あなた、95%で治療を止めると見逃します。

高齢者のSpO2をみるとき、まず押さえたいのは「若年成人と同じ数字だけで切らない」ことです。日本呼吸器学会の冊子では、若年健常者の動脈血酸素分圧は97mmHgでSpO2 98%、老年健常者では80mmHgでSpO2 95%が目安として示されています。つまり高齢者で95%だからといって、ただちに異常と断定するのは早計です。
結論は個別評価です。一般に健康な人のSpO2は96〜99%、歯科領域でも95〜100%や96%以上が正常の目安として扱われます。いっぽうで高齢者では加齢や基礎疾患の影響でやや低めでも安定していることがあり、普段の値から3〜4%下がっていないかのほうが実務では重要です。
ここが基本です。たとえばいつも97%の患者が94%まで下がるのと、ふだん95%前後で安定している患者が95%のまま来院するのでは意味が違います。歯科の問診で「自宅で測ると何%くらいか」「階段で息切れが増えていないか」まで確認すると、数分の診査で判断精度がかなり上がります。
高齢者のSpO2とPaO2の関係を整理できる日本呼吸器学会の冊子です。
https://www.jrs.or.jp/file/pulse-oximeter_medical.pdf
歯科現場では「95%未満なら危険」と単純化したくなりますが、そこに落とし穴があります。日本呼吸器学会のQ&Aでは、安静時SpO2が95%以下なら専門医相談の目安になりうる一方、95%を超えていても息切れや夜間症状があれば低酸素血症を見逃す可能性があるとされています。数値だけでは足りません。
つまり95%は境界です。たとえば治療前の歩行直後は、診療室まで10mほど歩いただけでも準呼吸不全や呼吸不全の患者ではSpO2が一時的に下がることがあります。座って30秒〜1分ほどで上がるなら体動や循環遅延の影響を疑えますし、下がったままなら全身状態の再評価が必要です。
結論は再測定です。高齢者で95%前後を見たら、呼吸数、脈拍、会話の滑らかさ、顔色、起坐呼吸の有無を確認しながら、1〜2分の安静後に再チェックする流れが安全です。これだけで不要な中断を避けられる場面も、危険な見逃しを防げる場面もあります。
SpO2は便利ですが、誤差要因が驚くほど多い測定です。日本呼吸器学会のハンドブックでは、寒冷による末梢血管収縮、マニキュア、体動、外部光、装着不良、異常ヘモグロビン、血圧計との同時使用などが誤差要因として列挙されています。1%の機器差は普通に起こり、短時間なら2%ずれることも珍しくありません。
意外ですね。歯科では特に、ジェルネイルや濃いマニキュア、手指の冷え、処置前緊張による末梢循環低下が重なりやすいです。しかも歯科器材の着脱や会話、姿勢変更が多いので、落ち着いた病棟測定より数値が暴れやすいと考えたほうが安全です。
つまり再現性が条件です。測定するときは、ネイルの有無を確認し、冷えた指なら温め、血圧計のマンシェットと反対側の手に装着し、波形や脈拍が安定してから読むのが原則です。歯科メディアでも、ネイルや汚れがある場合は足趾測定も選択肢とされており、現場での代替手段を知っているだけで再測定の時間ロスを減らせます。
歯科でのバイタル確認の考え方を整理しやすい参考です。
https://blanc-dental.jp/column/vitalsign/
高齢患者の歯科診療では、SpO2は「治療可否を一発で決める数字」ではなく、安全域を探る指標として使うのが実際的です。厚労省掲載の高齢者歯科対応資料では、疾患を有する高齢者の処置中にパルスオキシメーターを装着し、モニター監視下で行うことが勧められています。高齢者ほど全身状態の変化が口腔処置に反映されやすいからです。
数値だけ覚えておけばOKです。一般論では90%未満は呼吸不全が疑われ、早めの対応が必要なラインです。さらに患者の普段のSpO2より3〜4%低下した場合も急性増悪の目安になるため、たとえ93〜95%でも「いつもの値より落ちている」なら軽く見ないほうが安全です。
どういうことでしょうか? 例えば在宅酸素療法中の高齢患者が来院し、いつも94〜95%なのに今日は91%で会話も途切れがちなら、数%の差でも意味は大きいです。逆に安定した95%で、顔色良好、呼吸数も落ち着き、短時間の非侵襲処置なら進められる場面もあります。
高齢者歯科診療でモニター監視を位置づけた資料です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001dp1h-att/2r9852000001e66g.pdf
歯科医療者が見落としやすいのは、SpO2が正常でも苦しい高齢者がいることです。日本呼吸器学会は、SpO2が正常でも低酸素状態は起こりうること、またSpO2は呼吸困難に直接結びつかず、正常でも強い呼吸苦を訴えることがあると明記しています。貧血、心拍出量低下、CO2貯留、喘息発作、COPD急性増悪では特に要注意です。
ここが盲点です。口腔外科処置や長時間開口では、患者は「苦しい」と言いにくく、術者側はモニターの97%だけを見て安心しがちです。しかしSpO2は換気そのものの代わりにならないため、呼吸数、胸郭運動、返答の遅さ、冷汗、落ち着きのなさを同時に見ないと危険です。
結論は併読です。SpO2は見ますが、それと同じくらい「話せるか」「横になってつらくないか」「処置中に呼吸が速くなっていないか」を見る習慣が、高齢患者の安全性を大きく上げます。対策としては、リスク場面を減らす狙いで半坐位を選ぶ、短時間処置に区切る、必要時は既往管理を主治医へ照会する、この3つを徹底するだけで現場の事故予防に直結します。

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