石灰化嚢胞性歯原性腫瘍2017WHO分類改訂の影響

2017年WHO分類改訂により石灰化嚢胞性歯原性腫瘍は再び嚢胞に分類され直しました。この変更は歯科医療現場にどのような影響を及ぼしているのでしょうか?

石灰化嚢胞性歯原性腫瘍2017年分類変更の臨床的影響

2005年に腫瘍として扱われた石灰化嚢胞性歯原性腫瘍は、実は嚢胞として治療すべきだった可能性がある。


この記事の3つのポイント
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2017年WHO分類の大きな変更

石灰化嚢胞性歯原性腫瘍が12年ぶりに腫瘍から嚢胞へと再分類され、診断名と治療アプローチが変更されました

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幻影細胞が診断の鍵

裏装上皮に見られる特徴的な幻影細胞(ghost cell)と石灰化が石灰化歯原性嚢胞の診断基準となります

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臨床現場での実践的対応

分類変更に伴い診療録記載や保険請求、治療計画の見直しが必要となり、現場での正確な理解が求められます


石灰化嚢胞性歯原性腫瘍のWHO分類における歴史的変遷

石灰化嚢胞性歯原性腫瘍は、1962年にGorlinらによって初めて報告された病変で、その後の分類変更の歴史は歯原性病変の理解の深化を示しています。1992年のWHO分類では「石灰化歯原性嚢胞」という名称で嚢胞に分類されていました。この時点では、嚢胞としての特性が重視されていたということですね。


2005年のWHO分類改訂において、大きな転換点が訪れました。この疾患は「石灰化嚢胞性歯原性腫瘍(Calcifying Cystic Odontogenic Tumor:CCOT)」と改称され、腫瘍に分類されることになったのです。この変更の背景には、病変の腫瘍的性格を明確に表す必要性がありました。嚢胞様の形態を示しながらも、一部の症例で充実性に増殖する特徴があることが報告されていたためです。


しかし2017年の改訂では、再び方向転換が行われました。石灰化嚢胞性歯原性腫瘍は「石灰化歯原性嚢胞(Calcifying Odontogenic Cyst:COC)」として、歯原性嚢胞の分類に戻されたのです。つまり、12年ぶりに元の位置に戻ったということです。


同じ時期に歯原性角化嚢胞も同様の変更を受けました。2005年に「角化嚢胞性歯原性腫瘍」として腫瘍に分類されていたものが、2017年には「歯原性角化嚢胞」として嚢胞に再分類されています。これらの変更は、再発率の高さという臨床的特徴に基づいて2005年に腫瘍として扱われましたが、長期的な観察と研究の結果、嚢胞としての特性がより適切であると判断されたことを示しています。


この一連の分類変更は、歯科医療従事者にとって単なる名称変更以上の意味を持ちます。診断名、診療録の記載、保険請求、さらには治療計画の立案にまで影響を及ぼす重要な変更なのです。


日本臨床口腔病理学会による2017年WHO分類の詳細な解説資料(PDF)


石灰化歯原性嚢胞の特徴的な病理組織学的所見

石灰化歯原性嚢胞の診断において最も重要な組織学的特徴は、「幻影細胞(ghost cell)」と呼ばれる特殊な細胞の存在です。この幻影細胞は好酸性の胞体を持ち、核の輪郭だけが残って核自体は消失しているという特徴があります。まるで幽霊のように見えることから、この名前がついたわけです。


嚢胞壁の裏装上皮や内腔に、これらの幻影細胞が集塊として認められます。さらに特徴的なのは、これらの幻影細胞やその周囲に石灰化物が形成されることです。石灰化の程度は症例によって様々で、わずかな石灰化から広範な石灰化まで存在します。


裏装上皮は重層扁平上皮からなり、基底側は一層の円柱状または立方状の細胞で構成されています。上皮の一部には、エナメル上皮腫に類似した星状網様構造が観察されることもあります。これが2005年に腫瘍として分類された根拠の一つでもありました。


幻影細胞は単独で存在することもあれば、集簇して大きな塊を形成することもあります。この細胞が石灰化すると、組織切片上では濃い青紫色に染まり、容易に識別できるようになります。病理診断において、この幻影細胞と石灰化物の存在は決定的な証拠となるのです。


興味深いことに、充実性に増殖するタイプの病変では、「象牙質形成性幻影細胞腫(Dentinogenic Ghost Cell Tumor:DGCT)」として別に分類されています。これは以前、石灰化歯原性嚢胞の充実型と呼ばれていたもので、より腫瘍性の性格が強い病変です。嚢胞様形態をとらず浸潤性増殖を示すため、石灰化歯原性嚢胞とは区別して扱われるようになりました。


石灰化歯原性嚢胞の臨床像とX線画像所見の特徴

石灰化歯原性嚢胞の好発年齢には二峰性の分布が見られます。10歳から20歳代の若年層と、50歳から60歳代の中高年層に多く発生するという特徴があります。若年層の症例では歯牙腫を伴うことが多いという報告があり、この合併は診断の重要な手がかりとなります。


性差については明確な傾向は認められていません。男女ともに同程度の発生率を示すとされています。発生部位は前歯部から大臼歯部まで広範囲にわたりますが、上顎前歯部と下顎前歯部にやや多い傾向が報告されています。


臨床症状としては、多くの場合、顎骨の無痛性膨隆として発見されます。緩徐に増大するため、患者自身が気づかず、歯科検診やX線検査で偶然発見されるケースも少なくありません。増大すると皮質骨が菲薄化し、触診で羊皮紙様感を呈することがあります。これは骨が薄くなり、触ると紙のようにペコペコする感覚です。


X線所見では、境界明瞭な単房性の透過像として認められます。最も特徴的なのは、この透過像の中に大小さまざまな不透過像が散在することです。これは嚢胞内の石灰化物を反映しており、石灰化歯原性嚢胞の診断において極めて重要な所見となります。


透過像と不透過像が混在する特徴的な画像所見により、他の嚢胞性病変との鑑別が比較的容易になります。含歯性嚢胞歯根嚢胞では通常、このような石灰化物は認められません。ただし、石灰化が少ない症例では画像診断が困難になることもあり、最終的には病理組織学的検査による確定診断が必要です。


若年者の症例で歯牙腫を合併している場合、画像上で歯牙組織に類似した高度な不透過像が観察されることがあります。この場合、歯牙腫そのものなのか、石灰化歯原性嚢胞に合併した歯牙腫なのかを判断する必要があります。


2017年WHO分類改訂が歯科臨床現場に与える実務的影響

2017年のWHO分類改訂により、歯科医療従事者は実務上のいくつかの重要な変更に対応する必要が生じました。まず診療録の記載において、「石灰化嚢胞性歯原性腫瘍」から「石灰化歯原性嚢胞」への名称変更を正確に反映させることが求められます。


病名の記載が変わるということですね。


保険請求においても影響があります。腫瘍と嚢胞では、場合によって適用される診療報酬点数や手術コードが異なる可能性があるためです。レセプト記載時には、最新の分類に基づいた病名を使用する必要があり、古い病名のままでは査定の対象となる可能性も考えられます。


治療計画の立案においては、従来通り良性嚢胞に準じた治療アプローチが標準となります。基本的には嚢胞摘出術が第一選択となり、病変が大きい場合や下歯槽神経に近接している場合には開窓術を先行させることもあります。腫瘍ではなく嚢胞として扱うことで、より保存的な治療方針を選択しやすくなったと言えます。


歯科医師国家試験の出題においても、2017年以降の試験では新しい分類に基づいた問題が出題されています。受験生や若手歯科医師は新しい分類を正確に理解しておく必要があります。一方で、2017年以前に卒業した歯科医師は、学生時代に学んだ分類が変更されていることを認識し、知識をアップデートすることが重要です。


病理検査の依頼書や報告書においても、正確な病名の使用が求められます。検査依頼時に「石灰化嚢胞性歯原性腫瘍の疑い」と記載すると、病理医から「現在の分類では石灰化歯原性嚢胞です」と指摘される可能性があります。このような分類変更の経緯を知っていると、病理医とのコミュニケーションもスムーズになります。


患者への説明においても配慮が必要です。以前に「腫瘍」という診断を受けた患者が、セカンドオピニオンで「嚢胞」と言われた場合、混乱や不安を感じる可能性があります。WHO分類が改訂され、名称が変更されたことを丁寧に説明し、病態そのものが変わったわけではないことを理解してもらうことが大切です。


学会発表や論文執筆においては、どの時点のWHO分類に基づいているかを明記することが推奨されます。2005年分類に基づいた過去の文献を引用する際には、現在の分類との対応関係を明確にすることで、読者の理解を助けることができます。


日本臨床口腔病理学会の口腔病理基本画像アトラスにおける石灰化歯原性嚢胞の解説ページ


石灰化歯原性嚢胞の治療方針と予後管理における注意点

石灰化歯原性嚢胞の治療は、基本的に外科的摘出が原則となります。嚢胞壁を含めて一塊として摘出する嚢胞摘出術が標準的な治療法です。嚢胞壁が比較的薄く、完全に摘出しやすいという特徴があるため、多くの症例で良好な予後が期待できます。


ただし、病変が大きい場合や重要な解剖学的構造に近接している場合には、治療戦略を工夫する必要があります。特に下顎の症例で下歯槽神経に接している場合、神経損傷による知覚麻痺のリスクを避けるため、まず開窓術を行って病変を縮小させてから摘出術を行う二段階手術が選択されることがあります。


開窓術では、嚢胞の表面部分の壁のみを切除し、残った嚢胞壁を周囲の口腔粘膜と縫合します。これにより嚢胞内容が口腔内に排出され、嚢胞腔が徐々に縮小していきます。開窓後は定期的な洗浄と観察が必要で、数ヶ月から1年程度かけて病変を縮小させた後、残存する嚢胞壁を摘出します。


摘出術後の再発率については、石灰化歯原性嚢胞は比較的低いとされています。これは歯原性角化嚢胞の高い再発率(報告によっては83.3%)と対照的です。石灰化歯原性嚢胞の嚢胞壁には娘嚢胞や上皮の小塊が少なく、完全摘出が比較的容易であることが、低い再発率の理由と考えられています。


しかし、完全に再発がないわけではありません。特に若年者で歯牙腫を合併している症例では、術後の経過観察が重要です。摘出後は定期的なX線検査により、再発の有無を確認する必要があります。一般的には術後6ヶ月、1年、2年、5年といった間隔で経過観察を行うことが推奨されます。


歯牙腫を合併している場合の治療では、石灰化歯原性嚢胞の嚢胞壁と歯牙腫を一緒に摘出します。歯牙腫は過誤腫であり、単純摘出で再発はないとされていますが、石灰化歯原性嚢胞との合併例では病理組織学的検査が必須です。まれに他の歯原性腫瘍が合併していることもあるため、術前に生検を行うことが推奨される場合もあります。


術後の病理組織学的検査では、幻影細胞の有無、石灰化の程度、嚢胞壁の構造などを詳細に評価します。もし病理診断で別の病変が疑われた場合、治療方針の変更や追加治療が必要になることもあります。そのため、外科的摘出だけでなく、病理診断までを含めた一連の診療プロセスが重要なのです。


2017年の分類変更により、石灰化歯原性嚢胞は再び嚢胞として扱われるようになりましたが、臨床的には従来通り良性腫瘍に準じた慎重な対応が求められます。完全摘出と適切な経過観察により、ほとんどの症例で良好な予後が得られるということですね。


日本耳鼻咽喉科学会会報に掲載された歯原性嚢胞と歯原性腫瘍に関する総説論文(PDF)