舌小帯短縮症の手術は成人でも有効性と課題を解説

成人患者の舌小帯短縮症に対する手術の実際と効果について。検査方法から術後のリハビリまで、歯科医が知るべき診療情報をまとめました。手術は保険適用ですが、術後のトレーニングが発音改善の鍵となるのをご存知ですか?

舌小帯短縮症の成人手術における現状

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「手術しても滑舌が治らない成人患者」は実は多く、術後のリハビリなしでは改善が期待できません。

多くの歯科医が見落としている重要なポイント:成人の舌小帯短縮症患者が手術を受けても、すべての患者で発音が改善するわけではないという現実があります。

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成人の診断基準

口を開けて舌先を上顎に付ける動作で、口の高さの1/2以上上げられれば軽度、1/2以下なら中度、下の歯より上がらなければ重度と判定されます。

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手術の適応基準

発音や食事に支障が認められる場合、または舌小帯が短いためにハート舌(舌の先端がくびれた状態)が見られる場合が手術適応となります。


成人患者の舌小帯短縮症はなぜ検査が重要か


成人の舌小帯短縮症を診断する際には、単なる短縮の有無ではなく、患者の生活への実際の影響を把握することが非常に大切です。歯科医が見逃しやすいのは、発音障害が舌小帯短縮症だけでは説明できない場合があるという点です。


舌の筋力が長年低下した状態が続いていると、短縮していない場合でも舌を正確に動かすことが困難になります。そのため、舌の可動範囲測定に加えて、発音時の舌の実際の動きを観察することが重要です。患者に「さ」「た」「ら」行を発音させて、舌がどのように動いているかを直接確認する方法が有効です。


検査では舌の位置だけでなく、歯並びや咬合との関係も見ておく必要があります。舌小帯が短いために舌が通常より低位置にあると、下顎前歯に対する舌の前突力が強まり、歯列不正の原因になる場合があるからです。


診断時には患者へのカウンセリングも同時に行うべきです。特に成人患者は、手術で発音がすぐに改善されると期待していることが多いため、術後のリハビリが発音改善の鍵になることを事前に説明しておくと、患者満足度が高まります。


成人患者への手術方法と適用基準の違い

成人の舌小帯短縮症に対する手術には、レーザーメスを使用する方法とメスによる従来的な切除法の2種類があります。レーザーを使った場合、出血量が少なく、術後の痛みや腫れが軽度で済むメリットがあります。一方、従来のメス切除は完全な舌小帯の除去が確実な点が利点です。


成人が手術の対象になるための基準は、実は小児とは異なります。小児では授乳障害や発音遅延の防止が主な目的ですが、成人では既存の発音障害や食事時の困難さの改善が主たる目的となります。このため、生活への影響度を重視した診断が必要です。


手術の決定は患者の主訴に基づいて行うべきです。滑舌の悪さが本当に舌小帯短縮症が原因なのか、それとも他の要因(舌の筋力低下や他の構音障害)があるのかを十分に検討してから手術を推奨することが責任ある歯科診療といえます。


中度から重度の短縮で、かつ患者が改善を強く望む場合が手術適応となることが多いです。軽度の短縮の場合は、リハビリトレーニングのみで対応することもあります。


成人患者の舌小帯手術は保険適用で行える実務知識

舌小帯短縮症の手術は保険診療の対象となることが重要な点です。保険適用であるため、患者の経済的負担が少なく、多くの患者が治療を受けやすい環境が整備されています。保険診療での手術費用は約3,000~5,000円程度が一般的で、手術内容や麻酔の種類による追加費用はほぼ発生しません。


ただし、注意すべき点があります。手術そのものは保険適用ですが、術後の機能訓練(舌小帯短縮症のためのリハビリ)は自費診療となる医院が大多数です。このため、患者に対しては事前に「手術は保険で受けられるが、その後のトレーニングは自費になる可能性がある」と説明しておく必要があります。


手術当日には局所麻酔全身麻酔の場合もある)が使用されます。局所麻酔であれば日帰り手術として約10分程度で完了します。麻酔代を含めた総費用は保険診療で処理されるため、患者負担は最小限です。


術前の検査から術後の抜糸まで、保険診療の範囲内で対応できることが多いため、医院側の診療報酬上の手続きも比較的単純です。


成人患者の術後リハビリが成功の分かれ目となる理由

成人患者における舌小帯短縮症手術の最大の特徴は、術後のリハビリの重要性です。子どもの場合、手術後に舌が自由に動くようになると、自然と正しい舌位置や動きが習得されることが多いです。しかし成人の場合、長年にわたって制限された舌の動きに脳が適応してしまっているため、手術後も自動的には改善されません。


術後3日目からは積極的に舌を動かす訓練を開始する必要があります。再癒着を防ぐための動作から始まり、徐々に筋力強化へと移行していきます。この過程を経ずに放置してしまうと、切除部位が再び癒着してしまい、手術の効果がなくなる可能性があります。


言語聴覚士が関与できる医院では、術後1~2ヶ月間、月1~2回の頻度でトレーニングを行うことが推奨されています。このトレーニング期間は、単に舌の動きを改善するだけでなく、脳に新しい舌の使い方を学習させる期間でもあります。


多くの歯科医が見落としているのは、手術だけでなくリハビリ体制を整えることが患者満足度に直結する点です。患者が「手術を受けたのに変わらない」と感じるのは、多くの場合、適切な術後トレーニングが提供されていないからです。


リハビリの内容としては、舌全体を上顎に吸い上げる訓練(ポップ音を出す練習)、舌の側方運動、舌の前後運動など、段階的なトレーニングが含まれます。患者教育として、自宅での継続的な練習方法も指導することが重要です。


成人患者が直面する術後のトラブルと対策

成人患者の術後合併症として最も多いのが再癒着です。術後の定期的なフォローアップがなく、舌の動きが十分でない期間が続くと、切除部位の創傷治癒過程で舌小帯が再生し、短縮が再発する可能性があります。これを防ぐためには、術後1週間での抜糸時に瘢痕形成の状態を確認し、その後1ヶ月程度は月1回の経過観察が必須です。


術後の痛みについても、成人患者は小児患者以上に配慮が必要です。局所麻酔が切れた後、数日間は舌の先端に痛みが生じることがあります。痛み止めの処方と、食事時の注意事項(軟らかい食べ物の選択、熱い飲み物の避行)を事前に指導することで、患者の不快感を最小化できます。


感染防止のための指導も重要です。術後は食事後の口腔清掃を丁寧に行い、抗菌洗口液うがいする習慣をつけるよう患者に説明します。舌の動きが自由になり始める2週間目以降は、患者が無意識に傷口を舌で触りやすくなるため、注意喚起が必要です。


一部の成人患者からは、手術後に首の痛みや顎関節症の悪化を訴える事例も報告されています。これは、長年制限されていた舌の動きが急に自由になることで、周辺の筋肉バランスが変化するためと考えられます。このような患者には、術後の舌の使い方について物理療法士や口腔リハビリテーション専門家との連携が有効です。


舌小帯短縮症の手術を安全かつ効果的に進めるには、手術そのものの技術以上に、術前カウンセリングと術後管理の充実が患者満足度を左右する要因であることを認識することが大切です。


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参考情報:舌小帯短縮症の診断における舌の動きの評価方法について
https://dental-japan.com/%E8%88%8C%E5%B0%8F%E5%B8%AF%E5%B0%82%E9%96%80%E5%A4%96%E6%9D%A5%EF%BD%9C%E7%A6%8F%E5%B2%A1%E3%83%BB%E5%8D%9A%E5%A4%9A/


診断基準(軽度・中度・重度)の判定法と、口腔内検査時の実践的な観察ポイントが詳しく解説されています。


参考情報:成人患者の舌小帯短縮症手術後のリハビリプロトコルについて
https://www.okuchidetaberu.com/colum/no15.html


術後の段階的なリハビリ方法と、言語聴覚士による構音指導の実施時期について、臨床実績に基づいた情報が記載されています。


参考情報:舌小帯短縮症における保険診療と自費診療の区分について
https://www.jspd.or.jp/recommendation/article25/


日本小児歯科学会によるポジションステートメントで、保険適用の基準と範囲が明確に定義されています。


成人患者への適用についても参考になります。




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