歯の陥入とは診断と治療と予後管理

外傷により歯が歯ぐきにめり込む「歯の陥入」は、永久歯では最も予後不良とされる深刻な状態です。根の発育段階や適切な治療開始時期により、予後は大きく変わることをご存じですか?

歯の陥入と診断と治療

根完成した永久歯で陥入が起きると、3週間以内に予防的歯内療法を開始しなければ歯髄壊死のリスクが急上昇します。


この記事の3つのポイント
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陥入の診断と分類

歯が歯ぐきにめり込む「陥入」は、部分陥入と完全陥入に分類され、永久歯では最も予後が悪い外傷です。診断には臨床所見とレントゲン検査が必須となります。

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3週間以内の歯内療法開始

根完成歯の陥入では、受傷後3週間以内に予防的歯内療法を開始しないと歯髄壊死のリスクが高まります。根未完成歯では自然挺出を待つことも選択肢になります。

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長期経過観察の重要性

陥入歯は最低3〜5年間の経過観察が必要です。歯髄壊死、歯根吸収、骨癒着などの合併症が数年後に現れることもあるため、定期チェックが不可欠です。


歯の陥入とは何か症状と分類


歯の陥入は、外傷によって歯が顎の骨の中にめり込んでしまう状態を指します。日本外傷歯学会のガイドラインでは、歯の根尖方向への転位と定義されており、臨床的には歯が短くなったように見えるのが特徴です。


陥入は大きく2つに分類されます。完全陥入では歯が完全に骨の中に埋まって目視できなくなり、部分陥入では隣の歯と比べて短く見える状態です。どちらのケースでも、歯周組織と歯槽骨に広範囲な損傷が生じているため、永久歯の外傷の中では最も予後が悪いとされています。


症状としては、受傷直後から激しい痛みと広範囲の歯肉出血が認められます。打診時には金属音のような特徴的な音が聞こえることもあり、これは歯が骨に楔のように刺さっている状態を示しています。患者さんは歯が「消えた」ように感じることもあり、強い不安を訴えることが多いです。


つまり診断には注意が必要です。


レントゲン検査では、損傷した歯の根尖側に歯周隙間が見られないことが特徴的な所見となります。頬側の骨板に触知可能な骨折が認められることもあり、これが陥入の重症度を示す指標になります。乳歯の場合は、後続する永久歯歯胚への影響を評価するため、歯根の位置を慎重に推測する必要があります。


歯の陥入における根完成歯と根未完成歯の違い

歯の陥入の治療方針を決定する上で、根の発育段階は極めて重要な判断基準です。根未完成歯と根完成歯では、血管の断裂リスクや歯髄の生存率が大きく異なるため、治療アプローチも変わってきます。


根未完成歯は、生え変わったばかりの永久歯で歯根の先がラッパ状に開いている状態です。この段階では根尖孔が広く開いているため、血管が太く再生能力も高いという特徴があります。日本外傷歯学会のガイドラインによれば、根未完成歯での合併症は稀であり、軽度から中等度の陥入であれば自然挺出を期待して経過観察することが推奨されています。


一方、根完成歯では状況は一変します。


根尖孔付近で歯の栄養血管が断裂する可能性が高く、血流が遮断されると歯髄は壊死し、歯は変色してしまいます。国際歯科外傷学会のデータでは、根完成歯の陥入で歯髄生活力が維持される確率は極めて低く、ほぼ確実に歯髄壊死が起こるとされています。このため、固定を解除する前に損傷後3週間以内に予防的歯内療法を開始する必要があります。


根の発育段階を正確に見極めるためには、レントゲン検査が不可欠です。歯根の形態を確認し、根尖孔の開き具合を評価することで、適切な治療方針を立てることができます。受傷時の年齢も重要な指標となり、一般的に10歳前後までは根未完成歯、中学生以降は根完成歯と判断できます。


歯の陥入の治療と固定期間の決定

永久歯の陥入では、損傷した歯を元の位置に戻す整復処置と、周囲の骨の治癒を待つための固定が基本的な治療となります。整復方法には外科的整復と矯正的整復の2つのアプローチがあり、陥入の程度や患者の年齢によって選択されます。


外科的整復は、局所麻酔下で歯を元の位置に戻す方法です。重度の陥入や根完成歯で迅速な処置が必要な場合に選択されます。一方、矯正的整復は、矯正装置を用いてゆっくりと歯を引き出す方法で、若年者の根未完成歯に適しています。ただし、矯正的整復の場合は3週間以内に歯が存在する位置まで移動させ、根管治療を開始できるようにする必要があります。


固定期間は6週間が標準的です。


歯の陥入では歯周組織に広範囲な損傷が生じているため、他の外傷よりも長い固定期間が必要となります。日本外傷歯学会のガイドラインでは、歯槽骨骨折を伴う陥入では6週間の固定が推奨されており、この期間中に骨の治癒を促進します。固定方法は柔軟性のあるワイヤー固定が推奨され、歯に生理的な動きを許容することで歯根膜の回復を促します。


固定期間中は、クロルヘキシジンによる洗口を継続し、感染予防に努めます。抗生物質の投与については、開放創を伴う場合や免疫力の低下が懸念される場合に検討されます。鎮痛剤も適宜処方し、患者の苦痛を軽減することが重要です。


陥入の程度によっては、整復を行わずに自然挺出を待つ選択もあります。特に根未完成歯で軽度の陥入の場合、無理に整復すると歯根膜や歯髄へのダメージが増大する可能性があるため、慎重な判断が求められます。陥入歯の切縁と隣の歯の切縁の間の距離を測定して記録し、定期的に挺出状況を確認します。


参考として日本外傷歯学会の詳細なガイドラインはこちらで確認できます。


日本外傷歯学会 歯の外傷治療のガイドライン


歯の陥入における乳歯と永久歯への影響

乳歯の陥入は、後続する永久歯歯胚への影響という独特の問題を抱えています。特に3歳以下の受傷では、永久歯の発育に深刻な影響を及ぼす可能性が高く、治療方針の決定には慎重な判断が必要です。


研究データによれば、乳歯外傷が後継永久歯に影響を与える確率は12〜69%と報告されており、特に陥入や側方脱臼といった歯周組織への損傷が大きい外傷では、その影響が顕著です。最近の調査では、33.2%の症例で後遺症が発生し、硬組織損傷よりも歯周組織損傷の方が有意にリスクが高いことが明らかになっています。


具体的な影響としては、永久歯のエナメル質形成不全が最も多く見られます。


陥入した乳歯の歯根が永久歯歯胚を直接損傷することで、永久歯に白い斑点や茶色の変色、表面の粗造が生じます。これは「ターナー歯」とも呼ばれ、審美的な問題だけでなく、虫歯菌の影響を受けやすい歯質になってしまうという機能的な問題も生じます。


乳歯陥入の治療では、後継永久歯への影響を最小限にすることが優先されます。中等度の陥入で歯根尖が口蓋側にずれていない場合は、自然挺出を期待して経過観察を行います。陥入歯の切縁と隣の歯の切縁の間の距離を測定し、1〜2週間ごとに挺出状況を確認します。可能であれば、治癒期間中のおしゃぶりは避けるよう保護者に指導します。


広範囲の陥入または歯根尖が口蓋側にずれている場合は、抜歯が第一選択となります。これは、めり込んだ乳歯が後続の永久歯の萌出を阻害してしまうリスクがあるためです。抜歯前には鎮静に関する決定を行い、常に局所麻酔を使用します。緊急の場合は速やかに抜歯を行い、処置後は鎮痛剤を処方します。


小児外傷における陥入乳歯の治療に関する研究論文はこちらで参照できます。


広島大学 小児外傷における陥入乳歯の治療評価(PDF)


歯の陥入の経過観察と合併症の早期発見

歯の陥入では、初期治療が成功しても長期的な合併症のリスクが高いため、最低3〜5年間の継続的な経過観察が必要です。外傷リスク評価に基づいて個別に観察間隔を設定し、合併症の早期発見に努めることが重要となります。


経過観察のスケジュールは、受傷後の時期によって異なります。固定期間中は1週間ごとに来院し、固定状態と感染の有無を確認します。固定除去後は、1週間後、3週間後、6週間後、3か月後、6か月後、1年後と徐々に間隔を空けていき、その後は最低5年間、年1回の定期観察を継続します。


合併症で最も頻度が高いのは歯髄壊死です。


根完成歯の陥入では、ほぼ確実に歯髄壊死が起こるため、予防的歯内療法が推奨されます。一方、根未完成歯では合併症は稀ですが、1〜2か月後に歯髄の生死が明瞭になるため、この時期の慎重な観察が重要です。歯の変色、打診痛の増加、根尖部の透過像の出現などが歯髄壊死のサインとなります。


歯根吸収も重大な合併症の一つです。感染性吸収では根の先に炎症が起こり、早期に症状が現れて最終的に抜歯に至ることがあります。一方、置換性吸収では歯根と周囲の歯槽骨が癒着を生じ、いわゆる低位歯となります。特に成長期の永久歯で骨癒着が起きると、周囲の歯が正常に萌出しても陥入歯だけが取り残され、審美的・機能的な問題が生じます。


経過観察では、臨床所見とレントゲン検査の両方を組み合わせて評価します。臨床的には、打診音の変化、動揺度、歯肉の状態、咬合の変化などをチェックします。レントゲンでは、歯根吸収の進行、根尖部の透過像、歯髄腔の狭窄などを確認します。デジタルレントゲンを活用すれば、以前の画像と重ね合わせて微細な変化も検出できます。


外傷歯の時間経過と予後に関する詳細な情報はこちらのリンクで確認できます。


ふたぎ歯科医院 外傷歯の時間経過と不快事項(PDF)


歯の陥入は、初期の適切な診断と治療、そして長期的な経過観察によって予後が大きく変わります。根の発育段階を正確に評価し、3週間以内の歯内療法開始の重要性を理解し、患者さんに継続的な通院の必要性を丁寧に説明することが、歯科医療従事者には求められます。


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