圧縮永久歪みJISの試験方法と規格値の完全ガイド

圧縮永久歪みのJIS規格(JIS K 6262)とは何か、試験方法・計算式・判定基準をわかりやすく解説します。ゴムやスポンジ素材の選定に迷っていませんか?

圧縮永久歪みのJIS規格を正しく理解して使いこなす方法

数値が低いほどシール性能が高いとは限らず、むしろ高すぎる圧縮率が歪みを悪化させるケースがあります。


📋 この記事の3つのポイント
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JIS K 6262の基礎知識

圧縮永久歪みの定義・計算式・試験条件を正しく把握することで、素材選定ミスを防ぎます。

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試験方法と判定基準の読み方

試験片の種類・圧縮率・温度条件など、規格が定める手順を理解すれば数値の比較が正確になります。

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現場でよくある判断ミスと対策

試験条件を統一せずに数値比較することで起きる設計ミスのリスクと、その回避ポイントを紹介します。


圧縮永久歪みとは何か:JIS K 6262の定義と基本概念

圧縮永久歪み(Compression Set)とは、ゴムやエラストマー素材を一定時間・一定の圧縮率で変形させた後、荷重を取り除いたときに残る永久変形量を、元の厚みに対するパーセントで表した指標です。数値が0%であれば完全に元の形状に戻ったことを意味し、100%であれば圧縮したまま全く回復しなかったことを示します。


この試験を標準化しているのが、JIS K 6262「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−圧縮永久ひずみの求め方」です。国際規格であるISO 815にも対応しており、グローバルな素材調達や品質比較にも活用されています。


つまり「どれだけ元に戻るか」を数値化した規格です。


シール材やガスケット、防振ゴム、スポンジパッドなど、長期間にわたって弾性を維持する必要のある部品において、圧縮永久歪みは設計上の重要なパラメーターになります。例えば自動車のOリングが経年劣化でシール性を失うのは、この圧縮永久歪みが大きくなるためです。


計算式は以下のとおりです。


記号 意味
CS(%) 圧縮永久歪み
t₀ 試験前の試験片の厚さ(mm)
t₁ 圧縮治具を取り外した後の試験片の厚さ(mm)
t₂ 圧縮中の試験片の厚さ(mm)または試験片を指定圧縮率に圧縮したときの厚さ


$$CS = \frac{t_0 - t_1}{t_0 - t_2} \times 100$$


例えば元の厚みが12.5mm、圧縮中の厚みが9.375mm(25%圧縮)、回復後の厚みが11.0mmだった場合、計算結果はCS = (12.5 − 11.0) ÷ (12.5 − 9.375) × 100 = 48%となります。


この場合「変形量のうち約半分が戻らなかった」と解釈します。意外ですね。


JIS K 6262では試験片の形状としてタイプAとタイプBの2種類が規定されており、タイプAは円柱形(直径29mm、高さ12.5mm)、タイプBは短冊形(13mm × 25mm × 6mm程度)が標準です。タイプAが最もよく使われ、再現性の高い試験が可能です。


圧縮永久歪みのJIS試験方法:温度・時間・圧縮率の条件設定

試験条件は規格の数値比較において最も重要な要素です。ここが統一されていなければ、異なる素材の数値を並べても意味をなしません。


JIS K 6262が定める主な試験条件の組み合わせは以下のとおりです。


試験温度 試験時間 圧縮率 主な用途
23℃(室温) 22時間 25% 一般ゴム・標準評価
70℃ 22時間 25% 耐熱性確認・自動車部品
100℃ 22時間 25% 高耐熱エラストマー評価
−25℃(低温) 22時間 25% 寒冷地向けシール材


圧縮率は通常25%が標準ですが、用途によっては15%や40%が指定されることもあります。条件が変わると数値は大きく変動します。


これは見落としがちなポイントです。


例えば同じNBRゴムでも、23℃/22時間の試験では圧縮永久歪みが15%程度であるのに対し、100℃/22時間では50%を超えることがあります。つまり「温度条件が違うまま数値比較すると、誤った素材選定につながる」リスクがあります。


治具の取り外し後は、JIS規格では30分間23℃の環境に放置してから厚みを測定することが定められています。この回復時間を省略して即時測定すると、数値が実態より大きく(不良側に)出てしまう可能性があります。現場でありがちなミスなので注意が必要です。


圧縮治具はJIS規格で寸法が規定されており、ステンレス製が推奨されています。スペーサーの厚みで圧縮量を管理する仕組みになっており、スペーサーの加工精度が試験精度に直結します。精度±0.01mm以内の管理が求められます。


以下のJIS規格の詳細については、日本産業標準調査会(JISC)のデータベースで閲覧可能です。


日本産業標準調査会(JISC)JIS規格データベース – JIS K 6262の詳細条件を確認できます


圧縮永久歪みの規格値・判定基準:素材別の目安と合否ライン

「何%以下であれば合格か」という基準は、JIS K 6262自体には製品合否の閾値として定められていません。この点を誤解している技術者は少なくありません。


合否判定の基準は各製品規格・社内規格・顧客仕様で個別に設定されます。これが原則です。


ただし、業界内で広く参照される目安として、一般的なゴム素材の種類別の典型値を以下に示します。


素材 試験条件 圧縮永久歪みの目安 特徴
天然ゴム(NR) 70℃/22h/25% 15〜30% 弾性回復に優れる
ニトリルゴム(NBR) 70℃/22h/25% 20〜40% 耐油性に優れる
シリコーンゴム(VMQ) 150℃/22h/25% 10〜30% 高温・低温域での安定性が高い
フッ素ゴム(FKM) 200℃/22h/25% 20〜50% 耐薬品・耐熱性が最高クラス
エチレンプロピレンゴム(EPDM) 70℃/22h/25% 20〜45% 耐候・耐オゾン性に強い
ポリウレタンゴム(AU/EU) 70℃/22h/25% 30〜60% 摩耗性は高いが永久歪みは大きめ


スポンジ・発泡体の場合は数値がさらに変わります。


JIS K 6767(軟質ポリウレタンフォーム)やJIS K 6401(軟質ゴムスポンジ)など、発泡体は専用の関連規格で評価されることが多く、圧縮率の設定も50%など高め・試験時間も72時間や168時間に設定されるケースがあります。スポンジパッドを評価する際には、固形ゴムと同じ条件をそのまま適用しないよう注意が必要です。


使用するシール材の永久歪み値がどの条件下で測定されたものかをカタログで確認してから比較する、という手順を徹底するだけで、素材選定ミスの多くは防げます。


圧縮永久歪みに影響する要因:加硫・配合・設計の視点から

圧縮永久歪みの数値は素材そのものの特性だけで決まるわけではありません。加硫(架橋)の状態、配合剤の種類と量、そして製品の設計寸法がそれぞれ大きく影響します。


加硫が不足している場合、架橋密度が低くなり分子鎖がずれやすくなるため、圧縮永久歪みは悪化します。一方で過加硫になると、架橋が密になりすぎてゴムが硬くなり、これも弾性回復を妨げる原因になります。適切な加硫条件の管理が条件です。


充填剤(カーボンブラックや白色充填剤)の配合量は、硬度だけでなく圧縮永久歪みにも影響します。一般に充填量が増えるほど永久歪みは増加傾向にあります。硬度を上げるために充填剤を増やすと、意図せず永久歪みが悪化するトレードオフが生じます。これは使えそうです。


可塑剤の添加も注意が必要です。低分子可塑剤は経時で揮発・移行しやすく、長期使用時の永久歪みを大きく増加させる原因になります。特に高温環境下や長期設置されるシール材では、可塑剤の選択が耐久性を大きく左右します。


設計面では、使用時の圧縮率が高いほど永久歪みは増大します。例えばOリングの溝設計において、圧縮率を推奨値(静止シールで15〜25%程度)より大きく取りすぎると、短期間でシール性能が低下するリスクが高まります。「締め付けを強くすれば漏れない」という発想は危険です。


圧縮率と永久歪みの関係は線形ではなく、圧縮率が高い領域では急激に悪化する傾向があります。この非線形な関係を理解しておくと、安全マージンの設定に役立ちます。


以下はゴムの配合と物性の関係を詳しく解説した参考情報です。


東海ゴム工業 技術情報 – ゴムの配合・加硫と物性の関係を実例付きで解説しています


圧縮永久歪みの試験結果を正しく読む:現場での見落としやすいポイント

試験成績書に記載された圧縮永久歪みの数値を、そのまま鵜呑みにしてはいけない場面があります。ここが現場で最も見落とされやすいポイントです。


まず確認すべきは「試験条件が使用環境と一致しているか」です。カタログに記載されている数値が23℃/22時間の試験結果であるのに、実際には80℃の環境で使用する場合、その数値は参考にならない可能性があります。使用温度に近い条件での試験値を取り寄せることが基本です。


次に、試験片の作製方法にも注意が必要です。同じゴム配合であっても、プレス加硫品と押出加硫品では配向の違いにより、圧縮永久歪みの数値が異なることがあります。サンプル評価時と量産品で成形方法が変わる場合は再評価が必要です。


試験後の回復時間は規格で30分と定められていますが、実際の使用では数時間〜数日かけて回復が続く素材もあります。試験値は「30分後の回復状態」であることを理解したうえで、長期シール性の予測には別途経時変化の評価も検討することが望ましいです。


複数ロット間での数値のばらつきも重要な管理ポイントです。同じ素材でも、製造ロットによって数値が±5〜10%程度ばらつくことがあります。設計上の合否ラインを「ギリギリ合格」に設定していると、ロット変動で不合格品が混入するリスクがあります。余裕を持った基準設定が現実的です。


試験機関によって治具の精度や温度管理レベルが異なるため、異なる機関のデータを直接比較する場合には注意が必要です。重要な素材評価は同一機関でのデータで比較するのが安全です。


以下は、ゴム試験・品質管理に関する公的な情報源です。


日本ゴム協会 – 圧縮永久歪みを含むゴムの試験・規格に関する最新情報が掲載されています


圧縮永久歪みとJIS規格の独自視点:「低い数値」が必ずしも最適解でない理由

設計現場では「圧縮永久歪みは低ければ低いほど良い」という前提で素材選定が行われることがあります。しかし、この考え方が最終的にコスト増や設計上のトラブルを招くケースがあります。


圧縮永久歪みが極端に低い素材(例えばCS=5%以下の高性能シリコーンや特殊フッ素ゴム)は、材料コストが標準品の3〜10倍になることも珍しくありません。使用環境がそこまでの性能を必要としない場合、過剰品質による無駄なコストが発生します。


永久歪みが低い素材は一般に硬度が高く、相手面との初期接触面圧が高くなります。この結果、相手材(金属・樹脂フランジなど)の変形や傷つきを引き起こすことがあり、シールシステム全体の信頼性を下げる逆効果になることがあります。


また、低永久歪みと耐薬品性・耐熱性を同時に高いレベルで満たす素材は非常に限られており、全ての特性を最大化しようとすると素材選定が行き詰まることがあります。使用環境において「どの特性を優先すべきか」の優先順位を明確にすることが、現実的な解を導く近道です。


結論は「必要十分な数値を持つ素材を選ぶ」です。


JIS K 6262の数値はあくまで比較のための共通指標であり、「何%以下を目指すべきか」は設計要件から逆算するものです。シール面圧の計算、使用温度域、薬液との接触有無、交換サイクルの許容度などを総合的に考慮したうえで、「合格ライン」を自社仕様として設定する設計アプローチが最も実務的です。


素材選定の初期段階では、ゴムメーカーや専門商社の技術サポートを活用することで、JIS試験データの正しい読み方や用途に応じた候補素材の絞り込みをスムーズに行えます。無料の技術相談窓口を設けているメーカーも多いため、まず問い合わせてみることが時間短縮につながります。


日本化学工業協会 – エラストマー・ゴム素材の規格・安全性に関する情報を参照できます