デフォルトのA→B→C→D順で使い続けると、シェードミスによる補綴物の再製作コストを負担するリスクがあります。
VITAクラシカルシェードガイド(VITA classical A1-D4)は、1956年にVITA Zahnfabrik社が開発した、世界で最も広く使われている歯科用シェードガイドです。50年以上にわたり国際標準として定着しており、歯科医院・歯科技工所を問わず、補綴物やコンポジットレジンのシェード選択で第一選択として用いられています。
このシェードガイドには全部で16枚のシェードタブが収録されており、基本の並び順(order)はHue(色相)を基準にしたA→B→C→Dの4グループ構成です。それぞれのグループの意味を正確に把握しておくことが、シェードテイキングの出発点になります。
各グループの色相と特徴は以下のとおりです。
| グループ | 色相 | 収録シェード |
|----------|------|-------------|
| A | Reddish-Brownish(赤みがかった茶色系) | A1, A2, A3, A3.5, A4 |
| B | Reddish-Yellowish(赤みがかった黄色系) | B1, B2, B3, B4 |
| C | Greyish(グレー系) | C1, C2, C3, C4 |
| D | Reddish-Grey(赤みがかったグレー系) | D2, D3, D4 |
各グループ内の数字はChroma(彩度)の低い順から高い順に並んでいます。数字が小さい(1)ほど彩度が低く明度が高く、数字が大きい(4)ほど彩度が高く明度が低い関係です。つまり「A1が最も明るく白に近い」のは正しいですが、「A1がすべてのシェードの中で最も明るい」は誤りで、B1の方がA1より明度(Value)が高い場合があります。これが後述するvalue orderの核心です。
日本の歯科臨床でも、補綴物の色指示書には「A2」「B1」などのVITAクラシカル表記が標準的に用いられています。シェードガイドのorderを正確に理解することは、歯科医師・歯科技工士間のコミュニケーションエラーを防ぐうえで非常に重要です。
VITA North America公式|VITA classical A1-D4シェードガイドの製品詳細・特徴
デフォルトのA→D順で使うのが当然だと思っていませんか。実は、多くの補綴専門医やラボテクニシャンが推奨するのは「value order(明度順)」での並べ替えです。
デフォルトの並び順(A→B→C→D)はHue(色相)を基準にしており、同じグループ内での彩度の変化はわかりやすいですが、グループをまたいだときの明度の連続性が失われています。臨床で患者の歯に最も近いシェードタブを短時間で選ぶ際、明度(Value)の違いがシェード選択の誤りの最大の原因になることが知られています。明度が合わないと、どれだけHueやChromaが近くても補綴物が「浮いて見える」という問題が生じます。
value orderに並べ替えると以下のようになります。
> B1 → A1 → B2 → D2 → A2 → C1 → C2 → D4 → A3 → D3 → B3 → A3.5 → B4 → C3 → A4 → C4
この順序が重要なのです。左から右へ、明度が高い(白い)順から明度が低い(暗い)順へと並んでいます。
VITAクラシカルシェードガイドのシェードタブはリングから取り外せる仕様になっているため、実際にこの順番に並べ直してから患者の歯に当てることが可能です。臨床で「まず明るさを合わせてから色相を絞る」という手順を取ることで、シェード選択の精度が大幅に上がります。
実際の手順として参考になるのは、Glidewell Dentalが公開しているシェードタブの並べ替え動画(Chairside誌シリーズ)です。まずB1を基準として一番明るい側に置き、順番に明度が下がるようにタブを並べることで、肉眼でのシェードマッチングが格段にスムーズになります。
DPS Dental|VITAクラシカルシェードガイドをvalue順に並べた公式チートシート(PDF)
value orderが基本です。デフォルトのまま使い続けることは、シェードマッチングの精度を自ら下げているようなものです。
シェードを「なんとなく目で見て判断する」は最もやってはいけない方法です。正しい手順(order)を守らないと、判定が主観に偏り、再製作リスクが生じます。
シェードテイキングには、正確な結果を出すために守るべき基本プロトコルがあります。以下の手順を診療の流れに組み込んでください。
① 処置前・歯が乾燥する前に行う
歯の乾燥(デハイドレーション)が起きると、歯の色は実際より明るく見えます。処置開始前、ラバーダム装着前、スケーリング前などに必ず先に実施するのが原則です。
② 歯面の清掃
シェードタブを当てる前に、対象歯の表面の汚れをラバーカップ+研磨ペーストで10秒程度清掃します。ステインや歯石があると正確な色評価ができません。
③ 光源の確認
自然光(北側窓からの昼光)が最良です。診療室内の照明は色温度の影響を受けるため、できれば5500〜6500Kの標準昼光照明を使用するのが望ましいです。診療室の壁の色も影響するため、派手な色の壁は避けます。
④ アイレベルで比較
シェードタブと患者の歯は、必ず同じ平面・同じ高さで比較します。タブが前後にずれると明度が異なって見えます(前方に出すと明るく、後方に引くと暗く見える傾向)。
⑤ 5〜7秒以内で判断
これが見落とされやすいポイントです。人間の目は、同じ色を7秒以上見続けると視覚疲労が起きて色覚が鈍化します。1回の判断を5〜7秒以内で行い、もし決まらなければ一度視線を外し(白い壁を見るなど)、目をリセットしてから再評価します。
⑥ 3つの部位を別々に評価
歯は cervical(歯頸部)・body(中央部)・incisal(切縁部)の3部位で色が異なります。補綴物の色再現精度を上げるには、それぞれ別のシェードとして歯科技工士に伝えることが重要です。まずbody shadeを確定し、その後cervical・incisalを評価するのが標準の順序です。
⑦ 患者本人に確認する
鏡を使って患者自身にシェードを確認してもらうことも、後のクレームを防ぐために有効です。1段明るい・1段暗いタブも一緒に見せて、患者が選択に関与したという記録を残すことが望ましいです。
Spear Education|補綴専門医によるSubtractive Tooth Shade Matching Techniqueの解説(英語)
「A2だからA系統の2番目の明るさ」という単純な解釈は間違いです。VITAクラシカルのシェード記号を正確に解読できると、シェードの伝達ミスが激減します。
VITAクラシカルシェードガイドの各シェードタブは、3つの色彩要素で構成されています。これを正しく理解することが、シェード選択の精度向上につながります。
- Hue(色相):歯の「色味の種類」を表す。A=赤茶系、B=赤黄系、C=灰色系、D=赤灰系
- Chroma(彩度・クロマ):その色の濃さ・鮮やかさの度合い。1(淡い)→4(濃い)の順
- Value(明度・バリュー):その色の明るさ・暗さ。高いほど白く明るく見える
重要なのは、数字(1〜4)が「Chroma(彩度)の順番」であり、「Value(明度)の順番」ではないという点です。たとえばA1はA系統で最も彩度が低く明度が高いですが、同じ「1」でもB1はA1よりさらに明度が高い場合があります。
臨床でのシェード選択の実際の手順は、以下の優先順位で進めます。
1. まずHue(色相)を絞る:A〜Dのどの色系統に近いかを判断
2. 次にChroma(彩度)を絞る:その色系統の中で、どの濃さに近いかを判断
3. 最後にValue(明度)で微調整:明るすぎ・暗すぎがないかを確認
ただし、value orderで並べ替えたシェードガイドを使う場合は、最初にValueで大まかな範囲を絞り、その後HueとChromaを絞るという逆のアプローチも有効です。Spear Educationの補綴専門医は「subtractive technique(引き算法)」として、候補タブを3〜5枚並べてから一枚ずつ消去していく方法を推奨しています。これは特に前歯部の審美補綴で精度が求められる場面で有用です。
結論はHue→Chroma→Valueの順が基本です。しかし状況によってはvalue firstのアプローチを選ぶ柔軟性も必要です。
クラシカルシェードガイド1本で全症例に対応できると思っていると、審美領域での色不一致クレームを招くリスクがあります。これは経験則ではなく、論文データが示す事実です。
ギリシャ・アテネ国立大学歯学部(2025年発表、MDPI Applied Sciences誌掲載)の研究では、212名・636歯を対象に、VITAクラシカル・VITA 3D-Master・Ivoclar A–Dシェードガイドの3種類を比較しました。
その結果が非常に示唆的です。
| シェードガイド | 全歯のCoverage Error(ΔE00) |
|---------------|--------------------------|
| VITAクラシカルA1-D4 | 3.1 |
| VITA 3D-Master | 2.2 |
| Ivoclar A–D | 3.1 |
Coverage Error(CE)は「最も近いシェードタブと実際の歯の色の差」の平均値です。歯科臨床では、ΔE00が1.8を超えると「色の差が患者に認識されうる(clinically unacceptable)」とされています。
つまり、VITAクラシカルを使ったとしても、最善のシェード選択をしても、平均的にはΔE00=3.1という許容閾値を超えた色差が残ります。とりわけ前歯部・上顎中切歯・犬歯の高彩度領域でカバー率が低く、犬歯はL*(明度)が低くa*・b*(赤・黄成分)が高い傾向があり、クラシカルシェードガイドではカバーが難しいことが示されています。
これは悪いニュースではありません。この限界を知ったうえで対応することが重要です。
具体的な対応として参考になる選択肢は以下のとおりです。
- VITA 3D-Masterへの切り替えまたは併用:ΔE00=2.2と有意に低く、特に高彩度域でカバー率が改善
- VITA Easyshade(分光測色器)の導入:目視に依存せず客観的なシェードデータを記録・伝達できる
- 写真撮影との組み合わせ:DSLR+標準光源での歯・シェードタブ同時撮影で技工所への情報伝達精度が向上
意外ですね。しかし、この数字を知っているかどうかで、患者への説明の仕方や補綴処方の判断基準が変わります。特に審美を主訴とする患者への前歯部補綴では、クラシカルシェードガイドの限界を念頭に置いたアプローチが求められます。
また、シェードガイド自体の経年変化にも注意が必要です。繰り返しのオートクレーブ滅菌によってシェードタブの色座標が変化することが報告されており(J Prosthet Dent, 2014)、定期的な買い替えも検討すべき実務上のポイントです。
MDPI Applied Sciences(2025)|3種類のシェードガイドのCoverage Errorを比較した査読論文(英語)
Bremadent Dental Laboratory|シェードテイキングの基本ガイド:IPS e.max・ジルコニア・陶材冠への対応まで(英語)