立効散と舌痛症の効果的な治療と症状緩和の方法

立効散は舌痛症に効果的な漢方薬として注目されています。本記事では立効散の成分や作用機序、舌痛症の症状と原因、効果的な使用法について詳しく解説します。あなたの患者さんに最適な治療法を見つけるヒントになるのではないでしょうか?

立効散と舌痛症

立効散と舌痛症の基本情報
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立効散とは

歯痛や口腔内の疼痛に効果的な漢方薬で、5種類の生薬から構成され、表面麻酔効果、鎮痛作用、抗炎症作用を持ちます。

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舌痛症の特徴

舌に明らかな病変がないにもかかわらず、ピリピリ、ヒリヒリとした痛みや灼熱感が持続する疾患で、中高年女性に多く見られます。

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治療アプローチ

立効散は舌痛症に対して、局所麻酔効果と全身的な鎮痛・抗炎症作用により症状緩和が期待できます。

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舌痛症は、舌に明らかな病変がないにもかかわらず、ピリピリ、ヒリヒリとした痛みや灼熱感が持続する疾患です。この症状に悩む患者さんは少なくなく、特に40〜70歳代の中高年女性に多く見られます。舌痛症の治療には様々なアプローチがありますが、その中でも漢方薬である立効散が注目されています。

 

立効散は、歯痛や口腔内の疼痛に効果的な漢方薬として古くから用いられてきました。近年では、舌痛症に対する効果も報告されており、歯科医療の現場でも活用されています。立効散の特徴は、表面麻酔効果、鎮痛作用、抗炎症作用を併せ持つことであり、これらの作用が舌痛症の症状緩和に寄与しています。

 

本記事では、立効散の成分や作用機序、舌痛症の症状と原因、そして立効散を用いた効果的な治療法について詳しく解説します。歯科医療従事者の方々にとって、患者さんの苦痛を和らげるための有用な情報となれば幸いです。

 

立効散の成分と漢方的薬能について

立効散は5種類の生薬から構成される漢方薬で、その成分と薬能は以下の通りです。

  1. 細辛(サイシン) - 2g
    • 帰経:心・肺・腎
    • 作用:局所麻酔作用、鎮咳作用、抗アレルギー作用
    • 効能:寒湿の邪を除き、痺れて痛い痹痛を治す。口の傷、喉、う蝕の痛みにも効果がある
  2. 升麻(ショウマ) - 2g
    • 帰経:胃・大腸
    • 作用:抗炎症作用、鎮痛・鎮静・鎮痙作用
    • 効能:風熱を散らし、陽明経への引経薬の働きを持つ。頭痛、咽頭部・喉頭部の腫脹などを治す
  3. 防風(ボウフウ) - 2g
    • 帰経:肝・膀胱
    • 作用:解熱、鎮痛、消炎、抗菌作用
    • 効能:風・寒・湿の邪を受けて起きた頭痛、体の痛みを治す
  4. 甘草(カンゾウ) - 1.5g
    • 帰経:十二経
    • 作用:消炎作用、抗潰瘍作用、抗アレルギー作用、抗ウイルス作用、ステロイド様作用
    • 効能:健胃補脾、諸薬を調和する働きがある
  5. 竜胆(リュウタン) - 1g
    • 帰経:肝・胆・膀胱経
    • 作用:抗炎症作用、解熱作用
    • 効能:熱を冷まし湿を燥す。肝胆の実火による眼の炎症も治す

立効散の名前の由来は、「立ちどころに効果のある薬」という意味から来ています。李東垣(1180-1251)著の『蘭室秘蔵』口歯論に記載があり、「牙歯痛みて忍ぶべからず、頭脳項背に及び、微しく寒飲を悪み、大いに熱飲を悪むを治す」とされています。

 

立効散の生薬バランスは平性(寒熱のバランスが取れている)になっており、病態を気にせず使用できる特徴があります。細辛の局所麻酔作用と全体としての解表薬(表の症状を解く)と清熱薬の組み合わせにより、表熱にも用いられます。

 

舌痛症の症状と原因の詳細解説

舌痛症(口腔内灼熱症候群)は、舌に明らかな病変がないにもかかわらず、持続的な痛みや灼熱感を感じる疾患です。全人口の1~3%に発症するとされ、特に更年期の女性に好発します。

 

【舌痛症の主な症状】

  1. 舌の先端や縁にヒリヒリ、ピリピリした痛みや不快感、灼熱感が3か月以上持続
  2. やけどをしたような痛みや、歯にこすれるような痛みを訴えることも
  3. 肉眼で見て、舌の表面には何ら異常を認めない
  4. 食事には支障がなく、かえって痛みが和らぐことが多い
  5. 何かに夢中になっている時は、痛みが紛れることがある
  6. 約60%で味覚障害(苦い、辛い、渋い、など)を伴う
  7. 起床時よりも午後から夕方にかけて悪化することがある
  8. 半数以上が口腔乾燥症やザラザラ感を伴う

【舌痛症の患者の特徴】

  • 40歳代から70歳代の中高年の女性が患者さんの80%を占める
  • 真面目で几帳面な性格の人がなりやすい傾向がある
  • 歯科治療が発症の契機になることが多い
  • 舌癌を心配して受診される方が多い

【舌痛症の原因】
舌痛症の原因は、まだはっきりとしたことはわかっていませんが、以下のような要因が考えられています。

  1. 神経学的要因:脳内伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)の何らかの異常
  2. 心理的要因:ストレスや不安、抑うつ状態
  3. 内分泌的要因:更年期障害、甲状腺機能異常
  4. 栄養学的要因:ビタミンB群、亜鉛、鉄などの欠乏
  5. 局所的要因:口腔乾燥、口腔カンジダ症、舌の悪習癖

また、二次性の舌痛症と呼ばれる、痛みを起こす原因疾患があるものもあります。糖尿病シェーグレン症候群、鉄欠乏性貧血、悪性腫瘍などの全身疾患や、不適合な補綴物、歯科材料のアレルギーなどが原因となることもあります。

 

舌痛症の診断は、痛みについての問診をもとに、血液検査、唾液分泌量検査、細菌検査などを行い、背後に原因疾患がないことを確認することが重要です。必要に応じて、X線・MRI検査なども行われます。

 

立効散の舌痛症への効果的な使用法と服用方法

立効散は舌痛症の治療において、その表面麻酔効果と鎮痛・抗炎症作用により効果を発揮します。以下に、立効散の効果的な使用法と服用方法について解説します。

 

【基本的な服用方法】

  1. 含漱法(がんそうほう)
    • 立効散をぬるま湯に溶かし、口に含んで1分程度保持します
    • できるだけ痛みのある部位に薬液が触れるようにします
    • その後、飲み込むか吐き出します(両方の方法があります)
  2. 舌下法
    • 外出先などでぬるま湯が用意できない場合は、立効散を直接舌の下に入れます
    • 口の中で自然と溶けて、気になる部位が浸る状態になります
  3. 内服法
    • 通常は1日3回、食前または食間に服用します
    • 一般的な用量は7.5g/日(2.5g×3回)ですが、症状に応じて調整されます

【効果的な使用のポイント】

  • 立効散は「匙をもってすくいて、口中において、痛むところを燥して、少時を待つ時は即ち止む」と古典に記載されているように、局所に直接作用させることで効果が高まります
  • 含漱後に内服することで、局所作用と全身作用の両方が期待できます
  • 症状の改善に伴い、徐々に減量していくことが一般的です(例:7.5g/日→5g/日→必要時のみ)
  • 効果の発現には個人差があり、即効性を示す場合もあれば、数週間の継続服用が必要な場合もあります

【実際の臨床例】
ある臨床例では、53歳女性の抜歯後疼痛に対して立効散7.5g/日の内服を開始したところ、5日目に疼痛が軽減し、43日目に5g/日に減量、47日目には服用せずとも痛みがなくなり、55日目に治療を終了しています。

 

【注意点】
立効散を服用する際には、以下の点に注意が必要です。

  • 以前に薬を使用して、かゆみ、発疹などのアレルギー症状が出たことがある方は医師に伝える
  • 妊娠または授乳中の方は医師に相談する
  • 他の薬を使用している場合は、相互作用の可能性があるため医師に伝える
  • まれに副作用として、偽アルドステロン症やミオパチーの症状が現れることがある

立効散は、西洋医学的な治療が奏功しない舌痛症に対する選択肢として、また西洋薬の補助として併用することで、高い効果を上げることが報告されています。

 

舌痛症に対する漢方治療の選択肢と比較

舌痛症の治療には、立効散以外にも様々な漢方薬が用いられています。患者さんの「証」(体質や症状の現れ方)に合わせて、適切な漢方薬を選択することが重要です。以下に、舌痛症に用いられる主な漢方薬とその特徴を比較します。

 

【舌痛症に用いられる主な漢方薬】

  1. 立効散(りっこうさん)
    • 特徴:表面麻酔効果、鎮痛作用、抗炎症作用を併せ持つ
    • 適応:舌の痛み、歯痛、抜歯後の痛み
    • 構成生薬:細辛、升麻、防風、甘草、竜胆(5種類)
    • 使用法:含漱後に内服することで局所作用と全身作用の両方が期待できる
  2. 加味逍遙散(かみしょうようさん)
    • 特徴:精神不安などの精神神経症状に用いられる
    • 適応:舌痛症の治療において最初に使用されることが多い
    • 構成生薬:当帰、芍薬、白朮、茯苓、柴胡、牡丹皮、山梔子、甘草、生姜、薄荷(10種類)
    • 効果:内分泌的な調整作用と鎮痛作用、鎮静作用がある
  3. 五苓散(ごれいさん)
    • 特徴:口渇、ドライマウスに対し使用される
    • 適応:舌痛症の患者さんの半数以上がドライマウスを伴うため使用
    • 構成生薬:沢瀉、猪苓、茯苓、白朮、桂皮(5種類)
    • 効果:水分の代謝を調整する作用がある
  4. 柴朴湯(さいぼくとう)
    • 特徴:精神不安、抑うつ傾向の患者さんの喉の違和感、咳止めに使用
    • 適応:病気の背景が舌痛症に似ていることから使用
    • 構成生薬:柴胡、半夏、黄芩、人参、大棗、生姜、茯苓、厚朴、蘇葉、甘草(10種類)
    • 効果:精神的な要素が強い舌痛症に効果的
  5. 小柴胡湯(しょうさいことう)
    • 特徴:舌が白くなっていたり、口の中の不快感がある時に効果がある
    • 適応:口内不快感を伴う舌痛症
    • 構成生薬:柴胡、半夏、黄芩、人参、大棗、生姜、甘草(7種類)
    • 効果:抗炎症作用があるほか、亜鉛を含むことから、亜鉛による効果も期待できる

【漢方薬の選択基準】
漢方薬の選択は、患者さんの「証」に基づいて行われます。舌痛症の場合、以下のような点を考慮して選択されます。

  • 口の乾燥感の有無(ドライマウス)
  • 精神的要素の強さ(不安、抑うつ)
  • 舌の状態(白苔の有無など)
  • 全身症状(冷え、のぼせなど)
  • 痛みの性質(ピリピリ感、灼熱感など)

【立効散と他の漢方薬の使い分け】

  • 立効散は、局所麻酔効果を期待する場合や、痛みが主訴の場合に選択されます
  • 加味逍遙散は、更年期障害や精神的な要素が強い場合に選択されます
  • 五苓散は、口腔乾燥症を伴う場合に選択されます
  • 複数の漢方薬を組み合わせて使用することもあります