EBDを「消化器の話」と思い込むと、歯科補綴のステント管理で患者説明を誤り、信頼を失います。
EBD(endoscopic balloon dilation:内視鏡的バルーン拡張術)とは、内視鏡の先端にバルーンカテーテルを装着し、消化管や胆管などの狭窄部位でバルーンを膨らませて管腔を物理的に広げる治療法です 。手術と異なり、体に大きな切開を加えずに狭窄を解除できるため、患者への負担が極めて小さいのが特徴です。 merit.co(https://www.merit.co.jp/wmeritp/wp-content/uploads/2021/10/1e5d95462c849ce775a27dc3ecb3f3ca.pdf)
バルーンは生理食塩水や造影剤混合液で加圧されます 。透視下(X線確認下)で内視鏡画像と放射線画像を同時に見ながら、複数のスタッフが声を掛け合って慎重に操作するのが標準的な手技です 。つまり、1人では完結しないチーム医療です。 nmckk(https://www.nmckk.jp/nmckk/thesisDetail.php?category=CLGA&vol=38&no=5&d1=3&d2=0&d3=0&lang=ja)
現在主流なのは、1つのバルーンで3段階の径に対応できるCRE(controlled radial expansion)バルーン(Boston Scientific社)です 。これにより、1回の手技で段階的に口径を広げることが可能になり、穿孔などの偶発症リスクも低減しています。実際、第5回の全国調査では偶発症発生率が0.181%まで低下しており 、安全性は着実に向上しています。 ebook.m3(https://ebook.m3.com/content/12931)
適応疾患は多岐にわたります。主なものを以下に整理します。
- クローン病(CD)による小腸・大腸の線維性狭窄
- 食道癌のESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)後の瘢痕性狭窄
- 胆管・膵管の腫瘍性・良性狭窄(ERCPに伴うEBS/EPS)
- 消化管手術後の吻合部狭窄
狭窄の種類と部位が条件です。炎症が活動期にある場合はEBDの適応にならないため、薬物療法で炎症を沈静化してから行うのが原則です 。 ibd.qlife(https://ibd.qlife.jp/news/story5102.html)
医療用ステントは大きく3種類に分類されます 。それぞれ用途や留置期間、コストが異なるため、歯科従事者も他科の医師と連携する際に最低限の知識を持っておくと役立ちます。 kango-roo(https://www.kango-roo.com/learning/4284/)
| 種類 | 素材 | 特徴 | 主な適応 |
|---|---|---|---|
| プラスチックチューブステント(PS) | ポリエチレン等 | 安価・交換が容易 | 良性狭窄・短期留置 |
| メタリックステント(MS) | ステンレス・ニチノール | 内腔が広く・閉塞しにくい | 悪性腫瘍による狭窄 |
| カバードメタリックステント | 金属+カバー素材 | 腫瘍の内方増殖を防ぐ | 悪性狭窄の長期管理 |
プラスチックステントは安価ですが、数か月で閉塞しやすいため交換が必要になります。これが患者の通院負担につながります。
金属ステントは内腔径が最大10mmほど(ストロー状の管としてはかなり太い部類)と広く、長期開存が期待できます 。ただし取り出しが難しいため、悪性疾患への適用が中心です。カバードタイプは腫瘍の「管の中への食い込み」を防ぐ設計で、姑息的治療としての役割が大きいですね。 jfcr.or(https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/gall_i/003.html)
胆管ステントの留置は、乳頭部から胆管をさかのぼり、腫瘍によって狭くなった部分をまたぐように橋渡しする形で置きます 。狭窄の位置が肝内に近いほど難易度が上がります。 jfcr.or(https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/gall_i/003.html)
再狭窄を繰り返すと、最終的には外科手術が必要になります。クローン病患者の場合、発症後5年で32%が外科手術を受け、術後5年でさらに24%が再手術に至るとのデータもあります 。手術のたびに腸が短くなるため、消化吸収能力が落ちていく。深刻な問題です。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K07446/)
こうした背景から、EBDとステント留置の併用が検討されています。厚生労働省の資料では、BD-stentをEBDと組み合わせることで、EBD単独より狭窄の改善が長く続く可能性が示されています 。ただし、留置期間は3か月以上が目安とされており 、短期留置では十分な効果が得られないとする報告も存在します。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202211015A-buntan3-3-2.pdf)
再狭窄の予防に関しては、以下の点が重要とされています。
- EBD後に完全粘膜治癒が得られているかの確認(治癒が不完全だと再狭窄リスクが高い) academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/e9a097ad-fe9a-4770-8557-3bf2c67f8303)
- ステロイドや抗TNFα抗体製剤の局所投与の検討(ガイドラインでも研究対象) minds.jcqhc.or(https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00698/)
- EBD実施のタイミング(炎症が落ち着いた時期に合わせる) tmd.ac(https://www.tmd.ac.jp/cmn/edcplns/gakui/R2/1MS6116.pdf)
再狭窄予防が条件です。EBDの成功は「広げること」だけではなく、「広がった状態を維持できるか」にかかっています。
歯科の世界でも「ステント」という用語は正式に使われています。日本補綴歯科学会の用語集では、ステントを「軟組織を保持・固定する装置の総称で、外科処置に併用される」と定義しています 。消化器のステントとは目的が異なりますが、「管腔や形態を維持・保護する」という発想は共通しています。 hotetsu(https://www.hotetsu.com/files/f664/pword_v3.pdf)
インプラント手術では、ステント(サージカルガイド)を用いて、埋入位置・角度・深さを正確に誘導します 。これにより、神経・血管への損傷リスクが大幅に下がります。これは使えそうです。
最近では歯科用コーンビームCT(CBCT)データをもとにデジタル設計された「フルデジタルサージカルガイド」が主流になりつつあります。従来の手作業によるステント製作と比べ、インプラント埋入精度が格段に向上しています。誤差が0.5mm未満に抑えられるケースも報告されており、特に複数歯欠損症例での活用が増えています。
歯科補綴領域でのステント運用で注意すべき点は下記の通りです。
- 外科用ステントと補綴用ステントは設計目的が異なるため、混同しない
- 患者への説明では「位置決めのガイド装置」として平易に伝える
- 口腔外科とのコミュニケーションに際し、消化器領域の「ステント」との混同が生じないよう用語を明確にする
用語の混同防止が原則です。患者に対して「ステントを入れます」と伝えると、消化器系の処置を連想させることがあるため、「手術用のガイドを使います」という表現が実際の臨床では有効です。
クローン病や胆管系疾患の患者は、複数の医科専門科と並行して歯科を受診するケースがあります。こうした患者がEBDやステント留置の既往を持っている場合、歯科治療の際に注意が必要な事項があります。この視点は、他の歯科関連記事ではあまり取り上げられていません。
まず、クローン病患者は口腔内症状(アフタ性潰瘍、口角炎、牙肉の腫脹など)を呈することがあり、消化管の活動度と連動して悪化します。患者が「腸の病気で内視鏡治療を受けている」と申告した場合、EBDやステント留置を受けている可能性が高いです。
抗TNFα抗体製剤(アダリムマブ、インフリキシマブなど)を使用中の患者では、感染リスクの上昇と創傷治癒の遅延が生じることがあります 。抜歯やインプラント手術の前には、必ず内科主治医との情報共有が必要です。これが条件です。 minds.jcqhc.or(https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00698/)
胆管ステント留置患者では、胆道感染(胆管炎)のリスク管理のために抗菌薬が定期投与されているケースがあります 。歯科での抗菌薬処方と重複しないよう、お薬手帳の確認が最低限のチェック事項になります。 kango-roo(https://www.kango-roo.com/learning/4284/)
以下の情報は、初診時の問診票や医科連携シートに追加を検討する価値があります。
- 消化器内視鏡治療(EBD・ERCP・ステント留置)の既往
- 現在使用中の免疫抑制薬・生物学的製剤の名称と用量
- 最終の内視鏡処置日(直近6か月以内かどうか)
問診票への追加が有効です。情報が揃えば、ステント留置後の患者にも安全に歯科治療を提供できる体制が整います。
クローン病のEBDガイドライン(日本消化器内視鏡学会)の詳細なエビデンスや適応基準については、以下を参照してください。
クローン病小腸狭窄に対するEBDガイドライン(Minds診療ガイドラインライブラリー)。
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00698/
胆膵疾患に対する内視鏡的インターベンション(ステント留置術の詳細)については、以下が参考になります。
がん研究会有明病院による胆膵IVRの解説ページ。
https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/gall_i/003.html