電気味覚検査正常値と測定方法・診断基準・注意点

電気味覚検査の正常値は鼓索神経領域で8dB以下、舌咽神経領域で14dB以下ですが、60歳以上では10dB程度の閾値上昇が生理的に起こることをご存知ですか?本記事では歯科医療従事者が知っておくべき電気味覚検査の基準値や測定時の注意点、濾紙ディスク法との使い分けについて詳しく解説します。正確な診断と適切な患者対応のために、どのような知識が必要でしょうか?

電気味覚検査正常値と測定方法

60歳以上の患者でも若年者と同じ正常値8dBで判定すると誤診につながります。


この記事の重要ポイント
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神経領域別の正常閾値

鼓索神経8dB以下、舌咽神経14dB以下、大錐体神経22dB以下が基準値で、左右差6dB以上が有意な異常

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加齢による閾値変化

60歳以上では生理的に10dB程度の閾値上昇があり、年齢を考慮しない判定は誤診リスクが高まる

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濾紙ディスク法との使い分け

電気味覚検査は神経障害診断に有効、濾紙ディスク法は受容器型障害の診断・経過観察に適している


電気味覚検査の正常値と神経領域別基準

電気味覚検査における正常閾値は、測定する神経領域ごとに明確に設定されています。鼓索神経領域では8dB以下、舌咽神経領域では14dB以下、大錐体神経領域では22dB以下が正常範囲とされています。これらの数値は、健常者における味覚神経の反応性を統計的に解析したデータに基づいて設定されたものです。


つまり基準が神経ごとに異なるということですね。


判定の際に重要なのは、左右差の評価です。左右の電気味覚閾値が6dB以上差がある場合、有意な左右差として評価され、顔面神経麻痺や中耳手術後の鼓索神経障害など、片側性の神経障害を疑う重要な所見となります。この左右差は、障害部位の特定や予後判定においても極めて有用な情報を提供します。


異常値の判定基準として、鼓索神経領域では10dB以上、舌咽神経領域では16dB以上、大錐体神経領域では24dB以上が異常と判定されます。正常値と異常値の間には若干の灰色領域があり、この範囲では患者の年齢や他の臨床所見を総合的に判断する必要があります。


電気味覚検査は21段階の電流刺激で評価できるため、定量性に優れているのが特徴です。これは5段階評価にとどまる濾紙ディスク法に比べて、より細かな味覚機能の変化を捉えることができることを意味します。特に軽度の味覚障害や治療効果の微細な変化を検出する際に、この定量性の高さが診断精度の向上に貢献します。


看護roo!の味覚検査解説ページでは、電気味覚検査の正常閾値と判定基準について詳しい情報が掲載されています。


電気味覚検査の測定方法と実施手順

電気味覚検査の実施には、直径5mmのプローブ(陽極)を用いて測定部位に直流電流を流します。被検者は「スプーンをなめたような金属味」を感じた時点でボタンを押して知らせる方式です。不関電極は被検者の頸部に装着し、電気回路を完成させます。


測定前の準備として、被検者に10〜20dB程度の電流刺激で電気味覚の味を体験させることが重要です。この事前体験により、被検者は検査で求められる感覚を理解し、より正確な応答が可能になります。刺激時間は1秒程度、刺激間隔は2〜3秒以上とし、低電流刺激から上昇法で閾値を検索していきます。


結論は3回測定して2回以上味を感じた時点が閾値です。


測定部位は左右の鼓索神経領域(舌前方2/3の側縁部)、舌咽神経領域(舌後方1/3)、大錐体神経領域(軟口蓋)の計6カ所となります。各部位を系統的に測定することで、味覚神経の障害範囲や程度を客観的に評価できます。特に顔面神経麻痺の障害部位診断では、鼓索神経と大錐体神経の閾値比較が重要な情報を提供します。


検査時間は比較的短時間で完了するため、スクリーニングテストとして優れた特性を持ちます。一般的には両側6カ所の測定を含めて10〜15分程度で実施可能です。この時間効率の良さは、外来診療において多くの患者に対して味覚評価を行う際の大きなメリットとなります。


日本臨床衛生検査技師会の報告では、電気味覚検査における健常者の閾値データについて詳細な分析が行われています。


電気味覚検査実施時の注意点と禁忌事項

電気味覚検査において最も重要な禁忌は、ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)を装着している患者への実施です。微量とはいえ電流を体内に流すため、これらの医療機器の誤作動を引き起こすリスクがあります。検査前には必ず患者に確認し、該当する場合は検査を中止して濾紙ディスク法などの代替検査を選択する必要があります。


人工内耳装用者も原則として検査対象外です。


同様に、人工内耳を装用している患者も検査実施を避けるべき対象となります。電気刺激が人工内耳の電子回路に影響を与える可能性があるためです。これらの禁忌事項を見落とすと、患者の生命や健康に直接的な危険をもたらす可能性があるため、問診での確認を徹底することが不可欠です。


検査機器の消毒管理も重要な注意点です。単極導子グリップと不関電極は、検査前後に必ずアルコール消毒を行い、感染防止対策を徹底します。特に口腔内に直接触れるプローブについては、患者ごとの確実な消毒が求められます。


電源投入のタイミングにも配慮が必要で、被検者への電極装着が完了してから電源を入れることで、予期しない電気刺激による驚愕反応を防ぎます。また、不関電極はペースメーカーからできるだけ離れた位置に装着することで、万が一の影響を最小限に抑える工夫も推奨されています。


検査中に被検者が不快感や異常を訴えた場合は、直ちに検査を中止して適切な処置を取る必要があります。特に高齢者や全身状態が不良な患者では、慎重な観察が求められます。


リオン社の電気味覚計添付文書には、使用上の注意事項と禁忌について詳細な記載があります。


電気味覚検査における年齢・性別・喫煙の影響

電気味覚検査の結果評価において、年齢は最も重要な考慮因子です。60歳以上では加齢の影響で10dB程度の閾値上昇が生理的に起こることが複数の研究で確認されています。中里らの研究では、60歳代以上で鼓索神経領域と舌咽神経領域、70歳代以上で大錐体神経領域に有意な閾値上昇が認められました。


これは味蕾数の減少が主な原因です。


加齢による味覚閾値の上昇は、味蕾の数的減少だけでなく、味覚神経の伝導速度の低下や中枢での味覚情報処理能力の変化など、複合的な要因によって生じます。したがって、高齢患者の検査結果を若年者と同じ基準で評価すると、正常な加齢変化を病的な味覚障害と誤診してしまう危険性があります。特に60歳という年齢は、臨床的に閾値上昇を考慮し始める重要な境界線となります。


性別による違いについては、一般的に女性の方が男性より味覚閾値が低い(味覚が鋭敏)という報告が多数あります。しかし電気味覚検査における実際のデータ解析では、臨床的に有意な差は認められないことが多く、重症度判定において性別による補正を行う必要はないと考えられています。


喫煙習慣も味覚閾値に影響を与える因子として知られています。喫煙者は非喫煙者に比べて平均0.3程度のスコア上昇を示しますが、この程度の差は重症度判定を変更するほどではないため、実臨床では考慮不要というのが一般的な見解です。ただし長期的な喫煙は味蕾の再生能力を低下させる可能性があるため、禁煙指導の動機づけとして情報提供することは有意義です。


年齢以外は実質的に判定への影響は小さいということですね。


電気味覚検査と濾紙ディスク法の使い分けと診断意義

電気味覚検査と濾紙ディスク法は、それぞれ異なる味覚刺激機序を持つため、診断目的に応じた使い分けが重要です。電気味覚検査は神経刺激の要素を含むため、味覚伝導路障害の診断に特に有効です。顔面神経麻痺における障害部位の特定、中耳手術後の鼓索神経機能評価、聴神経腫瘍の早期発見など、神経障害の診断と予後判定に適しています。


一方で濾紙ディスク法は、甘味・塩味・酸味・苦味という4基本味を個別に評価できる利点があります。受容器型味覚障害(味蕾レベルでの障害)の診断や経過観察には、濾紙ディスク法が適しているとされます。特に亜鉛欠乏性味覚障害や薬剤性味覚障害などの受容器障害では、電気味覚検査が正常値を示しても濾紙ディスク法で異常が検出されることがあります。


つまり障害の種類で使い分けるのが基本です。


北郷らの報告では、受容器型味覚障害患者の29%が電気味覚検査では正常値を示し、66%の症例で両検査の経過が並行しなかったという重要な知見が示されています。この結果は、受容器型障害の評価に電気味覚検査を用いることの限界を明確に示しています。


電気味覚検査の発生機序については、唾液の電気分解によって産生されたイオンによるとする説と、味覚神経終末への直接的な電気刺激によるとする説、あるいはその両者が同時に起こるとする考えがあります。いずれにしても「金属味」という独特の味覚であり、基本4味とは異なる刺激であることを理解しておく必要があります。


実臨床では、初診時に電気味覚検査でスクリーニングを行い、異常が検出された場合や味質に関する詳細な評価が必要な場合に濾紙ディスク法を追加するという段階的アプローチが効率的です。両検査を組み合わせることで、味覚障害の原因特定と適切な治療方針の決定が可能になります。


日本口腔咽頭科学会の味覚障害診断ガイドラインでは、両検査法の使い分けについて詳細な推奨が示されています。


電気味覚検査結果から読み取る臨床診断と対応

電気味覚検査の結果パターンから、障害の部位や原因を推定することができます。鼓索神経領域のみの閾値上昇がみられる場合は、顔面神経のアブミ骨神経分岐後から鼓索神経分岐部までの障害が疑われます。中耳炎や中耳手術、顔面神経麻痺などが代表的な原因疾患です。


鼓索神経と舌咽神経の両方に閾値上昇がある場合は、末梢性の広範な味覚障害または受容器レベルでの障害の可能性が高くなります。亜鉛欠乏性味覚障害や薬剤性味覚障害では、このパターンを呈することが多いとされています。ただし前述のように受容器障害では電気味覚検査が正常を示すこともあるため、濾紙ディスク法での確認が必要です。


左右差が著明な場合は片側性神経障害を示します。


大錐体神経領域のみの閾値上昇は比較的まれですが、顔面神経膝神経節付近の障害やRamsay Hunt症候群などで観察されることがあります。大錐体神経は軟口蓋の味覚を支配するため、この領域特異的な閾値上昇は診断的価値が高い所見となります。


治療効果の判定においても電気味覚検査は有用です。亜鉛補充療法を開始した場合、血清亜鉛値の改善は4〜8週程度で認められますが、味覚機能の改善はそれより遅れることが一般的です。定期的に電気味覚検査を実施することで、客観的な治療効果の評価が可能となり、治療継続の判断材料となります。


血清亜鉛値が80μg/dL未満の場合は亜鉛欠乏性味覚障害と診断され、ノベルジン錠などの亜鉛製剤投与の適応となります。ただし血清亜鉛値は早朝空腹時に測定することが望ましく、日内変動があることに注意が必要です。午前8時が最高値を示し、午後3時には約20μg/dL程度低下するという報告もあります。


味覚障害の診断には、電気味覚検査に加えて血液検査(血清亜鉛・鉄・銅・ビタミンB12など)、嗅覚検査、口腔内視診などを総合的に実施することが重要です。特に嗅覚性味覚障害(嗅覚障害により風味が分からなくなる)は意外に多く、耳鼻咽喉科での精査が推奨されます。


味覚障害と低亜鉛血症の解説ページでは、血清亜鉛値の基準と治療方針について実践的な情報が提供されています。