水を吸うだけでは詰まりは防げない
外科用吸引管は、抜歯やインプラント埋入などの外科処置で使用する専門器具です。通常の歯科用バキュームと異なり、出血部位を直接吸引できるよう先端が細く設計されています。この構造により、術野の血液や洗浄液を効率的に除去し、視界を確保できます。
歯科の処置で口腔内に使用するバキュームは、歯科用と外科用の2種類に大きく分けられます。外科用吸引管は吸引したい部位を直に吸引できる点が最大の特徴です。抜歯などの外科処置では出血部位を細かく吸引する必要があるため、この細い先端構造が不可欠となります。
素材はステンレススチール製が主流です。耐久性と耐腐食性に優れており、繰り返しの滅菌処理にも対応できます。高硬度、耐摩耗性、耐熱性を備えたハイグレードの400シリーズステンレス鋼が使用されており、歯科器具として最適な特性を持っています。
つまり術野の明瞭化が基本です。
部位によって長さや先端の太さが違うものを使い分けると便利です。ペングリップまたはパームグリップで把持し、術者の手の動きに合わせて柔軟に操作できます。インプラント手術では特に細かい視界確保が求められるため、適切なサイズ選択が治療の成否を左右します。
クインテッセンス出版:外科用バキュームの定義と使用方法について詳しく解説されています
外科用吸引管には複数の角度バリエーションが存在します。主な種類としてS-30°、L-60°、L-70°深曲などがあり、それぞれ術野へのアプローチ角度が異なります。S-30°は比較的浅い角度で、前歯部の処置やインプラントのドリリング時に重宝します。L-60°やL-70°は臼歯部や深い部位へのアクセスに適しており、抜歯時の出血吸引で活躍します。
内径サイズも重要な選択基準です。一般的に内径1.5mmから3mm程度の製品が流通しており、吸引力と詰まりにくさのバランスで選択します。内径1.5mmのS-30°スリムタイプは全長115mm、インプラント手術での精密な吸引に最適です。内径3mmのタイプは全長155mm程度で、抜歯時の大量出血にも対応できます。
例えばインプラントのドリリング時には、S-30°スリムが推奨されます。ドリリング部位に直接アプローチでき、切削片や洗浄液を効率的に除去できるからです。一方、智歯抜歯では角度が深いL-70°深曲を選択すると、奥の部位まで確実に吸引できます。
サイズは術式で決まります。
使用時にはジョイント部が必要な製品も多く存在します。ジョイント部はφ10mmまたはφ11mmテーパー付きで、排唾管接続部用のアダプターを介してユニットのバキュームラインに接続します。すべてのユニットラインに対応できるよう、複数のジョイントサイズが用意されています。
治療効率を高めるために、複数の角度・サイズを揃えておくと便利です。術式や患者の口腔内形態に応じて最適なものを選択することで、アシスタントワークの質が向上し、術者の負担も軽減されます。市販されている外科用吸引管は標準価格で4,800円程度のものが多く、コストパフォーマンスも良好です。
外科処置中、外科用吸引管は血液凝固による詰まりが発生しやすい状況にあります。特に内径が細い製品では、血液が管内で固まりやすく、吸引力が急激に低下します。手術中に発生する血液凝固塊、骨片、骨セメント片などは吸引管の閉塞原因となることが多く、清掃が難しいだけでなく手術時間を無駄にし、患者の費用を増加させる可能性もあります。
詰まりを防ぐ最も効果的な方法は、定期的な水の吸引です。血液を吸引した直後に清潔な水を吸引することで、管内に付着した血液を洗い流し、凝固を防ぎます。ちょこちょこお水を吸いながら使う必要があると言われるのは、この理由からです。
具体的には、10秒から15秒間隔で水を吸引する習慣をつけると良いでしょう。これは治療用チェアのコップに入った水を短時間吸引するだけで実施できます。この簡単な操作により、管内の血液濃度が薄まり、凝固のリスクが大幅に減少します。
水洗浄が原則です。
詰まりが発生してしまった場合の対処法も知っておく必要があります。まず吸引を停止し、ジョイント部を外して専用のクリーニングブラシで内部を清掃します。クリーニングブラシはオートクレーブ不可の製品が多いため、使用後は薬液消毒を行います。頑固な詰まりには、専用の洗浄液に浸漬してから清掃すると効果的です。
予防的メンテナンスとして、診療後には必ず管路洗浄を実施しましょう。ユニットと配管内の汚れの固着を解消し、徹底洗浄するスペシャルクリーナーを定期的に使用すると、配管の詰まりを防げます。歯面清掃用パウダーや粒子の細かい材料を使用する場合は、特に注意が必要です。
株式会社ヨシダ:ユニット配管洗浄用クリーナーの使用方法が詳しく紹介されています
インプラント手術では、ドリリング時の視界確保が成功の鍵を握ります。S-30°スリムタイプの外科用吸引管を使用すると、ドリル周辺の洗浄液と骨削片を同時に吸引できます。内径3mmの製品を選択すれば、大量の洗浄液にも対応可能です。
持ち方はペングリップが基本となります。親指と人差し指でペンを持つように把持し、中指を添えて安定させます。この持ち方により、微細な位置調整が可能となり、ドリル先端の視界を常に確保できます。術者の手の動きに合わせて吸引管の位置を調整し、血液や洗浄液が視野を妨げないよう注意します。
抜歯時にはパームグリップも有効です。手のひら全体で握るこの持ち方は、長時間の処置でも疲れにくいメリットがあります。特に智歯抜歯では、L-70°深曲タイプをパームグリップで保持すると、奥の部位まで安定して吸引できます。
持ち方で疲労度が変わります。
アシスタントワークでは、術者の視線を常に意識することが重要です。術者が見たい部位を予測し、その周辺の血液を先回りして吸引します。4ハンドテクニックの原則に従い、術者が次に行う治療を先回りして考え、計算された角度や圧力で吸引管を操作します。
これにより治療効率が大幅に向上します。
外科処置や抜歯時には、血液・唾液・洗浄液を強力に吸引するための適切な位置取りが求められます。術野を清潔に保ち、術者の集中力を維持するために、アシスタントは常に吸引状況をモニタリングし、必要に応じて吸引位置を微調整します。口腔内の粘膜に強く当てすぎないよう、適度な距離を保つことも大切です。
使用後の外科用吸引管は、血液やタンパク質で汚染されています。適切な洗浄・滅菌処理を行わなければ、院内感染のリスクが高まります。まず使用直後に流水で予備洗浄を行い、目に見える汚れを除去します。この際、手袋を装着し、飛沫による粘膜曝露や鋭利器材による切創に注意します。
次に超音波洗浄機を使用します。専用の洗浄液を入れた超音波洗浄機に5分から10分間浸漬すると、目に見えない器材の細部まで短時間で洗浄できます。血液やタンパク質の汚れが固まってしまった場合は、浸漬洗浄を行ったのち、超音波洗浄を行うと効果的です。熱水で消毒するウォッシャーディスインフェクターを使用すれば、血液や唾液といった感染の原因となるものを徹底的に除去できます。
超音波洗浄が効果的です。
内腔の細い吸引管は、専用のクリーニングブラシを使用して内部を清掃します。ブラシを管の両端から挿入し、往復させながら内壁の汚れを掻き出します。この作業により、管内に残留した微細な血液や組織片を完全に除去できます。
洗浄後は完全に乾燥させることが重要です。内腔が細い器具類の内部は完全に乾燥できない場合があるため、清浄な圧縮空気等を用いて内部に残留する水分を完全に除去してから滅菌を行います。水分が残ったまま滅菌すると、滅菌効果が低下する可能性があります。
オートクレーブ滅菌は121℃から135℃で15分から20分間実施します。ステンレススチール製の外科用吸引管は高温に耐えられるため、繰り返しの滅菌処理が可能です。滅菌後は専用のパックに入れて保管し、次回使用時まで無菌状態を維持します。
耐用年数は使用頻度にもよりますが、一般的に7年程度です。ただし、管が変形したり内部に錆が発生したりした場合は、早めに交換する必要があります。定期的に管内を目視確認し、異常があれば新品に交換しましょう。医療機器としての品質を維持するため、メーカーの推奨する管理方法に従うことが大切です。
ジーシー:歯科器材の洗浄・消毒・滅菌に関する詳細なガイドラインが掲載されています
外科用吸引管の導入コストは、製品により異なりますが標準価格で4,800円前後が一般的です。ジョイント部やアダプター、クリーニングブラシなどの付属品を含めると、初期投資として1セットあたり約8,000円から10,000円程度を見込む必要があります。複数の角度・サイズを揃える場合は、さらに予算を確保しましょう。
ディスポーザブルタイプの外科用吸引チップも選択肢の一つです。使い捨てのため洗浄作業から解放され、感染リスクも減少します。1本あたりのコストは100円から300円程度で、月間の外科処置件数に応じて経済性を比較検討できます。例えば月に20件の外科処置を行う診療所では、ディスポーザブルタイプで月額約4,000円から6,000円のランニングコストとなります。
ディスポも検討価値があります。
再利用可能なステンレス製吸引管は、初期投資は高いものの長期的にはコストメリットがあります。適切にメンテナンスすれば7年程度使用できるため、1セット8,000円として年間コストは約1,143円、月額では約95円程度の計算です。月間30件以上の外科処置を行う診療所では、再利用タイプの方が経済的となります。
効率化の観点では、複数セットを保有することで滅菌サイクルに余裕が生まれます。最低でも2セット、できれば3セット揃えておくと、連続した外科処置にも対応できます。午前と午後でそれぞれ外科処置を行う場合でも、滅菌待ちの時間が発生しません。
トラブル発生時の予備としても、複数セットの保有は有効です。詰まりが解消できない場合や、滅菌処理中に緊急の外科処置が入った場合でも、予備があれば対応できます。このような備えにより、患者への説明や予約変更といった余計な業務を減らせます。
吸引管アダプターや先端ゴムなどの消耗品は定期的に交換が必要です。アダプターは材質がシリコンで耐熱温度260℃、1個あたり1,500円程度です。使用頻度にもよりますが、3ヶ月から6ヶ月ごとの交換を推奨します。先端ゴムは口腔内粘膜との接触感をソフトにするため、患者の快適性向上に貢献します。