届出なしで筋電図検査を算定すると返戻される
睡眠時歯科筋電図検査の保険点数は580点です。これは2020年4月の診療報酬改定で新設された検査項目で、ウェアラブル型の小型筋電計を用いて夜間睡眠時の咀嚼筋活動を測定するものとして登場しました。
患者の自己負担額は保険の負担割合によって変動します。3割負担の患者であれば約1,740円、1割負担の患者なら約580円が窓口での支払額の目安となります。初診料や再診料、検査結果の説明に伴う管理料などは別途必要になるため、実際の総額はこれより高くなることを患者に説明する必要があります。
医科の筋電図検査とは点数体系が異なる点に注意が必要です。医科では針電極を用いる筋電図検査が320点、誘発筋電図検査が200点(1神経につき)と設定されていますが、歯科の睡眠時歯科筋電図検査は一連につき580点の包括点数です。
つまり複数日測定しても点数は変わりません。
検査に必要な導電性ゲルテープなどの消耗品費用は、この580点に含まれると解釈されています。別途材料費として算定することはできないため、医院側のコスト管理が重要になります。患者への機器の貸し出しや回収に伴う説明時間も、この点数内で賄う必要があります。
しろぼんねっとの診療報酬点数表(D014睡眠時歯科筋電図検査)には最新の算定要件が記載されており、レセプト請求前の確認に有用です。
睡眠時歯科筋電図検査を算定するには、施設基準への適合と地方厚生局への届出が絶対条件です。届出なしで算定した場合、レセプトは確実に返戻され、過去に遡って請求の取り下げを求められるリスクがあります。
施設基準の主な要件は2つあります。第一に、当該検査を行うにつき十分な機器を有していること。具体的にはウェアラブル型の表面筋電図記録装置が必要で、GC社のウェアラブル筋電計などが該当します。第二に、当該検査を行うにつき十分な体制が整備されていること。これは検査の説明、機器の貸し出し・回収、データ解析、結果説明までの一連の流れを適切に実施できる人的体制を指します。
届出の提出先は、診療所の所在地を管轄する地方厚生局の事務所です。施設基準の様式に必要事項を記入し、機器の保有を証明する書類(購入契約書のコピーなど)を添付して提出します。届出が受理されると、受理番号が通知され、その時点から算定が可能になります。
重要なのは、届出受理「前」に実施した検査は算定できないという点です。機器を購入してすぐに検査を開始したくなりますが、届出の受理を待たずに算定すると不正請求とみなされます。患者に検査を案内する前に、必ず届出手続きを完了させておく必要があります。
厚生労働省の「保険診療確認事項リスト」では、施設基準の届出を行っていないにもかかわらず睡眠時歯科筋電図検査を算定している事例が複数指摘されています。これは個別指導や監査の対象となる典型的な誤りです。
睡眠時歯科筋電図検査は「一連につき1回に限り」算定するという制限があります。つまり同一の診断目的で複数回測定しても、算定できるのは1回分のみです。
「一連」の解釈が重要になります。厚生労働省の疑義解釈によれば、診断を目的として必要に応じて複数回の検査を実施する場合でも、それらは一連として扱われます。たとえば1回目の測定でデータが不十分だったため再度測定した場合でも、算定は最初の1回だけです。
再度算定が認められるのは、新たな診断目的が生じた場合のみです。たとえば初回検査から半年以上経過し、治療経過を評価するために再検査が必要になった場合などです。この場合でも、新たな実施計画を立て直し、その必要性をカルテに明記する必要があります。
レセプトへの記載方法にも注意が必要です。検査欄に「D014 睡眠時歯科筋電図検査」として点数580点と回数1回を記載します。傷病名には「歯ぎしり」または「歯ぎしりの疑い」を必ず記載しなければなりません。
傷病名のない検査は査定の対象となります。
複数回算定の誤りは、審査支払機関のシステムで自動的に検出されやすい項目です。同一患者で短期間に2回以上の算定があると、査定または返戻される可能性が極めて高くなります。レセプト請求前に、過去の算定歴を必ず確認する習慣をつけることが重要です。
睡眠時歯科筋電図検査の結果は、口腔内装置(ナイトガード)の算定可否に直接影響します。この関連性を理解していないと、適切な診療報酬を得られない事態が生じます。
検査結果が「経過観察」となった場合、歯ぎしりに対する口腔内装置の費用は算定できません。これは2020年度の疑義解釈で明確にされた点です。つまり検査で歯ぎしりが確定診断されなければ、保険での口腔内装置製作は認められないということです。
具体的には、1時間あたりの歯ぎしりエピソード数が4以上の場合に歯ぎしり患者の可能性が高いと評価されます。この基準を満たさない場合は経過観察となり、口腔内装置を製作しても保険請求はできません。患者が希望する場合は自費診療として対応する必要があります。
逆に検査で歯ぎしりが確定した場合、口腔内装置1(1,500点)、口腔内装置2(800点)、または口腔内装置3(650点)のいずれかを算定できます。
さらに装着料150点も加算されます。
3割負担の患者なら、口腔内装置1の場合で約4,950円の自己負担となります。
検査なしで口腔内装置を製作することも可能ですが、その場合は問診や口腔内所見から歯ぎしりが強く疑われることをカルテに詳細に記載する必要があります。ただし客観的なデータがあるほうが、査定リスクは低くなります。
歯科医療従事者が把握しておくべきは、検査の実施と口腔内装置の製作が必ずしもセットではないという点です。検査結果によっては装置製作に進めないケースがあり、その場合の患者説明を事前に準備しておくことが、トラブル回避につながります。
睡眠時歯科筋電図検査を診療に取り入れる際、単なる保険算定の手段として捉えるのではなく、患者教育と診療の質向上のツールとして活用する視点が重要です。
検査データの可視化は患者の行動変容を促す強力な手段になります。「歯ぎしりをしているかもしれません」という主観的な説明よりも、グラフで示された筋活動の記録のほうが、患者の理解と納得を得やすくなります。検査結果を印刷して患者に渡すことで、ナイトガードの使用継続率が向上したという報告もあります。
機器の選定においては、初期投資と検査頻度のバランスを考慮する必要があります。ウェアラブル筋電計の価格は概ね数十万円から百万円程度で、1回の検査で得られる診療報酬は580点(5,800円)です。月に何件の検査を実施すれば投資回収できるかを試算し、導入の可否を判断することになります。
地域連携の観点からも、この検査は差別化要因になり得ます。睡眠時歯科筋電図検査の施設基準届出を行っている歯科医院は、まだ地域で限られています。近隣の医科や耳鼻科から睡眠障害や顎関節症の患者を紹介してもらう際、客観的な検査データを提供できることは強みになります。
スタッフ教育も成功の鍵です。受付や歯科衛生士が検査の意義を理解し、患者への説明や機器の取り扱いに習熟していれば、歯科医師の負担を軽減しつつ検査件数を増やせます。検査の流れをマニュアル化し、ロールプレイングで練習する時間を設けることが推奨されます。
カルテ記載の標準化も忘れてはなりません。問診内容、口腔内所見、検査実施日、データ解析結果、診断名、治療方針をテンプレート化しておくと、後日の監査や個別指導で記録の不備を指摘されるリスクが減ります。
GC社のウェアラブル筋電計製品ページでは、機器の仕様や使用方法の詳細が確認でき、導入検討時の参考になります。