吸収性縫合糸の種類と選び方、特性

歯科臨床で使用される吸収性縫合糸には多様な種類があり、それぞれ抗張強度や吸収期間が異なります。モノフィラメントとブレイド、素材による違い、症例別の選択基準を理解することが適切な治療につながります。あなたの症例に最適な縫合糸はどれでしょうか?

吸収性縫合糸の種類と特性

同じ吸収性縫合糸でも抗張力が3週間で半減する製品もあれば6週間維持する製品もあります。


この記事の3つのポイント
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吸収性縫合糸の主要6種類と特性

バイクリル、モノクリル、PDSⅡなど各製品の抗張強度維持期間と吸収期間の違い、モノフィラメントとブレイドの構造的特徴を解説

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症例別の選択基準

インプラント手術、抜歯、粘膜縫合など術式ごとに適した縫合糸の選び方、糸のサイズ(号数)と太さの関係、部位別の使い分け

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感染リスクと抗菌縫合糸

トリクロサン含有抗菌縫合糸の効果、ブレイドとモノフィラメントの感染リスクの違い、SSI予防における選択のポイント


吸収性縫合糸の基本分類と素材の違い


吸収性縫合糸は体内で一定期間後に分解・吸収される特性を持つ縫合糸です。抜糸の必要がないため患者負担が少なく、歯科領域では様々な症例で使用されています。


吸収性縫合糸には天然素材と合成素材の2種類が存在します。天然素材の代表はカットグット(腸線)で、動物の腸から作られていますが、現在は合成素材が主流です。合成吸収性縫合糸はポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリジオキサノンなどの高分子化合物から製造され、組織反応が少なく予測可能な吸収特性を持つ点が特徴です。


構造面では、モノフィラメント(単糸)とブレイド(編糸)に分類されます。モノフィラメントは単一の糸で作られており、組織通過性に優れ感染リスクが低いというメリットがあります。一方ブレイドは複数の糸を編み込んで作られており、操作性と結節保持力に優れています。ただし編み目に細菌が入り込みやすいため、感染リスクのある症例では注意が必要です。


吸収性縫合糸を選ぶ際には、創傷治癒に必要な期間と抗張強度維持期間を考慮することが重要です。治癒の早い粘膜組織では早期吸収タイプを、長期の支持が必要な深部組織では長期吸収タイプを選択します。


吸収性縫合糸の主要製品と抗張強度の比較

歯科臨床で使用される吸収性縫合糸には複数の製品があり、それぞれ異なる抗張強度維持期間と吸収期間を持っています。適切な製品選択には各製品の特性理解が不可欠です。


バイクリルはグリコライドとラクタイドの共重合体で作られたブレイドタイプの縫合糸です。21日で抗張力が50%まで低下し、56~70日で完全に吸収されます。操作性に優れ結びやすいため、口腔外科領域で広く使用されています。バイクリルプラスはトリクロサンを含有した抗菌タイプで、手術部位感染(SSI)のリスク低減が期待できます。


バイクリルラピッドは急速吸収タイプで、5日で抗張力が50%に低下し42日で吸収されます。粘膜縫合など短期間の創傷支持で十分な症例に適しており、小児の口腔内処置でも使用されます。


つまり治癒の早い組織向けです。


モノクリルはグリコライドとカプロラクトンの共重合体で作られたモノフィラメントです。7日で抗張力が50~60%に低下し、91~110日で吸収されます。モノフィラメント特有の組織通過性の良さと、ブレイドより低い感染リスクが特徴です。結節の保持力はブレイドに劣りますが、汚染のリスクがある症例で選択されることが多くなっています。


PDSⅡはポリジオキサノンを材質とする長期吸収タイプのモノフィラメントです。14日で70%、42日で25%の抗張力を維持し、180~210日かけて吸収されます。市場にある吸収糸の中で最も長い抗張力維持期間を持つため、長期の創傷支持が必要な症例に適しています。インプラント周囲組織の縫合や骨膜縫合など、組織の治癒に時間がかかる部位で選択されます。


松風公式サイトのPDSⅡ製品情報では、各製品の詳細な抗張力保持期間と吸収期間の比較表が掲載されており、製品選択の参考になります。


吸収性縫合糸のサイズと号数による使い分け

縫合糸のサイズは号数で表示され、歯科領域では通常3-0から7-0までが使用されます。


号数の理解は適切な縫合糸選択に直結します。


縫合糸の号数表記では、0の前の数字が大きくなるほど糸は細くなります。3-0(サンゼロ)の直径は約0.2~0.249mm、4-0(ヨンゼロ)は約0.15~0.199mm、5-0は約0.1~0.149mm、6-0は約0.07~0.099mm、7-0は約0.05~0.069mmです。7-0は髪の毛(約0.08mm)より細い糸ということです。


口腔外科領域では3-0から5-0が主に使用されます。3-0や4-0は筋層や骨膜など強度が必要な部位の縫合に適しており、5-0や6-0は粘膜縫合に使用されます。7-0は微細な血管吻合やマイクロサージェリーで選択される超微細な糸です。


糸の太さ選択では組織の厚さと緊張度を考慮します。厚い組織や張力のかかる部位では太めの糸を、薄い粘膜や審美領域では細めの糸を選択することが基本です。ただし細すぎる糸は組織を切断するリスクがあるため、必要最小限の太さを選ぶことが原則になります。


インプラント手術では通常4-0から5-0、抜歯では4-0から6-0、粘膜弁形成術では5-0から6-0が選択されることが多くなっています。部位と術式に応じた適切なサイズ選択が合併症予防につながります。


吸収性縫合糸の症例別選択基準

歯科臨床における吸収性縫合糸の選択は術式や部位によって異なります。症例ごとの選択基準を理解することで、より良好な治療成績が得られます。


インプラント手術では一般的に非吸収性縫合糸が選択されることが多いですが、吸収性縫合糸を使用する場合もあります。一次手術では創部の安定に時間がかかるため、PDSⅡのような長期吸収タイプが適しています。抗張力が6週間維持されるため、骨結合期間中の創部保護が可能です。二次手術では治癒が比較的早いため、バイクリルやモノクリルでも対応できます。


抜歯後の縫合では、通常の抜歯なら吸収性縫合糸の使用頻度は低いですが、埋伏智歯抜歯や歯槽骨整形を伴う抜歯では使用されます。バイクリルラピッドは粘膜治癒の早い部位に適しており、3~4週間で吸収されるため患者の来院負担が軽減されます。ただし抜歯窩が大きい場合や感染リスクが高い場合は、非吸収性縫合糸を選択し確実な抜糸を行うことも検討すべきです。


粘膜弁形成術や歯周外科手術では、モノクリルやバイクリルが頻用されます。粘膜は治癒が早いため、1~3週間の抗張力維持で十分なケースが多くなっています。特に審美領域ではモノフィラメントのモノクリルを選択することで、組織反応を最小限に抑えられます。


骨膜縫合や深部組織の縫合ではPDSⅡが第一選択です。長期の抗張力維持が必要な部位では、早期吸収タイプを使用すると創離開のリスクが高まります。組織修復に必要な期間を見極めて製品選択することが重要です。


吸収性縫合糸と感染リスク:抗菌縫合糸の役割

縫合糸は手術部位感染(SSI)の原因となりうるため、感染リスクを考慮した選択が求められます。近年では抗菌性を持つ縫合糸も開発され、SSI予防効果が報告されています。


縫合糸の構造は感染リスクに大きく影響します。ブレイドタイプは編み目に細菌が侵入しやすく、組織内で細菌の温床となる可能性があります。一方モノフィラメントは表面が滑らかで細菌の付着が少ないため、感染リスクの高い症例ではモノフィラメントの選択が推奨されます。


抗菌縫合糸にはトリクロサンという抗菌剤が含まれています。バイクリルプラスやPDSプラスがこれに該当し、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を含む6種類の細菌に対する抗菌作用が確認されています。消化器外科領域のメタ解析では、抗菌縫合糸の使用によりSSIリスクが約30%低下することが示されました。歯科領域でも感染リスクの高い症例での使用が検討されています。


ただし抗菌縫合糸は通常の吸収性縫合糸より高価です。すべての症例で使用する必要はなく、感染リスクの高い症例(糖尿病患者、免疫抑制患者、汚染手術など)で選択的に使用することが現実的です。


感染予防には縫合糸選択だけでなく、適切な術前抗菌薬投与、無菌操作の徹底、十分な止血、死腔の最小化など総合的な対策が必要です。縫合糸は感染予防の一要素として位置づけることが大切ですね。


日本外科感染症学会の抗菌吸収縫合糸の効果に関する研究では、消化器外科手術における抗菌縫合糸の有用性が報告されており、歯科領域への応用も期待されています。


吸収性縫合糸使用時の注意点とトラブル対応

吸収性縫合糸は抜糸不要という利点がありますが、使用にあたっては特有の注意点とトラブルへの対応を理解しておく必要があります。


吸収性縫合糸の最大の注意点は、抗張力の経時的低下です。創部に十分な張力がかかる状態で抗張力が失われると、創離開のリスクが高まります。特にインプラント手術や骨移植を伴う手術では、組織の治癒に時間がかかるため、短期吸収タイプの使用は避けるべきです。術式ごとに必要な抗張力維持期間を把握することが基本です。


縫合糸が早期に露出してくることがあります。これは吸収が始まり糸が緩んできたためで、通常は問題ありません。ただし露出した糸に汚れが付着すると感染リスクが高まるため、患者には口腔衛生の維持を指導します。1ヶ月以上経過しても糸が残存する場合は、吸収不全の可能性があるため除去を検討します。


組織反応も考慮すべき点です。吸収性縫合糸は分解過程で炎症反応を引き起こします。ブレイドタイプはモノフィラメントより組織反応が強い傾向があり、腫脹や違和感が長引くことがあります。審美領域や患者が違和感を訴えやすい部位では、組織反応の少ないモノフィラメント選択が無難です。


縫合糸が切れてしまうトラブルもあります。創部がすでに治癒していれば問題ありませんが、治癒途中で切れた場合は創離開のリスクがあります。患者には過度な力が加わる動作(硬い食物の咀嚼、舌での刺激など)を避けるよう指導することが予防につながります。


万が一創離開が生じた場合は、創部の状態を評価し再縫合の必要性を判断します。創縁が壊死していなければ再縫合が可能ですが、時間が経過している場合は二次治癒に委ねることもあります。




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