ルフォーIII型骨折の診断と治療法

顔面中央部が頭蓋骨から離断されるルフォーIII型骨折は、歯科医療従事者にとって重症度の高い緊急対応が求められる外傷です。診断から手術、合併症まで適切な知識を持っていますか?

ルフォーIII型骨折の診断と治療

ルフォーIII型骨折では3時間以上の手術時間が必要です。


この記事の3つのポイント
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頭蓋顔面離断の重症骨折

ルフォーIII型骨折は顔面中央部が頭蓋骨から完全に分離する最重症型の顔面骨折で、髄液漏や大量出血を伴う可能性があります

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3次元CT画像診断が必須

複雑な骨折線を正確に把握するため、2方向以上のCT撮影と3次元再構成画像による空間的把握が診断の要となります

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多点固定による手術治療

上顎前頭縫合部と頬骨前頭縫合部の2点以上をチタンプレートで固定し、受傷後2週間以内の手術実施が推奨されます


ルフォーIII型骨折の定義と発生メカニズム


ルフォーIII型骨折は、顔面骨折の中で最も重症度が高い外傷のひとつです。この骨折では、顔面中央部全体が頬骨を含めて頭蓋骨と完全に離断される状態を指します。フランスの外科医ルネ・ル・フォールが1901年に発表した分類に基づいており、頭蓋顔面剥離とも呼ばれています。


骨折線は鼻骨前頭縫合部から始まり、両側に走行します。上顎前頭縫合を経て眼窩内側壁を通過し、下眼窩裂、上眼窩裂を経由して眼窩外壁に達するのが特徴です。さらに頬骨前頭縫合、頬骨側頭縫合を経て、外側に向かって広がります。つまり、顔面骨格が文字通り頭蓋底から剥離してしまう状態です。


発生原因として最も多いのは、交通事故による高エネルギー外傷です。時速50km以上で走行中の自動車同士の衝突や、歩行者と自動車の衝突などで発生します。次いで多いのが高所からの転落、そして暴行による受傷も報告されています。顔面に対して非常に強い鈍的な力が加わることで、骨の弱点に沿って骨折が生じるメカニズムです。


ルフォーI型やII型と比較すると、III型の発生頻度は最も少ないとされています。顔面骨骨折全体の中で、ルフォーIII型が占める割合は約5〜10%程度です。しかし重症度は最も高く、生命に関わる合併症を伴うリスクが大きいため、歯科医療従事者は確実に識別できる知識が求められます。


臨床的には、顔面が細長く見える特徴的な外観を呈します。顔面上下径が延長したように見え、いわゆる「馬顔」と表現されることもあります。また、眼球の位置異常や、頬骨の陥凹なども観察される場合があります。


ルフォーIII型骨折の臨床症状と診断基準

ルフォーIII型骨折の診断において、歯科医療従事者が最初に注目すべき症状がいくつかあります。まず視診で確認できるのは、顔面全体の高度な腫脹と皮下出血です。特に眼周囲に両側性の皮下出血が生じ、いわゆる「パンダの目」と呼ばれる特徴的な所見を呈します。この症状は頭蓋底骨折を示唆する重要なサインです。


触診では、鼻根部と頬骨前頭縫合部に可動性が認められます。骨折部を軽く触れると、骨片が動くことを感じ取れるでしょう。ただし、感染リスクや疼痛を考慮し、触診は必要最小限にとどめることが原則です。


咬合異常も重要な診断ポイントとなります。上下の歯が正常に噛み合わない状態が観察され、患者自身も「噛み合わせがおかしい」と訴えることが多いです。開口障害を伴うこともあり、口を十分に開けられない場合があります。


ルフォーII型およびIII型骨折に特有の症状として、頭蓋底損傷による髄液鼻漏があります。透明でサラサラとした液体が鼻から持続的に漏れ出る状態です。この髄液漏は、髄膜炎などの重篤な感染症を引き起こすリスクがあるため、早期発見が極めて重要となります。嗅覚障害を伴うこともあり、患者が匂いを感じにくいと訴える場合は要注意です。


眼症状も見逃せない診断ポイントです。眼球の変位や陥凹、複視(物が二重に見える)、眼球運動制限などが生じます。眼窩下神経の損傷により、頬や上唇の感覚が鈍くなる眼窩下感覚低下も高頻度で認められます。


画像診断では、少なくとも2方向(軸位断と冠状断)のCT画像が必須です。単純X線写真では骨折線の詳細な把握が困難なため、CTによる精密な評価が推奨されます。3次元CT画像を用いることで、複雑な骨折の空間的把握が可能となり、手術計画の立案にも役立ちます。形成外科診療ガイドラインでも、3次元CT画像は単純X線や2次元CT画像に比べて有用であるとされています。


日本形成外科学会の公式サイトでは、ルフォー型骨折の詳細な症状と診断基準が解説されています


ルフォーIII型骨折の手術治療と固定法

ルフォーIII型骨折の治療は、原則として手術による観血的整復固定術が選択されます。手術のタイミングは受傷後2週間以内が推奨されており、早期の治療介入が重要です。2週間を超えると、骨折部が誤った位置で癒合し始め、整復が困難になるためです。


ただし、緊急手術が必要となるケースもあります。上顎骨が下方に高度に脱臼し気道を圧迫している場合や、大量出血が持続する場合は、直ちに手術室での処置が求められます。中顔面骨折では大量出血を合併することがあり、出血コントロールと骨折整復を同時に行う必要があるのです。


手術のアプローチ方法は、ルフォーI型と比較してより複雑です。ルフォーI型では口腔内からのアプローチのみで済みますが、III型では経皮的アプローチとの併用が必須となります。具体的には、口腔内の上顎前庭粘膜切開に加えて、両側眉毛外側切開、鼻根部切開、または冠状切開(頭皮の切開)が必要です。


下眼瞼切開を追加するケースもあります。


固定法については、形成外科診療ガイドラインにおいて明確な推奨が示されています。ルフォーIII型骨折では基本的に、上顎前頭縫合部および頬骨前頭縫合部の2点固定が必要です。さらに頬骨弓の状態によって、頬骨部の固定も追加します。


つまり3点固定となるわけです。


固定材料には、チタン製ミニプレートとスクリューが使用されます。チタンは生体親和性が高く、MRI撮影にも対応できる利点があります。近年では、数ヶ月で体内に吸収される吸収性プレートを使用することも可能になりました。吸収性プレートは、将来的な抜去手術が不要という点で患者負担の軽減につながります。


手術時間は、ルフォーI型や矢状骨折では2時間程度ですが、II型・III型では受傷からの経過日数や骨片の転位状態により3時間から6時間に及びます。大学病院など高次医療機関での実施が一般的で、形成外科医と口腔外科医が協力して手術にあたるケースも多いです。


術後は咬合改善目的で顎間ゴム牽引を行うことがあります。上下の歯を軽く引っ張り合うことで、正しい咬合位置に誘導する方法です。完璧な咬み合わせの回復には、術後に歯科矯正治療を要することもあります。


入院期間は多くの場合1週間程度ですが、合併症の有無や全身状態により延長されることもあります。退院後も定期的な外来通院が必要で、骨癒合の確認と機能回復の評価を行います。


ルフォーIII型骨折の合併症と長期予後

ルフォーIII型骨折は、頭蓋底に近接した部位の骨折であるため、重篤な合併症を伴うリスクが高い外傷です。


最も注意すべき合併症が髄液漏です。


頭蓋底骨折により硬膜が破れ、脳脊髄液が鼻腔や副鼻腔に漏出する状態を指します。髄液漏が持続すると、細菌が頭蓋内に侵入して髄膜炎や脳炎を引き起こす危険性があります。


髄液漏の診断には、流出液の性状確認が重要です。透明でサラサラとした液体が特徴で、鼻水とは明らかに異なります。βトランスフェリン検査という特殊な検査で確定診断が可能です。髄液漏が確認された場合は、抗生物質の投与と経過観察が基本となりますが、自然閉鎖しない場合は外科的修復が必要となります。


眼症状の合併症も高頻度で認められます。眼球運動障害による複視は、数週間から数ヶ月かかって徐々に回復するケースが多いです。しかし、完全には回復せず後遺症として残ることもあります。視力障害や失明といった重篤な眼合併症は、視神経損傷や眼窩内血腫による視神経圧迫で生じる可能性があります。


眼窩下神経損傷による感覚障害も頻繁に見られる合併症です。頬から上唇にかけての領域に、しびれや感覚鈍麻が生じます。多くは時間経過とともに改善しますが、永続的な感覚障害が残る割合は約10〜20%と報告されています。歯科治療を受ける際にも、この感覚障害に配慮した対応が求められます。


咬合異常が残存すると、咀嚼機能の低下や顎関節症を引き起こします。術後に適切な咬合が得られなかった場合、歯科矯正治療や再手術が必要となることがあります。開口障害が持続するケースでは、リハビリテーションとして開口訓練を継続的に実施します。


顔面変形も見逃せない問題です。骨片の整復が不十分だと、顔の幅や高さが変化し、審美的な問題を残します。特に若年者では、成長に伴って変形が目立つようになることもあります。このような場合、将来的に二次修正手術を検討する必要が生じます。


慢性副鼻腔炎や慢性涙嚢炎といった遅発性合併症にも注意が必要です。骨折による副鼻腔や涙道の狭窄が原因で、感染を繰り返すことがあります。これらは保存的治療で改善しない場合、外科的処置を要することがあります。


予後については、早期診断と適切な手術治療により、多くの症例で良好な機能回復が得られます。しかし、受傷時の損傷程度や合併症の有無により、予後は大きく異なります。骨癒合には通常3〜6ヶ月を要し、その間は硬い食物を避けるなど食事内容の制限が必要です。


歯科医療従事者が知るべきルフォーIII型骨折の初期対応

歯科診療所において、ルフォーIII型骨折の疑われる患者が来院した場合、適切な初期対応と迅速な専門医療機関への紹介が極めて重要です。


まず全身状態の評価を最優先で行います。


意識レベル、呼吸状態、循環動態を確認し、生命を脅かす状態でないかを判断します。


気道確保の評価も重要なポイントです。顔面骨折により気道が狭窄または閉塞している可能性があります。呼吸音の聴取、チアノーゼの有無、SpO2値の測定を行い、必要に応じて救急車を要請します。特に上顎骨が後下方に転位している場合、気道閉塞のリスクが高まります。


大量出血への対応も緊急度が高いです。顔面からの出血が持続している場合は、清潔なガーゼで圧迫止血を試みます。ただし、鼻出血に対して安易にタンポナーデを行うと、骨折部がさらに離開して出血が増悪する危険性があります。出血コントロールが困難な場合は、直ちに高次医療機関へ搬送します。


髄液漏の疑いがある場合は、特別な注意が必要です。透明な液体が鼻から持続的に流出している場合、髄液漏の可能性を考慮します。この場合、鼻腔への器具挿入や鼻腔洗浄は厳禁です。


頭蓋内感染のリスクを高めるためです。


患者を半座位にして、安静を保ちながら専門医療機関への搬送を手配します。


疼痛管理も初期対応の重要な要素です。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の投与が一般的ですが、出血傾向を増悪させる可能性があるため、使用には慎重な判断が求められます。アセトアミノフェン系の鎮痛薬がより安全な選択肢となります。


抗生物質の予防投与については、専門医の判断を待つことが原則です。しかし、明らかな開放骨折で、専門医療機関への搬送に時間を要する場合は、初期投与を検討することもあります。ペニシリン系抗生物質が第一選択となりますが、アレルギー歴の確認が必須です。


患者および家族への説明も、歯科医療従事者の重要な役割です。専門的な手術治療が必要であること、入院期間が1週間程度必要となること、機能回復には数ヶ月を要することを分かりやすく伝えます。不安を軽減するための心理的サポートも忘れてはなりません。


紹介先の選定では、形成外科または口腔外科を有する総合病院や大学病院が適切です。CT撮影設備と手術室を備えた施設への紹介が望ましいでしょう。紹介状には、受傷機転、受傷時刻、初診時の症状と所見、実施した処置内容を詳細に記載します。


日本口腔外科学会の公式サイトでは、顎骨骨折の初期対応について詳しい情報が提供されています


ルフォーIII型骨折を含む重症顔面骨折への対応能力を高めるには、日頃からの知識更新が欠かせません。形成外科や口腔外科の専門医との連携体制を構築しておくことで、緊急時にスムーズな対応が可能となります。




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