まぐろを「加熱して食べると栄養が半分以下になる」と思っていませんか?実は逆で、じゃがいもと一緒に煮込むと鉄分吸収率が最大5倍近くアップします。
マルミタコという名前は「タコ(蛸)」を連想させますが、実はタコとはまったく関係ありません。これはバスク語の「マルミータ(鍋)」に由来する言葉で、スペイン北部カンタブリア海の漁師たちが船上で作っていたまかない料理のことです。
カンタブリア海は、夏になるとカツオ(スペイン語ではボニート)やまぐろが豊漁になる海域です。漁師たちは長い漁の合間、船に積んでいるじゃがいも・玉ねぎ・ピーマン・乾燥パプリカなど、日持ちのする食材と、その日に釣れた魚とを鍋で煮込みました。これがマルミタコの始まりです。
そのシンプルな美味しさはバスク地方全土に広まり、現在では毎年7月にビスカヤ県のアモレビエタ=エチャノという町でマルミタコのコンクールが開催されるほど愛されています。なんと278団体・5,000人超が参加するという、地域を挙げた一大料理祭になっています。
「これほど盛大なコンクールがある郷土料理なんですね。」
もともとは「海に出た漁師の節約飯」でしかなかった料理が、スペインが誇る食文化の象徴になっているわけです。食材も調理法もシンプルだからこそ、作り手の腕が問われ、奥深い料理として長く愛されているのでしょう。
参考:バスク郷土料理の文化とマルミタコのコンクールについて
5000人超が参加!バスクで開かれるマルミタコのコンクール – adelante.jp
参考:スペイン・バスク地方の代表的な郷土料理一覧
【完全ガイド】スペイン・バスク地方の代表的な郷土料理 – Discover Japan x Basque
本場バスクのマルミタコには「チョリセロ(Pimiento choricero)」という乾燥赤パプリカが使われます。日本では入手が難しい食材ですが、代用できる方法があります。これさえ知っていれば、明日にでも作れます。
代用の方法は次の2つです。赤パプリカをコンロの直火で皮が真っ黒になるまで焼き、皮をむいてペースト状にしたものを使う方法が最も近い味になります。それが面倒であれば、市販のパプリカパウダー(スモークタイプがあればなおよし)を小さじ1程度加えるだけでも十分に風味が出ます。
| 本場の食材 | 日本での代用品 |
|---|---|
| チョリセロ(乾燥赤パプリカ) | 赤パプリカの直火焼きペースト or パプリカパウダー |
| ボニート(カツオ) | 旬のカツオ or まぐろ(赤身)の柵 |
| 魚のスープストック | 市販の昆布だし or 鰹だしパック |
| ギンディージャ(青唐辛子の酢漬け) | 鷹の爪(なくても可) |
基本の材料(2〜3人分)は、まぐろまたはカツオ300g、じゃがいも2個、玉ねぎ1個、ピーマン1個、にんにく1かけ、トマト1個(またはトマト缶1/2)、パプリカパウダー小さじ1、白ワイン大さじ2、水または魚だし150ml、オリーブオイル・塩・ローリエ各適量です。
じゃがいもの切り方にコツがあります。包丁で「切る」のではなく、切れ目を入れて手で「ポキッと折る」ように割るのが正解です。断面がギザギザになることで、じゃがいものでんぷん質が溶け出しやすくなり、スープに自然なとろみが生まれます。これが「汁ごと食べるじゃがいも料理」のポイントです。
まぐろ・カツオは最後に加えて2〜3分だけ煮込むのが基本です。煮込みすぎるとパサパサに固くなってしまうので、火を止めてから6〜8分間そのまま休ませると、余熱でちょうどよく火が通ります。
参考:スペイン在住者によるマルミタコの本場レシピ(動画付き)
【動画あり】バスク地方の魚料理マルミタコの作り方 – takeblog-spain.com
まぐろやカツオを煮込み料理にすると「生臭い」と感じたことはないでしょうか。これは多くの方が経験している悩みです。生臭みさえ解決できれば、マルミタコは格段においしくなります。
生臭みの正体は「トリメチルアミン」という物質で、アルカリ性の性質を持っています。酸性のもので中和すると臭いが消えます。最も手軽な方法は「酢水に漬ける」ことです。水180mlに酢を小さじ1加えた酢水に、カットしたカツオ・まぐろを2分ほど漬け込むだけで、生臭みがかなり抑えられます。その後しっかり水気をふき取ってから使いましょう。
酢水が面倒なときは「塩を振って10分おき、出てきた水分をキッチンペーパーで丁寧にふき取る」方法でも十分です。ふり塩→水気ふき取り→調理、これが基本です。
マルミタコでは白ワインを煮込みの途中で加えますが、このアルコール成分も臭み消しに一役買っています。白ワインが手元にない場合は、日本酒に少量のレモン汁を加えたもので代用できます。
下処理をきちんと行えば、まぐろやカツオの煮込みは臭みなく仕上がります。「下処理が条件です。」手間は2〜3分、それだけで食卓の評価がまったく変わります。
マルミタコは「漁師の節約飯」に過ぎないように見えて、実は栄養学的に非常に優れた組み合わせを持つ料理です。
まぐろ・カツオには、脳と血管を守るDHA・EPA(オメガ3脂肪酸)が豊富に含まれています。また鉄分(ヘム鉄)の含有量も多く、動物性食品に含まれるヘム鉄は植物性食品の非ヘム鉄と比べて吸収率が5〜10倍も高いとされています。
ここにじゃがいもが組み合わさると、さらに効果が高まります。じゃがいものビタミンCは、通常の野菜とは異なり、でんぷん質によって守られているため加熱しても壊れにくい特性があります。ビタミンCと鉄分を一緒に摂ると、鉄分の吸収率がさらに上がることが知られています。
特筆すべきは、オリーブオイルの存在です。マルミタコはオリーブオイルで玉ねぎや野菜を炒めることから始まります。トマトに含まれるリコピンは油溶性で、オリーブオイルと組み合わせることで吸収率が大幅に高まります。偶然のように見えて、すべての食材が理にかなった組み合わせです。
つまり、一皿で魚のたんぱく質・良質な脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラルがバランスよく摂れる料理です。スープごと食べることで、煮込み中に溶け出した栄養素も無駄なく摂取できます。これは使えそうです。
参考:カツオ・まぐろの栄養成分と鉄分吸収率について
精の付く食材(マグロ・カツオのDHA・EPA・鉄分について) – 浜松町第一クリニック
参考:じゃがいものビタミンCが加熱に強い理由
じゃがいもの栄養を逃さず調理する方法 – ウェザーニュース
マルミタコを料理通信のシェフが「汁気多めの魚版肉じゃが」と表現したように、この料理は日本の家庭の食卓にもなじみやすい一品です。じゃがいも・玉ねぎ・だし・煮込みという共通の要素を持ちながら、スペインのスパイスと魚が加わることで、まったく新しい味になります。
アレンジのバリエーションはいくつかあります。本場バスクでも、まぐろが手に入らないガリシアやアストゥリアス地方では「栗」や「カブ」でじゃがいもを代用していたという記録が残っているほど、この料理はもとから応用が効くものです。日本の家庭でも、ブリやたらなど、スーパーで安く手に入る魚で同様に作ることができます。
アレンジのポイントをまとめると次のとおりです。
作り置きにも向いています。翌日は魚の旨味がスープにさらになじんで、むしろおいしくなる場合もあります。ただし、まぐろ・カツオは再加熱するとかたくなりやすいため、温める際はごく弱火で、沸騰させないよう気をつけることが必要です。再加熱に注意すれば問題ありません。
スペインの食文化と日本の家庭料理の感覚を橋渡しする料理として、マルミタコは非常に合理的な選択です。パエリアやアヒージョに比べて器具も手間も少なく、普段の煮込み料理の感覚で作れるのが大きなメリットです。
参考:東京・中野「イレーネ」シェフによる本格マルミタコレシピ(料理通信掲載)
魚版肉じゃが。カツオの新しい食べ方、スペイン「マルミタコ」 – 料理通信
参考:スペイン料理文化アカデミーによるマルミタコのレシピと解説
マルミタコ – スペイン料理文化アカデミー