実習でバーブドブローチを使う歯学部は21%だけです。
バーブドブローチは根管治療において歯髄除去や根管内残留物の除去を目的として使用される歯科器具です。その最大の特徴は、金属線の表面に機械的に配列された精密で均一な突起(バーブ)にあります。このバーブが歯髄組織や根管内の残留物を絡め取る役割を果たしているのです。
形状は細長い針状で、無数のトゲのような突起が全体に配置されています。歯髄を取るには、この突起部分で組織を絡め取る方法が一般的に用いられてきました。クレンザーと呼ばれることもあり、同じ器具を指す用語として歯科現場では使い分けられています。
抜髄処置では、このバーブドブローチを根管内に挿入して歯髄組織を絡め取ります。
つまり組織除去の主役です。
また根管治療の途中段階で根管内に残った組織片や汚染物質を除去する際にも活用されるため、感染根管処置においても重要な位置づけとなっています。
もう一つの重要な用途が綿栓の作製です。ブローチに脱脂綿を巻きつけて根管内の水分吸収や薬剤塗布に使用する「ブローチ綿栓」は、長年にわたり根管治療の標準的な手法でした。根管内を清掃する時に、非常に細い金属線に脱脂綿を巻いて血液や膿を取り除く場合に使われています。
材質はカーボンスチール製が主流です。カーボンスチールは適度な硬度と柔軟性を兼ね備えており、根管の湾曲に追従しながらも十分な強度を保つことができます。この材質特性により、抜髄処置や根管内残留物除去の効果が高められているのです。
サイズ展開は#000、#00、#0、#1、#2、#3の6種類が標準的です。根管の太さや治療の段階に応じて適切なサイズを選択することが求められます。細い根管には#000や#00といった小さいサイズを使用し、太い根管や拡大後の根管には#2や#3のような大きいサイズを選びます。
長さは52mmが一般的な規格となっています。これは前歯から大臼歯まで幅広い歯種に対応できる長さです。一部のメーカーでは50mmや31mmといった異なる長さの製品も提供されており、術者の好みや治療部位に応じて選択できます。
包装形態は6打入り(6本×12=72本)が標準で、価格帯は4,300円から6,150円程度です。ただしメーカーや販売店によって価格差があるため、コストと品質のバランスを考慮した選択が必要になります。
材質はカーボンスチールが基本です。
一部の製品ではステンレススチール製のものも流通しています。ステンレス製は錆びにくく滅菌処理を繰り返しても劣化しにくいという利点がありますが、カーボンスチール製と比較すると柔軟性がやや劣る傾向があります。根管の形態や治療方針に応じて材質を使い分けることが重要です。
適応症は主に抜髄処置と感染根管処置です。抜髄処置では生活歯の歯髄を除去する際に使用し、感染根管処置では壊死した歯髄や根管内の感染物質を除去する目的で用いられます。特に歯髄が残存している症例では、バーブの引っかかりを利用して効率的に組織を除去できます。
しかし使用には注意が必要です。破折のリスクが最も重要な注意点として挙げられます。バーブドブローチは細い金属線でできているため、無理な力をかけたり根管内で強く回転させたりすると破折する可能性があります。破折した器具が根管内に残留すると除去が困難になり、治療の成功率を下げる要因となってしまうのです。
根管治療における破折ファイルの訴訟事例も報告されています。根管内でリーマーやファイルが破折すること自体は数パーセントの確率で起こり得る偶発的な事故であり、必ずしも歯科医師の過失とはいえません。ただし無理に除去しようとすると歯根破折やパーフォレーション(穴あき)のリスクがあり、かえって歯の寿命を縮めてしまう可能性があります。
使用前には必ず器具の状態を確認することが大切です。変形、傷跡、ひび割れなどの変化がないかをチェックし、発見した場合は即座に廃棄します。特にバーブ部分の損傷は組織除去能力の低下だけでなく破折リスクの増大につながるため、慎重な確認が求められます。
根管の湾曲が強い症例では使用を避けるか、より柔軟性の高い器具を選択することも検討すべきです。強く湾曲した根管にバーブドブローチを無理に挿入すると、根管壁を削ってしまったり器具が破折したりするリスクが高まります。治療前のレントゲン撮影で根管形態を把握し、適切な器具選択を行うことが重要です。
感染防止のため、使用前に必ず滅菌処理を行うことが絶対条件です。バーブドブローチは患者の血液や組織に直接接触する器具であり、適切な滅菌なしに使用すると交差感染のリスクが極めて高くなります。高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)を用いた滅菌が標準的な方法です。
滅菌条件は121℃で20分間、または134℃で3分間が一般的な設定となります。滅菌後は無菌的な状態で保管し、使用直前まで開封しないことが原則です。滅菌パックに滅菌日と有効期限を記載し、期限切れの器具は再滅菌するか廃棄する管理体制が求められます。
しかし現実には完全な滅菌管理が難しい側面もあります。特にブローチ綿栓の作製過程では、滅菌済みのブローチに脱脂綿を巻きつける際に口腔内の雑菌等に触れてしまう可能性が指摘されています。綿栓を作る段階で無菌環境を維持することは実質的に困難なのです。
そもそもブローチ綿栓は根管内の水分を吸収するのに非効率であり、巻きつけた綿栓を乾熱滅菌器で滅菌してもごく表面しか菌を殺せません。また根管内に綿の繊維が残る可能性もあります。これらの問題から、現在ではブローチ綿栓の使用は見直されているのが実情です。
代替手段として滅菌済みペーパーポイントの使用が推奨されています。ペーパーポイントは正確なISOサイズに巻き上げられており根管インスツルメントやガッタパーチャポイントにマッチします。吸水性に優れているため根管内に異物として残りません。根管内の浸出液や余分な薬液などを吸収し乾燥させる能力も高いのです。
ペーパーポイントを使用する前に細い吸引チップで髄腔・根管内を吸引することも重要です。この手順により根管内の水分や汚染物質を効率的に除去でき、その後のペーパーポイントによる乾燥がより効果的になります。現代の感染対策の観点からは、この方法が標準となっています。
歯学教育機関における調査では、バーブドブローチ(クレンザー)の使用は実習21%、診療室52%と低い割合でした。
この数字は驚くべき現実を示しています。
かつて根管治療の標準器具だったバーブドブローチが、現在の歯科教育では主流ではなくなっているのです。
使用率低下の背景には複数の要因があります。
第一にNiTi製ファイルの普及です。
ニッケルチタン製の根管拡大用ファイルは柔軟性がありながら形状記憶性を持ち、湾曲根管にも追従しやすいという特性があります。根管形成の効率と安全性が向上したことで、従来の手用ファイルやバーブドブローチの出番が減少しました。
第二に感染対策の観点からブローチ綿栓の使用が避けられるようになったことです。無菌的処置が難しいブローチ綿栓を用いた貼薬を避け、滅菌済みペーパーポイントを使用する傾向が強まっています。この変化は根管治療における感染管理の重要性が再認識された結果といえます。
第三に根管治療の術式そのものが進化したことが挙げられます。かつては手用器具で歯髄を絡め取る方法が一般的でしたが、現在では根管拡大と洗浄を組み合わせた手法が主流です。化学的洗浄剤による根管内の消毒と、機械的な根管拡大を併用することで、より確実な感染源の除去が可能になりました。
それでもバーブドブローチが完全に不要になったわけではありません。抜髄処置の初期段階で冠部歯髄を除去する際や、根管内に残存した軟組織を除去する場合には依然として有用です。完全な代替ではなく、適切な場面で使い分けることが重要です。
手巻きの脱脂綿(ブローチ綿栓)を廃止し、すべて滅菌済みのペーパーポイントを使用する歯科医院も増えています。根管バキュームの併用により根管内の水分や汚染物質を効率的に除去し、ペーパーポイントで仕上げの乾燥を行う方法が標準化しつつあります。この変化は感染対策と治療効率の両面でメリットをもたらしているのです。
根管充填の術式も変化しています。綿栓による根管充填という方法が用いられることもありましたが、現代のセオリーである緊密さとは相反する方法でした。現在ではガッタパーチャとシーラーによる根管充填が標準となり、より確実な根尖封鎖が実現されています。バーブドブローチの位置づけは補助的な器具へと変化しているということですね。