「VASだけ毎回〇mmで取れていれば大丈夫」と思い込んでいると、同じ説明でも患者クレームが3倍に増えることがあります。
VAS(Visual Analogue Scale)は、長さ10cm=100mmの直線を使って痛みの強さを評価する連続スケールです。 左端を「全く痛くない」、右端を「想像できる最大の痛み」とし、患者に現在の痛みを線上にマークしてもらい、左端からの距離をmm単位で記録します。 10cmはだいたいハガキの横幅と同じ長さなので、イメージしやすいですね。 つまり10mmが1段階という感覚です。 iryo-careernavi(https://iryo-careernavi.com/useful/10/)
VASスコアの解釈には、国際的な目安がいくつか提案されています。 代表的には、0~4mmを「痛みなし」、5~44mmを「軽度」、45~74mmを「中等度」、75~100mmを「重度」とする分類があります。 一方で、慢性筋骨格系疼痛では軽度≤34mm、中等度35~64mm、重度≥65mmとする基準もあり、同じ100mmでもカットオフ値が疾患や研究により変わる点が重要です。 結論は「何mm以上なら中等度」という基準は、対象や文献を必ず確認してから使うべきということです。 cliniscale.emuyn(https://cliniscale.emuyn.net/VAS/info)
歯科臨床では、顎関節症や術後痛の評価にVASが広く応用されています。 例えば顎関節症で毎回VASを記録し、治療前後のスコアを比較することで、疼痛の経時的変化を確認できます。 これは使えそうです。 ただし、急性痛ではVASの感度が高い一方、慢性痛では信頼性が低下しうることが報告されており、歯科でも慢性顎関節症や長期の咀嚼筋痛では解釈に注意が必要です。 st-medica(https://www.st-medica.com/2012/07/visual-analogue-scale.html)
臨床的に意味のある変化量(MCID:minimal clinically important difference)も押さえておくと便利です。 一般的には10~15mmの改善を「臨床的に有意な変化」とみなすことが推奨され、急性痛では約10mm、慢性痛では12~13mm程度が目安とされています。 さらに、術後痛では14~23mmの改善を1つの基準とした報告もあり、30mm以上スコアが下がると「十分な疼痛管理ができている」と評価されることが多いです。 つまり「1~2mmの差」は誤差レベル、「10mm以上」は意味のある変化、と覚えておけばOKです。 cliniscale.emuyn(https://cliniscale.emuyn.net/VAS/info)
歯科医療者の多くは「VASは数値化できるから客観的」と考えがちですが、過信すると時間的にも法的にも損をしやすいポイントがあります。 まず大きな落とし穴は「患者間比較の限界」です。VASは1人の患者の経時的変化を評価するには優れますが、異なる患者同士のスコアを比較する信頼性は高くないと指摘されています。 つまり「昨日のこの患者」と「今日別の患者」を同じ50mmだから同程度、と判断するのは危険ということですね。 jspc.gr(https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_hyouka.html)
2つ目は「慢性痛での信頼性低下」です。ScottとHuskissonらはVASが高感度な評価法と報告する一方で、慢性痛では信頼性が低下するケースがあることも示されています。 歯科では顎関節症や慢性歯痛など慢性的な痛みを扱う場面が多いため、VAS単独では心理的ストレスや生活機能の低下を拾いきれない可能性があります。 つまり「慢性痛にVASだけ」は避けた方がよいということですね。 seisen-u.repo.nii.ac(https://seisen-u.repo.nii.ac.jp/record/1167/files/2015-04-10.pdf)
3つ目は「高齢者・小児・視力低下患者での評価困難」です。線上で痛みを表現すること自体を理解できない患者や、視力の低下した患者、高齢者や一部の小児ではVASの習得が難しいとされています。 歯科の外来には後期高齢者が多く、さらに小児歯科では数字や線の概念理解が難しい年齢層も来院します。 こうした患者に無理にVASだけを使うと、実際の痛みよりも低く出る「過小評価」が起きやすく、その結果、鎮痛不足からクレームにつながるリスクがあります。 wsava(https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/Pain-Guidelines-Japanese.pdf)
4つ目は「スケールアウト問題」です。VASでは2回目以降の測定で痛みが増強した際、患者が線の端より外側に印をつけてしまう“スケールアウト”の問題が報告されています。 歯科の術後痛や急性の歯髄炎では、前回より悪化したと患者が感じると、端を超えて書き足してしまう場面も想像できます。 これをそのままスコア化できないと、電子カルテ上では「記録なし」となり、説明責任を問われた際に不利になることもありえます。 つまり「端を超える患者もいる」と想定した運用が必要です。 medical.jms(https://medical.jms.cc/diagnosis/ifp/pca/07.html)
5つ目は「痛み以外の要因を反映しやすい」という点です。VASスコアは心理状態や生活背景の影響を受けやすく、うつ症状や不安が強い患者では同じ歯科的状態でもVASが高値になりやすいことが慢性疼痛研究で指摘されています。 歯科でも、矯正治療やインプラントなど高額な治療では費用への不安、過去の歯科恐怖などがスコアに上乗せされることがあります。 痛いですね。 そのため、VASのみを根拠に「大げさ」「訴え過多」とラベリングすると、訴訟やSNS炎上の火種になりかねません。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2011/113131/201127002A/201127002A0003.pdf)
こうした限界を補うためには、VASを他の痛みスケールと組み合わせて使うことが推奨されています。 代表的なのがNRS(Numerical Rating Scale)とVRS(Verbal Rating Scale)、フェイススケール(Face Rating Scale)です。 NRSは0~10の数字で痛みを評価する段階的スケールで、口頭で質問しやすく、電子カルテへの入力も簡便です。 NRSが基本です。 VRSは「痛くない」「少し痛む」「かなり痛む」「耐えられないほど痛む」の4段階など言語ラベルで評価する方法で、高齢者や数字が苦手な患者に有用です。 knowledge.nurse-senka(https://knowledge.nurse-senka.jp/226068/)
組み合わせ方の実務的なコツとしては、例えば「初診時:VAS+NRS+VRS」「術後1日目:NRS中心、VASは必要時」「高齢者・小児:VASを無理に使わずフェイススケールまたはVRS中心」といったルールを院内で決めておく方法があります。 こうすることで、記録の一貫性を保ちつつ、患者ごとの理解度にも対応しやすくなります。 つまり運用ルール作りが条件です。 最近は、スマートフォンやタブレットでVAS・NRS・フェイススケールをまとめて入力できる無料アプリやクラウドサービスも登場しており、痛みの推移グラフを自動生成してくれるものもあります。 データ管理の手間と時間を減らしたい場合には、こうしたツールを1つ選んで院内で統一するだけでも、スタッフ教育と記録の質が大きく変わります。 jp.surveymonkey(https://jp.surveymonkey.com/learn/survey-best-practices/pain-scale/)
一方で、VASスコアだけを淡々と記録していても、患者の生活への影響や心理面が記載されていないと、「単に数値を書き写しただけ」と見なされるリスクがあります。 慢性疼痛評価では、VASとともに心理・生活面の評価尺度(たとえばPCSなど)を組み合わせることで、痛みへのケアの質が上がると報告されています。 つまり、「今日はVAS70mm」「食事摂取量が半分」「夜間の中途覚醒2回」など、具体的な生活機能情報を一緒に残すことが重要です。 結論は「数値+文脈」が防御力を高める、ということです。 seisen-u.repo.nii.ac(https://seisen-u.repo.nii.ac.jp/record/1167/files/2015-04-10.pdf)
また、ラバーダムクランプ着脱操作における疼痛抑制教育の効果を評価する際にも、VASが応用されています。 研修前後で被験者のVASスコアを比較することで、教育プログラムが実際にどれくらい痛みを減らしているかを定量的に確認できるため、教育の質保証にも役立ちます。 つまりVASは「教育の結果を見える化するツール」としても利用できるわけです。 同様に、矯正治療時の歯痛に対するアロマテラピーの効果検証でも、主要アウトカムとしてVAS変化が設定されており、歯科領域での補完代替療法のエビデンスづくりにも使われています。 center6.umin.ac(https://center6.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000019964)
研究デザインの注意点としては、VASを用いる場合、ラインの長さは100mmに統一し、紙質や提示方法を標準化することが推奨されています。 また、慢性疼痛研究では、前述のように「軽度・中等度・重度」のカットオフが研究ごとに異なるため、使用する分類をプロトコルに明記しておく必要があります。 痛みだけは例外です。 統計解析では、VASが連続変数として扱えるため、平均値・標準偏差や、臨床的に意味のある変化量(10~15mmなど)を用いた解析が可能です。 研究を志向する歯科医にとって、VASは低コストかつ高汎用性のあるアウトカム指標と言えるでしょう。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-sankou3-3.pdf)
歯科でのVASと他の痛みスケールの整理として、以下のポイントを押さえておくと便利です。 jspc.gr(https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_hyouka.html)
・急性術後痛:VAS+NRSで変化量を重視
・慢性顎関節症:VAS+生活機能評価(食事・会話・開口量)
・小児・高齢者:フェイススケールまたはVRSを優先し、必要時にVAS
・教育や審美評価:VASで主観評価を数値化
こうした運用をチームで共有しておくと、評価の質が揃い、研究にも組み込みやすくなります。 jsgd(https://jsgd.jp/wordpress/wp-content/uploads/e69aa795da210885707360df0a4c150a-1.pdf)
歯科の疼痛評価スケールの全体像と各スケールの特徴は、以下の解説がコンパクトにまとまっていて参考になります。 jspc.gr(https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_hyouka.html)
日本ペインクリニック学会「痛みの診断と評価」:VAS、NRS、VRS、フェイススケールの基本と使い分けの参考リンク
VASの線の長さや分類、臨床的に意味のある変化量(MCID)の詳細は、臨床スケール集の解説がわかりやすいです。 cliniscale.emuyn(https://cliniscale.emuyn.net/VAS/info)
CliniScale「VAS 詳細情報」:線の長さ、痛みの重症度分類、MCIDの具体的数値がまとまっている参考リンク
最後に、この記事を読んだうえで、あなたの院ではVASを「誰に」「どのタイミングで」「何と組み合わせて」使うのが一番現実的だと感じますか?