逆根管充填しないと再発率8割超える。
歯根嚢胞摘出術は、歯の根の先にできた膿の袋である嚢胞を外科的に取り除く治療法です。この術式は嚢胞の摘出に焦点を当てており、歯根そのものには手を加えません。つまり嚢胞だけを綺麗に取り除くことが目的となります。
適応となるのは、根管治療を行っても嚢胞が残存している場合や、嚢胞が大きくなって周囲組織に影響を与えている症例です。特に嚢胞が3歯以上にまたがるような大きなケースでは、この術式が選択されることがあります。保険点数は嚢胞のサイズによって異なり、歯冠大で800点、拇指頭大で1,350点、鶏卵大で2,040点と設定されています。
手術の流れとしては、局所麻酔後に歯茎を切開し、骨に小さな窓を開けて嚢胞を摘出します。手術時間は約1時間程度で、日帰りでの処置が可能です。術後は2~3日間の腫れが予想されますが、概ね1~2週間で日常生活に支障がなくなります。
ただし嚢胞摘出のみでは、感染源である歯根の問題が解決されないケースも多いです。嚢胞ができた原因が歯根の感染にある場合、摘出だけでは再発リスクが残ります。そのため多くの症例では、次に説明する歯根端切除術と併用されることになります。
歯根端切除術は、嚢胞摘出に加えて歯根の先端約3mmを切除し、さらに逆根管充填を行う包括的な治療法です。この術式は3つのステップから構成されています。まず嚢胞を摘出し、次に感染した歯根の先端部分を切除、最後に切断面から根管内を封鎖する逆根管充填を実施します。
逆根管充填が成功の鍵です。
この最後のステップである逆根管充填を省略すると、切除した断面から再び細菌が侵入し、再発率が大幅に上昇します。実際、逆根管充填を行わなかった症例の多くが再発しているというデータがあり、専門家からは「逆根管充填をしないとその多くが再発する」と指摘されています。成功率は逆根管充填の有無で20~60%から90%以上へと劇的に変化します。
逆根管充填には主にMTAセメントやSB接着セメントが使用されます。MTAセメントは生体親和性が高く封鎖性に優れており、現在のグローバルスタンダードとなっています。一方SB接着セメントは、MTAでは対応困難な歯根炎症性吸収や副根管、微小亀裂などにも適応範囲が広いという特徴があります。
手術時間は約1~1.5時間で、保険点数は1,350点です。マイクロスコープを使用した精密な処置が推奨されており、CT撮影を行った上での歯根端切除術であれば、マイクロスコープの使用が保険適用内で認められています。拡大視野下での確実な逆根管形成と充填が、予後を大きく左右する要因となるためです。
歯根端切除術の詳しい術式について(歯根端切除術の相談コーナー)
上記リンクでは、逆根管充填材の選択基準や術式の詳細が専門的に解説されています。
両術式を同時に実施する場合、保険算定には特別なルールが適用されます。原則として、歯根端切除術を主たる手術、歯根嚢胞摘出術を従たる手術として算定し、従たる手術は50/100での算定となります。例えば鶏卵大の歯根嚢胞摘出術2,040点と歯根端切除術1,350点を同時実施した場合、歯根端切除術を50%算定で675点とし、合計2,715点となります。
注意が必要なのは病名です。
「歯根嚢胞(WZ)」病名のみでは、歯根嚢胞摘出術と併せて行った歯根端切除術の算定が原則認められません。支払基金の審査情報では、「根尖性歯周炎(Per)」病名のみでも歯根嚢胞摘出手術の算定を認めないとされています。適切な病名設定が査定回避のポイントとなります。
複数歯に対して同時施術を行う場合は、歯ごとに算定可能です。ただし嚢胞の大きさによっては同一術野とされ、隣接歯の術式が査定される可能性があります。レセプト請求時には、各歯の状態と嚢胞の範囲を明確に記載することが重要です。
また、抜歯と歯根嚢胞摘出術を同時に行った場合は、歯根嚢胞摘出術の所定点数のみを算定します。
抜歯料は別途算定できません。
このように複雑な算定ルールが存在するため、術前に適応と算定方法を十分に確認しておく必要があります。
上記リンクでは、令和6年度の最新保険点数と算定要件が確認できます。
歯根嚢胞摘出術の成功率は、術式の選択と実施方法によって大きく変動します。単純に嚢胞のみを摘出する術式では、感染源である歯根の問題が残るため、予後が不安定になりがちです。特に根管治療が不十分なまま嚢胞だけを取り除いても、数年後に再発するケースが多く報告されています。
成功率を高めるためには、まず根管治療を徹底的に行うことが前提となります。根管内の感染を完全に除去できれば、多くの場合で歯根端切除術なしでの治癒も期待できます。実際、「歯根嚢胞は切らなくても治る」という報告もあり、精密な根管治療によって手術を回避できる症例も存在します。
手術が必要な場合でも、マイクロスコープや拡大鏡の使用が予後を改善します。肉眼では見えない根管の枝分かれや微小な亀裂を確認できるため、感染源の取り残しを防げます。拡大率は8倍のライト付き拡大鏡や20~30倍のマイクロスコープが推奨されており、最低でも2倍の拡大鏡を使用すべきとされています。
さらに重要なのが嚢胞の完全摘出です。興味深いことに、「嚢胞の一部を残しても適切な手術で成功する」「嚢胞を取り残すと再発する説は誤りである」という報告もあります。これは逆根管充填が確実に行われていれば、多少の嚢胞組織が残存しても再感染が防げることを示しています。つまり完全摘出よりも、確実な封鎖が予後を決定するということです。
逆根管充填を省略した歯根端切除術は、高い確率で再発につながります。この工程を行わない医療機関も存在しますが、専門家の間では「逆根管充填をしない病院が多過ぎて筆者は再発治療に追われている」という指摘もあるほどです。実際、口腔外科で歯根端切除術を受けた後に再発し、逆根管充填の追加が必要になるケースが後を絶ちません。
再発のメカニズムはシンプルです。歯根の先端を切除しても、その断面から根管内への経路が開いたままでは、細菌が容易に侵入します。特に根管は複雑な形状をしており、側枝や副根管と呼ばれる細かい枝分かれが存在します。これらをすべて封鎖しない限り、完全な治癒は望めません。
再発した場合の選択肢は限られます。
再歯根端切除術を行う場合、SB接着セメントを使用すれば成功率は90%以上とされていますが、歯根端切除は通常何度もやり直しができない治療法です。骨の削除量や歯根の長さに限界があるため、初回の手術での成功が極めて重要になります。保険診療で失敗しても自費でやり直せば良いという考え方は、多くの場合通用しません。
時間的・経済的損失も無視できません。再発までには数ヶ月から数年かかることがあり、その間に患者さんは不快症状に悩まされ続けます。再治療には追加の費用と時間がかかり、最悪の場合は抜歯に至ることもあります。初回から適切な逆根管充填を行うことは、患者さんの利益を守る上で不可欠な処置といえるでしょう。
このような再発リスクを回避するためには、手術前に逆根管充填の実施予定を確認することが推奨されます。30分程度で終わると説明された場合は要注意です。適切な歯根端切除術には1~1.5時間を要するため、極端に短い手術時間の説明は逆根管充填の省略を示唆している可能性があります。
歯根端切除術の成功率に関する詳細データ(歯根端切除術の相談コーナー)
上記リンクでは、逆根管充填材の違いによる成功率の比較データが参照できます。