SCC抗原 RIA法で測定する扁平上皮癌関連抗原の臨床的意義

扁平上皮癌のマーカーであるSCC抗原のRIA法による測定について解説します。その歴史的背景から最新の測定法まで、歯科医療従事者が知っておくべき知識を網羅していますが、口腔領域の扁平上皮癌診断にどのように活用できるのでしょうか?

SCC抗原 RIA法による扁平上皮癌関連抗原測定

SCC抗原測定の基本情報
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測定対象

扁平上皮癌関連抗原(SCC抗原)は分子量約45,000の蛋白質で、扁平上皮癌患者の血中に高濃度に検出される腫瘍マーカー

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測定方法

RIA法(ラジオイムノアッセイ法)は放射性同位元素で標識した抗原を用いた高感度な測定法

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臨床応用

子宮頸癌、肺癌、食道癌、頭頸部癌などの扁平上皮癌の診断補助や治療効果のモニタリングに有用

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SCC抗原の歴史と発見経緯

SCC抗原(Squamous Cell Carcinoma Antigen)は、1977年に加藤らによって子宮頸部扁平上皮癌から分離・精製されたTA-4(Tumor Antigen 4)の一分画として発見されました。この抗原は分子量約45,000の蛋白質で、扁平上皮癌患者の腫瘍組織中および血清中に特異的に高濃度に検出されることが明らかになりました。

 

当初は子宮頸部扁平上皮癌の腫瘍マーカーとして研究されていましたが、その後の研究により、肺、食道、頭頸部などの扁平上皮癌患者の血清中にも高濃度に存在することが確認されました。これにより、SCC抗原は様々な部位の扁平上皮癌に対する有用な腫瘍マーカーとして認識されるようになりました。

 

SCC抗原の測定は、当初はラジオイムノアッセイ(RIA)法で行われていましたが、現在では酵素免疫測定法(EIA)や化学発光免疫測定法(CLIA)など、より安全で簡便な方法も開発されています。しかし、RIA法は高感度であることから、長らく標準的な測定法として用いられてきました。

 

SCC抗原 RIA法の測定原理と手順

RIA法(ラジオイムノアッセイ法)は、放射性同位元素で標識した抗原や抗体を用いて、微量の物質を高感度に測定する方法です。SCC抗原のRIA法による測定は、主に2抗体法が用いられています。

 

具体的な測定手順は以下の通りです:

  1. 被検血清100μlに125I標識SCC抗原200μlおよび第1抗体(抗SCC抗原家兎血清)100μlを加えます
  2. 室温(10℃~30℃)で20~30時間インキュベートします
  3. 第2抗体(抗家兎γ-Gヤギ血清)500μlを加えて混和します
  4. 室温で30分間静置します
  5. 3,000rpmで20分間遠心分離します
  6. 沈渣の放射活性を測定します

この方法では、検体中のSCC抗原と125I標識SCC抗原が第1抗体の結合部位を競合的に奪い合います。検体中のSCC抗原濃度が高いほど、125I標識SCC抗原の結合量は減少し、最終的に測定される放射活性は低くなります。標準曲線を用いて、この放射活性からSCC抗原濃度を算出します。

 

SCC抗原RIA法の基準値は一般的に2.0ng/ml以下とされていますが、キットや施設によって若干の差異があります。

 

口腔領域の扁平上皮癌におけるSCC抗原測定の意義

口腔領域は扁平上皮で覆われているため、口腔扁平上皮癌の診断や経過観察においてSCC抗原の測定は重要な意味を持ちます。篠崎らの研究によると、未治療の口腔・顎領域の悪性腫瘍患者10例中9例でSCC抗原値が高値を示し、その平均値は2.97±1.09ng/mlでした。

 

口腔扁平上皮癌におけるSCC抗原測定の臨床的意義は以下の点にあります:

  • 診断補助: 他の臨床所見や検査結果と併せて、口腔扁平上皮癌の診断補助として有用です
  • 病期評価: 一般に進行例ほどSCC抗原値が高い傾向があり、病期の評価に役立ちます
  • 治療効果判定: 治療によりSCC抗原値が低下することから、治療効果の判定に利用できます
  • 再発・転移の早期発見: 治療後のSCC抗原値の上昇は、再発や転移の可能性を示唆します

特に注目すべき点として、篠崎らの研究では、術後で再発や転移がないと思われる症例のSCC抗原値は平均2.31±0.83ng/mlであったのに対し、良性腫瘍や嚢胞など悪性腫瘍以外の口腔疾患では平均1.90±1.47ng/mlと低値を示しました。このことから、SCC抗原値は口腔扁平上皮癌の良悪性の鑑別にも有用であることが示唆されています。

 

口腔・顎領域の扁平上皮癌におけるSCC抗原測定の臨床研究についての詳細はこちら

SCC抗原 RIA法の精度と臨床評価

SCC抗原RIA法の測定精度は、同一アッセイ内および異なるアッセイ間の変動係数(CV)で評価されます。研究によると、同一アッセイ内のCVは4.9~11.4%と良好な精度を示しています。一方、異なるアッセイ間では、低濃度で変動係数が17.7%とやや大きい変動を示しましたが、中および高濃度では10%以下の良好な成績が得られています。

 

SCC抗原RIA法の臨床評価として、以下の点が重要です:

  1. 感度と特異性
    • 扁平上皮癌に対する感度は約60~70%(進行例では約70%)
    • 他の組織型の癌(腺癌、小細胞癌など)に対する特異性は高い
  2. 病期との相関
    • 早期例(I、II期)では陽性率約40%
    • 進行例(III、IV期)では陽性率約70%
    • 病期の進行度とSCC抗原値の間に相関がある
  3. 治療効果判定
    • 手術や放射線治療により腫瘍が縮小するとSCC抗原値も低下
    • 放射線治療では、1,000rad照射時点で一過性にSCC抗原値が上昇することがある
  4. 再発・転移の予測
    • 治療後のSCC抗原値の上昇は、再発や転移の可能性を示唆
    • 臨床所見より早期に再発・転移を察知できる可能性がある

SCC抗原RIA法は、CEA(癌胎児性抗原)やAFP(α-フェトプロテイン)などの他の腫瘍マーカーとの交差反応性がなく、SCC抗原に特異的な測定系であることも確認されています。

 

SCC RIA Kitの基礎的ならびに臨床的検討に関する詳細な研究結果はこちら

SCC抗原 RIA法から最新測定法への変遷

SCC抗原の測定法は、時代とともに変化してきました。RIA法は高感度で特異性が高いという利点がありましたが、放射性同位元素を使用するため、取り扱いに特別な設備や資格が必要であり、放射性廃棄物の処理も問題となっていました。

 

日本では、昭和51年(1976年)4月以降、日本アイソトープ協会が放射性有機廃液の回収を中止し、その後、昭和54年(1979年)3月に放射性廃液の廃棄基準が改正され、各事業所内での焼却が可能になりました。しかし、焼却炉の設置には予算と時間がかかり、放射性有機廃液の処理は大きな課題となっていました。

 

このような背景から、放射性同位元素を使用しない測定法の開発が進められ、以下のような変遷がありました:

  1. RIA法(ラジオイムノアッセイ法)
    • 1980年代~1990年代初頭に主流
    • 125I標識SCC抗原を使用
    • 高感度だが放射性廃棄物の問題あり
  2. EIA法(酵素免疫測定法)
    • 1990年代~2000年代に普及
    • 酵素(アルカリフォスファターゼなど)標識抗体を使用
    • 放射性物質を使用しない安全な方法
  3. CLIA法(化学発光免疫測定法)
    • 2000年代以降、現在の主流
    • 化学発光物質標識抗体を使用
    • 高感度で自動化に適している

例えば、ある医療機関では以下のような検査法の変遷が記録されています:

  • 1987/11/01~1991/06/23:RIAサンドイッチ法(基準値:0.0~1.5ng/mL)
  • 1991/06/24~2005/02/28:EIA法(IMX)(基準値:0.0~1.5ng/mL)
  • 2005/03/01~2017/01/02:CLIA法(アーキテクト)(基準値:0.0~1.7ng/mL)
  • 2017/01/03~現在:CLIA法(最新機種)(基準値:1.5ng/mL以下)

これらの測定法間には高い相関性があり、臨床的な評価に大きな差はないとされています。しかし、測定法によって基準値が若干異なる場合があるため、検査結果の解釈には注意が必要です。

 

SCC抗原測定法の変遷と基準値の推移に関する詳細情報はこちら

SCC抗原測定における高分子量SCC抗原の影響

SCC抗原の測定において、通常のSCC抗原(分子量約45,000)とは異なる高分子量SCC抗原が検出される症例が報告されています。これらの高分子量SCC抗原は、分子量約400kDや700kDに相当し、通常のSCC抗原測定系で異常高値を示すことがあります。

 

高分子量SCC抗原が検出される原因としては、以下のような可能性が考えられています:

  1. SCC抗原の重合体形成
    • SCC抗原分子が複数結合して高分子量の複合体を形成
    • 通常のSCC抗原と同様の抗原性を保持
  2. SCC抗原と他の血清蛋白との複合体形成
    • アルブミンなどの血清蛋白とSCC抗原が結合
    • 測定系において通常のSCC抗原と同様に反応
  3. 異常SCC抗原の産生
    • 腫瘍細胞が通常とは異なる高分子量のSCC抗原を産生
    • 腫瘍の特性や分化度と関連している可能性

高分子量SCC抗原の臨床的意義については、まだ十分に解明されていませんが、いくつかの研究では以下のような特徴が報告されています:

  • 高分子量SCC抗原が検出される症例では、EIA法とRIA法の測定値に大きな解離がない
  • 高分子量SCC抗原は非働化試験(56℃、30分間加熱)で安定性を示す
  • 高分子量SCC抗原は腫瘍の悪性度や予後と関連している可能性がある

歯科医療従事者が口腔扁平上皮癌の患者のSCC抗原値を評価する際には、異常高値を示す場合に高分子量SCC抗原の可能性も考慮する必要があります。このような場合、HPLCによるゲルろ過などの方法で分子サイズを確認することが診断の一助となる可能性があります。

 

高分子量SCC抗原に関する詳細な研究報告はこちら
口腔領域の扁平上皮癌の診断において、SCC抗原の測定は重要な補助的役割を果たします。特にRIA法は高感度で特異性が高く、長らく標準的な測定法として用いられてきました。現在では放射性物質を使用しない測定法が主流となっていますが、測定原理や臨床的意義は基本的に同じです。

 

歯科医療従事者は、口腔扁平上皮癌の診断や経過観察においてSCC抗原値を適切に評価するために、その測定原理や臨床的意義、さらには高分子量SCC抗原などの特殊なケースについても理解しておくことが重要です。また、測定法の変遷や基準値の変化にも注意を払い、検査結果を正確に解釈する必要があります。

 

SCC抗原測定は単独で確定診断を下すものではなく、臨床所見や他の検査結果と併せて総合的に評価することが重要です。適切に活用することで、口腔扁平上皮癌の早期発見や治療効果の判定、再発・転移の早期発見に貢献し、患者の予後改善につながることが期待されます。