実は「同じ薬だから」と思って処方を変更すると保険査定されることがあります。
パセトシンとサワシリンは、両方ともアモキシシリン水和物を有効成分とするペニシリン系抗生物質の先発医薬品です。歯科領域では、歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎などの歯性感染症の治療に広く使用されています。どちらもカプセル剤、錠剤、細粒の剤形が存在し、成人には通常1回250mg~500mgを1日3~4回経口投与するのが基本です。
有効成分が同じということは、細菌の細胞壁合成を阻害する作用機序も同一です。グラム陽性菌であるレンサ球菌属やブドウ球菌属、グラム陰性菌であるインフルエンザ菌などに対して抗菌活性を示します。口腔内の嫌気性菌にも一定の効果があるため、歯科感染症の第一選択薬として位置づけられています。
つまり両者は同一です。
ただし製剤添加物には若干の違いがあり、各メーカーの製剤設計によって賦形剤や安定化剤の種類が異なる場合があります。カプセル剤の場合、サワシリンは乳糖水和物やステアリン酸マグネシウムを使用し、パセトシンも同様の添加物を用いていますが、細かな配合比率は製造元によって最適化されています。これらの添加物の違いが臨床効果に影響することはほとんどありません。
歯科診療においては、抜歯後の感染予防や歯周組織炎の治療に際して、1回250mgを1日3回、3~5日間処方するのが一般的です。感染性心内膜炎のリスクが高い患者には、処置1時間前に2gを単回投与する予防投与プロトコルが推奨されています。この用法用量は、パセトシンでもサワシリンでも全く同じです。
添付文書上の適応症、用法用量、禁忌事項、副作用プロファイルは両製品で完全に一致しています。ペニシリンアレルギーの患者には禁忌であり、伝染性単核球症の患者に投与すると発疹が高頻度で出現するため使用を避けるべき点も共通です。副作用として下痢や発疹が約5%の患者で報告されており、これも製品間で差はありません。
サワシリンは現在LTLファーマ株式会社が製造販売しています。LTLファーマは、もともとアステラス製薬が長期収載品事業を分離する形で2017年に設立した会社で、サワシリンを含む16製品の製造販売承認を譲受しました。そのため、以前はアステラス製薬のマークが印字されていたカプセルも、現在はLTLファーマのマークに変更されています。
一方、パセトシンは協和発酵キリン(現・協和キリン)が開発・製造していた製品ですが、2017年にアスペンジャパン株式会社へ製造販売承認が承継されました。その後、パセトシンカプセル250とパセトシン錠250は2019年に販売中止が発表され、2021年3月末をもって経過措置期間が満了しています。
経過措置期間満了とは何でしょうか?
これは、薬価基準から削除された医薬品について、医療機関や薬局の在庫整理と代替品への切り替えを円滑に進めるための移行期間のことです。パセトシンカプセル250と錠250は既に市場から姿を消しており、現在入手可能なのはパセトシンカプセル125と細粒10%のみとなっています。このため歯科診療では、実質的にサワシリン系列の製品が主流になっています。
製造販売元が異なることで、供給チャネルや在庫状況にも違いが生じます。LTLファーマは長期収載品に特化した供給体制を構築しており、サワシリンの安定供給に注力しています。一方、パセトシンは一部製品が販売中止となったことで、処方する際には在庫確認が必要な状況です。
薬価については、サワシリンカプセル250とパセトシンカプセル250(販売中止前)はいずれも1カプセルあたり15.3円で設定されていました。
錠剤も同様に15.3円です。
細粒10%は1gあたりサワシリンが7.2円、パセトシンも同額でした。つまり薬価は完全に同一でしたが、現在は入手可能な製品が限られているため、実質的な選択肢はサワシリンに集約されつつあります。
医療機関が特定の商品名で処方した場合、薬局は原則としてその商品名の製品を調剤しなければなりません。ただし在庫がない場合や製造中止の場合は、処方医に疑義照会を行い、代替品への変更了承を得る必要があります。この手続きが処方変更の際の実務的な注意点です。
歯科診療において、パセトシンとサワシリンを使い分ける臨床的な理由はほとんどありません。有効成分が同じで、抗菌スペクトル、体内動態、組織移行性も同一だからです。しかし処方実務上は、採用医薬品の選定、在庫管理、保険請求の観点から違いが生じます。
多くの歯科医院では、採用医薬品リストに登録されている製品を優先的に使用します。サワシリンを採用している施設であれば、一貫してサワシリンで処方することで、在庫管理がシンプルになり、期限切れのリスクも減らせます。パセトシンの一部製品が販売中止となった現在では、サワシリンに統一している施設が増えています。
一般名処方が原則です。
厚生労働省は後発医薬品の使用促進策として、一般名処方を推奨しています。「アモキシシリン水和物カプセル250mg」と一般名で処方すれば、薬局側でサワシリンでもパセトシンでも後発品でも選択できるため、供給不安時の対応力が高まります。一般名処方加算として、処方箋料に7点(3品目以上で6点)が加算されるメリットもあります。
ただし商品名で処方した場合、保険請求上は別の薬剤として扱われます。例えば前回パセトシンカプセル250を処方し、今回サワシリンカプセル250に変更した場合、カルテ記載や処方理由の説明が不十分だと、審査機関から「薬剤変更の理由」について照会が入る可能性があります。同一成分であっても商品名が異なれば、保険上は薬剤変更として取り扱われるのです。
歯科診療における具体的な使用例として、抜歯後の感染予防では、サワシリンカプセル250を1回1カプセル、1日3回、3日分処方するのが標準的です。重度の歯周組織炎や顎炎では、1回500mg(2カプセル)を1日3回、5~7日分に増量することもあります。この場合、オーグメンチン配合錠とサワシリンを併用する「オグサワ療法」が選択されることもあります。
オグサワ療法とは、オーグメンチン配合錠(アモキシシリン・クラブラン酸)1錠とサワシリンカプセル250を1カプセル同時に服用することで、実質的にアモキシシリンを高用量(1回750mg相当)投与する方法です。これにより肺炎球菌やインフルエンザ菌、嫌気性菌をカバーでき、歯性感染症だけでなく誤嚥性肺炎などでも用いられます。このスキームではサワシリンまたはパセトシンを併用しますが、現実的にはサワシリンが選ばれることがほとんどです。
感染性心内膜炎の予防投与では、心臓弁膜症や人工弁置換術後の患者が抜歯や歯周外科処置を受ける際に、アモキシシリン2gを処置1時間前に単回投与します。この場合、サワシリンカプセル250を8カプセル一度に服用させるか、サワシリン細粒10%を20g調製して服用してもらいます。パセトシンでも同様の投与が可能ですが、在庫状況を考慮するとサワシリンが現実的です。
パセトシンとサワシリンはいずれも先発医薬品ですが、アモキシシリン水和物の後発医薬品(ジェネリック医薬品)は多数存在します。代表的なものとして、アモキシシリンカプセル250mg「日医工」、アモキシシリンカプセル250mg「TCK」(辰巳化学)などがあり、薬価は先発品よりも低く設定されています。
後発品の薬価は、例えばアモキシシリンカプセル250mg「日医工」が1カプセルあたり10.40円(2025年4月以降)です。先発品のサワシリンやパセトシンが15.3円であるのに比べて、約32%安い計算になります。医療費抑制の観点からは、後発品の使用が推奨されています。
生物学的同等性試験で証明されています。
後発医薬品は、先発医薬品と有効成分、含量、投与経路が同一であり、生物学的同等性試験によって血中濃度推移が同等であることが確認されています。
つまり、臨床効果に差はないとされています。
アモキシシリンの後発品も、溶出試験や生物学的同等性試験をクリアして承認を得ており、サワシリンやパセトシンと同じ治療効果が期待できます。
ただし製剤添加物は後発品メーカーごとに異なる場合があります。カプセルの色や大きさ、錠剤の刻印なども異なるため、患者によっては「以前と薬が違う」と不安を感じることがあります。特に高齢者や小児の保護者は、薬の外観変化に敏感です。このため後発品に変更する際は、「成分は同じで効果も同じです」という説明が重要になります。
歯科医院で一般名処方を行い、薬局が後発品を選択した場合、患者負担は軽減されます。例えば3日分のアモキシシリンカプセル250mg(1日3回、計9カプセル)を処方した場合、先発品なら薬剤費は137.7円ですが、後発品なら93.6円と、約44円の差が生じます。高齢者や長期服用が必要な患者にとっては、この差は無視できません。
一方で、後発品の供給不安も問題になることがあります。2025年に入り、日医工ファーマが製造するアモキシシリンカプセル250mgが原材料確保困難により限定出荷となった事例があります。このような場合、薬局は別メーカーの後発品や先発品で対応せざるを得なくなります。供給安定性の面では、大手メーカーのサワシリンに一定の利点があると言えます。
歯科診療で重要なのは、商品名処方と一般名処方の違いが保険請求に与える影響です。パセトシンからサワシリンに変更する場合、または逆の場合、処方箋の記載方法によって薬局の対応が変わります。
商品名で処方した場合、例えば「パセトシンカプセル250」と記載すると、薬局は原則としてパセトシン製品を調剤しなければなりません。しかしパセトシンカプセル250は既に販売中止のため、薬局は処方医に電話で疑義照会を行い、「パセトシンが入手できないため、サワシリンに変更してよいか」と確認します。医師が了承すれば、サワシリンで調剤し、処方箋の備考欄に「疑義照会により変更」と記載します。
この疑義照会は法令上の義務です。
薬剤師法第24条により、薬剤師は処方箋に疑義があるとき、処方医に確認せずに調剤してはならないと定められています。在庫がない、製造中止である、という理由も疑義に該当するため、必ず照会が必要になります。この手続きが煩雑に感じられることもありますが、患者の安全と適正な保険請求のために不可欠です。
一般名処方にすれば、この問題は回避できます。「アモキシシリン水和物カプセル250mg」と記載すれば、薬局側の判断でサワシリン、パセトシン、後発品のいずれかを選択できます。疑義照会の手間が省け、処方から調剤までの時間も短縮されます。歯科医師にとっても、一般名処方加算が算定できるメリットがあります。
レセプト審査の観点からも、商品名処方には注意が必要です。前月パセトシンを処方し、今月サワシリンに変更した場合、審査機関のコンピュータチェックで「薬剤変更」として抽出される可能性があります。変更理由が不明確だと、「なぜ同じ成分の薬を別の商品名で処方したのか」という照会が来ることがあります。カルテに「パセトシン在庫なしのため変更」などと記載しておけば、問題なく対応できます。
院内処方を行っている歯科医院では、採用医薬品の統一がさらに重要です。サワシリンとパセトシンの両方を在庫すると、期限管理が複雑になり、デッドストック発生のリスクも高まります。どちらか一方に統一し、メーカーからの安定供給を確保することが経営上も合理的です。現状では、サワシリンに統一する施設が大多数です。
また処方日数にも配慮が必要です。抜歯後の感染予防では3日分が標準ですが、過度に長期間処方すると耐性菌発生のリスクが高まります。「抗微生物薬適正使用の手引き」(厚生労働省)でも、予防投与は2日以内が推奨されており、治療目的でも8日程度が目安とされています。必要以上に長い処方は、審査上も問題視されることがあります。
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版(案) 歯科編」では、歯科領域における抗菌薬の適正使用について詳細なガイドラインが示されています
3分で読める!歯科医のための「予防抗菌薬」の使い方では、歯科診療における予防的抗菌薬投与の実践的な方法が解説されています

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