コンクリートの引張強度は、圧縮強度のわずか1/10しかなく、放置すると建物が5億円超の損害賠償に発展することがあります。
コンクリートの圧縮試験は、「アムスラー」と呼ばれる試験機を使って円柱状の供試体(テストピース)の上下端面に圧縮力を加え、破壊するまでの最大荷重を計測する試験です。その結果から、圧縮強度(N/mm²)を算出します。計算式は以下のとおりです。
$$fc = \frac{P}{\pi \times (d/2)^2}$$
ここで、$fc$は圧縮強度(N/mm²)、$P$は最大荷重(N)、$d$は供試体の直径(mm)です。試験方法はJIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に詳細が規定されており、供試体の寸法測定方法から荷重を加える速度まで厳格に定められています。
なぜここまで細かく規定されているのでしょうか?試験条件が違えば結果が変わるためです。
一般的に用いられる普通コンクリートの圧縮強度は、18〜24 N/mm²程度です。数字だけ見ても実感しにくいですが、1円玉1枚(約3cm²)の面積で約540〜720kgの重量に耐えられることになります。戸建住宅の柱間隔が広い場合や、広いフロア構造では局所的に数トンの力が加わることもあるため、この程度の強度が最低ラインとして設定されています。
単位についても触れておきます。現在はN(ニュートン)が使われていますが、1993年(平成5年)の計量法改正以前は「kgf/cm²」が使われていました。18 N/mm²は、旧単位では約180 kgf/cm²に相当します。古い設計図を参照する際には換算に注意が必要です。
また、JISでは供試体の形状として「円柱形」が標準ですが、対応する国際規格(ISO)では立方体やコア供試体も認められています。これは意外と知られていない点で、国際プロジェクトや海外発注の現場では注意が必要です。
コンクリートの品質基準について詳しく解説している日本生コンクリート工業組合連合会の公式ページも参考になります。
日本生コンクリート工業組合連合会|生コンクリートの品質管理について(空気量と強度の関係など)
供試体を正しく作製しなければ、試験結果そのものが意味をなしません。これが原則です。
供試体の作製方法はJIS A 1132に規定されており、使用する器具・寸法・作成手順・保管方法まで細かく決められています。円柱形供試体は「高さ:直径=2:1」が基本で、標準的なサイズはφ100mm×200mmです。粗骨材の最大寸法が25mmを超える場合はφ125mm×250mmを使用します。
🧪 供試体採取の頻度(土木・建築共通)
| 条件 | 採取頻度 |
|------|--------|
| 1日の打設量が150m³以下 | 1回/日(3本1組) |
| 1日の打設量が150m³超 | 午前・午後の2回 |
| 工事規模・重要度による | 20〜150m³ごとに1回 |
1回の採取につき3本を1組として、その平均値を試験結果として扱います。なお、採取は必ず「打設場所」で行うことが定められており、プラントや工場内での採取は認められていません。現場で採取するというのが基本です。
養生方法には大きく3種類があります。
- 標準養生:20±2℃の水中または相対湿度95%以上の空気中で行う養生。コンクリート自体のポテンシャル強度を評価するための方法です。
- 現場水中養生:現場の気温変化に追随した水中で行う養生。構造体の実強度確認を目的とします。
- 現場封かん養生:ビニールなどで供試体を包み、気温変動に追随しつつ水分の逸散・供給がない状態で行う養生。
この3種類は「目的が違う」ため、養生方法を間違えると評価したい強度とまったく異なるデータが出てしまいます。標準養生はポテンシャル確認、現場養生は実構造体の強度確認、と使い分けましょう。
供試体の採取と養生方法に関して、より専門的な解説が以下で確認できます。
実践コンクリート工学|圧縮強度試験の養生方法と判定基準を詳細解説
「なぜ28日後でないといけないのか?」という疑問はよく出ます。これには、コンクリートの強度発現のしくみが深く関係しています。
コンクリートはセメントと水が化学反応(水和反応)を起こすことで強度が発現します。この反応は時間をかけて進むため、打設直後よりも時間が経つほど強度が高くなっていきます。標準的なコンクリートでは、材齢28日でほぼ設計強度に達することが経験的・統計的に確認されており、これが国際的な判定の基準材齢として採用されています。
つまり28日が基本です。
ただし、現場では28日間ただ待つだけではなく、途中で材齢7日(1週強度)の試験も行います。その目的は大きく2つあります。
- 型枠・支保工の解体時期の判断:脱型に必要な強度が出ているかを早期確認するため
- 4週強度の早期推定:1週強度の結果から「28日後に合格できるか」を事前に予測するため
推定に使われる式の一例として、JASS5 T-602に示されている下記の推定式があります。
$$F_{28} = A \times F_7 + B$$
ここで $F_{28}$は材齢28日強度、$F_7$は材齢7日強度、$A$・$B$は定数です。早い段階で強度不足の兆候をつかむことで、補修対応の時間的余裕を生み出せます。これは使えそうです。
また、高強度コンクリートの場合は試験頻度が厳しく、100m³ごとに1回の採取が求められます(普通コンクリートの150m³に対して厳格化されています)。強度が高い分、配合管理のばらつきが品質に与えるリスクも高いためです。
試験結果の判定には、2つの基準が存在します。混同しやすい部分なので、ここでしっかり整理しておきましょう。
① 使用するコンクリートの強度(JIS A 5308:レディーミクストコンクリート)
- 1回の試験結果(3本平均)が呼び強度の 85%以上
- 3回分の試験結果の平均が 呼び強度以上
② コンクリート構造物の強度(建築基準法)
養生方法によって判定基準が変わります。
| 養生方法 | 判定条件 |
|---------|---------|
| 標準養生 | 材齢28日の強度 ≥ 設計基準強度 + 構造体強度補正値 |
| 現場水中養生 | 材齢28日の強度 ≥ 設計基準強度 |
| 現場封かん養生 | 材齢28日 ≥ 設計基準強度×7/10 かつ 材齢91日 ≥ 設計基準強度 |
「85%以上でも合格」という数字は、一見ゆるく見えます。しかし、これは1回の試験結果に限った規定であり、複数回の試験平均では呼び強度以上が求められます。85%ルールは「1回の偶発的なばらつきに対する許容範囲」として設けられているものです。
標準養生では「設計基準強度+構造体強度補正値」が必要になる点も重要です。補正値はセメントの種類や打設時の気温条件によって3〜6 N/mm²程度加算されるため、実際の合格ラインは設計値よりも高くなります。
国土交通省の品質管理基準資料で最新の規格値を確認できます。
国土交通省関東地方整備局|品質管理基準及び規格値(コンクリート圧縮試験の回数・基準値が掲載)
圧縮試験の結果に直結するにもかかわらず、現場で軽視されがちなのが「空気量」の管理です。意外ですね。
普通コンクリートの空気量の規定値は4.5%で、許容誤差は±1.5%です。一見すると「空気の量」が強度に影響するとは思いにくいですが、実は空気量と圧縮強度には明確な相関関係があります。全国生コンクリート工業組合連合会のデータによれば、空気量が1%増えると材齢28日の圧縮強度は4〜6%低下します。
仮に設計基準強度が24 N/mm²のコンクリートで空気量が基準の4.5%ではなく7.5%(上限超過)になっていた場合、単純計算で強度が12〜18%低下する可能性があります。
$$24 \times (1 - 0.15) = 20.4 \text{ N/mm}^2$$
このケースでは圧縮強度が約20.4 N/mm²まで落ち込み、85%ルールのギリギリ合格ラインである20.4 N/mm²(24×0.85)に達しない恐れも出てきます。数字の上では小さな違いに見えても、現場ではそれが合否の境界になり得るのです。
受入検査での試験項目は、圧縮強度だけではありません。現場で行うフレッシュコンクリートの検査項目は以下のとおりです。
- 🌡️ 温度確認:コンクリートの打設適正温度(5〜35℃が目安)
- 📏 スランプ試験:コンクリートの流動性(施工性)の確認
- 🫧 空気量試験:AE剤による空気量の確認(4.5±1.5%)
- 🧂 塩化物イオン量試験:鉄筋腐食に直結する塩化物の確認(0.30 kg/m³以下)
- 🧱 供試体採取:圧縮強度試験用テストピースの作製
これらすべてがセットで行われて初めて、「合格品のコンクリートを打設した」と言えます。圧縮試験は最終確認ですが、それ以前の受入検査が正しく行われていることが前提条件です。
全国生コンクリート工業組合連合会|空気量と圧縮強度の関係(4〜6%の強度低下データが確認できる)
強度不足が発覚した場合、単なる「やり直し」では済まないケースがあります。厳しいところですね。
実際の判例として、仙台市の8階建てマンションでコンクリートの圧縮強度が設計基準強度を下回り、補修では耐震性を確保できないとして、建設会社側に約5億4,000万円の建て替え費用の賠償が命じられた事例があります(仙台地判 平27年3月30日)。強度不足は「建物の瑕疵」として建築基準法や民法の瑕疵担保責任の対象となり、施工業者・設計者・監理者それぞれに法的責任が及びます。
強度不足が発生する主な原因は以下のとおりです。
- 生コン配合の誤り(水量が多い、セメント量が少ないなど)
- 供試体の養生管理不良(温度・水分の不適切な管理)
- 試験機の精度不足・校正不足
- 現場打設後の養生不足(寒中・暑中コンクリートへの対応漏れ)
強度不足が疑われる場合、一般的な対応フローは次のとおりです。
1. コア採取による再試験:硬化した構造体から直接コアを抜き取り、実強度を確認する
2. 非破壊検査:リバウンドハンマー(シュミットハンマー)法などで表面硬度から強度を推定する
3. 補修か解体かの判断:再試験結果をもとに設計者・監理者・発注者が協議する
コア採取試験は1本あたり数万円、大規模になれば数百万円の費用がかかります。事後対応は非常にコストがかかるため、事前の試験管理が何より重要です。対策は「試験を正しく実施し、記録を残す」の一点に尽きます。
強度不足の法的責任について判例ベースで確認できる情報があります。