疣状癌ガイドラインで知るべき診断と治療の要点

疣状癌(疣贅癌)のガイドラインに基づく診断・治療の要点を歯科従事者向けに解説。生検の注意点から外科切除の適応、放射線治療のリスクまで、臨床現場で必ず押さえておくべき知識とは?

疣状癌のガイドラインで押さえる診断・治療の要点

生検で表層だけ採取すると、疣状癌を見逃して患者が手遅れになります。


この記事のポイント3つ
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生検は深部まで採取が必須

疣状癌は細胞異型が乏しく、表層のみの生検では正確な病理診断が困難。深部組織を含む楔状切除が診断精度を左右する。

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放射線治療は原則として推奨されない

口腔疣状癌への放射線照射は、悪性転化(未分化転化)のリスクを高める可能性が指摘されており、外科的切除が第一選択。

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頸部郭清術・術後放射線は生存率に影響しない

2025年の研究では、口腔疣贅病変に対する頸部郭清術や術後放射線療法が生存率・再発率に有意な影響を与えないことが示された。

歯科情報


疣状癌(疣贅癌)の定義と口腔における特徴

疣状癌(Verrucous carcinoma、以下VC)は、1948年にAckermanが口腔内に好発する角化性・疣贅状腫瘤として初めて報告した、高分化型扁平上皮癌の一亜型です。臨床的にはイボ(疣)状またはカリフラワー状の外観を呈し、局所で緩徐に増殖しながら周囲に圧排性に進展するという、通常の口腔扁平上皮癌とは異なる独特の生物学的ふるまいをします。


口腔は好発部位のひとつで、頬粘膜・舌・歯肉・口蓋などに発生します。皮膚や生殖器にも生じますが、口腔における疣状癌は歯科・口腔外科の現場で遭遇し得る病変です。通常の口腔扁平上皮癌と比較して遠隔転移はきわめて稀とされており、「低悪性度」の癌として分類されています。


ただし「低悪性度」という言葉が持つ印象には注意が必要です。局所での浸潤・再発を繰り返すことがあり、放置すれば下顎骨などの周囲骨への浸潤も起こりえます。つまり見た目の穏やかさに反して、対応を誤れば深刻な結果を招く病変です。


口腔疣状癌の発生に関わる因子として、慢性的な機械的刺激(不適合義歯・慢性咬傷など)、喫煙(とくに噛みたばこ)、ならびにヒトパピローマウイルス(HPV)感染が挙げられます。HPVでは6型・11型との関連が報告されており、中咽頭癌と関連の深い16型・18型とは異なるタイプが関与するとされています。WHO口腔癌分類では口腔癌の90%以上が扁平上皮癌ですが、疣状癌はその中でも特殊な亜型として位置づけられています。


発生率の増加という観点からも見逃せません。日本国内の口腔癌罹患数は1975年の約2,100人から2020年代には10,000人規模へと拡大しており、今後も高齢化に伴う増加が予測されています。歯科従事者が日常診療で前癌病変や疣状病変を発見できるかどうかが、患者の予後に直結します。


日本癌治療学会「口腔癌診療ガイドライン」(疫学・前癌病変・治療の詳細)


疣状癌のガイドライン上の診断基準と生検の注意点

疣状癌の確定診断には病理組織学的検査が不可欠ですが、この診断が「比較的難しい」という点は臨床的に非常に重要な事実です。


疣状癌の病理組織像は、細胞異型が非常に乏しいという点に特徴があります。通常の扁平上皮癌であれば生検で異型性が明確に認識できますが、疣状癌では高度に分化した細胞が整然と増殖するため、「正常か良性病変のような印象」を与える標本が得られることがあります。そのため、CiNiiに登録された研究でも「疣贅状癌の確定診断を生検で行うことは比較的むずかしい」と明記されています。


特に問題となるのが、生検時の組織採取の深さです。表層のみを採取した場合、上皮の増殖パターンや浸潤様式が評価できず、良性の乳頭腫や疣贅性過形成と鑑別できないことがあります。深部が原則です。日本口腔腫瘍学会の各部位取扱い指針では、「癌および隣接する非癌粘膜を合わせて楔状に切除する」ことが一般的方法として示されており、表面だけを薄く削るような採取は避けなければなりません。


また、疣贅性黄色腫との鑑別においては、病変に隣接する健康な粘膜片を生検に含めることが重要とされています。鑑別のための正常粘膜との比較という視点を忘れないようにすることが大切です。


臨床細胞学の領域でも、「verrucous carcinoma(疣贅状癌)は細胞学的に異型が弱く診断が困難なことが多い」という報告があります(第29回日本臨床細胞学会近畿連合会 学術集会)。術中迅速細胞診でも判断が難しいケースがあるため、最終的には永久標本での慎重な病理評価が求められます。


歯科従事者として特に意識すべき点は、「イボ状・カリフラワー状の増殖性病変 = 必ずしも良性ではない」という認識です。乳頭腫に見えても、疣状癌である可能性を念頭に置いて病理組織検査に提出することが、患者を守ることに直結します。


生検に関しては、検体の質が診断の質を決めます。不十