抗菌薬を処方すれば口腔内のラクトバシラスはすべて死滅する、と思っていませんか?
ラクトバシラス(Lactobacillus属)は乳酸菌群の大部分を占める細菌群で、口腔内にも常在しています。 「乳酸菌=身体に良いもの」というイメージを持つ方は多いですが、口腔内では話が少し異なります。 mizunodental(https://mizunodental.net/17194505612004)
ラクトバシラスはミュータンス菌が酸で溶かした歯の表面で増殖し、虫歯の進行を加速させる役割を担います。 つまり「虫歯を最初に引き起こす菌」ではなく、「虫歯をより深く進めてしまう菌」という理解が正しいです。歯科医従事者にとって重要なのは、ラクトバシラスは悪役一辺倒ではない、という点です。 familie-dc(https://www.familie-dc.com/category/column/column-446)
例えば広島大学が研究を進めてきた L. rhamnosus 由来の「L8020菌」は、歯周病菌4種すべての口腔内保菌数を有意に減少させる効果が確認されています。 また、この菌由来の抗菌ペプチド「Kog1」は歯周病菌のLPS(リポ多糖)が引き起こす炎症性サイトカインを抑制することも報告されました。 つまり同じ属の中に「問題を起こす株」と「治療に使える株」が混在しているということですね。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26670838/)
歯科臨床でラクトバシラスに向き合う際は、菌種・菌株レベルで判断することが原則です。
ラクトバシラスは「抗菌薬が効きやすい菌」と認識されることが多いですが、実はこれが落とし穴になります。
2025年4月に査読前サーバーに公開された研究では、L. acidophilus・L. plantarum・L. rhamnosusなど8種のラクトバシラス属細菌を対象に、複数の抗菌薬クラスへの「異種耐性(heteroresistance)」の存在が広範囲に確認されました。 異種耐性とは、細菌集団の中に異なる耐性レベルを持つ亜集団が存在する状態で、通常のMIC測定では検出しにくい厄介な現象です。 themoonlight(https://www.themoonlight.io/ja/review/biorxiv/widespread-heteroresistance-to-antibiotics-in-lactobacillus-species)
具体的な結果を確認しましょう。
themoonlight(https://www.themoonlight.io/ja/review/biorxiv/widespread-heteroresistance-to-antibiotics-in-lactobacillus-species)
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themoonlight(https://www.themoonlight.io/ja/review/biorxiv/widespread-heteroresistance-to-antibiotics-in-lactobacillus-species)
これは使えそうな情報ですね。「アモキシシリンは第一選択」という歯科の常識と矛盾しない一方で、より広域な薬剤を安易に使うと口腔内フローラのバランスが崩れるリスクを示しています。
また2011年の研究では、マクロライドおよびテトラサイクリン系への連続曝露後に感受性が低下する現象が株ごと・薬剤ごとに異なる形で起きることが報告されています。 抗菌薬投与期間の管理が重要だということです。 bibgraph.hpcr(https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/21887650?click_by=p_ref)
参考文献(ラクトバシラスの抗菌薬異種耐性に関する最新論文レビュー):
「Widespread heteroresistance to antibiotics in Lactobacillus species」論文レビュー(日本語)|The Moonlight
歯科の現場では、抗菌薬の選択基準が明確に定められています。厚生労働省の「抗微生物薬適正使用の手引き(歯科編)第四版案(2025年)」では、歯性感染症の起炎菌はレンサ球菌または嫌気性菌であることを前提とした処方設計が推奨されています。 アモキシシリンが第一選択で、効果判定は投与開始から3日目、投与期間は8日程度が目安です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001572751.pdf)
ここで重要なのが「ラクトバシラスが起炎菌になることはまれ」という認識です。
実際、ラクトバシラスが感染症起炎菌として問題になるのは、褥瘡感染や感染性心内膜炎など全身的に免疫が低下した症例に限られます。 亀田総合病院の報告でも、L. gasseriによる菌血症はバンコマイシンに対する本質的な耐性を念頭に置いた抗菌薬選択が必要であったと述べられています。 歯科的に健常な患者に対してラクトバシラスを標的に抗菌薬を処方する場面は、通常ほぼ存在しない、ということですね。 jscm(https://www.jscm.org/journal/full/03304/033040275.pdf)
歯周病患者に抗菌薬を処方する際は、日本歯周病学会「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020」が実践的な指針を提供しています。 第一選択はアモキシシリン、ペニシリンアレルギー例にはクリンダマイシンが推奨され、キノロン系・第3世代セファロスポリン系の使用は慎重に検討するよう明記されています。 perio(https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_perio_antibiotic_2020.pdf)
参考文献(歯周病における抗菌薬ガイドライン全文):
「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020」(PDF)|日本歯周病学会
「プロバイオティクスの乳酸菌を患者に勧めているのに、抗菌薬を処方したら意味がなくなるのでは?」という疑問は、現場でよく聞かれます。これは正しい懸念です。
L. rhamnosusはシプロフロキサシン・レボフロキサシンに対して異種耐性を示すことが確認されていますが、逆に言えばこれらを投与してもプロバイオティクス効果が完全には失われない可能性を示唆します。 ただし同時に、耐性亜集団が抗菌薬存在下で増殖・選択される可能性も否定できません。 themoonlight(https://www.themoonlight.io/ja/review/biorxiv/widespread-heteroresistance-to-antibiotics-in-lactobacillus-species)
口腔内のプロバイオティクス研究では、乳酸菌TI2711株(歯周病原因菌を直接殺菌)などの研究が進んでいます。 抗菌薬投与中はこうしたプロバイオティクス製品の使用タイミングに注意が必要です。基本は「抗菌薬投与終了後2時間以上空けてから摂取」が推奨されます。 instagram(https://www.instagram.com/p/DP6QeJFgVQ9/)
| 抗菌薬クラス | ラクトバシラスへの影響 | プロバイオティクスへの配慮 |
|---|---|---|
| β-ラクタム系(アモキシシリン) | 比較的感受性あり | 投与中は乳酸菌が減少する可能性あり |
| フルオロキノロン系 | 多くの株が異種耐性 | 影響は株によって異なる |
| マクロライド系(クラリスなど) | 連続投与で感受性低下あり | 長期使用は特に注意 |
| バンコマイシン | 一部株は本質的耐性 | 対象株の同定が重要 |
結論はシンプルです。抗菌薬の種類と期間を最小限にすることが、口腔フローラ全体の保護につながります。
ここまで紹介してきた内容は文献ベースのものですが、臨床現場では「見落とされがちな盲点」があります。
それは「患者がプロバイオティクス製品を自己判断で摂取しながら、歯科から抗菌薬も処方されている」というケースの多さです。市販のラクトバシラス含有ガムや乳酸菌タブレットは歯科受診前後に多くの患者が使用しており、問診で把握できていないケースが少なくありません。抗菌薬との相互作用(特に腸内フローラへの影響)は口腔に限らず全身にも及びます。
日本口腔外科学会や日本歯周病学会は、AMR(薬剤耐性)対策として不必要な抗菌薬処方の削減を強く推奨しており、処方前に感染の重症度・起炎菌の推定・患者背景を総合的に評価することを求めています。 特にニューキノロン系・第3世代セフェム系は「最後の手段」として位置づける考え方も広まっています。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001572751.pdf)
これは歯科独自の視点です。内科や薬局では見えにくいが、口腔ケアと服薬管理の両方に関わる歯科従事者だからこそ提供できる付加価値になります。
参考文献(厚労省AMRガイドライン歯科編・最新版):
「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版(案)歯科編」(PDF)|厚生労働省