下、刺激伝導系の抑制、心室性頻脈および心室細動等の心室性不整脈が起こる可能性があります。


実際の投与に際しては、必ず吸引テストを行い、血管内に針先がないことを確認してから注入します。血管内に誤って注入すると、全身循環への急速な移行により予期せぬ副作用が生じる危険があります。ゆっくりと注入し、患者の状態を観察しながら投与することが基本です。


患者のバイタルサインを継続的にモニタリングすることも重要です。特に循環器疾患を持つ患者、高血圧患者、高齢者では、血圧と心拍数を麻酔投与前、投与中、投与後に測定します。異常な血圧上昇が持続する場合は、適切な対応が必要となります。


フェリプレシンとアドレナリンの臨床的使い分けの実際

実際の臨床現場では、患者の全身状態、既往歴、服用薬、予定される処置内容などを総合的に評価して、最適な局所麻酔薬を選択します。単純に「心疾患患者にはフェリプレシン」という選択は、必ずしも正しくありません。


まず患者の既往歴と現在の全身状態を詳しく聴取します。高血圧の場合、血圧がコントロール下にあるかどうかが重要です。収縮期血圧180mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上の場合は、当日の観血的処置を延期し、内科医と連携して血圧コントロールを優先します。


コントロール下にある高血圧患者(収縮期血圧140mmHg以下)であれば、1/8万アドレナリン添加2%リドカインをカートリッジ2本まで使用できます。それ以上必要な場合は、持続的に血圧測定するなど全身管理を強化します。あるいはシタネスト-オクタプレッシン(フェリプレシン製剤)3カートリッジ以内に切り替えることも選択肢です。


虚血性心疾患の患者では、より慎重な判断が必要です。狭心症や心筋梗塞の既往がある場合、フェリプレシンが必ずしも安全とは言えません。冠血管を収縮させる作用があり、非虚血領域の機能を低下させる可能性があるためです。アドレナリン製剤を少量使用するか、血管収縮薬無添加のメピバカイン製剤を選択することになります。


不整脈の患者では、アドレナリンで不整脈が増強する可能性があります。そのため不整脈を増強する作用がないフェリプレシン製剤の方が適している場合があります。ただし投与量は2本以内にとどめ、循環動態をモニタリングしながら使用します。


甲状腺機能亢進症の患者では、アドレナリンにより甲状腺クリーゼを誘発する危険性があるため、フェリプレシン製剤または血管収縮薬無添加製剤を選択します。糖尿病患者でも、アドレナリンが高血糖を招く危険性があるため、同様の選択となります。


三環系抗うつ薬やMAO阻害薬を服用している患者では、アドレナリンとの相互作用により過度な循環動態の変動をきたすことがあります。フェリプレシン製剤の方が安全性が高いと考えられますが、やはり使用量には注意が必要です。


β遮断薬を内服中の患者にアドレナリンを投与すると、α作用のみが現れて血圧が下降する「アドレナリン逆転」が起こる可能性があります。この場合もフェリプレシン製剤が選択肢となりますが、投与量を制限します。


妊娠中の患者には時期による使い分けが重要です。妊娠中期(妊娠5~7ヶ月)は比較的安全に歯科治療ができる時期で、アドレナリン添加リドカイン製剤を通常量使用できます。妊娠後期(妊娠8ヶ月以降)では、フェリプレシンの子宮収縮作用を考慮して使用を避けます。


処置内容によっても選択が変わります。簡単な充填処置であれば、血管収縮薬無添加のメピバカイン製剤でも十分な麻酔効果が得られます。麻酔効果持続時間は30~60分と短めですが、術後の不快な痺れが早期に消失するというメリットがあります。


抜歯や歯周外科などの観血的処置では、止血効果と麻酔効果の持続時間が重要になります。アドレナリン製剤の方が細動脈を収縮させるため、フェリプレシン製剤より出血減少効果が高くなります。全身状態が許せば、アドレナリン製剤が第一選択となります。


口腔外科領域の麻酔では、通常3~5mL使用することがあります。この場合、循環器疾患を持つ患者では血管収縮薬の総量に十分注意する必要があります。カートリッジ換算で本数を把握し、限度を超えないようにします。


アレルギーの問題も考慮が必要です。防腐剤のメチルパラベンにアレルギーがある患者では、防腐剤無添加のスキャンドネストCT(メピバカイン製剤)を選択します。麻酔効果は約1時間で切れるため、処置後の不快感が少ないというメリットがあります。


患者への説明も重要です。なぜその麻酔薬を選択したのか、どのような効果と副作用があるのかを簡潔に説明し、同意を得ます。特に循環器疾患を持つ患者では、処置中に動悸や胸部不快感があった場合はすぐに申し出るよう伝えます。


緊急時の対応準備も欠かせません。血圧計、パルスオキシメーター、AEDなどの機器を整備し、スタッフ全員が使用方法を理解しておきます。万一、異常な血圧上昇が持続する場合は、ニカルジピンの静脈内投与などの対応が必要になります。


以下、高血圧患者に対する歯科治療の参考リンクです。歯周治療を適切・安全に行うためのポイントがまとめられています。


日本歯周病学会:歯周治療を適切・安全に行うためのポイント(PDF)


また、日本歯科麻酔学会の虚血性心疾患患者に対する安全な歯科治療に関するガイドラインも参考になります。


日本歯科麻酔学会:虚血性心疾患患者に対する安全な歯科治療ガイドライン(PDF)




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