合格率100%の大学に入っても、クラスの半数が国試すら受けられません。
2026年3月16日、厚生労働省より第119回歯科医師国家試験の合格発表が行われました。全体の合格率は61.9%で、前年(70.3%)から実に8.4ポイントの急落です。過去10年で見ると、第115回の61.6%に次ぐ低水準となりました。
受験者数は2,837人、合格者数は1,757人という結果です。新卒者に絞ると合格率は80.2%と一定の水準を保っていますが、既卒者(いわゆる国試浪人)の合格率はわずか27.8%と、前年の44.9%から17ポイント超の大幅下落となりました。これは深刻です。
国立・公立・私立の区分別に見ると、以下のとおりです。
| 区分 | 第119回 全体合格率 | 第118回(前年) |
|---|---|---|
| 国立(11大学) | 73.9% | 80.4% |
| 公立(九州歯科大1校) | 63.6% | 77.2% |
| 私立(17大学) | 58.7% | 67.2% |
| 全体 | 61.9% | 70.3% |
いずれの区分も大きく数字を落としており、難化の傾向が顕著です。つまり、全体として国試は厳しくなっていると理解してください。
国立と私立の差は約15ポイントあります。この差が生まれる背景には、入学時の学力水準の違いだけでなく、6年間を通じた学習環境・カリキュラムの質、そして学習習慣の有無が大きく影響しています。国立大学では偏差値の高い学生がしのぎを削る環境で6年間学ぶため、相対的に高い国試合格率が保たれやすいという実態があります。
参考:厚生労働省が公式発表した第119回歯科医師国家試験の学校別合格者状況(一次資料)
第119回歯科医師国家試験の学校別合格者状況(厚生労働省)
国公立大学は私立大学と比較して、「新卒合格率」と「実態」の乖離が比較的小さいとされています。それでも第119回では全校が前年を下回り、大幅に順位が入れ替わる年となりました。
| 順位 | 大学名 | 119回 新卒合格率 | 118回 新卒合格率 |
|---|---|---|---|
| 1 | 岡山大学歯学部 | 92.2% | 95.7% |
| 2 | 鹿児島大学歯学部 | 90.2% | 90.7% |
| 3 | 新潟大学歯学部 | 89.2% | 86.0% |
| 4 | 長崎大学歯学部 | 89.1% | 93.6% |
| 5 | 大阪大学歯学部 | 86.0% | 90.2% |
| 6 | 広島大学歯学部 | 85.7% | 83.3% |
| 7 | 北海道大学歯学部 | 85.4% | 95.9% |
| 8 | 東北大学歯学部 | 85.1% | 87.2% |
| 9 | 九州大学歯学部 | 83.8% | 88.5% |
| 10 | 東京科学大学歯学部 | 81.6% | 93.9% |
| 11 | 九州歯科大学(公立) | 78.0% | 83.8% |
| 12 | 徳島大学歯学部 | 75.0% | 80.0% |
最も大きな変動は、前年1位だった北海道大学が7位へ、前年3位だった東京科学大学が10位へと急落した点です。北海道大学は1年で10.5ポイント、東京科学大学は12.3ポイント下がりました。これは教育力の低下ではなく、その年の学生の出来や問題難易度の組み合わせによる「自然なジグザグ」と見るべきです。
意外ですね。逆に新潟大学や広島大学は前年を上回りました。
単年度のランキングだけで大学の教育力を判断するのは、国公立においても危ういということです。理想的には直近3〜5年の平均値を参考にする姿勢が、実態把握に向いています。
私立大学のランキングは、国公立大学以上に大きな変動が見られます。第119回の結果は以下のとおりです。
| 順位 | 大学名 | 119回 新卒合格率 | 118回 新卒合格率 |
|---|---|---|---|
| 1 | 大阪歯科大学 | 100.0% | 100.0% |
| 2 | 東京歯科大学 | 96.9% | 97.0% |
| 3 | 昭和医科大学歯学部 | 94.6% | 97.7% |
| 4 | 明海大学歯学部 | 91.0% | 83.8% |
| 5 | 北海道医療大学歯学部 | 89.7% | 91.7% |
| 6 | 愛知学院大学歯学部 | 85.0% | 85.4% |
| 7 | 日本歯科大学新潟生命歯学部 | 84.8% | 88.7% |
| 8 | 神奈川歯科大学 | 81.5% | 79.1% |
| 9 | 松本歯科大学 | 80.6% | 90.7% |
| 10 | 朝日大学 | 78.9% | 95.9% |
| 11 | 福岡歯科大学 | 72.1% | 53.5% |
| 12 | 日本歯科大学生命歯学部(東京) | 70.9% | 93.3% |
| 13 | 岩手医科大学歯学部 | 65.2% | 54.1% |
| 14 | 鶴見大学歯学部 | 62.2% | 68.8% |
| 15 | 日本大学歯学部(東京) | 57.8% | 71.4% |
| 16 | 奥羽大学歯学部 | 57.4% | 69.6% |
| 17 | 日本大学松戸歯学部 | 47.9% | 61.0% |
注目すべき点が3つあります。まず、大阪歯科大学・東京歯科大学・昭和医科大学のトップ3は不動です。次に、朝日大学(前年4位→今年10位)や日本歯科大学東京(前年5位→今年12位)など大幅に順位を落とした大学がある一方、福岡歯科大学(前年17位→今年11位)や明海大学(前年10位→今年4位)のように大きく躍進した大学もあります。これが基本です。
この乱高下の背景については、次のセクションで詳しく解説します。大学の教育力だけで語れないのが、この数字の難しいところです。
参考:第119回・第118回データに基づく大学別分析記事(メルリックス学院)
第119回歯科医師国家試験で唯一昨年より合格率が上がった大学は?(メルリックス学院)
「新卒合格率100%」という数字を見れば、誰でも「この大学はすごい」と感じるはずです。しかし、この数字の構造を理解すると、単純に信用するのは危険だとわかります。
新卒合格率の計算式は「国試合格者数 ÷ 国試受験者数」です。ポイントは分母が「受験者数」であり、「入学者数」ではないことです。大学が卒業試験を厳しく設定し、基準を満たさない学生を「受験させない」ことで、分母を小さくすれば合格率は上昇します。これは教育責任の表れでもありますが、一方で分母から除外された学生が抱えるリスクも見逃せません。
第119回のデータで最も象徴的なのは大阪歯科大学です。
つまり、クラスの約半数が国家試験の受験資格を得られなかったということです。同じ「合格率上位」でも、東京歯科大学は出願者141名のうち127名(90.1%)を受験させた上で96.9%の合格率を出しています。
「絞り込んで高合格率を作る」のか、「多くの学生を受験させて高合格率を実現する」のか——この2つは根本的に異なるアプローチです。受験した学生全員が受かることの難易度は、後者の方がはるかに高いと言えます。
参考:新卒合格率と受験率のデータ分析(歯学部受験情報館)
【第119回国試発表】新卒合格率ランキング公開!でも「信じてはいけない」理由(歯学部受験情報館)
歯科医従事者や受験生が本来もっと注目すべき指標が「ストレート合格率(6年間修業年限内合格率)」です。これは「6年前に入学した学生が、一度も留年せずに最短で国試に合格した割合」を意味します。
第118回(2025年)の国試に対応するストレート合格率(2019年度入学者ベース)の主要データは以下のとおりです。
| 大学名 | 新卒合格率(第118回) | ストレート合格率 |
|---|---|---|
| 東京歯科大学 | 97.0% | 75.0% |
| 昭和医科大学 | 97.7% | 71.9% |
| 大阪歯科大学 | 100.0% | 46.9% |
| 松本歯科大学 | 90.7% | 24.7% |
| 鶴見大学 | 68.8% | 33.3% |
| 国立大学合計 | — | 75.0% |
| 私立大学合計 | — | 47.4% |
この数字が示す現実は厳しいものです。大阪歯科大学は新卒合格率こそ100%ですが、ストレート合格率は46.9%です。入学者の半数以上が6年で歯科医師になれていません。松本歯科大学に至っては24.7%で、4人に1人しかストレートで合格できていない計算になります。
私立大学全体のストレート合格率は47.4%でした。これはつまり、私立歯学部に入学した学生の過半数が、最短では歯科医師になれていないということです。これは使えそうな情報ですね。
一方、国立大学のストレート合格率は75.0%と、私立を約28ポイント上回っています。入学後の「生存確率」という観点で見れば、国公立大学と私立大学の差は新卒合格率が示す数字よりはるかに大きいことがわかります。
参考:第118回ストレート合格率の完全データ(歯科医師国家試験予備校)
118回歯科医師国家試験ストレート合格率|2025年度の国家試験データ比較(歯科医師国家試験予備校)
合格率データを見るとき、多くの人は「何%合格したか」だけを確認しがちです。しかし、歯科医従事者の立場から見ると、国試浪人が積み重ねるコストはキャリアと経済の両面で極めて深刻です。
第119回のデータによると、浪人年数が増えるほど合格率は顕著に下がります。
新卒から1浪になった時点で合格率はほぼ半減します。2浪以降は3割を下回り、合格のハードルが急激に上がります。これが原則です。
では、留年・浪人の経済的代償はどのくらいでしょうか。私立大学の場合、年間学費は約500万円(6年総額で1,900〜3,700万円と大学によって異なる)で、生活費が年間約200万円かかります。そこに、歯科医師として1年早く働いていれば得られたはずの収入(勤務医の初年度年収は平均約400〜800万円)を加えると、1年の遅れで1,000〜1,500万円規模の経済的損失が発生する計算になります。痛いですね。
さらに忘れてはならないのが、女性の方が男性より合格率が高いという事実です。第119回でも女性の合格率(68.0%)が男性(57.6%)を10ポイント以上上回りました。これは例年の傾向で、薬剤師や医師の国試でも同様のパターンが見られます。
国試対策を早めに始めることが最大のリスクヘッジです。特に、4年次以降になってから焦って対策を始めるケースが多いのですが、1〜2年次からCBT(共用試験)を意識した知識の土台作りを行うことで、留年・浪人のリスクを大幅に下げられます。歯科医師国家試験専用の予備校や、CBT対策のオンライン教材を活用することで、在学中から計画的な対策を進めることができます。
参考:浪人年数別合格率の詳細データと分析
第119回歯科医師国家試験で唯一昨年より合格率が上がった大学は?(メルリックス学院)