15〜24歳の4人に1人が、すでに4mm以上の歯周ポケットを持っています。
CPI(Community Periodontal Index:地域歯周疾患指数)は、WHOが定めた歯周病のスクリーニング指標です。1982年に「CPITN(Community Periodontal Index of Treatment Needs)」として誕生し、1997年に治療必要度(TN)の概念を切り離し「CPI」へと改称されました。現在は疫学調査と臨床現場の両方で広く用いられています。
検査の方法はシンプルで、口腔を前歯部と臼歯部の6つの区画(セクスタント)に分け、CPI専用のプローブで歯周ポケットの深さや歯肉出血の有無を確認します。各セクスタントの最高コードが個人の評価値となり、最終的に0〜4のコードで記録されます。
コードの内訳は以下の通りです。
- **コード0**:健全(歯肉出血なし・歯石なし・歯周ポケット3mm以下)
- **コード1**:プロービング後に歯肉出血あり
- **コード2**:歯石が存在するが、歯周ポケットは3mm以下
- **コード3**:歯周ポケット4〜5mm(軽度〜中等度)
- **コード4**:歯周ポケット6mm以上(重度歯周炎)
コード3以上が「進行した歯周炎あり」として取り扱われるのが原則です。これを知っておくだけで、国や都道府県の統計データを読む解像度が格段に上がります。
令和4年(2022年)の歯科疾患実態調査からは、歯周ポケットの深さ(4mm以上の有無)と歯肉出血の2指標を分けて評価するCPI改定法が採用されています。以前の方式と記録方法が異なるため、過去データとの単純比較には一定の注意が必要です。それでも、経年変化のトレンドを大まかに読み解くうえで、CPIは今も最も信頼性の高い指標のひとつです。
参考:CPI(地域歯周疾患指数)の定義と検査方法について詳しく解説されています。
【歯科用語】CPIとは?プロービング検査を行い、CPIで歯周病がわかる? - 1D(ワンディー)
日本の歯科疾患実態調査は昭和32年(1957年)から継続的に実施されており、CPIを用いた統計が蓄積されています。4mm以上の歯周ポケット保有者の割合の推移を年代別・調査年別に整理すると、以下のようになります。
| 年齢 | 1999年 | 2005年 | 2011年 | 2016年 | 2022年 |
|------|--------|--------|--------|--------|--------|
| 15〜24歳 | 10.4% | 7.2% | 8.5% | 17.6% | 17.8% |
| 25〜34歳 | 21.5% | 21.6% | 17.8% | 32.4% | 32.7% |
| 35〜44歳 | 31.5% | 26.6% | 24.3% | 42.6% | 34.7% |
| 45〜54歳 | 43.4% | 42.2% | 33.2% | 49.5% | 43.7% |
| 55〜64歳 | 50.0% | 49.8% | 47.0% | 53.7% | 47.5% |
| 65〜74歳 | 45.5% | 48.9% | 46.5% | 57.5% | 56.2% |
| 75歳以上 | 28.0% | 36.5% | 44.9% | 50.6% | 56.0% |
(出典:厚生労働省「歯科疾患実態調査」)
このデータから、いくつかの重要な傾向が読み取れます。まず、75歳以上の割合が1999年の28.0%から2022年には56.0%へと、約2倍に急増している点です。これは歯を残す人が増えたこと(8020運動の成果)の裏返しでもあります。歯が残っている以上、歯周病に罹患するリスクも残るという構造です。
一方、若年層(15〜24歳)については2011年(8.5%)から2016年(17.6%)にかけて急上昇し、その後も高い水準を維持しています。若者だから大丈夫、というのは通用しません。
35〜44歳では2016年の42.6%が2022年には34.7%に改善した点が注目されます。この世代は歯科受診や口腔衛生への意識が上がりやすく、予防的介入が有効に機能していると考えられています。つまり35〜44歳への歯周管理は臨床的に手応えのある年齢層です。
参考:4mm以上の歯周ポケットを持つ者の割合の年次推移データ(表形式で確認できます)
4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合の年次推移 - ライオン歯科衛生研究所
2025年6月26日、厚生労働省は「令和6年歯科疾患実態調査」の結果概要を公表しました。令和6年10〜11月に14,695人を対象として実施されたこの調査は、今後の歯科口腔保健施策の基準点(ベースライン)として位置づけられる重要な調査です。
最も注目すべきデータのひとつが、若年層の歯周病有病率の急上昇です。15〜24歳における4mm以上の歯周ポケット保有者の割合が24.7%に達し、過去の調査で初めて20%を超えました。令和4年(2022年)の17.8%と比較すると、わずか2年で約7ポイントも上昇しています。
これは偶然の変動とは言い切れない数字です。この年齢層は2024年度以降に歯周疾患検診の対象として新たに20歳・30歳が追加されたことと時期が重なります。日本歯科医師会も「さらに早期からの対策が必要」とコメントしており、若年層を「まだ大丈夫」とみなす従来の感覚を修正する必要があります。
高齢層に目を向けると、55歳以上の全年齢階級で4mm以上の歯周ポケット保有者が50%を超えています。特に65歳以上では年次推移で増加傾向が続いており、残存歯数の増加と歯周病管理の必要性が同時に高まっているという構造です。80〜84歳で61.6%という数字は、高齢患者を診る機会の多い臨床家には見逃せません。
一方で明るいデータもあります。8020達成者(80歳で20本以上の歯を保有する人)の割合が61.5%となり、前回調査(51.6%)から10ポイント近く向上しました。口腔衛生への意識の高まりと予防歯科の成果として評価できる部分です。毎日2回以上ブラッシングする人の割合も80.0%に達しており、国民の口腔ケア行動は改善傾向にあります。
それでも歯周病の有病率は高水準を維持しています。セルフケアの頻度が上がっても、歯科専門家による適切な介入なしには歯周病の進行を止めることは難しい、ということを数字が証明しています。
参考:令和6年歯科疾患実態調査の結果(概要版)について歯科医療従事者向けに詳しく解説されています。
令和6年歯科疾患実態調査結果の概要を発表 厚生労働省 - WHITE CROSS
参考:令和6年歯科疾患実態調査の公式発表ページ(厚生労働省)
「令和6年歯科疾患実態調査」の結果(概要)を公表します - 厚生労働省
「日本人の8割が歯周病」という表現は、患者説明や院内掲示などで今も広く使われています。しかしこの数字には、重要な背景があります。
この8割という数字の由来は、2005年・2011年の歯科疾患実態調査でCPI旧方式を用いた際に、何らかの「所見あり」と判定された人の割合が約8割だったことに基づいています。当時の基準では「歯肉出血・歯石・歯周ポケットのいずれかが認められる場合」がすべて「所見あり」と評価されており、ごく軽微な歯石付着だけであっても「8割に含まれる」という計算になっていました。
これは「ウソではないが大げさ」と言わざるを得ない数字です。
現在の改定法(CPI改定法)では、歯周ポケット(4mm以上の有無)と歯肉出血を分けて評価するため、より厳密な実態が把握できます。令和6年のデータでは、15〜24歳で24.7%、35歳以上では年代が上がるほど5〜6割以上が4mm以上の歯周ポケットを有しています。
この区別を患者説明に活かすことには大きなメリットがあります。「あなたも8割の一人です」と伝えるよりも、「あなたの年齢層の約50%が歯周ポケット4mm以上です。あなたは今どのコードですか?」と個別化して伝えることで、患者の受け止め方が変わります。数字は同じでも、文脈ひとつで行動変容の効果は大きく変わります。
また、日本の歯周病有病率は国際的に見て「比較的良好」というデータも存在します。WHO地域別比較では、35〜44歳の歯周ポケット保有者の割合は世界の一般的な水準(4〜6割)と比べて日本は下位に位置しており、悪くない部類に入ります。ただし、これは油断の根拠にはなりません。
「8割」という言葉の根拠とその限界を理解しておくことは、患者への説明責任という観点からも、情報の発信者として正確さを保つという観点からも、歯科従事者にとって基本的な素養です。
参考:「8割が歯周病」の根拠と現行CPIによる有病状況の解説が丁寧にまとめられています。
歯周疾患の有病状況 - 健康日本21アクション支援システム(厚生労働省)
CPIの数値は単なる口腔内の評価指標ではありません。全身の健康状態と深く連動していることが、数多くの研究から明らかになっています。
喫煙との関係は特に顕著です。8020推進財団の疫学調査によると、喫煙者は非喫煙者に比べてCPIコード0・1(健全〜歯肉炎レベル)の割合が低く、コード3・4(進行した歯周炎)の割合が有意に高いことが示されています。1日10本以上の喫煙では歯周病にかかるリスクが5.4倍、10年以上の喫煙継続では4.3倍に上昇するというデータもあります。喫煙者のCPIコードが高い場合、治療後の改善速度が非喫煙者より遅い傾向があることも臨床的な注意点です。
糖尿病との関係も重要です。歯周病は「糖尿病の第6の合併症」とも呼ばれており、相互に悪影響を与え合う双方向の関係にあります。国民衛生の動向に掲載された追跡研究では、CPIコード0(健全)の人に比べて、4mm以上の歯周ポケットがある人はHbA1cが上昇しやすいことが示されました。逆に、歯周治療によって炎症が改善されるとHbA1cが改善するというエビデンスも積み重なっています。
このような全身とのつながりを踏まえると、CPIコードの高い患者(特にコード3・4)に対しては、歯周治療に加えて生活習慣のヒアリングや医科との連携も重要になります。「お口の中だけの話」として完結させないことが、質の高い歯周管理につながります。
また、歯石除去や定期的な歯科健診が歯周病の進行を有効に抑制することは、多くの介入研究で示されています。CPIコード3以上の患者に対して3〜4ヶ月ごとのメインテナンスを設定することが、臨床的に有効であることは一般的なエビデンスとして確立しています。CPIの数値を継続的に記録・比較することで、患者ごとの変化を客観的に示すことができます。それは患者のモチベーション維持にも、治療計画の根拠にも使える情報です。
参考:歯周病と糖尿病・全身疾患との関連について、歯科医療従事者向けに詳しく解説されています。
糖尿病と歯周病の関係を理解する|歯科医療従事者が知っておくべきポイント - ORTC
十分な情報が集まりました。記事を作成します。