セメント芽細胞腫治療の原因歯摘出から再発防止まで

セメント芽細胞腫の治療では原因歯の抜歯と腫瘍摘出が基本です。下顎大臼歯部に多発し不完全摘出で再発リスクが高まります。歯科医療従事者として押さえるべき診断と治療のポイントとは?

セメント芽細胞腫の治療

原因歯を抜かずに保存すると再発します


この記事の3つのポイント
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原因歯とともに完全摘出が必須

セメント芽細胞腫は歯根に連続して発生するため、原因歯を含めた一塊としての摘出が治療の基本となる

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不完全摘出による再発リスク

腫瘍が不完全に摘出された場合、再発率が大幅に上昇するため、周囲骨の掻爬や削除まで含めた徹底的な処置が求められる

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若年者では顎骨保存療法も選択肢

10~20歳代の患者では、生活の質を考慮して顎骨形態を保存する治療法を選択し、骨移植を併用するケースもある


セメント芽細胞腫の診断と特徴

セメント芽細胞腫は、歯根のセメント質と連続して形成される良性歯原性腫瘍です。全歯原性腫瘍の約1~6%と比較的まれな疾患ですが、歯科臨床では確実に遭遇する病変の一つといえます。


好発年齢は10歳から20歳代を中心とした若年層です。性差については文献により若干異なりますが、女性にやや多いとする報告と男性にやや多いとする報告があります。好発部位は明確で、下顎大臼歯部、特に下顎第一大臼歯に圧倒的に多く発生します。


上顎に発生する例は極めてまれです。


画像診断上の特徴は非常に明瞭です。パノラマX線写真やCTでは、歯根に連続した境界明瞭な類円形の不透過像として認められます。この「歯根との連続性」がセメント芽細胞腫の診断における最重要ポイントです。感染や炎症を伴った場合は、周囲に透過帯が認められることもあります。


病理組織学的には、歯根セメント質と連続した梁状のセメント質様硬組織の増殖が特徴的です。辺縁では放射状の梁構造が認められ、大型のセメント芽細胞様細胞による縁取りや破歯細胞(セメント質を吸収する細胞)が観察されます。


つまり組織学的診断が確定診断です。


症状としては、多くの症例で無症状か軽度の症状にとどまります。ただし腫瘍が大きくなると、顎骨の膨隆や原因歯の打診痛による疼痛を生じることがあります。偶然のパノラマX線撮影で発見される無症状例も少なくありません。


参考:口腔病理基本画像アトラス セメント芽細胞腫の解説では、代表的な病理組織像と画像所見が詳細に示されています。


http://www.jsop.or.jp/atlas/odontogenic-tumors/cementoblastoma/


セメント芽細胞腫の鑑別診断のポイント

セメント芽細胞腫と鑑別すべき疾患として、根尖性セメント質骨性異形成症、セメント質形成線維腫、骨形成線維腫、骨性異形成症などが挙げられます。これらは画像所見が類似することがありますが、鑑別のポイントを押さえておくことが重要です。


根尖性セメント質骨性異形成症は、歯根尖部に発生する点では類似していますが、歯根とは連続せず、生活歯に発生することが多い点が異なります。初期には透過像を呈し、次第に不透過性を増していくという病期による変化も特徴的です。


複数歯に発生することも珍しくありません。


セメント質形成線維腫は、若年女性の下顎臼歯部に好発する点は共通していますが、歯根との連続性は認められません。画像上は透過像と不透過像が混在した境界明瞭な病変として観察されます。この「歯根との連続性の有無」が最も重要な鑑別点です。


骨形成線維腫も類似した画像所見を示しますが、より広範囲に発生し、歯根との連続性がない点で区別できます。また病理組織学的には、線維性間質内に骨組織が形成される点がセメント芽細胞腫と異なります。


鑑別診断では、臨床所見(年齢、性別、部位)、画像所見(歯根との連続性、境界の性状)、そして最終的には病理組織学的検査を組み合わせた総合的判断が不可欠です。特に若年者の下顎大臼歯部で歯根に連続した類円形不透過像を認めたら、セメント芽細胞腫を最優先に疑います。


確定診断には病理組織検査が必須です。術前の画像診断のみで治療方針を決定することは避けるべきです。ただし臨床診断としてセメント芽細胞腫が強く疑われる場合、治療計画の立案は可能といえます。


セメント芽細胞腫の標準的治療法

セメント芽細胞腫の治療は、原因歯とともに腫瘍を完全に摘出することが基本です。これは腫瘍が歯根に連続して発生しているという特性から、歯を残すことが事実上不可能であるためです。不完全な摘出は再発のリスクを著しく高めます。


具体的な術式としては、全身麻酔下での腫瘍摘出・掻爬術が選択されます。原因歯の抜歯と腫瘍の一塊摘出に加えて、周囲骨の掻爬や削除を行います。腫瘍周囲の骨組織に腫瘍細胞が残存していると再発の原因となるため、十分なマージンを確保した掻爬が重要です。


腫瘍が小さい場合は、局所麻酔下での外来手術も可能なケースがあります。ただし腫瘍の大きさ、部位、患者の年齢などを総合的に判断して、全身麻酔下での入院手術を選択することが安全です。特に下顎骨の下縁に至るような巨大な腫瘍では、全身麻酔が必須となります。


摘出後の骨欠損部への対応も治療の重要な要素です。小さな欠損であれば自然な骨再生を期待して経過観察することが可能です。しかし大きな欠損部に対しては、顎骨の形態保存と早期の骨再生を促進するために、腸骨海綿骨細片移植術などの骨移植が併用されることがあります。


顎骨保存を重視した治療アプローチでは、区域切除のような広範囲切除を避け、摘出・掻爬術と骨移植の組み合わせが選択されます。特に10~20歳代の若年者では、術後の咬合機能や顔貌への影響を最小限にすることが、患者の生活の質の向上につながります。


予後は良好です。


術後は定期的な画像検査による経過観察が必要です。再発のリスクを考慮して、少なくとも術後2~5年間は慎重なフォローアップが推奨されます。


参考:昭和大学歯科病院の症例報告では、18歳男性の巨大なセメント芽細胞腫に対して顎骨保存外科療法を施行し、術後2年間再発なく経過している詳細が報告されています。


https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/81/3/81_278/_article/-char/ja/


セメント芽細胞腫治療の再発防止策

セメント芽細胞腫の治療において最も重要な課題は、再発の防止です。不完全な摘出が再発を招くことは複数の文献で報告されており、初回治療での完全摘出が極めて重要となります。


再発を防ぐための具体的な手技として、以下のポイントが挙げられます。第一に、腫瘍と原因歯を一塊として摘出することです。腫瘍のみを摘出して歯を保存しようとする試みは、高い再発率につながります。第二に、腫瘍周囲骨の十分な掻爬または削除です。腫瘍と正常骨との境界部に残存する腫瘍細胞を確実に除去することが必要です。


術中の視野確保も重要な要素です。下顎大臼歯部という解剖学的に視野が得にくい部位での手術では、マイクロスコープや拡大鏡の使用が有効です。視認性の向上により、腫瘍の取り残しを最小限にできます。


カルノア液(エタノールとクロロホルムの混合液)による化学的掻爬を併用する方法も報告されています。機械的な掻爬に加えて化学的処置を行うことで、残存腫瘍細胞の不活化を図る狙いがあります。ただしカルノア液の使用には組織への刺激性という側面もあり、慎重な判断が求められます。


巨大な腫瘍や再発例に対しては、区域切除術のような根治的手術が選択されることもあります。顎骨の連続性を断つ手術となるため、術後の機能障害や審美的問題が大きくなりますが、確実な腫瘍の制御が可能です。このような症例では、腸骨移植やチタンプレートによる再建手術が同時に行われます。


術後の経過観察では、3~6ヶ月ごとのパノラマX線撮影やCT検査が推奨されます。再発は術後2年以内に起こることが多いとされていますが、5年以上経過してからの晩期再発例も報告されているため、長期的な追跡が重要です。画像で再発が疑われる所見を認めた場合は、速やかに再手術を検討します。


患者への説明では、再発のリスクと定期検査の重要性を十分に伝える必要があります。特に若年者では、長期にわたる経過観察が必要となることを理解してもらうことが大切です。


セメント芽細胞腫の原因歯保存に関する議論

セメント芽細胞腫の治療において、原因歯を保存できるかという問いは、患者からしばしば寄せられる質問です。結論から言えば、原因歯の保存は極めて困難であり、推奨されません。


歯根端切除術を併用して歯を保存しようとする試みも、一部の症例で報告されています。上顎中切歯という前歯部に発生したセメント芽細胞腫に対して、根管治療後に歯根端切除を行い、腫瘍と腹痛に囲まれた根尖部を一塊として摘出し、歯冠部を保存した症例があります。この症例では術後5年間再発なく経過していると報告されています。


どういうことでしょうか?


前歯部という審美的に重要な部位で、かつ腫瘍が比較的小さい場合には、歯根端切除による保存的アプローチが選択肢となりうるということです。ただしこれは例外的なケースであり、一般的な治療方針とはなりません。大臼歯部に発生する典型例では、解剖学的に歯根端切除が困難であることも多いです。


原因歯の保存を試みる場合のリスクとして、最も大きいのは再発率の上昇です。腫瘍が歯根に連続している以上、歯根の一部が残存すれば、そこに腫瘍組織が残る可能性が高まります。再発した場合には、より広範囲の切除が必要となり、結果的に患者の負担が増大します。


歯科医療従事者としては、患者の「歯を残したい」という希望を理解しつつも、再発リスクと長期予後を考慮した冷静な判断が求められます。原因歯とともに腫瘍を完全摘出することが標準治療であることを、エビデンスに基づいて説明する必要があります。


抜歯後の補綴治療の選択肢として、インプラントブリッジ義歯などがあることも併せて説明します。特に若年者では、骨移植により十分な骨量が確保できれば、将来的なインプラント治療も可能です。歯を失うことの不安を軽減するために、包括的な治療計画を提示することが重要です。


参考:新潟大学歯学部の症例報告では、上顎中切歯のセメント芽細胞腫に対して歯根端切除により歯を保存した例が詳細に記載されています。


https://niigata-u.repo.nii.ac.jp/record/2975/files/47(1)_119-124.pdf