逆根管充填セメント種類と成功率

逆根管充填で使用されるセメントの種類、MTAとスーパーボンドの違い、成功率を左右する材料選択など、歯科医療従事者が知っておくべき最新情報を詳しく解説します。材料選択で予後が変わることをご存知ですか?

逆根管充填セメント種類と術式

逆根管充填をしない歯根端切除術は成功率20%台に落ちる


この記事の3ポイント要約
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セメント材料による成功率の違い

MTAセメントとスーパーボンドでは封鎖メカニズムが異なり、適応範囲に差が出る。接着性の有無が長期予後を左右する重要な要素となっている。

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逆根管充填の必要性と失敗リスク

逆根管充填を省略すると成功率が20~60%に低下する。切断面の根管に感染源が残存し、数年後の再発リスクが大幅に上昇する。

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保険適用と材料制限の実態

保険診療ではMTAセメントが使用不可。本邦で保険認可されている逆根管充填材はSuper EBAとスーパーボンドのみで、材料選択が制限される。


逆根管充填セメント材料の種類と特徴


逆根管充填で使用されるセメント材料には、それぞれ異なる特性と適応があります。現在臨床で使用される主要な材料は、MTAセメント、スーパーボンド、Super EBA(強化型酸化亜鉛ユージノールセメント)、コンポジットレジングラスアイオノマーセメント、そしてアマルガムなどです。これらの材料は封鎖性、生体親和性、接着性という3つの重要な要素で評価されます。


材料選択の基準は複雑です。


MTAセメントは1993年にアメリカで開発された水硬性セメントで、ポルトランドセメント由来のケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウムを主成分とし、造影剤として酸化ビスマスが添加されています。最大の特徴は親水性が高く、湿潤環境下でも硬化する点で、手術野の完全乾燥が困難な逆根管充填では大きなアドバンテージとなります。生体親和性も極めて高く、セメント質形成を促進する効果も報告されています。


一方、スーパーボンドは東京医科歯科大学で増原英一教授によって開発された接着性レジンセメントです。1971年から製造販売されており、40年以上の臨床実績があります。最大の特徴は歯質接着性で、根管象牙質と化学的に結合することで高い封鎖性を実現します。この接着性により、亀裂の発生を防ぐ効果も期待でき、歯根破折や穿孔部の封鎖など、適応範囲が広いという利点があります。


強化型酸化亜鉛ユージノールセメント(IRMやSuper EBA)は、アマルガムに代わる材料として長い使用実績があります。


封鎖性に関しては見解が分かれますが、アマルガムと比較して良好な封鎖性と生体親和性が認められています。ただし、本邦で逆根管充填材として保険認可されているのは、Super EBAとスーパーボンドのみです。これは臨床現場での材料選択を大きく制限する要因となっており、MTAセメントを使用する場合は自費診療となります。


逆根管充填セメントと成功率の関係

逆根管充填の有無とセメント材料の選択は、歯根端切除術の成功率に直接的な影響を及ぼします。複数の研究データから、逆根管充填を実施しない場合の成功率は20~60%程度に留まるのに対し、適切な材料で逆根管充填を行った場合の成功率は70~90%に達することが明らかになっています。


この差は極めて大きいといえるでしょう。


つまり逆根管充填は必須です。


マイクロスコープを使用した精密な歯根端切除術にMTAセメントによる逆根管充填を併用した場合、成功率は90%以上と報告されています。これは従来の保険診療での歯根端切除術の成功率(20~60%)と比較して、2倍以上の開きがあります。この差は、視野の拡大と材料の性能向上が相乗効果を生んだ結果です。


失敗の主要な原因は、切断面の根管に感染源が残存することです。歯根端を切除しただけでは、根管内部に残った細菌や感染物質を完全に除去できません。逆根管充填を省略すると、この感染源から細菌が増殖し、周囲組織への再感染を引き起こします。特に副根管や側枝といった複雑な根管形態を持つ症例では、逆根管充填なしでの治癒は極めて困難です。


材料別の成功率にも差があります。


MTAセメントとSuper EBAを比較した研究では、予後に有意差はないとする報告がある一方で、MTAセメントと接着性レジン(スーパーボンドなど)を比較した研究では、接着性レジンの方が良好な予後を示すというデータも存在します。これはスーパーボンドの歯質接着性が、長期的な封鎖性の維持に寄与しているためと考えられます。


ただし、材料の選択だけで成功が決まるわけではありません。術前のCT診断による病巣の正確な把握、マイクロスコープを用いた精密な逆根管形成、超音波チップによる適切な窩洞形成、そして確実な止血と術野の確保など、総合的な技術と設備が成功率を左右します。材料は成功の一要素に過ぎないということですね。


日本歯内療法学会誌の「歯根尖切除法における逆根管充塡材料の選択について」では、各種材料の封鎖性と生体親和性に関する詳細なエビデンスが示されています。


逆根管充填セメント材料の選択基準

臨床現場でどの材料を選択すべきかは、複数の要因を総合的に判断する必要があります。最も重要な判断基準は、封鎖性、生体親和性、接着性、そして操作性です。これらの要素に加えて、保険適用の有無、コスト、術者の習熟度も考慮しなければなりません。


封鎖性が最優先です。


逆根管充填の最大の目的は、根管系と根尖周囲組織を完全に遮断し、細菌の侵入を防ぐことです。MTAセメントは親水性が高く、湿潤環境下でも膨張しながら硬化するため、微小な隙間まで封鎖できます。一方、スーパーボンドは歯質と化学的に接着することで封鎖性を確保しますが、術野の止血と乾燥が不十分だと接着力が低下するリスクがあります。


生体親和性も重要な選択基準です。MTAセメントは周囲組織との親和性が極めて高く、セメント質や骨の再生を促進する効果があります。pHが高く(約12)、抗菌作用も持つため、残存細菌の増殖を抑制できます。スーパーボンドも口腔内組織との親和性は良好ですが、重合時に発熱するため、過剰な充填は避ける必要があります。


接着性の有無で適応が変わります。


スーパーボンドの最大の利点は歯質接着性です。この特性により、逆根管充填だけでなく、歯根破折の接着、穿孔部の封鎖、根管内亀裂の修復など、適応範囲が広がります。MTAセメントには接着性がないため、逆根管の封鎖性は物理的な嵌合に依存します。そのため、逆根管形成の精度がより重要になります。


操作性と作業時間も考慮すべき点です。MTAセメントは混和後の硬化に時間がかかり(約4~6時間で完全硬化)、術中の確認が難しいという欠点があります。スーパーボンドは硬化時間が短く(クイックモノマー液使用時で5~8分)、術中に確実な充填を確認できます。ただし、接着操作には歯面処理が必要で、手技が複雑になります。


保険診療の制約も無視できません。本邦でMTAセメントは保険適用外のため、使用する場合は患者に自費負担を説明する必要があります。保険診療内で行う場合は、Super EBAまたはスーパーボンドを選択することになります。この制約が、日本における逆根管充填材料の選択に大きな影響を与えているのです。


逆根管充填セメント操作時の注意点

逆根管充填材料を適切に使用するためには、各材料特有の操作手順と注意点を理解しておく必要があります。材料の性能を最大限に引き出せるかどうかは、術者の手技と知識に大きく依存します。特に術野の止血、根管形成の精度、充填のタイミングが重要なポイントとなります。


止血が不完全だと失敗します。


逆根管充填を行う前に、術野の完全な止血が必須です。スーパーボンドのような接着性レジンセメントは、血液や唾液の混入により接着力が著しく低下します。止血には硫酸第二鉄溶液やボスミン浸漬綿球が効果的ですが、薬剤の残留も接着を阻害するため、十分な洗浄と乾燥が必要です。一方、MTAセメントは親水性が高いため、多少の湿潤環境でも使用可能ですが、過剰な出血があると流出するリスクがあります。


逆根管形成の深さと角度も重要です。超音波チップを使用して根管軸に平行に3mm程度の深さで窩洞を形成するのが標準的な術式です。形成が浅すぎると充填材料が脱落しやすく、深すぎると根管壁の穿孔リスクが高まります。マイクロスコープを使用することで、根管の位置を正確に確認しながら形成できるため、安全性が大幅に向上します。


材料の混和比率を厳守してください。


MTAセメントは粉液比が製品ごとに規定されており、水分量が多すぎると強度が低下し、少なすぎると操作性が悪化します。メーカーの指示通りの比率で混和し、滑らかなペースト状になるまで練和する必要があります。スーパーボンドも同様に、モノマー液とポリマー粉末の比率が重要で、特にクイックモノマー液を使用する場合は硬化時間が短いため、手際の良い操作が求められます。


充填は過不足なく行います。充填材料が根尖孔から過剰に溢出すると、周囲組織への刺激となり、術後の疼痛や腫脹の原因になります。特にMTAセメントは硬化後も残存し、吸収されにくいため、過剰充填は避けるべきです。一方、充填が不十分だと封鎖性が損なわれ、再感染のリスクが高まります。専用のキャリアーやマイクロアプリケーターを使用して、適量を確実に充填することが重要です。


硬化確認のタイミングも材料によって異なります。スーパーボンドは硬化が速いため、充填後5~8分で縫合に進めますが、MTAセメントは完全硬化に数時間を要するため、術後の安静が必要です。患者には、術後24時間は強い咬合圧をかけないよう指導する必要があります。


逆根管充填セメント保険適用と費用の実態

逆根管充填材料の選択は、保険制度の制約によって大きく影響を受けます。歯科医療従事者として、保険適用の範囲と自費診療の費用設定を正確に理解しておくことは、患者への適切な説明と治療計画立案に不可欠です。材料費の違いだけでなく、治療時間や成功率の差も含めて総合的に評価する必要があります。


保険診療には材料制限があります。


本邦で保険適用となる逆根管充填材は、Super EBAとスーパーボンドのみです。これは厚生労働省による薬事承認と保険収載の関係で決まっており、臨床的に優れた性能を持つMTAセメントでも、保険診療では使用できません。歯根端切除術自体は保険適用(3割負担で約7,000~12,000円)ですが、MTAセメントを使用する場合は自費診療に切り替える必要があります。


自費診療でのMTAセメント使用には、材料費として5,000~15,000円程度の追加費用が一般的です。さらにマイクロスコープを使用した精密な術式を含めると、歯根端切除術全体で前歯が176,000円、小臼歯が198,000円程度という費用設定の医院もあります。これは保険診療の10倍以上の費用ですが、成功率が90%以上という高い数値を考えると、長期的なコストパフォーマンスは必ずしも悪くありません。


患者への説明義務が重要です。


保険診療と自費診療の違いを患者に説明する際は、費用だけでなく、使用できる材料・機器の制限、成功率の差、治療時間、予後の違いを具体的に示す必要があります。保険診療の成功率20~60%に対し、MTAセメントとマイクロスコープを使用した自費診療では90%以上という数字は、患者の治療選択に大きな影響を与えます。抜歯後のインプラント治療(30~50万円)と比較すると、自費での歯根端切除術の費用対効果が理解されやすいでしょう。


医療費控除の対象になります。自費診療で行った歯根端切除術とMTAセメント使用は、医療費控除の対象となります。年間の医療費が10万円を超える場合、確定申告により所得税の還付を受けられる可能性があるため、患者には領収書の保管を促すべきです。所得税率が20%の場合、10万円の自費診療で約2万円の還付が見込めます。


保険診療でも高い成功率を目指すには、材料の制約を理解した上で、術前診断の精度向上、マイクロスコープの活用(保険適用可能)、確実な術式の実施が重要です。スーパーボンドの歯質接着性を最大限に活かすため、術野の完全な止血と乾燥、適切な歯面処理を徹底すれば、保険診療内でも良好な予後が期待できます。


外科的歯内療法における保険適用と自費診療の違い、具体的な費用相場については、こちらの記事で詳しく解説されています。




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