生物学的インジケーターの使い方と判定・種類の基本

生物学的インジケーター(BI)の使い方を正しく理解していますか?指標菌の種類・PCD・判定時間・使用頻度まで、滅菌保証に必要な知識をわかりやすく解説します。

生物学的インジケーターの使い方と正しい判定方法

週1回のBI使用でも、前週まで遡った451件ものリコールが病院に発生していた。


📋 この記事の3ポイントまとめ
🔬
BIとは何か?

生物学的インジケーター(BI)は、指標菌の死滅をもって滅菌状態を確認する方法。滅菌法ごとに使用すべき指標菌が異なるため、正しい製品の選択が必須。

⚠️
使い方の注意点

BIはPCD(工程試験用具)内部に設置して使用するのが原則。器材内部に直接入れることはできず、コールドスポットへの配置が滅菌保証のカギとなる。

⏱️
判定時間と信頼性

短時間判定BI(数十分)は菌の生存を「予測」するもので、FDAの規定では偽陰性率が最大3%あることを踏まえた運用が不可欠。


生物学的インジケーターとは何か:BIの基本的な仕組みと目的

生物学的インジケーター(Biological Indicator:BI)とは、指標菌の死滅をもって滅菌状態を確認する方法です。医療機器の滅菌管理においては、物理的インジケータ・化学的インジケータ(CI)・生物学的インジケータ(BI)の3種類が存在しますが、その中でもBIは実際の菌を使って滅菌効果を直接的に確認できる、最も信頼性の高い手段とされています。


BIを用いた確認の考え方は、「器材と一緒に滅菌した指標菌が死滅していれば、実際の器材上の菌も死滅しているだろう」という論理に基づいています。本来であれば器材を全品検査して無菌性を確認すべきですが、検査した器材はその時点で無菌性が維持できなくなるため、現実的ではありません。そこで、実際の菌(指標菌)を用いたBIが間接的な確認手段として活用されています。これがBIの核心的な役割です。


指標菌には、各滅菌法に対して最も耐性の高い「芽胞菌」が採用されます。芽胞菌とは休眠状態の菌であり、通常の栄養状態と比べて耐熱性・耐薬品性が極めて高くなります。芽胞菌が滅菌できるということは、他の弱い菌も必ず死滅していると推定できるため、指標菌として適しています。


使用する指標菌は滅菌法によって以下のように定められています。









滅菌法 指標菌
高圧蒸気滅菌 Geobacillus stearothermophilus ATCC 7953
EOG滅菌 Bacillus atrophaeus ATCC 9372
過酸化水素ガス滅菌 Geobacillus stearothermophilus ATCC 7953
低温蒸気ホルムアルデヒド(LTSF)滅菌 Geobacillus stearothermophilus ATCC 7953


指標菌の選択は必ず守ることが原則です。加えて、同じ指標菌であっても滅菌法によって培養液の種類や基材(紙など)が異なります。例えば、高圧蒸気滅菌用BIに使われる「紙」はガスを大量に吸着してしまうため、過酸化水素ガス滅菌には絶対に使用できません。滅菌法に合った専用製品を選ぶことが基本です。


参考資料:日本医療機器学会「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021」BIに関する章。国際規格ISO11138の各滅菌法に対応した指標菌の規定を詳しく解説しています。


医療現場における滅菌保証のガイドライン2021(日本医療機器学会・PDF)


生物学的インジケーターの種類と培地一体型(SCBI)の使い方

BIにはその形態により、大きく3種類があります。それぞれ用途や必要な設備が異なるため、現場の状況に合わせた選択が求められます。


まず1つ目は培地一体型(SCBI:Self Contained Biological Indicator)です。プラスチック容器の中に、指標菌が塗布された紙片と、培養液が入ったガラスアンプルが一体化しています。滅菌後に容器を「クラッシュ(押し潰す)」すると内側のガラスアンプルが割れ、指標菌と培養液が接触する仕組みです。無菌操作が不要なため、医療現場では最もよく使われる形態です。


2つ目はストリップ型です。指標菌を塗布した紙片をグラシン紙で包装したタイプで、滅菌後に紙片を培養液へ無菌的に移し替える操作が必要です。クリーンベンチなどの専用設備と無菌操作の技術が求められるため、医療機関よりも製造業や産業分野での利用が中心です。


3つ目はサスペンション型(懸濁液型)です。所定の濃度の指標菌を懸濁した液体をガラス瓶に入れたもので、被滅菌物に直接植菌することができます。こちらもストリップ型と同様、無菌操作が必要で産業分野での採用が一般的です。


医療現場での使い方の主流はSCBIです。クラッシュ後の操作手順は次のとおりです。



  1. 滅菌物と一緒に、PCDまたは滅菌バッグ内にBIを設置する

  2. 通常の滅菌工程を実施する

  3. 滅菌後、BIをPCDまたは滅菌バッグから取り出す

  4. 容器をクラッシュしてガラスアンプルを割る

  5. 所定の培養温度でインキュベートする

  6. 培養液の変色(24時間判定の場合、紫→黄色 で陽性)や蛍光(短時間判定の場合)を確認して判定する


判定後に色の変化がなければ「陰性」=滅菌成功と判断します。これが基本的な使い方の流れです。


なお、SCBIはさらに「判定時間」によって細かく分類されます。この違いは後のセクションで詳しく解説します。


参考資料:meilleur(名優)SALWAY Journal「BIの判定方法の種類とその違い」。SCBIの構造や判定原理を図入りで詳しく解説しています。


【第1種滅菌技師が解説】BIの判定方法の種類とその違い(meilleur SALWAY Journal)


生物学的インジケーターの判定時間:確認型と予測型の違い

BIの判定時間は、製品によって「7日間」「24時間」「3時間」「数十分(例:24分)」と大きく異なります。判定時間が短いほど業務効率は上がりますが、仕組みが根本的に異なることを理解しておくことが重要です。


まず、判定時間の長い「7日間判定」と「24時間判定」は、菌の生存を「確認」するタイプです。


- 7日間判定:指標菌が培養液内で増殖し形成する「コロニー」を目視で確認します。滅菌されずに菌が生き残っていた場合、コロニーが目に見えるようになるまでおよそ1週間かかります。


- 24時間判定:指標菌が増殖すると培養液中の砂糖を分解して「酸」を産生します。培地に含まれるpH指示薬が変色(紫→黄色)することで、24時間以内に判定できます。ISO11138-8という国際規格に定められた方法です。


一方、「3時間判定」や「数十分判定」は、菌の生存を「予測」するタイプです。指標菌の表面に存在する酵素(たんぱく質)の活性を検出することで、菌の生存を短時間で推測します。分解すると蛍光を発する「人工の砂糖」を培養液に混ぜ、専用の培養器(インキュベータ)で蛍光を検出する仕組みです。


ここで非常に重要な点があります。芽胞菌は滅菌によってダメージを受けた後、すぐに増殖せず、12時間以上かけて自己修復してから増殖を始めることがあるとされています(参考文献:Pharmaceutical Technology誌)。表面の酵素が損傷した直後は「陰性(死滅)」と判定されても、時間が経った後に実は菌が生きていた、という「偽陰性」が起こりうるのです。


米国認証機関FDA(Food and Drug Administration)の規定では、短時間判定BIの信頼性は7日間判定との比較で97%以上であれば良いとされています。つまり、100本のBIを短時間で判定したとき、最大3本は偽陰性を示す可能性があることを十分に理解したうえで運用しなければなりません。


偽陰性の可能性がゼロではないという事実を知っておくことが必要です。短時間判定BIを導入する場合は、その特性と限界を正確に把握したうえで、適切な運用設計を行いましょう。


生物学的インジケーターの正しい設置場所:PCD・コールドスポットの考え方

BIを単体で滅菌バッグの中に入れればそれで十分、と思っている方は少なくありません。しかし実際には、BIの設置場所や設置方法が滅菌保証の質を大きく左右します。


BIは原則として、PCD(Process Challenge Device:工程試験用具)の内部に入れて使用します。PCDとは、意図的に蒸気浸透性を悪くする抵抗性をもったデバイスで、滅菌工程の有効性を評価するために使われます。実際の医療器材は複雑な形状をしており、器材の内腔(パイプの内側など)にインジケータを直接入れることは構造上できません。そこで、器材の内腔を模擬したPCDを使い、ワーストケースでの滅菌保証を確認するのです。


PCDには主に2種類あります。


- ポーラス型:多孔性の布やスポンジなどの固形物を詰めた形状。布類・ガーゼ・ドレープなどの柔らかい器材の滅菌保証に対応します。


- ホローロード型:細い管状の内腔を再現した形状。内視鏡シースや手術器械の管腔部位など、チューブ系・内腔器材の滅菌保証に必要なタイプです。


PCDはマスター製品(最も滅菌しにくい実際の器材)よりも滅菌抵抗性が高いものを選ぶことが重要です。これが「ワーストケースで考える」という滅菌保証の原則です。


次に、BIを設置する位置についても注意が必要です。滅菌器内で蒸気が最も届きにくい場所(コールドスポット)にPCDを設置することが求められます。高圧蒸気滅菌の場合、排水口付近の底部前方が一般的なコールドスポットとされています。コールドスポットへの設置が基本です。


また、BIはCIと組み合わせて使用するのが現在のガイドラインの方向性です。タイプ5 CIはBIの指標菌の死滅と相関が求められているため、タイプ5 CIが合格している場合はBIも必ず合格しているという関係があります。日常モニタリングにはBI・CI・ボウィー・ディックテストを組み合わせた多層的な確認体制が求められています。


参考資料:meilleur(名優)SALWAY Journal「洗浄・高圧蒸気滅菌の日常モニタリング」。BI・CI・PCDそれぞれの役割と設置方法を詳しく解説しています。


【洗浄・高圧蒸気滅菌の日常モニタリング】ガイドラインや施設評価ツールに対応するための考え方(meilleur SALWAY Journal)


生物学的インジケーターの使用頻度とBI陽性時のリコール対応

BIは週1回実施すれば十分、という考え方は危険です。使用頻度は実際のリコール規模に直結します。


『医療現場における滅菌保証のガイドライン2021』(日本医療機器学会)では、高圧蒸気滅菌に対するBIの使用頻度について「毎日、好ましくは毎回」と記載されています。これはガイドライン2015からの変更点で、2021年版では原則としてすべての施設で守ることが求められるようになりました。また施設評価ツール(2022年7月版)でもBIの1日1回以上の使用は必須項目に指定されています。


なぜ使用頻度がそれほど重要なのかというと、BI陽性(滅菌エラー)が発生した際のリコール(器材回収)の規模が、BIの使用頻度に完全に連動するからです。例えば月曜日に週1回BIを使用していた場合、BI陽性が確認されると「前回BIが陰性だった前週月曜日まで遡ってすべての器材を回収」しなければなりません。これは最大1週間分の器材が対象になることを意味します。


3施設に1施設がリコールを経験している現実があります。「滅菌保証に関する実態調査報告書4」(ソルベンタム調査)によると、1年半の調査期間に34.1%(168施設) がリコールを経験し、把握できた範囲で合計451件のリコールが発生していました(1施設あたり平均3.9件)。


BI陽性が発生した際の対応手順は、以下の流れが基本となります。



  1. 作業記録を確認し、滅菌器の運転を停止する

  2. 院内感染対策チーム(ICT)・リスクマネジメントチームへ報告する

  3. リコール対象となる部門へ連絡し、器材の使用停止を指示する

  4. 前回BI陰性の滅菌工程まで遡り、対象器材をすべて回収・再包装・再滅菌する

  5. 対象器材を患者に使用していた場合は担当医へ報告し、経過観察等の対処を行う

  6. 陽性の原因を追究し、滅菌器の修理・確認を実施する

  7. リコール報告書を作成・提出する


リコールのインパクトを最小化するためには、BIの使用頻度を上げることが最も有効な対策です。さらに24分判定などの短時間BIを導入して「BI判定後に器材を払い出す」運用を組み合わせると、万が一の陽性でもリコール対象は1サイクル分に限定できます。ソルベンタムの「3M™ アテスト™ 超短時間判定用生物学的モニタリングシステム」などは、この運用を現実的にするツールとして知られています。


BIの使用頻度と払い出しのタイミングを見直すことが条件です。日常運用を今一度確認してみてください。


参考資料:ソルベンタム「滅菌不良が起きたら(リコール体制の整備)」。BI使用頻度別のリコール規模の違いと、具体的な対応ステップを詳しく解説しています。


滅菌不良が起きたら(リコール体制の整備)|ソルベンタム


【独自視点】化学的インジケーター(CI)との組み合わせ運用で生物学的インジケーターの弱点を補う

BIだけで滅菌保証は完結しない、というのが現場の実態です。BIには固有の限界があるため、CIと組み合わせた多層的なモニタリング体制を構築することが、より確実な滅菌保証につながります。


BIの弱点として代表的なのが「リアルタイム性がないこと」です。BIは滅菌後に培養が必要なため、判定が出る前に器材を払い出すケースが生じると、BI陽性が判明した時点で既に器材が患者に使用されているという状況になりかねません。これがリコール拡大の根本的な原因です。


この弱点を補うのが、タイプ5 CI(インテグレーティング・インジケータ)です。タイプ5 CIは国際規格ISO11140-1において、BIの指標菌の死滅と相関することが要求されており、「タイプ5 CIが合格していれば、BIは必ず合格している」という関係が成立します。すなわち、タイプ5 CIが変色(合格)していれば、滅菌の達成を即座に確認でき、器材の払い出し判断がBIの培養結果を待たずに可能になります。これは使えそうです。


実際の運用では、以下のような組み合わせが効果的です。



  • 🟢 毎日:ボウィー・ディックテスト(滅菌器の空気除去性能確認)

  • 🟢 全包装物:タイプ5 CI(器材表面への蒸気曝露確認+即時払い出し判断)

  • 🟢 毎日1回以上:BI(指標菌の死滅確認=最も直接的な滅菌保証)

  • 🟢 毎サイクル(推奨):BI(リコール規模最小化のため)


BI単独では「リアルタイム確認ができない」、タイプ5 CI単独では「菌を実際に使った確認ではない」という各々の限界を、組み合わせることで互いに補い合う構造を作れます。BIとタイプ5 CIの組み合わせが条件です。


また、もう一つ見落とされがちな点があります。滅菌不良の主な原因として「不適切な包装(27%)」「滅菌機の故障(27%)」に次いで「BIの不適切な使用方法(5%)」も含まれていることです(前述のリコール調査より)。どんなに優秀なBIでも、使い方を誤れば滅菌保証の意味をなしません。適切なPCDへの設置、正しい指標菌の選択、適切な培養温度・時間の管理、記録の保管——これらすべてをセットで正しく運用することが、真の滅菌保証につながります。


BIとCIを組み合わせた運用を学びたい場合は、日本医療機器学会が発行している「医療現場における滅菌保証のための施設評価ツール(Ver1.01)」が自施設の現状確認に役立ちます。


参考資料:meilleur(名優)SALWAY Journal「滅菌インジケータとは?CIやBIの種類や使い方」。BIとCIの相関関係など、両者を組み合わせた滅菌保証の全体像を解説しています。


【画像あり】滅菌インジケータとは?CIやBIの種類や使い方(meilleur SALWAY Journal)