キャリブレーションブロックを流用すると、測定値が最大ΔE3以上ずれて補綴物のやり直しにつながります。
VITA Easyshade Vを箱から取り出したとき、すぐ測定に使いたくなるのは自然な気持ちです。しかし公式マニュアルは、初回使用前に必ず12時間以上充電することを明記しています。充電ステーションにハンドピースを正しくセットするとハンドピースカバーの赤いLEDが点灯します。これが充電中のサインです。
バッテリー残量はメインメニュー「情報」から確認できます。残量が少なくなるとバッテリーアイコンが点滅します。充電切れ直前まで使い続けると、測定途中で電源が落ちるリスクがあります。クリニックの忙しい時間帯に電源が落ちると困ります。非接触充電方式なので、使わないときは常にステーションに戻す習慣をつけることが原則です。
基本設定としてまず確認すべきは「日時設定」「音量調整」「シリアル番号の照合」の3点です。
| 設定項目 | 場所 | 注意点 |
|---|---|---|
| 日時 | メインメニュー3ページ目 | 測定記録の日時に紐づく |
| 音量 | 同ページ中央ボタン | 診療室環境に合わせて調整 |
| シリアル番号 | 情報ボタン | ハンドピースとキャリブレーションブロックの番号が一致しているか確認 |
シリアル番号の確認は特に重要です。マニュアルには「ハンドピースとキャリブレーションブロックのシリアル番号が一致していない場合はVITAに連絡すること」と明記されています。複数台のEasyshade Vを導入しているクリニックでは、充電ステーションを混同しやすいので要注意です。番号確認だけで防げる測定誤差があります。
シェード測定の精度を決定する最大の操作が、ホワイトバランス(白色校正)です。意外に思われるかもしれませんが、マニュアルでは電源を入れるたびにホワイトバランスを実施することが原則とされています。1回合わせれば大丈夫と思い込むと、環境の変化や繰り返し使用による誤差が積み重なります。
ホワイトバランスの手順は以下の通りです。
1. 新しい感染防止シールドをチップに装着する
2. ハンドピースをキャリブレーションブロックの上に乗せ、チップをブロックに密着させる
3. 測定ボタンを押す
4. 2回の短いビープ音が鳴ったら完了
ここで重要なのが「感染防止シールドを装着した状態でホワイトバランスを行う」という点です。シールドなしでキャリブレーションを済ませてからシールドを付けても、正確な白色校正になりません。この逆の手順は実務でよく起きるミスです。シールドを先に付けることが条件です。
また、マニュアルはキャリブレーションブロックを強い光源(治療用ランプ、直射日光)のそばに置かないことを警告しています。ランプの真下でキャリブレーションすると、ブロックの白色に光が干渉してホワイトバランスが崩れることがあります。ホワイトバランスは暗めの安定した場所で行うのが基本です。
エラーNo.3(「ホワイトバランスを実施してください」)が表示された場合は、その場で再キャリブレーションが必要です。厳しいところですね。エラーを無視して測定を続けると、シェード値が信頼できなくなるため、その測定データは使い物になりません。
VITA公式ダウンロードセンター(ソフトウェアアップデート・マニュアル最新版)
測定精度は「チップをどこにどう当てるか」で大きく変わります。マニュアルが推奨する基本手順は次の通りです。
- 患者を治療チェアに座らせ、頭をヘッドレストで安定させる
- 測定チップをエナメル質の下の象牙質がある「歯頚部〜中央部」に当てる
- チップを歯面に密着させ、測定ボタンを押す
- 2回の短いビープ音が鳴るまでチップを動かさない
チップを歯から離すのが早すぎると、エラー表示または不正確な測定値が出ます。これは音が鳴る前に手を離してしまう焦りから起きやすいミスです。「2音確認が基本です。」
VITA Easyshade Vには以下の4つの主要測定モードが搭載されています。
| モード名 | 用途 | ポイント |
|---|---|---|
| ベースシェード測定 | 天然歯1点測定 | 最も基本的なモード。CAD/CAM用VITABLOCSシェードも表示 |
| 平均値シェード測定 | 4〜30回の複数点平均 | 色調が複雑な歯に有効。最低4回測定が推奨 |
| 歯牙部位シェード測定 | 歯頚部・中央・切縁の3点 | 前歯部の精密審美修復に最適 |
| セラミック修復物測定モード | 補綴物の色調確認 | 赤/黄/緑の3段階で一致度を表示 |
特に注意が必要なのが、平均値測定モードは最低4回以上測定しないと平均の意味がないという点です。1〜2回で打ち切ると単なる単点測定と変わりありません。複雑なシェードの歯には4〜8回の測定が推奨されています。これは使えそうです。
さらに重要な注意点として、マニュアルでは「失活歯(変色した歯)での測定は意味がない」と明記しています。変色した失活歯は健全な隣在歯で測定し、修復物のシェードを決定することが正しい手順です。感染防止の観点からも、天然歯と修復物の測定モードは必ず使い分けるようにしましょう。
感染防止シールド(Infection Control Shield)は、見た目はシンプルな薄いフィルムですが、マニュアルでは「1患者1枚の使い切り」と厳格に規定されています。ひとりの患者に使ったシールドを別の患者に再使用することは絶対に禁止です。クロスインフェクションリスクが生じます。
シールドの装着手順にも正確さが求められます。
- チップの先端にシールドを装着し、測定チップ全体にフィルムが平らに覆われているか確認する
- 破れや折れ目がないことを確認してからホワイトバランスを実施する
- 患者に使用したシールドはキャリブレーションブロックに絶対に触れさせない
最後の点が重要です。もしシールドがキャリブレーションブロックに触れてしまった場合は、マニュアルのセクション10に記載された消毒手順に従ってブロックを滅菌する必要があります。キャリブレーションブロックはスチームオートクレーブでの滅菌が可能ですが、「乾熱のみのオートクレーブは使用不可」とされています。これだけは例外です。
本体の消毒については、通常の消毒用ウェットシートで表面を拭き取る方法が推奨されています。ただしマニュアルはフェノール系化合物・フェニルフェノール含有製品・イソプロピルアルコール・MEK(メチルエチルケトン)の使用を厳禁としています。これらを使うと本体表面に永続的な変色やひび割れが生じる可能性があり、保証対象外になります。消毒剤の選定には十分注意が必要です。
感染防止シールドの補充はVITA代理店(日本では白水貿易など)から購入できます。品番「D58000S」で9パック(合計162枚)単位で取り寄せられます。ストックを切らすと当日の測定ができなくなるため、残量管理は必須です。
白水貿易 ビタ イージーシェードV 製品情報ページ(感染防止シールド等の消耗品確認に)
VITA Easyshade VにはBluetooth®モジュールが内蔵されており、測定データをスマートフォンやPCにワイヤレス転送できます。これはマニュアルに記載されているものの、実際に活用しているクリニックはまだ少ないのが現状です。もったいないですね。
スマートフォン連携には「VITA mobileAssist」アプリ(Android・Googleプレイストアからダウンロード)を使用します。PC連携にはパッケージに同梱の「VITA Assist」ソフトウェアおよびBluetoothドングルUSBを使います。手順は次の通りです。
1. Easyshade V本体の設定メニューからBluetoothをオンにする
2. スマートフォンのBluetooth設定もオンにする
3. VITA mobileAssistアプリを起動し、Easyshade Vと接続する
4. Easyshade Vで測定後、データを転送する
このアプリを使うと、測定値・患者の口腔内写真・シェードの視覚比較データをまとめてラボにメール送信できます。紙の指示書によるシェード伝達ミスが減り、補綴物の色調再現率が向上します。つまり、やり直しリスクを下げる有効な手段です。
また本体メモリには最大30件の測定データを記録できます。31件目を保存すると自動的に最古のデータが上書きされる仕様です。測定日時も記録されるため、後からどの患者のデータかを特定できる点が実務で役立ちます。ただし「30件のキャパを超えてから気づく」という状況を防ぐため、測定後は定期的にデータをアプリへ転送 → 本体から削除するルーチンを作ることが重要です。
Bluetoothを使わない場合はバッテリー消費を抑えるためにBluetoothをオフにしておくことも推奨されています。Bluetoothモジュールのオン/オフ状態は電源をオフにしても保持されるため、設定の確認習慣をつけるとよいでしょう。
VITA mobileAssistアプリ(Google Play)- Easyshade V連携・シェードデータ転送に
VITA Easyshade Vには、シェードガイドタブを使って機器の操作を練習できる「トレーニングモード」が搭載されています。このモードは新人スタッフの教育や、機器を久しぶりに使う前の精度確認に非常に有効です。ただし、マニュアルには重要な注意点が記載されています。
トレーニングモードで測定できるのはVITAクラシカルA1-D4(16色)とVITA SYSTEM 3D-MASTER(29色)のシェードガイドタブのみです。他社のシェードガイドや異なるシェードサンプルを測定しても、「本来の隣接シェード」とは異なる結果が出ることがあります。このモードはあくまでもVITAのガイドに特化しています。
トレーニングモードでの測定手順は以下の通りです。
- メインメニューの設定から「クラシカルトレーニングモード」または「3D-MASTERトレーニングモード」を選択する
- シェードタブの上部3分の1(歯頚部相当の位置)にチップを当てる
- チップを90度垂直に当て、動かさない状態で測定ボタンを押す
90度垂直が守れていないと、隣接するシェードが表示されることがあります。これはシェードの微妙な差がごくわずかな当て方の変化で表示が変わることを意味しています。意外ですね。だからこそ、実際の患者への測定でもチップを歯面に対して垂直・密着・静止させることが再現性ある測定値の確保につながります。
また、VITA SYSTEM 3D-MASTERは標準29色に加えて52色の内挿補間シェードを持っています。これは2色のセラミック材料を1:1の割合で混ぜ合わせることで中間シェードを再現する概念で、Easyshade Vはこの補間シェードにも対応した測定を行います。標準シェードでは表現しにくい中間的な歯の色を持つ患者への対応精度が高まるため、前歯部審美修復を多く手がけるクリニックには特に有用な機能です。補間シェードの対応が条件です。
Mセラミック工房「シェードテイキング失敗例5選」- Easyshade Vと組み合わせた写真撮影でのミス防止に