生後1年間にロイテリ菌を毎日摂取した子どもは、9歳時点での虫歯有病率がプラセボ群の58%に対して82%が虫歯ゼロだったことが、臨床試験で示されています。
歯科臨床の現場でよく耳にするようになった「ロイテリ菌」ですが、その根拠はどれほど確かなものなのでしょうか?
スウェーデンの研究グループが行った前向きコホート試験では、妊娠最終月の母親とその後1年間の乳児に対してロイテリ菌(ATCC 55730株)を毎日経口投与した結果、9歳時点でプロバイオティクス投与群の82%が虫歯なしだったのに対し、プラセボ群は58%にとどまりました。これは統計的に有意な差です(p<0.01)。
つまり、乳歯列期の虫歯予防効果が9歳まで持続するということですね。
虫歯の主原因菌であるミュータンス菌(Streptococcus mutans)に対して、ロイテリ菌は「ロイテリン(reuterin)」という抗菌物質を産生し、その増殖を直接抑制します。試験管内ではミュータンス菌の約90%の発育を抑制したという報告もあります。これは単なる整腸作用ではなく、口腔内での競合排除による直接的なメカニズムです。
さらに口腔内のpHを上昇させる作用もあり、酸産生環境そのものを改善します。これは酸蝕症リスクの高い乳幼児においては特に重要な点です。
保護者への指導ポイントとして、乳歯が萌出し始める生後6〜8か月頃から口腔内菌叢が急速に変化します。この時期以前に口腔内環境を整えておくことが、将来の虫歯リスクを大きく左右します。
PubMed:L. reuteri投与により9歳時点での乳歯列虫歯有病率が有意に低下したコホート試験(Caries Res. 2014)
「虫歯予防の菌なのに、なぜ夜泣きに関係するのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
ロイテリ菌はもともと母乳に大量に含まれているヒト由来の乳酸菌です。生後早期の乳児は腸内細菌叢が未発達であり、この腸内環境の乱れが疝痛(コリック)や夜泣きの主要な原因のひとつとされています。バイオガイアと小児科医の研究チームは、ロイテリ菌が腸内細菌の形成不全を改善することで、95%以上の夜泣き時間が1日合計50分以下になることを発見しました。
夜泣きが改善される。これは保護者にとって非常に大きなメリットです。
臨床試験(ClinicalTrials.gov:NCT04262648)では、生後1か月の乳児においてL. reuteri NCIMB 30351の摂取が、逆流・摂食誘発性便秘・下痢・1日平均泣く回数・泣く時間をすべて有意に減少させたことが確認されています。また、有害事象は報告されていません。
歯科医院で「お子さんの夜泣きでお困りではないですか?」と声かけし、ロイテリ菌の摂取を提案することで、歯科と育児支援を組み合わせた患者体験を提供できます。保護者の満足度向上にもつながる、独自の診療価値を生み出せます。
グロースリング(小児医療ポータル):L. reuteri NCIMB 30351の乳児疝痛・夜泣きへの効果に関する臨床試験の要約
歯科医従事者として特に注目してほしい視点があります。
ロイテリ菌は腸管免疫を活性化し、全身の感染症リスクを下げることが示されています。具体的には、ロイテリ菌を摂取した乳児は未摂取の乳児と比べて抗生物質の処方回数が有意に少ないことが確認されており(p=0.037)、発熱日数・受診回数・欠席日数もすべて有意差があります。
抗生物質の使用が減る。これは歯科にとっても重要な情報です。
なぜなら、抗生物質の長期・頻回使用は口腔内菌叢にも影響し、薬剤耐性菌のリスクや口腔カンジダ症の増加につながるからです。ロイテリ菌で全身の免疫を底上げし、抗生物質使用頻度を抑えることは、口腔内環境の安定にも間接的に寄与します。
保護者に「小さいうちからロイテリ菌を摂ると、風邪をひきにくくなり、抗生物質を使う機会も減ります」と説明することで、歯科以外の健康メリットも伝えられます。これは受診継続率の向上にも直結します。
バイオガイア公式:ロイテリ菌と感染症・アレルギー改善に関するエビデンス解説
ここが多くの歯科医従事者が見落としがちなポイントです。
ロイテリ菌の摂取開始は「生まれた瞬間から」ではなく、妊娠中(マイナス1歳)から始めることが推奨されています。前述のスウェーデンの試験でも、母親が妊娠最終月から摂取を始めており、母乳を通じて新生児への菌の移行を早期に促す狙いがあります。
これは基本です。妊婦さんへの指導が虫歯予防の第一歩です。
赤ちゃんへの投与形態はリキッドタイプが標準的で、スプーンで5滴を1日1回が目安です。タブレットは噛まずに舐めて使用するため、乳歯萌出後の幼児向きです。摂取のタイミングは就寝前の歯磨き後が最も効果的とされており、就寝中は唾液分泌が減少して菌が定着しやすい環境になるためです。
保護者に「歯磨きのあとにこのひと滴を舌の上に垂らしてあげてください」と具体的に伝えると、習慣化のハードルが下がります。指導にはバイオガイア チャイルドヘルス(10ml)などの市販製品を参考資料として示すと、保護者が自分で購入・継続しやすくなります。
ただし、ロイテリ菌の効果は摂取を継続している間が最も安定しており、中断後は徐々に口腔内での定着率が低下するという研究結果もあります。継続性の重要さを保護者に繰り返し伝えることがポイントです。
八潮の歯科:マイナス1歳から始める虫歯予防、ロイテリ菌の具体的な指導方法を紹介
ここでは、検索上位の記事にはない独自の視点を紹介します。
「ロイテリ菌を勧めるだけ」では、歯科医院の差別化にはなりません。近年注目されているのが、ロイテリ菌を核にした「バクテリアセラピー」というプロトコルを院内に組み込む取り組みです。これはスウェーデン発祥の予防医療の概念で、「悪玉菌を殺す」のではなく「善玉菌を積極的に補給してバランスを整える」という発想の転換です。
考え方が変わると、治療の提案が変わります。
具体的には、妊婦さんが産前歯科検診で来院した際に、母体のSMT(唾液検査)結果とあわせてロイテリ菌摂取のカウンセリングを組み込むフローを作ることが有効です。「お母さんの口から赤ちゃんに菌が移る可能性があります。だから今から善玉菌を増やしておきましょう」という説明は、垂直感染予防の文脈として保護者に非常に響きます。
ミュータンス菌の垂直感染リスクは、母親の菌量が多いほど高いことが知られています。ロイテリ菌摂取によって母親自身のミュータンス菌量を減らすことが、赤ちゃんへの感染リスクを下げる最も合理的なアプローチのひとつです。これが「マイナス1歳からの予防」の本質であり、歯科医院がロイテリ菌指導に積極的に取り組む最大の臨床的根拠です。
歯科医院でロイテリ菌タブレットをPMTC後のお土産として提供し、次回来院時に継続状況を確認するルーティンを作ると、リコール率と患者満足度の両方を高める仕組みになります。サプリメントを媒介にして患者との関係を継続する「予防マーケティング」の観点からも、バクテリアセラピーの導入は投資対効果が高いと言えます。
ハートデンタルクリニック(吉祥寺):歯科でのバクテリアセラピー実践事例と患者説明の具体的方法
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