抜歯をしないことが放射線性骨髄炎を防ぐとは限らず、実は治療前の抜歯のほうが予防になります。
放射線性骨髄炎は、悪性腫瘍に対する放射線治療後に顎骨の血流が低下し、そこに歯性感染が加わることで発症する非常に治療困難な疾患です。日本口腔外科学会の2023年ポジションペーパーでは、放射線性骨髄炎を含む薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)の診断基準が統一されました。
診断には3つの条件を満たす必要があります。まず、頭頸部がんなど悪性腫瘍に対する放射線治療歴があることが必須です。つぎに、口腔・顎・顔面領域に8週間以上持続する骨露出、またはプローブで触知できる瘻孔が存在することです。最後に、原則として放射線照射以外の顎骨への放射線源がないこと、および原発性がんや転移がんでないことが条件となります。
これは診断の厳密性を求める基準です。
ステージングは以下のように分類されます。ステージ1は無症状で感染を伴わない骨露出または瘻孔を認めるもので、下顎隆起や顎舌骨筋線後方の骨露出が典型的です。ステージ2は感染や炎症を伴い、発赤や疼痛を伴う骨露出・瘻孔で、排膿があるケースとないケースの両方が該当します。ステージ3は最も重症で、下顎では下縁や下顎枝に至る骨露出、上顎では上顎洞や鼻腔・頬骨に至る骨露出、または病的骨折を認めるものです。
注目すべき点は、潜在性・非骨露出型病変(いわゆるステージ0)の存在です。2023年版では、ステージ0は「分類」としては残していますが、MRONJ の診断・統計からは外すこと と決定されました。というのは、ステージ0と診断された症例の約50%は骨露出を伴う疾患には進展せず治癒するためです。
過剰診断を避けることが重要です。
放射線性骨髄炎が発症する仕組みは、Marx が提唱した「低酸素・低血流・低細胞」という3つの要因に集約されます。高線量の放射線が骨に照射されると、骨への毛細血管が消失し血流が著しく低下します。その結果、骨組織の酸素供給が不足し、細胞の生存能力が低下するのです。
照射線量の重要性は臨床データで実証されています。顎骨壊死が発症した患者の調査では、症例の95%(19例中18例)が60Gy以上の照射を受けていました。つまり、60Gyは放射線性骨髄炎の明らかな閾値となっているわけです。特に頭頸部がん患者では、通常70Gy/35回/7週というプロトコールで治療されるため、高リスク群と考える必要があります。
注目すべき事実として、単なる高線量照射だけでなく、その後に加わる機械的刺激や感染が重要な誘因となることが明らかになっています。放射線治療後に抜歯や根尖性歯周炎といった歯科的起因が加わった症例の63%が顎骨壊死に進展した という報告があります。つまり、放射線照射自体は必要悪でも、その後の歯科処置の選択が病態の明暗を分けるのです。
血流障害の発症メカニズムは徐々に進行します。治療直後は急性期の血管炎が生じ、その後数ヶ月から数年かけて線維化が進行し、最終的に瘢痕化した組織へと変化していきます。この過程で、感染があると局所の免疫反応が低下した脆弱な骨に増悪します。
単純X線検査とパノラマX線は初期スクリーニングとして重要な役割を果たします。放射線性骨髄炎の予兆所見として、歯根膜腔の拡大、垂直的歯槽骨吸収、根尖部透過像(境界不明瞭で比較的大きなX線透過像)、および著明な骨硬化が認められます。これらの所見は歯周病や根尖病変と区別が難しいため、臨床所見と画像所見の総合的な評価が必須です。
CT検査は特にステージ2・3で有用で、骨