油中に水が分散しているw/o乳化は、「保湿力が高い」と思われがちですが、実は経皮吸収率がo/w型より約3倍高くなる成分もあり、用量設計を誤ると過剰吸収による副作用リスクがあります。
乳化とは、本来混じり合わない水と油を界面活性剤(乳化剤)の力で安定的に混合させた状態のことです。乳化には大きく2種類あり、「o/w型(水中油型)」と「w/o型(油中水型)」に分類されます。
w/o乳化(Water in Oil)は、油(Oil)が連続相(外相)となり、その中に水(Water)が微細な液滴として分散している状態です。つまり油が主体、ということですね。イメージとしては、大きなプールの油の中に無数の水の水風船が浮かんでいる構造です。
一方、o/w型は水が連続相で油が分散しているため、水っぽくさらりとした使用感があります。w/o型は油が連続相であるため、しっとりと重めの使用感が特徴です。医療用外用剤では、この違いが患者のアドヒアランスや治療効果に直結します。
乳化の安定性を決める重要な指標が「HLB値(Hydrophile-Lipophile Balance)」です。HLB値は0〜20のスケールで表され、w/o乳化に適した乳化剤はHLB値3〜6の範囲のものが使われます。これが基本です。代表的なw/o型乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル(Span系)が広く知られています。
医療現場では、この基礎知識が製剤の選択根拠を患者や他職種に説明する際に不可欠になります。「なぜこのクリームはべたつくのか」を説明できる薬剤師・看護師は、患者からの信頼度が格段に上がります。これは使えそうです。
医療の現場でよく目にする外用剤の多くは、w/oまたはo/wのどちらかの乳化形態をとっています。両者の違いを正確に理解していると、患者への投薬指導や製剤の取り扱い方針が変わります。
| 特徴 | w/o型(油中水型) | o/w型(水中油型) |
|------|-----------------|-----------------|
| 連続相 | 油 | 水 |
| 使用感 | しっとり・重め | さらさら・軽め |
| 保湿効果 | 高い(蒸発抑制) | 比較的低い |
| 経皮吸収性 | 高い傾向 | 中程度 |
| 洗い落としやすさ | 落としにくい | 落としやすい |
| 代表例 | ワセリン系、コールドクリーム | ローション、水性クリーム |
w/o型が選ばれる代表的な医療場面は、乾燥性皮膚疾患(アトピー性皮膚炎の保湿管理)、褥瘡の予防、角化症の外用療法などです。皮膚のバリア機能が低下している患者には、油が皮膚表面を覆うw/o型が適している場合が多くなります。
注意点として、w/o型は油が連続相であるため、水溶性の薬効成分を均一に分散させるには高度な製剤技術が必要です。また、製造・保管時の温度変化によって乳化が崩れる(クリーミングや合一)リスクがo/w型より高い傾向があります。乳化安定性には期限があります。
経皮吸収に関しては、w/o型はo/w型と比べて角質層への浸透性が高くなることが知られており、特にステロイド外用剤では剤型(軟膏・クリーム・ローション)が同一成分でも効果の強さに差が出ます。ステロイドの基剤分類では、軟膏>クリーム>ローションの順で経皮吸収性が高い傾向があり、w/o型クリームは中間的な位置づけになります。
医療用w/o乳化製剤が現場で問題になる最大のポイントは「乳化安定性」です。乳化は熱力学的に不安定な系であり、適切な乳化剤の選択と製造条件がなければ、保存中に分離・変質が起こります。
乳化崩壊には主に3段階あります。
- クリーミング:分散粒子が浮上または沈降する状態(外観変化は起きるが、振ると戻る場合が多い)
- フロキュレーション:粒子が凝集するが、まだ個粒子として存在している状態
- 合一(コアレッセンス):粒子が完全に合体し、水相と油相が分離してしまう不可逆的な変化
特に「合一」が起きると製剤としての均質性が失われ、薬効成分の偏りが生じます。これは医療安全上の問題になりえます。厳しいところですね。
w/o型乳化の安定化には以下の手法が実務上重要です。
- 乳化剤の最適選択:HLB値3〜6の非イオン性界面活性剤(Span80など)を用いる
- 粘度調整剤の添加:ゲル化剤(モノステアリン酸グリセリンなど)を加えることで分散粒子の運動を抑制する
- 均一な粒子径の維持:ホモジナイザーなどで乳化時の粒子径を均一にすることで安定性が向上する
- 適切な保存温度管理:多くのw/o型外用剤は室温(1〜30℃)保存が基本で、冷凍厳禁のものも多い
病棟や調剤室での管理として見落とされがちなのが「温度管理」です。夏場に直射日光の当たる場所に軟膏・クリームを放置すると、40℃以上の高温で乳化崩壊が促進されることがあります。患者への在宅指導時に「直射日光と高温を避けて保管」と伝えることは、製剤安定性を守るために必須です。
「w/o型は保湿力が高いだけ」と思っていると、経皮吸収に関して重大な見落としをする可能性があります。意外ですね。
w/o型乳化製剤は油が連続相であるため、脂溶性の薬効成分が角質層に浸透しやすい環境を作ります。具体的には、ステロイド外用剤の場合、同一成分・同一濃度であっても、w/o型クリームはo/w型ローションと比べて皮膚吸収量が1.5〜2倍程度異なる場合があるという報告があります。
特に注意が必要なのは以下のケースです。
- 小児への使用:体表面積あたりの塗布量が成人より多くなりやすく、全身性副作用(HPA軸抑制など)のリスクが高まる
- 皮膚バリアが損傷している部位:湿疹・びらん・創傷部位ではバリア機能が低下しており、通常より経皮吸収が著しく亢進する
- 密封療法(ODT)との併用:ラップや包帯で密封すると経皮吸収が10倍以上になるとされており、w/o型との組み合わせでは特に注意が必要
塗布面積の管理も重要です。成人の手のひら1枚分(約1%体表面積)に対し、チューブから出す量の目安は「FTU(Fingertip Unit)」として知られており、1FTUは約0.5gです。広範囲にw/o型ステロイドを使用する際は、1週間あたりの総使用量を目安に管理することが推奨されています。
このような知識を患者指導に活かすためには、添付文書だけでなく製剤の基剤特性を理解することが重要です。医療安全の観点から、製剤選択の根拠を処方医と共有できる薬剤師・看護師の存在は非常に価値が高くなります。つまり製剤知識が患者安全に直結するということです。
参考:日本皮膚科学会による外用療法のガイドライン(外用ステロイドの使用方法と基剤に関する解説)
日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」(外用療法・基剤選択の根拠が記載)
検索上位の記事ではほとんど触れられていませんが、医療従事者にとって重要な観点が「院内製剤や一部調剤薬局での混合調剤」における乳化安定性の管理です。
市販の軟膏・クリームを混合する際、w/o型とo/w型を混合すると乳化形態が変化し、薬効成分の放出特性が予測できなくなることがあります。これは医療安全上の盲点です。たとえば、w/o型のステロイドクリームとo/w型の保湿クリームを混合した場合、均質な混合物にならない可能性があり、患者ごとに塗布量を変えても薬効成分が一定に届かないリスクがあります。
日本薬局方(JP)では、軟膏剤の品質試験として「均質性試験」が規定されていますが、院内での混合調剤品はその対象外となる場合が多く、実際の品質管理は調剤者の知識と経験に委ねられています。これだけは例外です。
具体的な品質管理の注意点は以下の通りです。
- 同種の乳化形態同士を混合する:w/o型同士、o/w型同士を混合するのが基本。異なる乳化形態の混合は原則避ける
- 混合比率の上限を守る:一般的に、希釈・混合は全体量の50%以内が目安とされており、それ以上では安定性が保証されない
- 混合後の外観確認:分離・変色・異臭がないかを調剤後に確認する
- 使用期限の設定:院内混合製剤は市販品より短い使用期限(1〜2週間程度)を設定することが推奨される
このような混合調剤に関する知識は、薬剤師だけでなく、外用剤の使用方法を指導する看護師にとっても理解しておくと現場での患者説明に役立ちます。
参考:日本病院薬剤師会による院内製剤に関する指針
日本病院薬剤師会「院内製剤の品質管理に関する基本的考え方」(混合調剤の安定性管理に関する記述あり)
混合調剤の品質に不安がある場合、現在では「配合変化データベース」や「軟膏混合適否検索システム」をオンラインで提供している薬学関連機関があります。調剤前に確認する習慣をつけると、現場でのミスを未然に防げます。確認する、という1アクションで安全性が大きく変わります。