一度バリデーションをクリアしても、装置の設置場所を変えただけで全工程のやり直しが必要になります。
滅菌バリデーションは、製造担当者が「任意で実施するもの」と誤解されることがありますが、法的義務です。根拠は「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(QMS省令)」第45条・第46条であり、同省令に基づいて厚生労働省から滅菌バリデーション基準が通知されています。
最新の基準は令和4年(2022年)10月17日付の薬生監麻発1017第1号によって制定されました。施行日は通知発出日と同日であり、旧基準(平成29年2月通知)は同日付で廃止されています。経過措置として令和5年10月16日までは旧基準での対応も認められていましたが、現在はすべて新基準が適用されます。
この新基準改正の主な変更点は、放射線滅菌に関する引用規格の更新です。具体的には「JIS T 0806-1:2015」から「JIS T 0806-1:2022(ISO 11137-1:2006+Amd 1:2013+Amd 2:2018)」へと変更されました。つまり変更点は1点に絞られており、他の滅菌方法(エチレンオキサイド・湿熱)に関する基準は据え置かれています。意外ですね。
なお、ISO13485やQMS省令は「滅菌バリデーションを実施すること」という大枠を要求するのみで、具体的な方法・手順の設定は各企業が自社ルールとして定める必要があります。滅菌バリデーション基準はその手順書を作成する際の「参考文書」という位置づけです。参考文書として活用するのが原則です。
ガイドラインの原文・最新通知は以下の厚生労働省公式ページで確認できます。
滅菌バリデーション基準(令和4年10月17日)の全文(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc7110&dataType=1&pageNo=1
滅菌バリデーション基準は、すべての滅菌方法をカバーするわけではありません。現行の基準が対象とするのは「エチレンオキサイド滅菌」「放射線滅菌」「湿熱滅菌」の3方法です。それぞれに対応するJIS規格(または同等以上の規格)が指定されており、その規格に準じた形でバリデーションを実施することが求められます。
各方法と対応する規格を整理すると次のとおりです。
- エチレンオキサイド(EOG)滅菌:JIS T 0801:2016(ISO 11135:2014)
- 放射線滅菌:JIS T 0806-1:2022(ISO 11137-1:2006+Amd 2:2018)および JIS T 0806-2:2014
- 湿熱滅菌:JIS T 0816-1:2010(ISO 17665-1:2006)
重要な点は、これらの規格が「要求事項の概要等の参考」として位置づけられていることです。つまり基準文書だけを読んでも不十分であり、各ISO/JIS規格の詳細を合わせて理解・適用することが現場では求められます。
医療機器メーカーが最もよく選択するのは湿熱滅菌(高圧蒸気滅菌)です。その条件として広く知られているのが、121℃/15分または134℃/3分という温度と時間の組み合わせです。ただしこれはあくまでも一般的な目安であり、製品群の特性やバイオバーデン(滅菌前の製品に存在する微生物数)の管理水準によって、実際の滅菌条件は変わります。これが条件です。
放射線滅菌に関しては、令和4年改正でJIS規格が更新されたことにより、線量設定の考え方にも影響が生じる場合があります。特に最小線量と最大線量の管理幅について、旧基準から運用を継続している場合は改めて確認することが推奨されます。
各滅菌方法の適用規格詳細については、以下のアイアール技術者教育研究所のまとめが実務上の参考になります。
滅菌バリデーション基準の概要と各規格の関係を整理した解説(アイアール技術者教育研究所)
https://engineer-education.com/sterilization-validation/
バリデーションの中核をなすのが、IQ・OQ・PQの3段階による適格性確認です。これらはそれぞれ独立したステップであり、前段が完了し責任者の承認を得てから次段に進む、という順序が基準で明記されています。
IQ(据付適格性の確認:Installation Qualification) では、装置および附属設備が仕様どおりに据え付けられたことを確認します。図面・取扱説明書・据付記録などを照合し、すべての文書を保管することも求められます。
OQ(運転適格性の確認:Operational Qualification) では、据え付けられた装置があらかじめ定めたプロセスパラメータの許容範囲内で動作することを確認します。負荷のない状態、または試験負荷を用いた運転で行います。
PQ(稼働性能適格性の確認:Performance Qualification) では、実際の製品を用いて、日常の滅菌プロセスが一貫して仕様を満たせることを立証します。PQで確認する製品は、製品群の中で「最も滅菌が困難なもの」を代表として使用することも認められています。ただしその場合は、なぜそれを代表品とするかの根拠を必ず文書化することが条件です。
これらの確認の到達目標として設定されるのが、SAL(無菌性保証水準:Sterility Assurance Level)です。SALは「滅菌後に生育可能な1個の微生物が製品上に存在する確率」を示し、医療機器では原則として10⁻⁶(100万分の1)以下の達成が求められます。100万個の製品のうち、生きた微生物が残る製品が1個以下というイメージです。これが基本です。
また、SALと密接に関連するのがバイオバーデン管理です。滅菌前の製品に付着している微生物数が多ければ、同じ滅菌条件でも必要な殺滅効果が得られにくくなります。そのためバイオバーデンの管理水準を定め、定期的にモニタリングすることもガイドラインが要求する事項のひとつです。
IQ・OQ・PQの実施概要と確認事項について、さらに詳細な解説は以下が参考になります。
QMSにおける滅菌バリデーションの定義・IQ/OQ/PQの詳細(薬事ナビ)
https://yakuji-navi.com/blogs/sterile-validation
バリデーションは「実施するだけ」では不十分です。ガイドラインは、プロセスの開発・バリデーション・日常管理・製品リリースにいたる一連の活動を、すべて文書化することを明確に要求しています。
具体的には、バリデーションを実施する前に計画書を作成し、対象製品名・目的・期待される結果・検証方法・実施時期・担当者氏名・照査および承認に関する事項などを記載することが求められます。計画書に定める事項はガイドラインに例示されていますが、「これに限定されるものではない」とも明記されており、各社の実情に応じた追加事項を盛り込む余地があります。
バリデーション実施後は、IQ・OQ・PQそれぞれの結果を文書化し、責任者が照査・承認します。照査の結果は「日常の滅菌プロセスの管理に必要な事項」の設定にも反映されます。つまりバリデーション文書は製品リリースの判断基準にも直結するわけです。
製品リリースの方法は2つ定められています。1つ目はパラメトリックリリースで、個々の製品の無菌試験を行わず、プロセスパラメータが事前に定めた許容範囲内であったことの記録をもって無菌性を保証する方法です。もう1つはバイオロジカルインジケータ(BI)の培養試験結果とプロセス管理結果を組み合わせる方法です。
パラメトリックリリースは近年、無菌試験が持つ「サンプリング誤差」や「培養期間による出荷遅延」を回避する方法として注目されており、特に最終滅菌品では推奨度が高まっています。ただし、パラメトリックリリースへ移行するためには、それだけプロセス管理の精度と文書体制が十分に確立されていることが前提です。これは必須です。
なお、バリデーションに使用する測定器・計器類はすべて校正を行うことも基準に定められています。測定値の信頼性が担保されていなければ、どれだけ入念なバリデーションも意味を持ちません。校正記録も文書として保管することが必要です。
バリデーションを一度完了した後も、「プロセスの有効性の維持」が継続的に求められます。これは担当者が見落としやすい部分のひとつです。厳しいところですね。
ガイドラインが変更管理の対象として明示しているのは次の5つです。
- 滅菌装置の変更(機種変更・設置場所の移動を含む)
- 滅菌プロセス(手順を含む)の変更
- 製品の変更(設計・原材料・包装等)
- 載荷形態の変更
- バイオバーデンに影響を与える可能性のある変更
これらのいずれかが生じた場合は、変更の影響を評価し、必要に応じて適格性の再確認(Re-Qualification)を実施することが求められます。特に「滅菌装置の設置場所の移動」は軽微な変更と誤解されがちですが、装置の温度分布特性が変わる可能性があるため、少なくともOQレベルの再確認が必要とされるケースがあります。装置移動イコール再バリデーションの可能性、と覚えておけばOKです。
また、QMS省令に基づく適合性調査のサイクルも理解しておく必要があります。製造販売承認(認証)取得後および輸出用医療機器の製造開始後、5年ごとに受ける適合性調査においては、通常のバリデーションに加え適格性の再確認も実施することが明示されています。5年という期間は意外に短く、準備不足になるケースが少なくありません。
適格性再確認では、その範囲・程度を含む実施基準をあらかじめ文書化しておくことが求められます。再確認後の結果は事前に定めた判定基準で照査・承認し、記録を保管します。「実施した」という記録だけでは不十分で、判定基準に対するパス/フェイルの根拠が文書として残っていることが重要です。
変更管理の実務的な判断については、以下のGMP Platformの解説記事が詳しくまとめられています。
医療機器の滅菌バリデーション基準(令和4年改正)の通知内容と実務上の注意点(GMP Platform)
「滅菌バリデーションガイドライン」と一口に言っても、実は対象読者と目的が異なる2つの文書が並存しています。この点が混乱を招きやすい部分です。
1つ目は前述の厚生労働省による滅菌バリデーション基準(QMS省令ベース)で、主に滅菌医療機器の製造販売業者・製造業者を対象とし、製品の製造工程における無菌性保証を規定したものです。
2つ目は日本医療機器学会が策定した「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021」です。こちらは病院・クリニック等の医療機関の滅菌供給部門(CSSD)向けに、再使用医療機器の洗浄・滅菌・供給業務の品質を維持するための指針を示したものです。2000年の初版(わずか9ページ)から改訂を重ね、2021年版は270ページを超える大幅な増量となっています。
2021年版の注目すべき改訂ポイントは、従来の「遵守勧告レベル(A/B/C)」の廃止です。それまでは推奨の優先度をABCで示していましたが、品質マネジメントシステム(QMS)の考え方に基づけば勧告に差を設けることは適切ではないという判断のもと、すべての項目が同等に扱われることとなりました。代わりに、学会が作成した業務評価用チェックリストを用いた自己評価が推奨されています。これは使えそうです。
製造業者の方が医療現場のガイドラインを参考にするのは視点を広げる意味で有効ですし、逆に滅菌技士・滅菌供給担当者の方がQMS省令ベースの基準を理解しておくことで、製造業者との連携がスムーズになります。2つの文書は相互補完的な関係にあると理解しておくと実務に役立ちます。
医療現場向けガイドラインの全文PDFは日本医療機器学会の公式サイトから無料で入手できます。
日本医療機器学会「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021」公式案内ページ
https://www.jsmi.gr.jp/jsmi-info/guideline2021/