インプラント埋入経験が豊富な術者でも、ダイナミックナビゲーションを使うと経験ゼロの術者と同じ誤差になります。
ダイナミックナビゲーションシステム(動的ガイド手術)は、カーナビと同じ三角測量の原理でインプラント手術をリアルタイムにナビゲートする技術です。2台の追跡カメラが、ハンドピースに取り付けたトラッカーと患者口腔内に装着したトラッカーの両方を同時にトラッキングし、顎骨内でのドリル位置・角度・深度をモニター上に3D表示します。術者は患者の口腔内をのぞき込む姿勢ではなく、画面を確認しながらフリーハンドで手術を進められるため、人間工学的な負担も軽減されます。
代表的な機器は、Nobel Biocare社が提供する「X-Guide®(エックスガイド)」です。すでに30ヶ国以上で使用実績があり、日本でも厚生労働省の認可を経て臨床応用されています。つまり海外発の技術ですね。
システムは、300を超えるリファレンスポイントを連続的に認識・追尾することで、位置情報の精度を維持しています。Blue-OptiXテクノロジーにより無影灯などの白色光干渉を除去しているため、通常の手術室環境でも安定したトラッキング精度が得られます。これは使いやすい設計です。
コンピューターガイド手術には、①サージカルテンプレートを使う「静的ガイド(スタティック)手術」と、②テンプレートを使わずリアルタイムナビゲーションで進める「動的ガイド(ダイナミック)手術」の2種類があります。どちらもCBCTデータを用いた術前シミュレーションから始まる点は共通ですが、そのデータの活用方法が根本的に異なります。静的ガイドがあくまで「型通りに進める」方式であるのに対し、ダイナミックナビゲーションは「その場で位置を確認しながら進める」方式です。
上記リンクでは、静的ガイドと動的ガイドの原理の違い・ワークフロー・精度比較が日本語で詳細に解説されています。
精度の話は数字で確認するのが一番です。研究データを整理すると、以下のようになります。
| 術式 | プラットフォーム部誤差 | 先端部誤差 | 埋入角度誤差 |
|---|---|---|---|
| フリーハンド | 数mm以上 | 数mm以上 | 不定 |
| 静的ガイド | 平均1.12mm | 平均1.39mm | 約3.89° |
| ダイナミックナビゲーション | 約0.81mm | 約0.91mm | 約3.81° |
上記はPellegrinoらのシステマティックレビューおよびメタアナリシス(2021年)と、小久保らの国内研究に基づく数値です。X-Guide®に関しては、起こりうる誤差が0.2mm以内という報告もあります。これは精度が高いですね。
なお、フリーハンドとの比較では、X-Guide®は角度精度で約11倍、2D側方位置精度で約8倍、3D位置精度で約5倍正確だったというデータが示されています。0.2mmという誤差は、ちょうど成人の爪の厚みの約10分の1程度のごくわずかな差です。
ただし注意点もあります。精度を確保するには、術前のキャリブレーション(トラッカーの固定と追跡カメラとの位置関係の設定)が正確に行われていることが前提です。トラッカーが動揺歯に固定されていたり、術者が口腔内にかがみすぎてカメラがトラッカーを見失ったりすると、精度は大幅に低下します。精度確保は条件次第です。
また、静的ガイドと動的ガイドを直接比較した場合、埋入精度そのものは「おおむね同等か動的ガイドがわずかに優位」という報告が多く、どちらが圧倒的に優れているというより、症例への適応選択が重要です。
上記リンクでは、インプラント埋入経験と術者年齢が精度に相関しないことを示した国内研究の原著論文が確認できます。
静的ガイド(サージカルテンプレート)は確立された手法ですが、臨床上「使いにくい」と感じる場面があります。そのひとつが開口制限のある患者への最後方臼歯部手術です。
テンプレートを口腔内に装着した状態でドリルを操作するには、一定の開口量が必要です。下顎第二大臼歯相当部では開口量が不十分な場合に使用自体が困難になることがあり、これはサージカルテンプレートの構造上の限界です。一方ダイナミックナビゲーションはテンプレートを口腔内に置かないため、開口制限がある患者や口腔スペースが狭い最後方臼歯部でも安定した手術が可能です。
開口制限の患者は少なくありません。特に顎関節症を抱えている患者や高齢者などでは、テンプレートを入れること自体が苦痛になる場合があります。
また、術中に「計画変更」や「微調整」が必要になる場面も、ダイナミックナビゲーションが強みを発揮するポイントです。開蓋してみると術前CTでは確認しきれなかった骨質の問題が発覚する、あるいは出血や解剖学的変異が見つかるといった事態は、実臨床ではめずらしくありません。静的ガイドでは埋入位置が機械的に固定されているため、そのような状況での柔軟な対応が難しくなります。ダイナミックナビゲーションなら、モニターを確認しながら術中に位置・角度の変更が可能です。つまり「計画の修正余地」があるということです。
さらに、サージカルテンプレートを使用しないことで、製作期間が省略されます。CBCT撮影→シミュレーション→手術を同一来院日に完結させる「即日手術ワークフロー」が実現でき、患者の通院回数が減少します。患者負担の軽減が見込めますね。
木津インプラントクリニック:X-GUIDEダイナミック3Dナビゲーションシステム(静的・動的ガイドの違いとワークフローの詳細)
ここは多くの歯科医師が意外に感じる部分です。国内の研究(中山ら、日本口腔インプラント学会誌2022年)では、インプラント埋入経験が豊富な群(5名)と未経験群(20名)の2群が同じダイナミックナビゲーション下でX-Guide®を使って模型に埋入手術を行い、精度を比較した結果、両群間のすべての測定項目(起始点誤差・先端誤差・埋入深度・埋入角度)で有意差がなかったと報告しています。
さらに歯科医師歴10年未満と10年以上でも有意差なし。年齢別でも有意差なし、という結果でした。これは意外ですね。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか。フリーハンド手術の精度が「術者の経験・感覚・手指の技術」に依存しているのに対し、ダイナミックナビゲーションはモニター画面の情報に従ってドリリングを進めるため、習熟度の個人差がシステムによって平均化されるからです。言い換えると、経験がなくてもシステムを正しく操作できれば同等の精度が出せる一方、経験があってもシステムの操作に慣れていなければ精度は上がりません。結論は「専用訓練が必須」です。
具体的に必要な訓練とは、①X-クリップの確実な固定、②ハンドピーストラッカーのキャリブレーション操作、③術中にナビゲーション画面に依存しすぎず手指感覚とのバランスを保つこと、そして④アシスタントとの連携です。術中に術者が口腔内にかがみ込む姿勢になるとカメラがトラッカーを見失うため、通常のフリーハンド手術とは異なるポジショニング習慣が求められます。
なお同研究では、インプラント埋入経験のまったくない歯科医師にダイナミックナビゲーションのトレーニングを行うと埋入位置に大幅な改善が見られたとも報告されており、教育ツールとしての有用性も示唆されています。これは使えそうです。
X-Guide®を実際に導入した場合、既存のクリニックワークフローはどのように変わるのか、そして注意すべき点は何かを整理します。
まず、ワークフローの変化について説明します。従来の静的ガイド手術では「①CBCT撮影→②シミュレーション→③サージカルテンプレート製作→④テンプレート試適・調整→⑤手術」という工程でした。工程が多いほど誤差が積み重なる可能性もあります。ダイナミックナビゲーションでは「①CBCT撮影(X-クリップ装着時)→②シミュレーション→③ナビゲーション機器へデータ転送→④手術」という流れになり、テンプレート製作工程がまるごと省略されます。X-Mark(仮想マーカー法)を使えば、X-クリップを使わないCBCT撮影も可能となり、即日手術ワークフローも実現できます。
次に、注意点を以下にまとめます。
導入コストについては、X-Guide®本体の価格は公式には非公開ですが、手術1本あたりの追加費用として患者へ5万5,000円程度を請求している医院もあります。設備投資としての初期費用は高額になりますが、サージカルテンプレートの外注製作コスト(1件あたり一般に5〜10万円程度)を省略できる点、および術前準備期間短縮による回転率向上も導入検討時の判断材料になります。DTX Studio™ ImplantとのシームレスなデジタルワークフローはNobel Biocare製インプラントシステムとの相性が特に高く、既存のデジタルプラットフォームとの連携も考慮に入れる必要があります。
手術経験の浅い歯科医師でも一定の訓練を積めば高精度の手術ができる点は、クリニックの術者教育や技術標準化という観点からも注目に値します。専用訓練の機会として、Nobel Biocare社が提供するトレーニングプログラムや、日本口腔インプラント学会・各地域学術研究会が主催するハンズオンセミナーへの参加が有効です。
Nobel Biocare公式:X-ガイドの製品詳細・精度データ・DTX Studio連携について
第54回日本口腔インプラント学会学術大会抄録集:ダイナミックナビゲーションの最新臨床報告まとめ