1本で約80%の症例に対応できます。
WaveOne Goldは、デンツプライシロナ社が開発した電動式歯科用ファイルシステムです。管理医療機器クラスIIに分類され、歯内療法における根管拡大・形成を目的としています。このシステムの最大の特徴は、従来の複数本によるファイルシステムとは異なり、基本的に1本のNiTiファイルで根管形成を完結できる点にあります。
どういうことでしょうか?
従来の根管治療では、ProTaper Goldのように複数のファイル(SX、S1、S2、F1、F2など)を順番に使用する必要がありました。これに対してWaveOne Goldは、約80%の症例でPrimary #25/.07という1本のファイルだけで根管形成が可能です。残りの20%の症例でも、Small #20/.07、Medium #35/.06、Large #45/.05という計4サイズから選択すれば対応できる設計になっています。
ファイルの長さは21mm、25mm、31mmの3種類が用意されており、ISO規格に準拠した先端径0.05〜0.07のテーパー設計です。材質には特殊な熱処理を施した「GOLD Wire NiTi」を採用しており、これにより従来品と比較して柔軟性が80%向上し、破折抵抗性も50%以上高まっています。
つまり治療の簡略化と安全性向上を両立しているということですね。
専用のエンドモーターとしてX-Smart PlusまたはX-Smart IQの使用が推奨されています。これらのモーターにはWaveOne専用のレシプロケーティングモーション(往復回転運動)がプログラムされており、約300rpmの設定で使用します。この往復運動により、連続回転式ファイルよりもファイルへの負荷が分散され、破折リスクが大幅に軽減される仕組みです。
デンツプライシロナ公式サイトでは、WaveOne Goldシステムの詳細な製品情報と臨床データが公開されています
WaveOne Goldを使用した根管形成には、明確な手順があります。まず重要なのがグライドパス(誘導路)の形成です。いきなりWaveOne Goldを根管に挿入するのではなく、まず#10または#15のKファイルで根尖孔まで到達させ、根管の走行を確認します。
グライドパスの形成ができたら、次にWaveOne Gold Gliderという専用のグライドパスファイル(#16/.02-.085のテーパー)を使用することが推奨されています。これも同じレシプロケーティングモーションで駆動し、WaveOne Goldが追従しやすい滑らかな経路を作ります。この段階での丁寧な準備が、後の破折リスクを大きく減らすことになります。
これが基本です。
グライドパス形成後、いよいよWaveOne Goldファイルの使用です。ファイルを根管に挿入する際は「ペック運動」と呼ばれる動作を行います。具体的には、軽く根管内に押し込んでから引き抜く動作を繰り返し、1回の挿入で約3mm進める感覚です。通常は3〜5回のペック運動で作業長に到達できます。
各ペック運動の間には、必ず根管洗浄を行います。次亜塩素酸ナトリウム溶液やEDTA溶液を使用し、削りカス(デブリ)を根管外に排出させることが重要です。WaveOne Goldは効率的に象牙質を切削できる分、デブリも多く発生するため、洗浄を怠ると根管充填時に問題が生じる可能性があります。
作業長に到達したら、形成完了です。約80%の症例ではこれで終了となり、従来のように次のサイズのファイルに移行する必要はありません。根管が太い場合や、さらなる拡大が必要な場合のみ、MediumまたはLargeサイズへの変更を検討します。
治療時間は大幅に短縮されます。
根管充填にはWaveOne Gold専用のガッタパーチャポイント「WaveOne Gold Cone」を使用すると、ファイルで形成した根管形態に正確にフィットします。これにより封鎖性が向上し、根尖部での漏洩リスクが低減します。充填方法は側方加圧法でも垂直加圧法でも対応可能ですが、システムとの相性を考えると垂直加圧法がより推奨されています。
OneDデンタルの解説記事では、WaveOne Goldの具体的な使用方法と臨床上の注意点が詳しく紹介されています
WaveOne Goldファイルの価格は1本約2,400円です。一見すると高価に感じられますが、治療効率と費用対効果を総合的に評価する必要があります。従来のマルチファイルシステムでは、1症例あたり複数本のファイルを使用することが一般的でした。ProTaper Goldを例にとると、SXからF2まで最低でも5本程度を順次使用します。
各ファイルを再利用する場合でも、オートクレーブ滅菌の手間とコスト、さらには金属疲労による破折リスクの増大という問題があります。WaveOne Goldは滅菌済みパッケージで供給され、シングルユース(使い捨て)が推奨されているため、交差感染のリスクがゼロになり、感染管理の面で大きなメリットがあります。
痛いですね。
しかし治療時間の短縮効果を考慮すると、状況は変わります。複数本のファイルを使う従来法では、根管形成に15〜30分程度かかることが珍しくありません。WaveOne Goldを使用すれば、この時間を10〜15分程度、つまり30〜50%短縮できるとされています。時間をお金に換算すると、1症例あたり約3,000円から6,000円相当の人件費削減になる計算です。
保険診療での根管治療では、抜髄(C1コード)で1根管あたり約1,100点、感染根管治療(C2コード)で約1,150点が算定されます。3根管の大臼歯であれば合計で約3,300〜3,450点となり、10割換算で3万3,000〜3万4,500円程度です。この中でファイルコスト2,400円は約7〜8%を占めますが、治療時間短縮による回転率向上を考えれば、十分にペイする投資と言えます。
自費診療のクリニックではさらに導入メリットが大きくなります。1根管あたり2万〜5万円の治療費を設定している医院では、ファイルコストは収益の5〜12%程度に収まります。加えて、患者満足度向上(治療時間短縮による負担軽減)という無形の価値も生まれます。
コスト面で不安がある場合は、まず症例を選択する戦略が有効です。初めての導入では、湾曲根管や治療難易度の高い症例に限定してWaveOne Goldを使用し、直線的な根管は従来法で対応するという併用方式を取ることができます。システムに慣れてから徐々に適用範囲を広げれば、投資リスクを最小化できます。
NiTiファイルの最大の懸念事項は破折です。WaveOne GoldはGold Wire技術により破折抵抗性が50%以上向上していますが、それでもゼロリスクではありません。特にグライドパスを十分に形成せずに使用したり、過度な圧力をかけたりすると、根管内でファイルが破折する可能性があります。
破折が発生すると、折れたファイル片を除去する必要があり、治療時間が大幅に延長します。除去できない場合は、その部分を残したまま根管充填を行うか、最悪の場合は抜歯を選択せざるを得なくなることもあります。これは患者への説明責任と賠償問題にも発展しかねない重大なトラブルです。
厳しいところですね。
破折を予防するための第一のポイントは、前述のグライドパス形成を確実に行うことです。特に大臼歯の遠心根など、アクセスが深く湾曲が強い部位では、#10Kファイルで慎重に根管の走行を確認し、WaveOne Gold Gliderで十分に経路を整えてから本番のファイルを使用します。この前処置により、破折リスクは大幅に低下します。
第二のポイントは、適切な力加減です。WaveOne Goldは高い切削効率を持つため、強く押し込む必要はありません。軽い圧力でペック運動を行い、ファイルが自然に根管を進んでいく感触を確かめながら使用します。抵抗を感じたら無理に進めず、一度引き抜いて洗浄し、再度アプローチします。
第三のポイントは、ファイルの再利用を避けることです。メーカーは基本的にシングルユースを推奨していますが、コスト意識から複数症例で再利用する医院も存在します。しかし繰り返し使用による金属疲労は目に見えない形で蓄積し、ある時点で突然破折するリスクが高まります。安全性を最優先するなら、1症例1ファイルの原則を守るべきです。
再利用するなら最大3根管が限度です。
万が一破折が発生した場合の対処法も知っておく必要があります。破折片が根管内に残留した場合、まずマイクロスコープ下で破折片の位置と長さを確認します。破折片が根尖1/3より根冠側にあり、露出している場合は、超音波チップやマイクロエクスプローラーを使用して除去を試みます。ただし無理な除去操作は根管壁を損傷させるリスクがあるため、専門医への紹介も選択肢に入れるべきです。
DentReviewでは、WaveOne Goldの破折リスクと対策について、実際の臨床データを基にした詳細な分析が掲載されています
WaveOne Goldを導入する前に、他のNiTiファイルシステムとの比較を理解しておくことが重要です。主な競合製品としては、同じデンツプライシロナ社のProTaper Gold、VDW社のReciprocシステム、コルテネ社のHyFlex CMなどがあります。それぞれに特徴があり、診療スタイルや症例傾向によって最適な選択肢は変わります。
ProTaper Goldは、WaveOne Goldと同じGold Wire技術を使用していますが、マルチファイルシステムです。SX、S1、S2、F1、F2、F3という複数のファイルを順次使用する設計で、より細かくコントロールしながら根管を拡大できます。根管形態が複雑な症例や、形成の過程を細かく管理したい場合には、ProTaper Goldの方が適している場合があります。ただし治療時間はWaveOne Goldより長くなります。
Reciprocシステムは、WaveOne Goldと同様にシングルファイルコンセプトとレシプロケーティングモーションを採用しています。主な違いは回転角度の設定で、Reciprocは150度正回転/30度逆回転に対し、WaveOne Goldは170度正回転/50度逆回転という設定です。また材質はReciprocがM-Wire、WaveOne GoldがGold Wireと異なり、柔軟性ではWaveOne Goldが優位とされています。
意外ですね。
HyFlex CMは、コントロールドメモリー(CM)ワイヤーという特殊な材質を使用しており、根管から取り出すと元の直線形状に戻る特性があります。これにより破折リスクが非常に低く、再利用も比較的安全に行えるとされています。1本あたりの価格も約2,500円とWaveOne Goldと同程度ですが、複数回使用できるため、長期的なコストではHyFlex CMの方が有利になる可能性があります。
TruNatomyは、デンツプライシロナ社が2019年に発表した最新システムで、WaveOne Gold、ProTaper Next、ProTaper Goldの良さを融合させたハイブリッド設計です。より細い先端径(#17〜#26)と小さいテーパー設計により、歯質の削除量を最小限に抑えながら効率的な形成が可能です。ただし価格はやや高めで、システム全体の習熟にも時間がかかります。
どのシステムを選択するかは、各医院の診療方針によります。保険診療中心で効率を最優先するならWaveOne Gold、自費診療で時間をかけた丁寧な治療を提供するならProTaper GoldやTruNatomy、コスト重視ならHyFlex CMという選択肢が考えられます。複数のシステムを併用し、症例に応じて使い分ける戦略も有効です。
WaveOne Goldを導入した歯科医院では、実際にどのような変化が起きているのでしょうか。
ある一般歯科診療所の事例を見てみます。
この医院では、年間約200症例の根管治療を行っており、そのうち約6割が大臼歯、4割が前歯・小臼歯という構成でした。導入前は根管形成に1歯あたり平均25分を要していましたが、導入後は平均15分に短縮されました。
この10分の短縮は、単なる時間削減以上の意味を持ちます。1日8時間の診療で根管治療を4症例行うとすると、40分の時間が浮くことになります。この時間を使って追加の患者を受け入れるか、あるいは各症例により丁寧な根管洗浄や患者説明の時間に充てることができます。実際にこの医院では、浮いた時間を患者説明に充て、治療満足度が向上したという報告があります。
結論は効率化とクオリティ向上の両立です。
スタッフの負担軽減も見逃せない効果です。従来のマルチファイルシステムでは、複数のファイルを準備し、使用後に回収・洗浄・滅菌する一連の作業が発生していました。WaveOne Goldのシングルユースに切り替えたことで、滅菌処理の手間が大幅に削減され、アシスタントの作業時間が1症例あたり約5分短縮されました。これはスタッフのモチベーション向上にもつながっています。
感染管理の面でも改善が見られました。使い捨てのファイルを使用することで、交差感染のリスクが理論上ゼロになり、患者への説明時にも「このファイルはあなた専用の新品です」と明示できるようになりました。特に感染症に敏感な患者からは高い評価を得ており、口コミでの新患獲得にもつながったという報告があります。
ただし導入初期には課題もありました。まず術者自身がシングルファイルシステムの感覚に慣れるまで、約20症例程度の経験が必要でした。従来の「細いファイルから順に太くしていく」という感覚とは異なり、「いきなり適切なサイズのファイルで一気に形成する」という考え方への転換が求められたからです。
コストの調整も必要でした。1本2,400円のファイルを毎回使い捨てにするため、材料費は確実に上昇します。この医院では、自費根管治療の料金を見直し、1根管あたり3万円から3万5,000円に改定することで対応しました。患者には「最新の安全なシステムを使用している」という付加価値を説明し、大きな反発は起きませんでした。
診療報酬改定の影響も考慮する必要があります。保険診療の点数は定期的に見直されるため、材料費とのバランスが変動する可能性があります。しかし治療効率が上がれば、同じ時間でより多くの症例をこなせるため、トータルの収益性は維持できる見込みです。
長期的な視点での経営判断が求められます。