セメント質腫は、症状がなくても3~5年の定期観察で再発率が15~20%になるため、初回診断の画像精度が極めて重要です。レントゲン画像で透過像と不透過像が混在する外観は、セメント質骨性異形成症やセメント芽細胞腫と非常に紛らわしく、多くの歯科医が診断を誤るリスクを抱えています。
レントゲン検査でセメント質腫を診断するうえで、最も重要な所見は周囲との境界が明瞭であることです。初期から進行段階まで、一層の透過帯が腫瘍の周囲に認められ、その外側には明らかな骨硬化縁が観察されます。この透過帯の存在が、セメント質骨性異形成症との最大の鑑別点となります。
腫瘍内部には、セメント質形成量に応じて不規則な硬組織が散在します。綿花をまき散らしたような所見を「綿花様所見」と呼ぶ歯科医も多く、この表現は国家試験でもよく出題されるキーワードです。
つまり綿花様所見は診断の目玉です。
透過像と不透過像が混在し、その配列が特に不規則であることが特徴と覚えておけば問題ありません。
発育が緩慢であるため、皮質骨の菲薄化は徐々に進行します。患者が無症状のまま経過することがほとんどなので、定期的なパノラマレントゲン検査でのみ発見されるケースが8割を超えます。骨膜反応は認められず、顎骨全体の腫脹も軽度に留まるのが通常です。
セメント質腫と類似した画像を呈する疾患として、根尖性セメント質骨性異形成症、限局性セメント質骨性異形成症、セメント芽細胞腫が挙げられます。これらの区別がつかないと、不要な治療を患者に強いるリスクが高まります。
根尖性セメント質骨性異形成症は、下顎前歯部数歯の根尖に発生し、初期には境界明瞭な球状透過像を呈します。進行するにつれて次第に不透過性を増し、最終的には根尖に球状の不透過像を認め、周囲を透過帯が囲みます。つまり進行段階によって画像所見が劇的に変わるのです。一方セメント質腫は、最初から不透過像と透過像が混在している点が異なります。
セメント芽細胞腫は、セメント質様の硬い組織を形成する腫瘍で、歯の根のセメント質と連続する特徴を示します。下顎の大臼歯に多く、30~60歳の女性が好発年齢です。外観上はセメント質腫と紛らわしいですが、パノラマレントゲン写真では根尖部に大きな球状の不透過像として映り、周辺の透過帯も明瞭です。根尖周囲に集中しているのが特徴で、セメント質腫のように広がり方が不規則ではありません。
CT画像を撮影すれば、これらの診断の精度は劇的に上がります。セメント質腫は周囲の既存骨との境界が明瞭で、3次元的に判断することで歯根膜腔や歯槽硬線との位置関係が一目瞭然です。デンタルやパノラマ写真の不透過像だけで判断していた時代は、診断精度が50~60%程度に留まっていましたが、CT導入後は精度が90%以上に向上したという報告もあります。
セメント質腫の約半数が下顎臼歯部、特に第一大臼歯周囲で発見されるという統計事実があります。なぜこの部位に集中するのかについては、歯根膜の幹細胞がこの領域に特に豊富に存在することが理由とされています。セメント質の形成に関与する歯根膜細胞の活性が、他部位より高いということです。
30~40歳代の女性が圧倒的多数派である理由も、興味深い臨床事実です。ホルモンバランスの変動が骨代謝に影響を与え、セメント質形成を促進する可能性が指摘されています。出産経験のある女性に発症率がやや高いという報告もあり、全身的な因子が関与していると考えられます。
発生頻度は歯牙腫より高く、全歯原性腫瘍の中でも比較的よく遭遇する病変です。つまり多くの歯科医が診断経験を持つはずにもかかわらず、誤診例も少なくないということになります。これは画像診断の精度が、医師の経験値や使用する機器に大きく左右されることを示唆しています。
パノラマやデンタルレントゲン写真では、重なり合った骨構造が診断を困難にします。特に下顎臼歯部は、舌骨影や対側の骨影が重複しやすく、微細な画像所見が見落とされることがあります。コーンビームCTを撮影すれば、これらの問題は一気に解決します。
CT画像では、セメント質腫内部のセメント質および骨様硬組織の分布パターンが立体的に観察できます。細胞成分に富む線維性結合組織の中に、不規則な形の線維骨やセメント質様硬組織が散在性に認められる病理像が、そのまま画像に反映されるのです。また周囲の既存骨との境界の鮮明さも評価しやすくなり、良性の境界線が確認できれば悪性の可能性は低いと判断できます。
セメント質腫がCTで映る場合、大きさや形状だけでなく、骨皮質の菲薄化の程度や、病変が顎骨のどの層に存在するかが正確に把握できます。つまり治療方針の決定に際して、完全切除が必要な場合に手術範囲を正確に設定できるということです。経験的には、CT画像を参考にして手術を行った場合の再発率は、レントゲン写真のみで判断した場合の3分の1以下に低下します。
セメント質腫は良性腫瘍であり、通常痛みや腫れといった症状が生じないケースがほとんどです。従って放置しておいてもよいと判断される場合が多く、手術を行わず定期的な観察を選択する患者も少なくありません。この場合のレントゲン撮影間隔は1年程度が目安とされています。
定期観察を選択した場合、レントゲン画像で注視すべきポイントがあります。不透過像が増加していないか、透過帯が維持されているか、皮質骨の菲薄化が進行していないか、これらの項目を毎回確認することが重要です。6ヶ月ごとのパノラマレントゲンが理想的ですが、患者の被ばく線量を考慮すると1年間隔でも問題はないと考えられます。
初期段階で小さなセメント質腫を発見した場合、その後の成長パターンを予測することは困難です。急速に大きくなるケースもあれば、数年間全く変化しないケースもあります。4年の経過観察でも再発が認められないという報告もある一方で、5年以上観察している間に急速な成長を示すようになった症例も報告されています。つまり経過観察の期間は患者個別の状況に応じて柔軟に判断する必要があります。
患者への説明時には、セメント質腫が良性であることと、現在の時点では治療の必要がないことを丁寧に説明し、定期的な検査の重要性を理解してもらうことが極めて重要です。無症状であるがゆえに、患者が検査の意義を見失い、通院を中断するリスクがあるからです。これが原因で再発した症例の多くは、実は初回診断から数年間検査を受けていなかったという経歴を持っています。
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参考資料:日本口腔病理学会の「口腔病理基本画像アトラス」では、セメント質骨形成線維腫の臨床・病理所見について詳しく記載されています。
参考資料:セメント質腫と根尖性セメント質骨性異形成症の鑑別診断について、レントゲン画像と臨床的特徴を解説した論文が多数あります。
参考資料:CT画像の有効性とセメント質腫の診断精度についての臨床的知見を参考にできます。